表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Sランクギルドを追放されたクズは何でも屋を営むそうです  作者: 398
2章/ソーシャルゲームはこれだからやめられない
60/143

60話

 本選のルールはリーシャが宣言したとおり、これまでの対戦方式とは変わったものだった。まずターン制でもなければ予選のときみたいにアクション性が取り入られたものでもない。四方を見えない壁に囲われたフィールドで、自身が保有するキャラクターを動かして戦うものであった。


 フィールドは細かくマス目上に区切られ、プレイヤーはそれぞれのキャラクターに対してどこに移動しろ、と素早く命じて移動するのである。ターン制ではないため、指揮の早さが有利へ繋がるゲーム性だった。キャラクターの特性に応じて攻撃できるマス目の範囲が変わり、魔術師であれば遠くまでも攻撃できるが、準備時間が長く、剣士であれば隣り合ったマス目にしか攻撃できないが、準備時間は殆ど無い。


「……これまた、随分と戦略ゲーにしてきたね。一見、通れそうなさそうな部分もあるが、時間かけりゃ通れるのか」


 フィールドには山もあれば川もあった。それらが須らく移動できるのだ。平地を移動するよりも時間はかかるらしいが。ロイは携帯を片手に首を捻りながら、リアル過ぎる、と溜息を零している。今はゲームだからいいが、どうせ軍事的に作戦の再現とかにも繋げるんだろうな、と無駄に深く考え込んだりもした。


「……でもこのルールだとやべぇな。俺はまだいいが、ハルが……」


 どことなく残念そうな感じでロイがハルを見ると、ハルは怒ったように頬を膨らませて、怒りの言葉を投げつけた。


「なんでそんな目で見るんですか! さては私がこういうの苦手だって思ってますね!?」


「いやだって……うん」


「うん!? ……まぁいいです、でも見ててくださいね。私でも出来るってところをお見せしますから!」


 黒い髪に飾られた鈴が風に揺られてちりんとなった。健気にも意気をぐっと高めるハルを尻目に、ロイは唇に指先を当て、考え込む。このゲームの必勝法について。素早い指揮は当然必要だ。だが殲滅戦となると、いささか時間がかかる。自ずと戦闘時間も増加し、自分の作戦の立て方とかが周知されてしまう。


「おいリーシャ、勝利条件はなんなんだよ。早く説明しろ」


「……チッ、今から説明するんだから黙ってなさい」


 拡声器を持ちながら説明していたリーシャが舌打ちをした。途端にざわざわ騒ぎ出す観衆――そりゃそうだった。リーシャはロイやハルといる時間こそ猫を被ってはいないが、公式の場では常に冷静に、そしてクールに大人びた振る舞いをしているのだから。

 本人も気付いたのだろう。にやにや眺めてくるロイに対して一睨みすると、軽く咳払いをして、勝利条件の説明の入っていく。


「勝利条件についてですが――自軍、敵軍に一名だけ存在するユニット、ロードを倒す事。または、相手の拠点となる城を制圧すること、そして――戦闘可能なユニットが全て倒す事。以上三つのうち、どれか一つでも達成した時点で勝利となります」


 魔術によって中央に投影された映像には、それらが文字で書かれて映されていた。ロイは手元で自身の分身となる指揮官キャラクター、ロードのステータスを探っていく。


「へぇ、ロードは強めなのね。全ステータスが他のSSRキャラよりもちょい多いな……それにライフの割合ダメージが無効ね。予選のハルのやつみたいな、ズルぎりぎりの特攻作戦はボツか」


 キャラクターの説明を見ていけば、星に愛された唯一の人、と書かれていた。特殊技能の欄を見ると、ロイは思わず顔を顰める。


「一戦につき一回だけ使えるアビリティ――。ふんふん?」


 ロードのみが一回のみ発動できるアビリティ欄。そこには三つの行が存在した。

 その一、メテオ。任意の縦三十、横三十の範囲に極大ダメージ。発動が成功した場合、攻撃範囲を平地マスに上書きする。発動には極大の詠唱時間が必要となり、その間ロードは動く事ができない。

 その二、死地。ロードのライフポイントが残り二割以下のタイミングで発動が出来る。無我の境地へ到る集中力を発揮し、以降二分間の攻撃を物理、魔術攻撃問わず全てクリティカル判定として扱う。また全ての単体攻撃を回避する。

 その三、全軍鼓舞。ロードの縦、横二十マス以内の味方の全てのパラメータを上昇させ、攻撃速度、移動速度を、三分の間、中アップさせる。このアビリティを使用した際、敵の索敵範囲にロードが居た場合、ロードということが判明してしまう。


「……うへー、なんだかとても強そうですね。いまいち使うタイミングがわかりませんけど。特にこの死地とかいうの、ロードが倒れたら終わりなのに使うタイミングあるんですかね?」


