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Sランクギルドを追放されたクズは何でも屋を営むそうです  作者: 398
2章/ソーシャルゲームはこれだからやめられない
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59話

「中々人で溢れかえっておるの。……悲しい事に、わしが殆ど使われておらんが」


「……マスターのキャラは一撃必殺に近い攻撃力と体力を持っていますが、生憎予選のような乱戦では回復方法がアイテムに依存する為、低かったようですね」


 観客席で本選に出場したメンバーを眺めているのは、Sランクギルドである蒼穹のマスターであるハウエルと、近頃では勇者とまで呼ばれだした若き実力者――フレイであった。その隣ではアイリスが苦笑いしながらハウエルのことを見つめている。


「しかしマスターがこのような大会を観戦するとは思ってませんでしたよ。てっきり、僕は本日も訓練に勤しむのかと」


「そういうな、フレイ。たまにはこういうのも一興じゃよ、何せ娯楽という娯楽が少ないからのう……それにロイもリーシャも出ておるではないか。気になるのも仕方あるまいて」


「……くっ、そうですわ、あのまな板小娘。この私を差し置いてロイ様とこんなゲームで遊び呆けてるだなんて。なんで私をお誘いしないんですの……!」


 暗黒に近いオーラを吐き出し始めたアイリスを、怖いものを見るような目でフレイは流し見た。この方はロイさんが絡むといつもこうだ、と溜息を零すと、フレイが知らぬ娘――ハルのことだ――と並び、不適に笑うロイを見下ろした。

 呆れたように会場を見るフレイであったが、その内心はあまり穏やかではない。セルシウスとの戦闘の件でロイに救われてからは、ロイに対してままならぬ感情を抱いているのだった。それは嫉妬、そして羨望――あの莫大な質量を受け止めたロイの異質な力の事が気にかかって仕方がなかったのだった。


「(……あの力の源泉は恐らくアビリティだ。だがしかしロイさんの戦うところを僕は見たことがない)」


 たかがゲームの大会でそんな片鱗が見れるとも思ってはいないが、何かしらのヒントでも見れればもうけもの。そんな感情を抱いてフレイは観戦に来ているのである。


 観客席でそんな会話が紡がれている最中、会場の中央では本選に出場した選手の自己紹介が始まっていた。十二名の中には男も居れば女も居る。それぞれキャラクターネームと、優勝した際の賞金の使い道、そしてゲームに対する改修権の使い道を述べていく――。賞金も、改修権も使い道は人それぞれであり、自分のキャラクター名が入った武器を加えて欲しい、とか、寧ろ自分をゲームキャラに加えて欲しい、とか。

 そして順番は巡り――十一番目、ロイの番となった。リーシャが営業スマイルを見せる中、ロイへと小振りの拡声器を手渡す。


「では、どうぞ」


「悪いね。で、なんだっけ……ああそうそう、キャラクター名はロイ、んで五百万の使い道は酒池肉林パーティ……おーいレン! 来てんだろう! 夜行くからまってろーい!」


 リーシャが余計な事を言うなよ、と釘を差す前に笑顔でぽんぽん己の欲望を口走るロイ。ぴきっとリーシャのこめかみがひくついたが、それでも今は仕事だ、しかも大衆の前だ――と己を殺し、いつものノリで発動しかけた風魔術を咄嗟に引っ込める。


「あいつ、変わらないねぇ。……待ってるから集中しなよ、ほらハルも呆けてないで頑張りな!」


 観客席では紫の浴衣に身を包んだ金紗の髪――遊楽、桜の店主でもあるレンが大きく手をロイへと振り替えしていた。ロイの隣でハルがそれを見つけると、がんばりまーすと精一杯の感情を両手をぶんぶん振り回して表現している。


「それで……ゲームに対する改修権の使い道は……なんでしょうか?」


 健気にも営業スマイルを保ちながら、リーシャがロイへと問う。

 一方でハルの精神では、フィアがばたばたと騒ぎ始めていた。


「(おい、ハル。ロイを止めろ、あのバカは本当に言うぞ……ロイがどうなろうと私は知らないが、私が誤る時はリーシャには機嫌がいい状態で居てもらいたいんだ。頼む、止めてくれ)」


