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Sランクギルドを追放されたクズは何でも屋を営むそうです  作者: 398
2章/ソーシャルゲームはこれだからやめられない
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55話

 医者、そして神官からもロイ、リーシャの二人は数日の入院が必要だと判断され、二人で同じ病室のベッドに寝転んでいた。特にリーシャの容態は気にされており、未だに栄養補給、そして医療に用いる薬液の管が細い腕に二本刺さっている。ロイと言えば、常時微弱に発動させている不退転の決意の効果によって回復も進んでおり、栄養素だけの点滴であるが。


「まったくもう、ロイさんが運び込まれたって時は肝を冷やしましたよ。初めてじゃないですか、ロイさんが平常時にここまで弱って運び込まれるだなんて」


 明るい茶色の、金に近いような色合いの髪がふわりと揺れた。冒険者ギルドの受付嬢、フィルがロイの見舞いに来ているからだ。プライベートで来ているのだろう、日頃から着込んでいるギルドのグレーの制服ではなく、浅葱色のタイトスカート、そして白のブラウスを着込んでいた。


「あー、確かにそうかもな。戦争の時はなんやかんやで入院ばっかしてたが……平常時じゃ初だな」


 戦争――リーシャを救った機械大国である東国とのが最新だ。あの後もロイは不退転の決意によって限界を超えた反動で重傷を負い入院していた。それ以降だと初めてだなぁ、と思いつつ見舞いの品である林檎をしゃくしゃくを齧りながらと答える。


「退院したらお祝いでもしましょう、ね!」


 笑顔で頷きながらフィルは立ち上がると、隣のベッドで黙々と本を読んでいたリーシャの、直ぐ近くの席へ移動した。怪訝な顔でリーシャがそれを見ると、フィルは笑顔で、見舞いの品をテーブルへ置いた。


「始めまして、フローレス様。直接お話するのは初めてですよね?」


「ええ、そうね。会合とかで会った事はあるけど、話すのは初めてよ」


「フィル・オルセンです。冒険者ギルドで受付嬢として働いています、よろしくお願い致します」


「……そんな畏まらないで。知っていると思うけど、魔術師ギルド統括のリーシャ・フローレスよ、よろしく」


 挨拶だけ交わすとリーシャは本の虫へ逆戻りしてしまう。ロイ達といる時は口数も多いのだが、それ以外の他人に対しては意図して冷たい対応をしているのだ。年下だからといって不遜な態度を取られてきた経験があるからこその術である。

 不安げに振り向いたフィルに、ロイは呆れたような顔で、いつものことだよ――そう首を振った。


「おいリーシャ、こいつはお偉い貴族様とはちげーぞ。もう少し暖かい対応してやったらどうよ」


「ええ、知っているわよ。冒険者ギルドの受付嬢、フィル・オルセン。日頃の勤務態度は良好、ギルド自体、それに冒険者達からの信頼も厚い。玉にキズだなんて言われているのがギャンブル好き、趣味はガーデニングとひっそりと楽しんでいるパチンコ――」


 うぇっ、と変な悲鳴を上げ、顔を赤くしながらフィルがリーシャを振り向いた。ロイは顔を顰めながら、お前はどこぞのストーカーかよ、かと一歩引いた目でリーシャを見つめる。ロイ本人こそ気付いていないが、ロイに対しては大体魔術で産み出した監視用の青い鳥が張り付くように飛んでいる為、これ以上の情報を得られているのだが――知らぬが仏というやつか。


「……何よ、引いた目で見られても困るわ。各ギルドの統括同士で行う会議で、人員についての話も出てくるのよ。特に優秀な子とか、逆にダメな子とか。貴女の名前は良く聞くわ、フィル――期待されているわよ、頑張りなさい」


「えっと……フローレス様は、魔術師ギルドのほかの情報も完璧に覚えているのですか……?」


「そうね、軽くだけど」


 そんな会議があるとは知らなかったわ、とロイは思わず感心する。確かにギルドは数多くあるが、今までそんな話は一つも聞かなかったからだ。内密にやっているのかねえ、と納得し、一つの出来事を思い出す。


「そういえばお前、前にハルと魔術師ギルドまで行って変な貴族煽った時あったよな」


「……ああ、あったわね。雷系等で煽ったときのやつよね?」


「あの時、門番の名前もさらりと出してたけど――そこまで覚えんの?」


「有象無象は覚えないわよ。あの子、ヘラヘラしてる時もあるけど根は真面目よ。成績も優秀だし、門番にしておくのももったいないから騎士に推薦状まで書いたくらい」


 うげ、とロイはあの門番を思い出してご愁傷様と内心で祈りを捧げた。あの門番――フォーレンが優秀な成績を収めつつも魔術師ギルドの門番として従事している事情をロイは知っているからである。


