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Sランクギルドを追放されたクズは何でも屋を営むそうです  作者: 398
2章/ソーシャルゲームはこれだからやめられない
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56話

 一週間という期間を病院で過ごしてロイとリーシャは退院をした。ロイは携帯を片手にソーシャルゲームで遊びながら、リーシャはこれから自分に襲い掛かるであろう魔術師ギルドの統括としての業務に溜息を零しながら。


「ロイさんが家にいるっていうのも、なんだか久しぶりな気がしますね……おかえりなさい!」


 玄関の前で鍵を開けながら、ハルは笑顔を見せながら呟いた。快晴、そして晴天。退院を祝うかのような気持ちの良いほどの青空だ。吹く暖かい風に茶髪を揺らしながら、開かれた扉をロイは潜っていく。


「あー、確かにこの家の香りも久しぶりだわ。悪いなハル、大分家空けちまった」


「いえいえ、元はといえば……私が発祥だった出来事なので」


 リビングのソファーに座ったハルの顔が歪んだような笑顔になった。確かにロイやリーシャが傷付いたのはハルが原因の一端を担っているだろう。だがあくまで一端だ。全ての原因は錬金術を振るったフィア・ルーセントハートになる。


「気にするなよ。ハルのせいじゃねえ、全部が全部フィアのせいだろうが。ったくあのクソガキ、いずれグーパンでシメてやるわ……」


 腕組みをして不満たらたらの顔を見せながらロイはふんと鼻を鳴らす。ハルはその言い方に軽く笑って、気遣わせてしまったかな、と苦笑いした。


「……でも、そう言って頂けると嬉しいです」


「でも、フィアの言っていたこともよ、何か……理路整然としてない気がするんだよな。試しだとか、約束だとか言っても――あいつくらいの錬金術師なら、真理だとかを得た奴なら、そんなことをするまでも無い気がする」


 口元に手を当てながらロイは考え込む。フィア・ルーセントハートは確かに言っていた。真理を選別だとか、ロイのアビリティを弄ったりだとか、ハルに対する執着だとか。ハルに真理を選ばせるだけならば、フィア・ルーセントハート自身の錬金術でハル自身を弄ってしまえば良かったのだ。


「まぁ、確かにそうですね……じゃあ、聞いてみましょうか?」


「おう、聞いてみようか――って、は?」


 アホみたいな間抜け面を晒したロイの目の前で、返事を待たずにハルの左目が金色に煌いた。おいおい、嘘だろとかロイが呟いた一瞬でハルの雰囲気が移り変わる――無邪気な笑顔は一転、妖艶な笑みに。そしてソファーに姿勢を正して座っていたのが、足を組んで腕を組み、どこか偉そうな態度に。


「……やぁやぁロイ・ローレライ。久しぶりだね、元気にしていたかい?」


「いやいや、嘘でしょ……えっ、お前本当にあのクソガキなの?」


「馬鹿をいうな、もうガキなんて言われる年でもない――改めてご挨拶しよう」


 そういうと、ハルだったものは優雅に立ち上がるとロイの目の前で優雅に一礼した。


「真理を納めし存在を無くした錬金術師――今はハルの精神に居場所を借りているフィア・ルーセントハート。以降よろしく?」


 ハーフアップの黒髪に付けられた髪飾りの鈴が、応じるようにちりんと鳴り響いた。


 ・・・・・・


「……今の茶はあまり美味くないな。それともロイの入れ方が下手なのかな?」


「馬鹿言え、自分を殺しかけた相手に出す茶だぞ。雑巾の絞り汁を入れてある」


 ブーっと茶を吹いたフィア。ざまーみやがれと卑屈そうな笑みを見せると、ロイは満足したようにソファーに深く座り込んだ。最低か君はと咳き込むフィアに対して、ロイは溜息交じりで言葉を返す。


「……嘘だよ、仮にもハルの身体だぞ。そんなこと出来る訳ねーだろうが」


「げほっ、げほ……いい性格しているね、ロイ。私が本気なら錬金術で殺しているぞ」


「それこそ馬鹿言えだ。お前はそんな悠長で待つような性格じゃないだろ、あのクソゴーレムの海の時もそうだったし」


 落ち着いたフィアは再度茶を口に含むと、喉を潤した。改めてソファーに座ると、それで、と話を本題に戻していく。


「ハルから聞いたよ。私の発言が理路整然としていないっていう話であったね?」


「……ああ、そうだ。それに加えて、今頃なんてお前が出てくるのか、ってのも教えてくれよ」


 いいだろう、と頷くと、フィアは指を一本立てた。

 そして一つ目、と呟く。金色の左目が窓の外から入り込む陽光に煌いた。


「一つ目。私――フィア・ルーセントハートの言動が理路整然にしていない原因について。これは単純だ、”隔絶されて繋がりに飢えた私”と”真理の継承者求める私”の人格が入り混じったことに起因する」