「(とめまーせん! 私はロイさんの為す事全てを手伝いたいんですから、止めるわけないじゃないですかー)」


「(くそっ……そういえばハルはそういう人間だった……諦めよう……。しかしこんな焦るのも久しぶりだな、これも私が人間を取り戻したいと考えているからなのか――?)」


 そんなやり取りのことだなんて露知らず、ロイがリーシャから拡声器を受け取ると、さも雄弁に余計な口を開き始める。


「――みんな聞いて欲しい。このゲームをプレイしている皆にだ」


 ざわついていた会場内が途端に静まり返る。日頃クズと言われてやまないロイの、至極真面目な声だったからだ。良く通ったその声は、会場内の視線を一身へと集める。


「このゲームのキャラは良くデザインされていると思う。ほら、持っているものは携帯を出してよーく見てみろ、あのクソ生意気な蒼穹のフレイでもキザなセリフを吐いてプレイヤーを気遣うし」


 途端にフレイが立ち上がり腰の剣を抜きかけるが、隣のハウエルにどうどうと静められ、落ち着きを取り戻して席へと付いた。怒りで眉が釣り上がっていたが、抜剣までするのは大人気ないとどうにか気付けのだ。


「蒼穹のマスターのハウエルだなんて……あぁ、こいつはダメだ。俺オッサンキャラ使いたくなくて使ったこと無かったわ」


 今度はハウエルがびしびしと全身の筋肉を震わせながら会場の真ん中に飛び込もうとしたところを、隣のアイリスの限界突破した筋力で押さえ込まれ、事なきを得る――アイリスの生涯でも上位に位置するくらい無駄な限界突破のアビリティの使い方であった。あいつは、あのクズは一回しばかんといかん、そんな声がロイの耳にも聞こえたが、無視して次の言葉を吐き続ける。


「……そんな中でもリーシャをモリーフにしたリーシャたん、こいつのキャラのデザインはかなり優秀だ。それにマイページに設定して喋らせた時も、目に余る可愛さがある」


 途端にロイの目の前に立つリーシャの顔が赤くなり始めた。んんー!? と予想外の方向から投げ込まれたド直球にどうしていいか分からず、腕を組んだまま言葉を出せずにいる。

 リーシャたんとはゲーム内部の、リーシャをモチーフにしたキャラの愛称であった。


「だが残念な事に――俺はナニとは言わないがもうちょっと揺れて欲しい。他のゲームキャラは揺れてる奴もいるのに、このリーシャたんは……揺れない……!」


 普段のリーシャであれば直ぐに怒声と共に魔術が飛んでくるだろう。ところが今のリーシャはオーバーヒートする寸前で、何も聞いてはいなかった。ハルの精神の中で、フィアはあれ、と呆れたような声を漏らす。


「(……なぁ、ハル。リーシャってこんなポンコツだったのか? 私が戦った時はもう少しマシだったぞ)」


「(ポンコツ……なのかもしれませんね、ロイさんが絡むと。私は凄く尊敬してますけどね!)」


 大げさに俯き、両手を広げ感情を表したロイは一息つくと、リーシャに向けて指を突きつけて、声高らかに、そして決まった! とも言わんばかりのドヤ顔を持って宣言した。


「俺が優勝した暁には――俺の保有しているリーシャたんだけ、胸のサイズを増してもらうぜ! いいな!?」


「……へっ、あ、え、ええ……ごめん、もう一度」


 ようやく現実に帰ってきたのだろう。何も話を聞いていなかったリーシャはロイに向かってクズー! とかサイテー! とか叫びながら物が投げ入れられてる現状を把握できず、近くに居た運営委員を呼び寄せると、事の顛末を聞いていく。

 そして聞いていく内に――赤かった頬はすっと元の色に戻り、抑えきれぬ怒りにところどころで溢れかえった魔力が紫電さえ爆ぜ始める。


「(……あーあ、言わんこっちゃ無い)」


「(ですねぇ)」


 苦笑いをしているのはハルとフィアのみ。会場がその異変に気付くと、ロイに対するブーイングすら止まり、ただただ怒りに震え始めたリーシャに対する視線を向けるのみとなった。魔術に心得の無いものでもこの圧迫するような魔力の圧には気付いてしまうし、逆に心得のあるものはあるもので、窒息しそうな程に溢れ出た魔力に酷い恐怖を刻まれてしまう。


