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64話

 我を忘れたフレイは新緑の剣を構えたまま、フィアへ向かって駆け出した。ロイはそれを見て、良くない兆候よな、と呆れたように溜息を零すと、そのままフィアの背後で腰を下ろし胡坐をかき始める。


「……では、この剣は不要ということで?」


「当たり前だ――!」


 パチンとフィアが指を鳴らす。その次の瞬間には極彩の稲妻が迸って剣が砂のように溶け落ち、そして再度空中へ練成され、勢い良くフレイ目掛けて射出された。流石のフレイもこの状況が良くない事に気付いたのだろう、その場に立ち止まり四方から放たれた剣を、己の新緑の剣で切り裁いていく。

 だが生憎、打ち出されているのは最高質のアダマンティア鉱石で創られた最高峰の剣。少しでも芯を外せば自らの剣がたちまちのうちに傷付き、そして鈍らな剣へと変わってしまう。


「――こんな程度で、僕が止まるとでも思っているのか!?」


 それでもフレイが己を否定させない為に剣の奇跡を確かに紡ぐ。これまで磨いてきた技を十二分に発揮し、ただの一度も芯を外すことなく剣の雨を全て凌ぎきる。


「仮にも剣を向け合っている最中にお喋りとは、余裕があるみたいですかね?」


 唐突にフレイの身体が背後へ吹き飛ばされた。超高速で練成された石の柱がフィアの背後から射出され打ち抜いたのだ。大きさは大人の腕ほど、だが鋭利な先端ではなく平たかった為、身体を貫くまでには至らない。

 事前に張ってあった障壁のお陰もあり、何が起こったか理解しないままであったが、フレイは口元を赤く濡らしつつ立ち上がる。まだだ、まだ数分も立っていない。あんな年端も行かない少女に負けては成らない、そう自身を鼓舞して。


「……で、次はどんな曲芸を見せてくれます?」


 口に溜まった血を吐き出すと、フレイは僅か一句程度の詠唱をして風の刃を産み出した。鋭利な刃物であるそれを躊躇い無くフィアへと向けて放つが、途端に赤い稲妻が走ると、まるで最初から無かったかのように掻き消えてしまう。

 それでも果敢に風の刃を放ち距離を再度縮めていくフレイ。自らの治療と、そして身体能力の強化と、加えて攻撃する魔術――連続で繰り返されていく魔術によってフレイ自身の魔力がどっと目減りしていく。だがそれでも手を休める事も、次の手を考える事をやめるだなんてことも彼はしない。


「これ以上、僕を否定させて、たまるか、僕は――僕は、立ち止まるわけには!」


 見開いた瞳、魔術による衝撃で黒髪が揺れ背後に流される。まだ諦めないのか、とフィアは内心で溜息を零しながらも、目の前の男が決意を持った瞳で立ち向かってくるのを見て、仕方が無い、と心を切り替えた。


 フレイ自身はSランクギルドである蒼穹に属している通り、そこらへんの冒険者などとは強さのレベルが数段階ほど違う。鍛えた剣の腕、そして牽制にも、本手とも扱えるそれは自在に相手を翻弄するはずだった。そう、相手がフィア・ルーセントハートでなければ。


 真理を納めているフィアは自在に知識の源泉――真理に対してアクセスすることが可能である。そしてそこから、事象に対して一片でも知見を得ていればそれなりの情報を引き出すことが出来る。重ねて本人自身の技量も、極みと言って良い程のレベルに到達しており、それら二つが重なると――魔術だなんて見てから分解する連成陣を構築する――なんてことも可能になる。


 溢れ出る泉のような知識の源泉、そして連成陣を高速で脳内で汲み上げるだけで発動させる高速練成術。それだけのアドバンテージをもって尚、剣の間合いにまでフレイが入り込めば形勢の天秤はフレイに傾くだろうが、そんなことをフィアが許す筈もない。


「……まぁ私の本来の身体ではないとて、才能に溢れたハルの身体だ――アレくらいいけるか?」


「なに、なんかやんの? 俺巻き込まれたりしない?」


「おわっ!? いきなり覗き込んで来るな……まあ良い機会だ、ロイにも私の秘奥を見せてやろう。いずれ教えるつもりだったしな」


 錬金術の秘奥、ね。訝しげに眉を潜めながら、ロイはこくりと頷いた。何せ真理を得た錬金術師の秘奥とまでいう技だ。この先もロイは剣を担ぎ相手と殺しあう、そんな事があると思っている以上、錬金術師が繰り出してくる技に対して、知見を得たかったのである。