「単純そうすごーいー! なんて言えるか馬鹿、もう複雑な香りしかしないんだど……」


「……はぁ、まぁいい。要はその場にいた君達と繋がりを得たい歪んだ私――それが君達を傷つけた。そして真理が欲しいかとハルに問い掛け続けていたのが、継承者を求める私な訳で。別の人格同士が勝手に話を共有、勝手に進めていったからな、話も混合し理路整然さなど失われる――」


 うーんとロイは首を捻る。多重人格みたいなもので、構ってちゃんになっていたのが暴威を振るったフィア・ルーセントハート。そしてハルを誑かし続けていたのが、継承者を求めていたフィア・ルーセントハートかと勝手に納得し、首を縦に振る。


「そして最後はぐちゃぐちゃに乱れた、二つの私がね。何せ真理を得てから無限の時間を過ごしたようなものなんだ、現実の時間なんて物差しにすらならない程にね。そりゃ私だって元々は普通の人間なんだから、狂うさ」


 寂しげなその笑み。無限に続く孤独の時間はキツいな、とロイは苦い笑みを零す。ロイ自身やリーシャ、そしてハルを傷つけた事は許せないが、その点に関しては同情するわ、といった苦い笑みだ。


「でも一番最後に――ハルと話したんだ。一番の失敗は自分の人間性を消せなかったことだって」


「……で?」


「私の存在は既に消した後だったからねえ、迷ったよ。ハルに拒絶されて、また次の真理に辿り着くべき人間が現れるまで待つか、全てを諦めてその場で自分を消し去ってしまうか」


「へぇ……随分と隔離された生活してたんだな。そりゃメンもヘラヘラするわ」


「まさかメンヘラだなんて言葉で片付けられるだなんて私も思ってなかったよ……まぁ、うん。それでその時の私は選択したんだ――真理を継ぐ継承者を探す私を、分解する事を」


 脱力した声でフィアはそう一気に告げた。

 ぶつくさと、今肝心で良いところだったのになぁ、とぼやきながら。


「……それで残ったのが今の私。人との繋がりを求める、存在を無くし、真理を得た錬金術師、フィア・ルーセントハート。どうだい、なかなか愉快な話だろう?」


「愉快かどうかは置いておくけど、じゃあなんでお前はハルの身体にいるんだよ。そこが俺にとっては一番大事で、かつ肝心な部分なんだけどよ」


「簡単さ、君が入院している間にハルと対話をして、その精神にフィア・ルーセントハートを置いてもらうことにした。……おいおい、そんな怖い顔をするなよ。真理は私の存在――記憶を介して接続する、ハルが直接繋ぎにいくわけじゃないさ。君の考えているような、ハルが真理に溺れるようなこともない」


 ふぅんとロイは鼻を鳴らして自分の茶を口に含んだ。それならいいのか……と考えたがハルがそれでいいと頷き肯定したのであれば、ロイに口を出す部分など有る訳もない。殺されかけた恨みこそあれど、ハルの精神を間借りしているような存在をどうにかするなんて芸当はロイには出来ないので、受け入れるしかないのもあるが。


「まぁ、それでだ。私が言うのもあれだが……あー」


 急に言葉尻が弱くなったフィアに対し、ロイは怪訝な顔をした。まだそんな言いづらい事があるのか、悪いニュースは先に出せよとばかりにロイは顎でくいっとして、はよ続けろやと語る。


「……いや、君達を殺しかけた私が言うのもお門違いな気がしてならないんだが――あれだ」


「なんだ、悪いニュースじゃねーのかよ?」


「ああ、多分違うと思う――いや思いたいのだが……その、どうだ、私と――フィア・ルーセントハートと友人にならないか?」


 差し伸ばされた手を見て思わずぽかんとしてしまった。僅かに頬を赤らめ、視線を合わせようともしないその姿はどうやら冗談で言っているわけでもなさそうであった。勿論ロイに思うところはある。都合がいい、それにこいつはリーシャも傷つけた、到底許してはいけない奴だと、そう思うのだ。


 今の、友達になってくれないか、という言葉に込められた思いを一蹴するだなんて簡単だ。よせよ、といって払いのけてしまえばいい。ハル自体も、ロイが一言告げればフィアに与えた居場所も簡単に返してもらうだろう。そうしてフィアはまた一人の世界で過ごすことになる。