「……あんた、いい度胸してるわね」


 ロイを振り返ったリーシャ。その表情は修羅の有様である。


「いいわよ、飲んであげるわその条件。仮にも私は運営する立場だし、実現不可な改修以外は飲むつもりだったし?」


 ここまで来ると溢れた魔力の暴威だ。己に吹き付けるそれを確かに感じながらも、余裕の笑みは崩さずに、まるで喧嘩を売るように、ロイは言葉を返す。


「まぁそうだろうな。たゆんたゆんで頼むぜ?」


 一瞬、雷鳴が轟いた。ロイの背後で競技場の強力な結界に阻まれた雷撃が爆ぜる。恐る恐るロイが振り向くと、そこには黒こげになった地面――の残骸のようなものがあった。消し炭に近い。思わずロイの顔が青くなる。


「じゃああんたが負けたらあの黒こげの役を実演させてあげるわ」


「……脅しかよ、大会の商品に対してそんな俺に条件突きつけてきていいのか?」


「じゃあ言い方を変える。私的に、あんたをそうする」


 静まり返った会場の真ん中で白衣を翻すと、リーシャは控え室へとさっさと歩いていってしまった。後に残るは、十一名の参加者と静まり返った観客のみ。


「……ま、成功だな。あんな怒るとは思ってなかったけど」


 乗り切ったーとばかりに溜息をついて肩を下ろすロイに、精神を入れ替えたハル――いや、フィアが歩いて近寄るとロイの尻へと蹴りを入れた。いてぇ! と喚くロイに、フィアは眉を八の字にして怒りながら、指を鼻先へと近づける。


「ロイ、お前は阿呆か。デリカシーがないぞデリカシーが……今後、ああいう煽りは無しにしておけ。それに私が謝る時に機嫌を悪くされていても困る」


「フィアカッスが出てくるんじゃねーよ。バレんだろうが!」


「いや、それ以前に……あそこまで怒らせたんだぞ、絶対リーシャはどんな手を使っても勝ちに来る。それこそ、開発者としての知見を存分に振舞われたら私達に勝ち目は無いぞ!」


「知ってらぁ、だから怒らせたってのもあるが……元々あいつのことだぞ、こんな事しなくても全力で勝ちにくるに決まってんだろうが、なら少しでも冷静な判断をする余地を無くさせておきたいんだよ」


「……ほう。それで本音は?」


「マイページでたゆんたゆんさせて遊びたい」


「このクズ!」


 足蹴にされながら控え室に向かっていくロイとハルの後姿を、観客席のレンは怪訝な顔で見つめていた――ハルはあんなロイのことを足蹴にできるような子であったかと。


 一方でリーシャの控え室では、ゲームを開発する筈の職員がただ只管にリーシャの携帯で、十連ガチャを引かされていた。その手元には乱暴に書かれたメモ書きがあり、武器の名前、そしてキャラクターの名前が、決して少なく無い量が書き込まれている。


「あの、統括様。そろそろ百万円を越えるのですが――まだ引き続けてよろしいのでしょうか」


「構わないわ。こっちはルールを握っているのよ、有利になる武器、キャラは全部引いて、経験値は課金アイテムでどうにかして。あたしの銀行ギルドカードから全部引き下ろして構わないわ」


 怒りに震えたリーシャが急遽用意させた複数の携帯で、通常のプレイヤーにはできない方法でアカウントを共有し、課金に勤しんでいるのであった。普段とは違うリーシャの言動に怯えながらも、揃えられた職員三名は本選が始まるその瞬間までガチャを引かされることを強いられているのであった。三人同士はガチャを引き続ける作業をしながら、これ一千万越えちゃうよなぁ、と溜息を零したとか。


「ちょっと遊んであげるつもりだったけど気が変わったわ。全力で準備して、全力で潰すから待ってなさいクズ……!」

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