 知識とは力である。既知であると初見であるでは生き残る確立が違うから。


「はてさて……貴方は避けられますかね?」


 会話の最中とて続けられていた風の刃の分解、それを平行して行いながらも尚、フィアは新たに――宙へ石柱を練成する。赤い稲妻で纏われたそれは、始めにフレイを吹き飛ばした時同様の大きさを持っていた。それが五つほど、空中に留まる形で練成される。


「――そんなもの、不意打ちでなければ喰らうわけがないだろう!」


 見て避ける自信がフレイにはあった。あんなものは所詮は只の物理攻撃に過ぎない。飛来してきたら剣で軌道を変える、または身体の軸をずらして避ける、いくらでも対策は考えられたから。確かにそう思いますよね、うんうんとフィアは頷きつつも、椅子に座り足を組んだまま――右腕を、挙手するかのように軽く上げた。

 ロイはそのタイミングから不退転の決意を発動させる。蒼い稲妻が奔り、強化された視力を持って、どんな現象が起きるかをただ見つめていた。


「では、避けてみてくださいな」


「言われなくとも――


 フィアが手首だけを曲げて振り下ろす。

 

 ――よッ……!?」


 何起きなかった――それは正しくない。ロイが強化された視力を持っても、何も見ることが出来なかった。それが正しい。起きた現象が余りにも静かで、何の兆候も無かったが故――白昼夢でも見たか、とロイは思わず瞼を擦り上げた。


 宙に浮いていた筈の石柱は既に無かった。どうやら射出された後のようで、いつの間にか吹き飛ばされたフレイの背後で砕けて転がっていたからだ。フレイは闘技場の端に仰向けで倒れており、既に意識をなくしているようであったが。


「……おいフィア、お前……何をした。流石にこの俺がちゃんと見る気で見ているのに、何が起きたかも分からないだなんてあり得ねーぞ」


 その通りである。ロイの不退転の決意とはまた別のSSランクアビリティ――常在戦場は、不意打ちに対して大きな補正を自身へと掛けるアビリティなのだ。SSランクのそのアビリティを持って尚、いつ、なにが発動したが分からない攻撃などあるのか、とロイの心中は穏やかではない。


「ま、分からないだろうな。その時間を分解して吹き飛ばしたんだから」

 

 時間と言う概念の分解。起きた事象をすっ飛ばすこの世の理から外れた行為。フィアは石柱を射出しその直後の時間を吹き飛ばしたのだ。回避する術を持っていても、その瞬間を吹き飛ばされてしまえば、回避は成立しない――あまりに強引な力技。


「……自分が何を言ってるのか分かってるのか、フィア。それは禁忌になるぞ、それはハルにも――」


「いや、禁忌には該当しない。任意に操るのなら兎も角、吹き飛ばしただけだからな――それだけじゃ神様は禁忌の烙印を押したりはしないよ。飛ばされている間でも人は無意識に行動を取る、世界に対して影響は無いさ」


 もっとも、とフィアは妖しく笑う。


「違和感を多少は感じたりもするかもしれないがね?」


 はー、とロイは諦めたように溜息を零すと、思わずその場に座り込んでしまう。数秒呆けた後に、闘技場の隅で倒れているフレイを思い出し、アイリスへ回復してやるよう伝えた。アイリスも呆けていたが、ロイに言われて我を取り戻したのだろう、早歩きでフレイの下へと向かっていく。


「……おい、ロイ。どういうことじゃ、なんでお前が……いや、その子は一体」


「うるせージジイ、質問は無しだ無し。こちとら疲れてんのよ、何も答えないぞ。というかあのカス、蒼穹のメインメンバーみてーなもんだろうが、もう少し手綱握っておけや!」


「ジジイじゃと……!? だが、確かに手綱は握っておくべきだったかもしれんのう。力をあやつは求めすぎておる、どう納めるかもわしにはわからんが……もっと腹を割って離す必要があるかもしれないのう」