 だが――ロイにそれを捨てることはできない。誰かが助けを求めれば手を差し伸べてしまうし、自身も出来る限り多くの手を差し伸べたいと、その根本的な部分では強く願っているからである。その根源は――自身の命を救いあげた先生という人物、ロイが心から師として仰ぐ人物――レイハート・エヴァンスに起因していた。地獄から救われたその日に、ロイの根源に伸ばされた手の暖かさ、そして嬉しさが刻まれてしまっているのだ。


「――ったく、アホか」


 果たしてそのアホは、都合よく友達になろうとしたフィアに対してなのか――果ては今までの出来事を水へ流し、友人となろうとする自分への呆れの言葉なのか。ロイ自身にもそれは分からなかった。

 ぱしっと取られた手を見てフィアは瞳を丸くする。驚いたような表情だった。


「友達ってのはなるもんじゃねーよ、気付いたらなってるもんだ。……よろしく頼むぜ?」


「あ――いや、いいのか、お前は」


「よかねーよ。まだお前にはやる事が残ってるしな――リーシャとアイリスにごめんなさい、してこようぜ」


 はっとしたようにフィアはロイと向き合うと、静かに頭を下げた。俺はもう過ぎた事だと思うことにしたし、そんなことせんでもいいのに――苦笑いしつつ、ロイは両肩を大げさに竦めた。


「……傷つけてすまなかった。まずはこっちが先立った、順番が逆だった」


「なに、いーってことよ。……それでさ、お前ってどんなタイミングで表に出てくるの? いつでも自由な感じ?」


「――感謝する。出てくるとは、今のように意識が表に出る事か? それであれば――自由ではないな。ハールー……違う、ハルから了解を貰った上でならこっちに出ていいって約束をしているよ」


「……錬金術って使えるの?」


「当たり前だ。ハルの身体であろうとも使えるに決まっているだろう……錬金術に慣れていない身体ではあるが、この私が練成陣を書けば殆どのことは出来るぞ!」


 心外だとばかりに鼻を鳴らすその姿を見て、ロイは切り替え早いねぇとぼやいた。得意げなフィアのどやっとした顔に腹が立ったが、構わず話を続けていく。


「ちっと見てよ……これ携帯って言うんだけど」


「ほう――ああ、なるほど。随分と手の込んだ構成だな――機械と魔術の融合か」


 僅か一目で見抜く、流石は真理の錬金術師だねえとロイは下を巻いた。携帯の画面を見せながらロイはソーシャルゲームを起動し、現在位置を示している画面やら、クエストの仕様やらを伝えていく。


「……まぁ概ねは理解したが、それで私に何をしろと言うのだ」


「いや、お前のゴーレムって超ハイテクだったじゃん? 稼動軸二本あったりしたし」


 褒められて嬉しいのだろう――久しく味わっていなかった嬉しいという感情を大切にするかのようにフィアは味わい、頬を赤らめながらも得意げに語りだす。


「真理に触れた私だぞ……ふふ、そりゃ凄いものが出来る。何せ私は天才だからな!」


「で、だ。お前――勝手に携帯もってひたすら外を走り回るゴーレムと、単純作業を全部こなしてくれるゴーレム、たくさん作れない?」


「単純に動くゴーレムだろう、それくらい私に掛かればお手の物――」


 そこでフィアは気付いたのだろう。ロイが自分に依頼しようとしている作業の真意に。フィアの頭の回転はロイやリーシャよりも速い。こと、隠された意図的なものに関しては鋭さも持つ。僅か一分程度の説明で、このソーシャルゲームがどんなビジネスモデルなのかも気付いているのだから。


「……おいロイ。お前、真理まで得た私に何をさせようとしている」


「今度始まるそのゲームの大会の準備に決まってんだろうが、それに優勝したら五百万だぞ! なんせ財布の紐をリーシャに握られてるからな、臨時収入でパーティしたいの! ほらやれ、今すぐやれ。外を走るゴーレムにガチャ符集めさせて、単純なレベル上げは小さいゴーレムに任せたいんだから早くやれ!!」


 途端に今までのシリアスな会話の流れを無視したロイの言葉に、フィアは思わず脱力する。もう少しマシな話の内容であれば、気遣って話題を変えたのか――とも思ったが、いかんせんフィアに迫るロイの瞳はマジだった。楽して五百万円が欲しいという感情に満ち溢れていたのだ。


「(――もしかして私は、友達になる人間を間違えたのか?)」

 

 リビングにフィアの盛大な溜息と、そして赤い閃光が幾つか奔ったのであった――。

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