「ま、ないこともないだろう。最後の足掻きで使ったり――わざとライフを減らして発動させ無双させたりな。生憎、上昇量とか書いてないし、テストもできねーんだ。この作戦はナシ」


「ほええ……でもメテオとか鼓舞は使い勝手良さそうですね。特にメテオを巻き込んで当てられれば、ぐっと勝ちを呼び込めそう……」


「って思うだろ? 生憎、メテオには準備もかかる様だし、無駄に凝ったゲームなんだ。最悪、味方にまで攻撃判定ありそうで誰か使うまでは使えないな。それに時間が掛かるってことは狙ったマスから相手がでちまったら、そもそも何の意味もねぇ……」


 使えるのは鼓舞だけか。とロイはロードの能力をよく覚える為、携帯の画面をじーっと見つめ始める。だがリーシャは説明も済んだ事ですし本選に移りましょう――というと、対戦の組み合わせを発表した。どうやら二組の対戦ずつ進行していくらしい。一番初めに選ばれたペア二人は――。


「……確立操作してるんじゃないかね、あいつ」


 眉を潜めながらロイは呟く。どうやら第一試合はロイとリーシャ、それぞれ別の対戦相手と戦う組み合わせだったからだ。発表されたトーナメント表を見ると、ロイがトーナメント一組、そしてリーシャとハルがトーナメント二組である。それぞれ六名が集まった組み合わせが組であり――予選の順位が高ければ早くて二戦勝てば決勝であった。


「あら……あんたとは別の組み合わせだったようね」


「おいてめぇ、組み合わせ操作とかしてねーよな? 手の内見られたくないからって俺が戦ってる間に自分の試合を終わらせとこうってハラだよな?」


「お生憎様、さすがのあたしもそれは操作できないわよ――単純な予選の順位と確立の問題。あんたにはまだ早そうだけど……ま、早く決勝まで上がってきなさい、このクズ」


 それを言い残すとリーシャはすたすたと指定された位置に歩いて去っていく。後に残されたロイは怒りで頬をひくひくさせながら、隣に並んでいたハル……いや、その中のフィアへ声をかける。


「おいカッス……お前、ぜってーあいつの試合見てろよ。ハルと一緒に絶対あいつのことボコれよ? わかってんな? 五百万も欲しいがこれは戦争なんだ。泣きっ面拝むまで俺は帰らねーぞ……」


「……ロイ、お前は煽る割には煽り体勢がないのだな。やるからには勝つ心算でやるが――そもそも情報が足り無すぎる。特にロード、一回限定というからにはさも強烈なアビリティで使うタイミングを選ぶだろう」


 む、とした顔でロイがフィアの声に耳を傾ける。リーシャは今携帯を弄り編成を整えている。バレる心配はないだろう。


「だが恐らくリーシャはそれを知っている。なにせ開発者なのだろう? これは強烈な……そうだな、ジャンケンで言えば後だしに等しい。少なくとも、あれに勝つには――最高のタイミングでロードのアビリティを切る必要がある。気合でどうにかなる問題じゃない、それは分かってるな?」


「当たり前だぁ……っていいたいんだが、正直鼓舞はいいにせよ、メテオを死地は切れるタイミングが分からん。仕様も分からないのに、負けに直結する駒のライフ減らせるか?」


「――ま、そうだろうな。だからロイ、お前は私の試合を見ていろ。今のリーシャの試合は忘れて目の前に集中するがいい」


 そういうとフィアは底意地の悪いような笑みを見せた。フィアの精神が宿っているのはハルで、ハルの顔、そして身体そのもののハズなのだが――まるで別人のような笑みだった。目の前の課題を紐解き、そして解を得て、本質――真理まで辿り着かんとする、不遜な錬金術師のような笑みだった。


「安心しろ。私とハルが二戦目でリーシャあと当たるから、そこでその三つの使い方をロイに教えてやろう。そうすればリーシャとロイの条件はフィフティー、半々さ……勿論余裕があれば、倒してしまってロイと決勝を戦う事になるがな?」


 不遜な笑みを絶やさぬまま、フィアはこれから始まるリーシャの対戦を見るために離れていってしまう。随分とデカい目標だね、とリーシャの性格を知っているロイはそのまま、目の前に来ていた対戦相手と向かい合った。


「……随分と余裕だね、ローレライさん?」


「あ、まぁな。一戦目は余裕って踏んでるよ――さすがに俺は元Sランクギルドの人間だからね、ゲームにおいてもたかだか一般市民に負けるわけねーだろ」


「ぐっ……!?」


 そういえばこいつ、予選の時にルールに駄々こねてたやつか、と目の前の相手をロイはじろじろと眺めた。中肉中背。天然パーマ気味の茶髪の男だ。ロイは挨拶もせず煽りにいったが無論作戦であり――事実意図的に敵対意思を上げられ、その天然パーマはあまり冷静な判断が下せない状況になっているようである。