 ぶつくさと独り言の世界にいってしまったハウエルを放っておいて、ロイはフィアが練成した椅子の手すりに腰をかけた。


「……で、お前自身は吹き飛ばした時を動けたりするんか?」


「いや、それは無理だ。数多の回数挑戦したが――人間様の身では時の流れは絶対らしい。私自身の時も吹き飛ばすしかない、というのが結論だよ」


「ま、そりゃそーだろうな。……とりあえずフレイの相手ご苦労様だったわ、帰ってていいぞ」


 フィアは立ち上がると、不満そうに頬を膨らませながら、荒れた闘技場の地面を錬金術で修繕していく。そして最後に自らが座っていた椅子を分解すると、軽く息を零した。


「なんだか、凄く無駄骨な気分だね……まぁいい、これも人間としての醍醐味か。ロイ、帰りにパンケーキを買ってきてくれ、ハルも所望している――」


 手のひらひらと振るいながら、そのままフィアは外へと向かって歩いていってしまった。日頃はハルが主人格、何か厄介ごとに巻き込まれそうな時、または夜遅く出なくてはいけない時などはフィアが表へ出て相手取る――そんな流れになっている。

 パンケーキはゲームの大会の前に喫茶店で食べてから、フィアの好物となっていた。ここ最近ではよく食べているのを見かけていたりもするのだ。


「……さって、と。最後、軽く締めますか」


 めんどくさそうに溜息を零して、ロイは大きく伸びをするのであった。


 ……


 フレイが目を覚ましたのは夕暮れ時だった。オレンジ色の陽光が眩しく、瞳を擦りながら上半身を起こす。そしてそのまま辺りを見渡して、現状を把握し始めた。闘技場の前の広場のベンチの上で、その直ぐ隣にはフレイが嫌う人物――ロイ・ローレライが物憂げな瞳で、口に紫煙が燻る煙草を咥えて座っていた。


「……それ、臭い移るから止めてくれません?」


「起きて第一声にそれかよ。少しは礼の一つでも言えやカッス」


 ロイは靴の裏で煙草の火を擦り消すと、胸のポケットから取り出した携帯灰皿に、火を消したばかりの煙草を仕舞いこんだ。


「というか、煙草なんて吸っていたんですね」


「偶にだけどな。めんどくせーことがあった日に、数本だけよ。……薬草練りこんである特別製だけど、お前もいる?」


「……吸ったことはないですが、一本だけ頂きましょうか」


 気まぐれでフレイはロイから一本だけ煙草を受け取ると、そのまま魔術によって指先に火を灯して着火させようとしたが、どうにも上手くいかずに、怪訝に眉を潜めた。横目でそれを見ていたロイは、初見はそーなるよねえ、と新しい煙草を取り出す。そしてそのまま唇で挟むと、懐からマッチを取り出し、息を吸いながら煙草に火をつけた。


「へぇ、そうやるんですね――っ、ごほっ……げほ、まっず」


 それを見習うようにフレイも同じく口に咥えて、息を吸い込みながら火をつける――当然煙が流れ込み、慣れていないフレイは思わず咳き込んでしまった。


「……なんというか、薬草の苦味とか、煙たい変な味ですね。味覚が狂う」


「初めなんてそんなもんだろ」


 そのまま二人で対して美味い訳でもない煙草を吸い続けた。煙草の半分ほどが燃え尽きたところで、フレイが口を開く。


「……あの子供、強かったですね」


「まぁそうだろうな。俺でも勝てるか分からん……いや。お互い殺す気でやったら、手も足も出ないだろうがね」


 不退転の決意によるステータスの上昇も加味すれば、相打ち程度まで持ってはいけそうだが――フィアのまだ隠している手段はありそうだし、無理か。冷静に考えたロイはその自分が負ける、という結論に至り、そう言葉を吐いた。


「……僕って、そんな弱いですかね」


「雑魚の中の雑魚だな。話にならんわ」


「そうですか」


 紫煙が風に吹かれて消えていった。

 フレイが煙を吸って、また咳き込んだが構うことなく話を続けていく。


「どうすれば強くなれると思いますかね」


「……お前が強くなりたい理由って何よ。それを聞かないと話にならん」


「まぁ、そうでしょうね。僕は……ありがちな話だと思うんですけど、兎に角、もう下に見られたくない。家で色々ありまして、もう比較されたくないし、武勲を上げなくてはいけない」


