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Sランクギルドを追放されたクズは何でも屋を営むそうです  作者: 398
2章/ソーシャルゲームはこれだからやめられない
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51話

 ――苛烈。魔術への耐性が極めて高く、剛健な鉱石であるアダマンティアで構成されたゴーレムの海のような大群の攻撃は、そんな言葉が相応しかった。ロイはただ真っ直ぐハル――その身を借りたフィア・ルーセントハートへ突き進んでいく。


「……どけよ、大事な奴の命が掛かってんだァ!」


 不退転の決意によって強化された身体、そして溢れ出した魔力を青き稲妻として纏い、時には内部へ響き稼動軸を破壊する柔の一撃を放ちながら、立ち塞がるゴーレムを次々と突き崩していった。無論、青天井に強化されていっても人間の身体がアダマンティアに適う訳は無い。死角からの一撃や、散弾銃の様に放たれた鉱石の破片は全て防げず、一歩進むたびに身体のどこかが傷付いていく。


 致命的な一撃を防げているのは殆どリーシャ、そしてセルシウスのお陰であった。彼女たち二人のサポートが迫る破片の勢いを弱めたり、打ち落としているからこそ、ロイは剣一本でこの海を突き進む事が出来ている。


「――セルシウス、あんた手を抜いてない!? あの山割る怪力はどこにいったのよ!?」


「――貴女と契約した悪影響だ、私自身の本質はエレノアに縛られている、あの地以外では貴女の魔力を汲み上げるしかない……! あれだけ出力を上げようとしたら、幾ばくもせず貴女の魔力が尽きるぞ!」


「ああもう、じれったい……! あのフィアとかいう奴、セルシウスの氷だけ丁寧に分解してくれちゃって、人間様が行動をするってところに拘ってるのかしら……ッ!」


 迫り来るゴーレムへ漆黒の稲妻が放たれた。それに触れた途端に外側部分が分解され消失していく――が中心部を破壊するまでは到らず、消失という現象は途中で止まってしまった。リーシャが放つ黒い稲妻は対象に当たったと同時に存在を構成する要素を判別、分解するものだった。


「……途中でアダマンティアの保有する魔力要素を切り替えてるわね、ゴーレムのくせにどんだけ高性能なのよ!」

 

 途中――消失現象が始まったと同時に魔力要素を切り替えることによって、黒い稲妻の消失から逃げているのだ。真理に辿り着きし者が作成したゴーレムが故の、高性能な技である。リーシャの魔術の出が余りにも速いが故に現在は直撃を取れているが、詠唱しなくてはいけないような魔術師であれば、即座にアダマンティアの性質を変えられてしまいダメージが通りにくい存在へ構成されなおされていただろう。

 爆炎に対しては水の要素をもつアダマンティアへ。相反する属性へと。


 リーシャの悪態が僅かに聞こえたロイであったが、今はそれよりも目の前の存在をどう壊すかで頭が一杯であった。思考の全てを最短で辿り着く為に回し、行動へ映していく――ただそんな現界ぎりぎりの最中でも、一個だけ懸念していることがあった。


(――戦場にいたときよりも、出力が弱い)


 かつてはリーシャを、そして自国を救う為、一刀で千を越える東国の機械兵を切り伏せたロイだったが、この体たらくは一体何なんだと。あの不退転の決意の出力はどこに消えてしまったのだと。握った剣に魔力を込めていく。直ぐに刀身が金色に輝き初めた――がそれまでだ。あの時の、一刀で全てを切り伏せるまでの力は、まだこない。


「ロイ・ローレライ、君は悩んでいるね? 私が思うにそのアビリティについてだと思うんだけど」


「ッ――るせぇ、黙ってろや!」


 剣を振るえばロイの目の前に立ち塞がっていたゴーレムがずどんと滑らかに切断されて崩れ落ちる。確かにさっきよりも出力は向上している。だが何故だ、あの至高の一刀まで辿り着けない。アビリティの出力――強化される幅が、狭くなっている。


「だから君はレプリカでしかないんだ。その技能は君に染み付いていない、ただの借り物だろう?」


「あの人が、先生がくれた唯一のモノを、借り物なんて言うんじゃねぇ!」


「だが事実だ――君はそれに振り回されている。制御自体が効いていない――だから一つだけ、私がヒントを教えてあげる」


 まるでこの試しなんて遊びでしかないとでもいうかのように、フィア・ルーセントハートは嗜虐的な笑みを浮かべて、ロイの目と鼻の先のゴーレムの肩の上へと錬金術で作成した足場を利用して、軽快に、ステップでもするかのように乗り、屈みこむ様にしてロイを見据える。