 何かしら壮大な始まりを告げるかと思いきや、運営のそれでは一回戦、開始です! という唐突な掛け声で対戦は始まった――どうやら初戦のフィールドはシンプルなもののようで、縦百マス、横百マス程度のサイズだった。キャラクター、そしてロードの視界範囲外のマスは灰色になっており、地形以外黙認できないようになっている。

 つまりまずは索的から始めないといけない――そういうことであった。マップの形は一番上の列の中心に相手の城、そして一番下段の中心に自分の城。そして平地は左、真ん中、右と、縦に三本伸びていた。それらの道以外は須らくが森林として扱われており、移動範囲の現象や索的能力の低下、攻撃能力の低下など、あまりよくは無い条件で戦う仕様となっていた。


「(……まずは移動範囲の確認、そして攻撃範囲、マップの地形の種別!)」


 目の前の天然パーマがあくせくして初めから左、真ん中、右へ陣形を整えている中、ロイはキャラクターを一切動かさず戦闘の条件をくまなく探し、確認し、落とし込んでいく。何せゲームなのだ。実践では魔術師の壁になるようなものを作り、耐えさせている間に戦略魔術を打ち込むのが手っ取り早い。

 そんな常識が――そのまま通用するようにはどうにも思えなかったのだ。


 ロイは流し目で対戦相手の――携帯をなぞる指の動きを垣間見る。僅かに青い稲妻――不退転の決意による視界の強化が走り、その動きを把握する。どうやら左右、そして中央にまで展開しているようだ。それを確認するとロイは不適に笑みを見せる。

 そしてそのまま――ロードのアビリティ、鼓舞を発動させた。


 途端にロードの周りのキャラクターが剣を、そして杖を、槌を斧を振り上げ――パラメータが強化される。どうやら全て二割ほど伸びているようだ。そして移動範囲も、速度もぐーんと伸びていて、ロイはこの試合の勝ちを確信する。


 どこからくる、どこから――そうフィールドの左右を必死に索敵する天然パーマの携帯、その中央に赤い点が移りこんだ。中央から来たようだな、そう思い、左右に振っていたキャラクターを戻すが――。


「……おい、ローレライ、まさか!?」


「うるせーゲームに集中してろよ……飲まれちまうぜ?」


 赤の大群だった。全てのロイのキャラクターが中央からの突撃を行ったのだ。天然パーマが慌てて左右のキャラクターを全て戻そうとするも、時は既に遅い。ロードから二十マス以上離れてしまっている為、加速させることもできない。ロードを含めた全キャラクターが城の守りを放棄し突撃してきたのだ、とても分散させた状態では太刀打ちすることも出来ず――次々と天然パーマのキャラクターが、兵士が落とされていく。


「――兵は迅速を尊ぶ。わりぃが、こと戦において自ら防戦を選ぶだなんて命を諦観するようなもんだ。恨むなら――このセンスの塊であった俺を恨むんだな!」


 うけけけけ! そう気持ち悪く笑いながら、ロイは素早く攻撃命令を携帯から送り、陣形が崩れてしまっていても立ち塞がる敵を葬り、ロードを探してキャラクターを突き進めていった。そして――散っていた天然パーマのキャラクターが全て戻り終えた頃には、既にロードは倒され、負けという文字が大きく画面へ出ていたのである。


 唖然とした顔で携帯を見ている天然パーマにおっつーと声を掛け、リーシャの試合を見るためにロイがそちらへ移動すると――リーシャも同様に終わっていたようで、ばったりと視線が交錯する。どうやらロイよりも早く終わっていたようだ、ステージ上では既に次の対戦の準備が進められていた。


「……随分と早く終わったようで」


「そりゃあね。露骨に護りに入る相手を崩すのは簡単だったわ」


 どうせ中央から突撃したんだろうな、とロイは想像した。奇しくもそれは当たっており、リーシャは始まるや否や即鼓舞によるステータス上昇を発生させ、そのままロイと同じように、敵のロードを落としたのだ。

 ――二人が考えているのは長時間の戦闘による戦略の流出。それを回避するためには可能な限り短時間で試合を終わらせなくてはいけないのだ、故に――初戦、他の情報が何も無い中では、迅速な最短での突撃が妙手となりえたのである。


「決勝で見てろよな」


「はいはい、そーね」


 第一関門は余裕のクリアだったが――後二つ残っているロードのアビリティの使い道が分からん。どうにかできんか、とハルの方向を眺めると、ハルがそれに気付いてぶんぶんと腕を振り替えしてきた。


「頼むぜ、ハル……!」


 そうしてリーシャのいた場所では、二回戦目となる――ハルの戦いが幕を上げた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