「大方、さっきのお前の叫びを聞いててそんな気がしてたよ。確かに比較されるのも、下に見られるのも嫌だもんな――」


 ええ、そうです。静かにフレイは頷いた。


「……じゃあ、愚直に研鑽するしかねーんじゃねーの」


「それは分かっていますが……どうしても心がそれについてこなくて。こんな事をロイさんに話してるんですから、察してくださいよ」


 察せよと言われて察せる男ではない。

 フレイもそれを知っていたので、特に返事を求めるようなことはしなかった。


「どうしてロイさん、貴方は――そんな力を持っているんです。エレノアで僅かながら見ましたが、あれくらいの出力を出せるならもうSSランクにだって上れるでしょうに」


「……俺はSSに意味を見出せないからな。俺が欲しいのは地位よりも命なのよ、それにSSになって権利――なんだっけな、研究費使い放題とか偉い椅子とか? それらって結局、権利についてくる義務もこなさなくちゃいけねーだろ。それは俺が望むところじゃないし」


「力を持っている理由じゃなくて、それはSSに上がらない理由では?」


「めんどくせー突っ込みすんなよ……力を持っている理由だなんて単純だろ、生きたいからだよ」


「……それは人間の本能レベルの話、理由には――」


「なるね。俺は生を謳歌したい。良い酒も飲みてーし、美人なお姉さんのケツも触りたい、他にも色々やりてーことはあるが……その為なら泥水啜ってもいいし、死体の山を這い蹲ってでも前に進む」


 随分と汚れた欲望だ、とフレイは思わず苦笑いをしてしまった。もうすぐ煙草の火も消えてしまいそうなので、灰を適当に指で叩いて落とし、軽く紫煙を口へと運ぶ。


「……様はやりたいことの一つや二つ見つけておけよ、って話さ。ただ闇雲に強くなるのが目標じゃ、心がついていけないのも道理よ。なんせ、目的の高さも、何もわからねーから。人間様は万能じゃねー、前進している自覚、そして適度に休みがないと直ぐ心が折れる、弱い生き物よ」


「やりたいこと――」


 フレイは顎に手を当てて考える。今までは強くなる、それしか頭に無かったからだ。他に自分が目標にしたい事なんてあったか――そう冷静に、改めて自分を見つめなおすかのように、考え直していく。


「……SSランクになる」


「今よか具体的でいいんじゃね?」


「でも、僕はまだSランクのマスターにも勝ったことがない」


「あのジジイは別枠で考えろ、あんだけ歳食っても変わらない槍捌きが可笑しいんだよ」


 そこでフレイは思わず笑い出す。SSランクだなんて大きすぎる目標を立てた自分に対して、もあったが、昨日までクズと思っていたこの男の言葉で、少しだけ気分が軽くなっている自分に対して、もあった。気の持ちよう、とは良く言ったものだ――もう吸えないだろう煙草の火を、ロイに習って自分の靴底で消すと、良いタイミングで差し出された携帯灰皿へ放り込んだ。


「……どうも」


「ポイ捨てされても迷惑だからな」


 フレイは立ち上がり、腰に下がっている愛剣の柄を撫でた。SSランク、確かに良い目標だ――闇雲よりは、ずっと良い。そう確かに感じた。日も沈みかけ、夜の幕を下ろし始めた。昨日までのフレイであれば、礼を言ってそのまま自らの家に帰っていたが――とにかく、フレイは目標が整理されて、心も落ち着いて、良い気分だった。