「……お前、それ本人に言ったの?」


「言ってないわよ、態々偉そうに、推薦状書いてやったぞ~、だなんて恩着せがましくない?」


 コミュ障か、と内心で突っ込みつつ、さいですかーとロイは話を終わらせた。頭の中で、僕はリーシャ様に惚れたんです! あの冷たい瞳とか最高じゃないですか! あの方のいるギルドを護る為に頑張ってきたんで、門番最高ですね! 一日に二度見れるし! ときらきらした目で語っていたフォーレンを思い出し、合掌しつつロイは二個目の林檎に手を出す。


 丁度そのとき、病室の扉が大きく開いた。


「……ク――、違った、ロイ先生。外回り行ってきたわよ、どうぞ!」


 現れたのは以前子鬼の巣でロイが助けた冒険者の内の一人――ルイ・ヴァレンシアであった。赤みがかかったショートヘアの下の表情は、苦虫を纏めて噛み潰したかのように渋い顔である。ルイはそのまま懐から一枚の黒い板――ロイの携帯を投げると、ふんすと鼻息を鳴らしながら空いていたベッド――ハルが退院した為である――に腰を下ろす。


「ご苦労カッス。でも今クズって言いかけなかった? ねぇ?」


「言うわけないじゃないですかクズ先生。いたいけな後輩に対して先生って無理やり呼ばせて、ソーシャルゲームの為に街を歩かせるだなんてクズをクズだなんて言うわけ……」


 本音、建前どころの騒ぎではない。本音しか出ていない。ロイはそれを気にも留めず、投げ渡された携帯を開いてゲームを起動した。チッ、十連四回分だけかよシケてんなぁ、と人の風上にも置けないことを呟きながらゲームを閉じる。

 このソーシャルゲームの仕様として、現実世界の各箇所を実際に回ってガチャを回す為の符を集めなくてはいけないというものがあった。ロイは自分が課金したくない手前、ルイが在籍しているパーティに携帯を持たせて各地を回らせ、符を集めさせていたのであった――どうしようもない人間である。


「――ルイ、もう根を上げるの?」


「ヴっ……」


 びくっとリーシャの一言に竦み上がるルイ。リーシャ自体もルイが所属するパーティの行動には怒っていたのだ、無茶が過ぎると。初めこそ見舞いに来たこのパーティ四人組にロイがソーシャルゲームをやらせようとしていたときは止めようと思ったが、ふと考えを改め、丁度いい――寧ろ軽すぎる罰か、とロイが言うままにさせているのであった。


「……フィルさん、助けてくださいよ……私はこんなクズの奴隷じゃないんですよ!?」


「あらあら、助けてもらったことを棚に上げちゃうんですか?」


「ああ! もう! わかったわよ! もう一回り行ってきます!」


 フーと怒りの吐息を漏らしながらロイが持つ携帯をひっとると、どすどすと足を踏み鳴らし、赤い髪を翻しながらルイは病室を出て行く。おー、嵐みてえな奴だな、とロイが嘆息すると、横からリーシャの言葉が刺さった。


「丁度いい罰だからやらせてるけど、いつまでやらせてるのよアレ……」


「体力付くか、俺がレアキャラ重ねるまでかなぁ。全部このゲームのシステムがレアキャラ引いて重ねるとかいうエグい仕様なのがいけない」


「あ、そう……っていうか、あんたそんなにそのゲームにハマってたっけ?」


「いかんせん、病室だと娯楽がこれしかないからな。それにお前も言ってたろ、大会があるって。エントリーまだ間に合うみたいだし、賞金でウハウハしたい」


「素直か! ま、あたしも療養中だし仕方ないか……一般の子相手に教鞭振るうなんて初めてなんだし、めんどくさい誘い断るの、あんたも手伝いなさいよね」


「へーへー分かっておりますともリーシャ様……」


 旧知の仲――いや、それ以上の仲であるかのようなやりとりを見て、思わずフィルはじっくりと二人を見つめてしまう。フローレス様ってこんなに喋る人だったっけと記憶を漁ったが、そんなものあるわけも無く、楽しそうに喋っているリーシャを見て、こんな一面もあるんだなぁ、と一人で納得した。


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