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75話

 ノアに案内された宿は決して安価なところではなかった。建物の外は綺麗に掃除され、壁には殆ど汚れもなく、内装も豪華まではいかないが綺麗に整えられていたのだ。受付の女性の愛想もよく、安くていいって言ったんだがな――そうロイがぼやきながら、二人分の部屋を抑えておく為、受付の女性へ声を掛けようとした。


「気にするなよ。黒玉の件の報酬ってね、ああ、勿論一部よー? っていうかロイ君は流浪人でしょ、お金ないよね。二人分の部屋くらい気にするなよ」


 ニコニコとノアが先に金貨を一枚、受付のカウンターへ置いた。その後、親しそうに受付の女性とノアは会話を広げていく。


「あら、ノア君――このお二人はお友達?」


「オトモダチだよオトモダチ。縁があってね、偶々再開したんだ。サリアさん今日も可愛いねぇ、どう? オフでデートしない?」


「仕事中よ、それにおばさんに馬鹿言わないの……それに金貨だなんて出しちゃって、ちょっと裏で両替してくるから、待ってて」


 お姉さん――サリアは金貨を受け取るとそのままカウンターの裏へと引っ込んでいく。ノアはおばさんだなんて年じゃないでしょー、とへらへら笑いながら手を振ってそれを見送った。


「お前、さっきのお姉さんと知り合いなのか?」


「ロイ君、オレにはノアって名前があるんだぜー? まぁいいけど……サリアさんとは仲良しな関係だね、うん」


こいつが仲良しだなんて言うと怪しい関係にしか見えないな、と苦笑いをしたロイ。エリシアといえば汚物を見るかのような目でノアを見ていた。それに気付いたノアは、勝手に身をくねくねさせると、満更でもない表情でいらぬ口を叩き始める。


「やっぱりエリシアちゃんは冷たい瞳が似合うよねー。オレ、マゾじゃないけどマゾに目覚めそう。どう? 一回踏んでみない?」


「……助けてくれロイ。私の人生でこんなタイプはいなかった、どうしていいかが分からない」


「俺も初めてだしなぁ……とりあえず放置しておこうぜ、触らぬ神に祟りなしだ。神っていっちゃ、本物の神さんに失礼だけど」


「お? 放置プレイ? それもそれでゾクゾクしちゃうね、マンネリしなくていいぜ」


 そんな馬鹿みたいなやり取りをしていると、受付のサリアが奥から戻ってきて、ノアの手に銀貨をじゃらじゃらと渡していった。そして、何日分にするんだい? と問いかけた。それに対してノアは三本指を立てて返事とする。


「真面目な話、オレも仕事あるからさぁ。直ぐには動けないんだよねー」


「それで三日、好きにしてろってか」


「ま、準備期間だからそうなるね。この街でも観光していけばいいさ――名産品は新鮮な山の幸! 健康にも夜の生活にも効く、精のつく食べ物とかもあるよー?」


 すぐお前はそういう方向へ話がズレる――突っ込む事も無駄に思えてきたロイは、はいはい、と受け流してしまう。興味無さそうだね、エリシアちゃんもいるのに――そんな微妙に反応に困るぼやきを残して、ノアはサリアへと三日泊まる為に必要な銀貨を手渡した。


「……そういえばエリシアちゃん、キミは――とても剣に精通していたね。フフ」


「ええ、それが何か?」


「そう冷たい返事を返すなよ、いい顔が台無しだぜ――この街は割と辺境なこともあってさ、腕自慢な冒険者が集まってくるんだよね。深遠の森も直ぐ近くにあるし」


「ほう、腕自慢――だが魔物程度に押される人間達なんだろう?」


「エリシアちゃん、戦争って見たことある? 最終的には一騎当千の人間がいても、数での戦いになっちゃうんだよねぇ。余程、それこそ一閃で万を屠れるような化物でもいない限りさ」


「……ふむ?」


 小首をかしげるエリシア。

 赤いパーティ・ドレスの裾が僅かに揺れた。


「要約すると、エリシアちゃんが思っているほど弱くはないよーってこと! ……オレはそろそろ出なきゃいけないからさ、気になるなら街の奥のほうにあるアリーナにでも言ってみるといい」


 それじゃあまたねーとノアは手を振って宿を出て行った。なるほど、腕試しに行ってみればいい――そういうことかとエリシアは一人で納得し、ロイへ視線でいいか? と許可を求める。その視線の意味を汲んだロイは少し悩んだ後――一度だけ頷く。


「荷物置いたらな。……それにエリシアの身体だが、俺とどれだけ離れても平気なのか気になる」


「ああ……確かに。では私一人で行ってこようか?」


「そうしようか。不調を感じたら直ぐ戻ってくるってことで――」


 ロイは受付のサリアから鍵を一つ受け取ると、ありがとな、と礼を言って鍵に付けられた木版を読んだ。二百一、どうやら二階みたいだなと納得すると、そのまま奥の階段から二階へ上がろうとして――ぼそっと呟いた。


「……あれ、同室じゃね?」


「……そのようだな」


 あの野郎やりやがったな、何が二人分の部屋をだ、一室じゃねーか! 内心で二部屋でいいと言えばよかった、そう後悔しつつ恐る恐る背後を振り向くと――少しだけ朱に染まった頬をしたエリシアがいた。あら、満更でもないのねとほっとしたロイはそっと胸を撫で下ろす。

 エリシアといえばエリシアで、少しだけ早まった鼓動に戸惑いを覚えつつ、これから何度もあることだと自分に言い聞かせ納得をするのであった。


 なんだか微妙な空気のまま取った部屋の前に辿り着くと、そのまま鍵を差込み、捻り、ドアを開ける。すると一番にロイの目に入り込んできたのは――大きなダブルベッド。にんやりと厭らしい笑みを浮かべるノアの姿が浮かんできたロイは、思わず叫んでしまう。


「――あの野郎、確信犯じゃねーか!?」



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