 だから、一つ気まぐれを起こしてみる事にした。


「――世話になりましたね。なので、これから食事――いや、ロイさんに言うなら一杯引っ掛けて、ですか。そういうことなので、どこか行きません?」


「へー、珍しいこともあるもんだな……お前が酒に誘ってくるなんてよ」


「ま、気まぐれですからね。クズの無職は卒業したと思いますが、僕が奢りますよ――気分転換できたのと、煙草一本分の礼として」


「……お前、一言多いな。行くっちゃ行くんだが、少し待たせるぜ? ハルにパンケーキ買って行かなきゃいかん」


「ハル……そうしたら、ハルさんに謝罪の言葉を伝えてもらえません? 不躾に聞いてしまって、不快な思いをさせたと」


「ああ、言っとくよ。……んじゃ、待ち合わせはそうだな、お前が昼間いってたあの店でいいよな。良い酒を出してくれるマスターがいる」


「ええ、了解しました。では、また後ほど」


 そういうとフレイは闘技場の前から歩き去っていった。そして暫くすると――音も無く、静かに、ロイの目の前に長い銀の髪、そして白銀のドレスを着た女性が降り立つ。それは原初の氷の精霊・セルシウスであった。

 それを切欠とするかのように、闘技場の隅から一人の人物が現れる。

 少しだけ驚いた顔をした、リーシャ・フローレスであった。


 ……


「……驚いたわね、まさかフレイがあんたのことを酒に誘うだなんて」


「俺も驚いてるわ。あの生意気なカッスがねぇ……まぁ奢ってくれるっていうし、全然行くんだけどよ」


 ロイとリーシャは並んでベンチに座る。その前ではセルシウスが、物珍しそうに火の着いた煙草を咥えて、煙をふかせて遊んでいた。曰く、大昔にもこのようなものがあったらしいが、その時代のものは本当に草を丸めて燃やすだけのものだったとか。


「いやはや、キレ芸するのも疲れるね。だけどこれでお前の望んだ結果になっただろ、統括様?」


「ええ、そうね。良くやってくれたわ、これで大会の時の失礼な発言も帳消しにしてあげる。……でも、キレ芸とか言ってるけど――フレイの不躾だった質問に、あんた自身怒ってたのは確かでしょ」


「ま、そーね……」


 大会での不躾な発言――少し前に行われたゲームの大会でのことだ。優勝すればゲームに対して望んだ改修を加えられるのだが、ロイにどんな風に改修する、と聞いたときに答えた発言がそれに該当する。

 リーシャはそれを帳消しにすることを餌に、ロイにフレイを立て直してくれと依頼していた。魔術師ギルドの統括でもあるリーシャの耳には、この国に一つしかないSランクギルド、蒼穹が抱える事情は須らく入ってくる。ここ最近、フレイが不安定な精神状況にある、そう聞いていて早急に対処せねばと感じていたが為に、大会が終わった直後、ロイへと話を持ちかけていたのである。


 そして、ロイがどのタイミングで奴に声を掛けるか、そう悩んでいた時にフィアから電話がかかってきたのだった。丁度いいタイミングかとロイが動いたその顛末が、今日の出来事である。


「……これで蒼穹の、ハウエルさんと並んで矢面に立てるフレイが調子を取り戻してくれたら万歳ね」


「あの調子じゃすぐ取り戻すだろ。あいつ、剣の筋も魔術の筋も悪くはねーし」


 リーシャが心配していたのはフレイの不調、焦りから大事な仕事の最中に前線で大きなミスをすることだった。前衛が瓦解すれば、後衛の魔術師に大きな負担を強いられる。そしてそれは直ぐに崩壊へ繋がり――死へと繋がる事を知っているからだった。


「確かに前衛の不調でメンバーが総崩れすることはあったな。私がまだ人前に姿を現していた時代では、フラジールと呼ばれていたが」


 煙草を咥えて遊んでいたセルシウスが戻ってきた。どうやら煙遊びにも飽きたのだろう。


「……フラジールねぇ」


「脆く、そして壊れやすいの意だそうだ。……お前とは無縁そうだがな?」


「原初の精霊様はフラジールだなんて言葉を知っていても、失礼と言う言葉を知らないらしいな」


 呆れたように溜息を零したロイは、無駄に頑張っちまった日だなぁ、と内心で呟きながらどんなパンケーキを買って帰ってやろうだとか、フレイにどんな酒を奢ってもらおうだとか考えつつ、付いて来る気まんまんのリーシャと共に、日が暮れた街中へと歩いていくのであった。


 ――余談ではあるが、後日、フレイは強烈な二日酔いで始めて蒼穹としての始業時間みたいなものに遅刻し、ハウエルに怒声を貰ったとか。




 


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