「――その力は誰かを護る為にあるんじゃないよ、きっと」


 咄嗟の判断でロイは左腕を伸ばすが、ゴーレムの腕に弾かれて阻まれた。強化しているといっても既にぼろぼろの左腕だ、走った鋭い痛みに思わず顔を顰める。


「づっ……!?」


「君のその力はね、誰かを、いや、己の怨敵を――」


 歪んだハルの口が動く。

 こ、ろ、す、為にあるんだよ――と。


「フッざけんな――! 俺が継いだこれは、そんなモノの為にあるんじゃねーんだ、居場所を、大事な奴を護る為に……」


 溢れた激情が思考を支配した。ロイはこれまでこのアビリティ――不退転の決意を、誰かを殺すために使ったことだなんて一回も無かったから。結果として相手を殺してしまっても、それは日々の命を繋ぐ為だ。そして理不尽に塗れた誰かを助ける為にだ。


 だがそれでも。フィア・ルーセントハートのその言葉は呪文の様に、ロイの脳裏へ刻まれる。

 殺す為にあるんだよ。それが、深く深く焦げ付くように、焼き刻まれる。


「そうだよ、護る為にあるんだよ――!」


 歪に曲がった左腕を、それでも届けとばかりにフィア・ルーセントハートへと伸ばした。だがそれをひらりとかわすと、フィア・ルセーントハートはつまらないなぁ、とぽつりと零して、まるで殺せと指示するかのように腕を振り下ろす。


 アダマンティア鉱石のゴーレムの腕が、ロイを圧死させんと振り下ろされた。回避不能――そう悟り、しくじったか、とロイが顔を歪める。だがその腕がロイを直撃することはなく――背後から割り込んできたセルシウスが、まるでロイを庇うかのように両腕でその鉄拳を受け止めていた。

 防いだ際の風圧で、豪とセルシウスの足元まで伸びた白銀の髪が宙を舞う。


「……何を、しているッ! 呆けるな――!」


 エレノアという地に縛られたセルシウスは全力を振るう事ができず、その美しい横顔を苦痛に歪め耐えていた。細い足が捉えている大地は皹でも入り今にでも割れんとばかりに凹んでいた。

 慌てて気を取り直したロイは、己の魔力で金色に輝く剣を横に一閃し鉄拳を振り下ろしたゴーレムを両断する。フィア・ルーセントハートは直ぐ目の前だ。青い稲妻を纏い、距離を一気に詰めんと大地を蹴り飛ばす。


「原初の精霊――まさか、そんな高位の概念が人間に味方するとは! 長生きはしてみるものだ、だがまだゴーレムは在るぞ、ロイ・ローレライ!」


 両脇から迫り来る二対のゴーレムの姿が目に入った。だがロイは笑みを浮かべ、剣すら構えず、再度フィア・ルーセントハートの身体に触れんと、傷だらけの左腕を伸ばす――!


「そういえばエレノアでもお前はこんな感じだったな、リーシャ……!」


「――いいところ取りで、気は乗らないけどね」


 後方ではリーシャが魔術を放っていた。放たれた極大ともいえる漆黒の稲妻は、轟音を響かせながら寸分違わず二対のゴーレムを穿ち、消失させていく。たとえ途中で消失現象が止まろうとリーシャには関係なかった、触れるだけでいいなら僅か一瞬でも止められれば十分だったからだ。

 そしてその場でリーシャは大地へと崩れ落ちる。SSを誇るリーシャの魔力量でも限界だった、ただでさえ一番初めに全ての魔力を削られているのだ。回復しても半分ほどしか戻っておらず、その状態で人の手では持て余す程の大魔術を連発し、挙句の果て原初の精霊でもあるセルシウスへの供給も行っている。当然の帰結でもあった。


 大地に崩れたリーシャの髪が大半が白銀から漆黒へ染まる。もう彼女には身を護る術はひとつも残されていない。すぐ目の前で腕を振り上げたゴーレムに対して、何も為す事はできない。それでもリーシャは疲れたような笑みを浮かべて、溜息を零した。


「ほら、早く行きなさいよ――クズ」


 伸ばしたロイの手がフィア・ルーセントハートを捉える寸前だ。

 その存在は忌々しげに、自分自身に対して悪態をついた。


「――まさか捨て身とはね。何よりも、自身の身を護る為に錬金術を使わなきゃいけないなんて、私も耄碌したか……?」


 ロイへ向けて細い右腕が伸ばされた。極彩色の稲妻が迸り、迫り来るロイの左腕を消失させんと粉砕の錬金術が放たれようとした、その瞬間。何の脈絡もなく、まるで優しく傷付いたロイの左腕を包まんとばかりに、フィア・ルーセントハートの両手が差し出され――そして左手を受け止めた。


 渾身の笑みを浮かべながらロイがその顔を見上げれば――驚愕に揺れる瞳と共に、フィア・ルーセントハートが、いや、ハールート・グレイセスが、思いの限りの叫びを上げた。


「……これ以上、私の大事な人たちを、傷つけるな――!」


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