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Sランクギルドを追放されたクズは何でも屋を営むそうです  作者: 398
2章/ソーシャルゲームはこれだからやめられない
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40話

 ロイとハルは並んで歩く。お互い、何でも屋で取り入れたエプロン姿――ではなく、ある程度フォーマルな衣装に身を包んで、だ。ロイといえばSランクギルドである蒼穹の白い制服、ハルはリーシャと対になるような白のワンピースの上に赤い上着を羽織っていた。


 各方面からにこやかに挨拶されるハルに対して、何で俺には挨拶ねーんだよクソ、とか年甲斐も無く拗ねた顔をして、暖かい陽光の下、ロイはハルの速度に併せてゆっくりと歩いていく。暫くすると魔術師ギルドの本部である塔が見えてきたので、ハルの肩を軽く叩いて指でほれ、と知らせた。


「……ここが魔術師ギルド、本部。リーシャさんが統括を勤めているところなんですね」


「そうだ。んで、あの塔の天辺付近にあるのが執務室だよ。……そういえばこっちの方って店もないから、ハルは来る機会が殆どないのか」


「そうですね、初見です。うー、緊張してきますね……」


「そんな気にするなよ、誰も取って食いやしねーから。……っと、いつもの衛兵君がいるじゃん。おーい!」


 眉を潜め胸に手を当てるハルとは対照的に、ロイは自分の家に帰ってきたかのように衛兵に向けて手を振った。衛兵もそれに気付くと、ロイさんじゃないですかーとにこやかに手をふって返事を返す。もしもリーシャが見ていたら、仕事しなさいと一括している光景であった。


「つい昨日も来たばかりですよね、どうされました?」


 こいつ、幸せそうな人生歩いているんだろうな。ロイは衛兵である青年の健やかで爽やかな笑顔を見てどことなく嫉妬しつつ、隣に居たハルの頭をくしゃっと撫でながら答える。


「なに、俺の……そうだな、仕事仲間の紹介、兼、あの統括様に勉強を教えてもらいに来たんだよ。ほれハル、こいつがいっつも暇そうにしている衛兵のフォーレンだ、覚えておけ」


 衛兵――フォーレンは驚いたような顔をした。

 あのリーシャ・フローレスが個人的に勉強? 魔術の? といった類のもの。

 どれだけの貴族、そして大臣、教授が教えを乞うても、数多の金銭を積まれても講義なんてただの一度もしたことがないあの統括が、と。


「……そうか、君はリーシャ様に気に入られたのか、なんと羨ましい。始めまして、魔術師ギルドの門番を勤めているフォーレン・ライトだ。君の名前は?」


 しゃがみ込んでハルと視線を併せたフォーレン。緊張していて言葉が出ないハルに対して気を使った形だ。聡いハルはそれを察して、若干上ずった声ながらも失礼の無いように回答をする。


「は、始めまして! ロイさんの何でも屋でか、看板娘してますハルと申します! よろしくお願いします!」


「ふふ、ちゃんと覚えたよ。……それでロイさん、これからリーシャ様のところへ向かうのですか? 一応門番なんで、記録しておかないといけないんですが」


「ああ、そうだ。ちゃんとしとけよ、ハルの名前も忘れんなよ!」


「ははは、勿論ですと――」


 その時だった。門の奥にある大きな両開きの扉が開き、その中から白衣を来たリーシャが現れたのは。その背後では偉そうな態度のオッサンががやがやの喚き散らしていたが、リーシャはどこ吹く風といったようにそれを無視し、すたすたとロイの目の前まで歩いてくる。白衣の下はいつも通りの黒いワンピース。普段は併せたように黒いパンプスであったが、今日に限っては深い茶色のワークブーツを履いていた。


「ハルちゃんよく来たわね、今日からよろしく。それにあんたも見送りご苦労様ね?」


「はい、こちらこそですリーシャ様! ……でも、あの後ろの方は――」


「気にしないで良いわ。どこから噂を嗅ぎ付けたのか知らないけど、ついでに私にも教えろって煩いのよ。……フォーレン君も門番ご苦労様、この二人はあたしが迎えたから業務に戻って良いわよ」


 唐突に名前を呼ばれたフォーレンは驚愕しつつも敬礼し、ハッとだけ返答をすると先ほどとは打って変わって背筋を伸ばし、凛とした体制でギルドの前を監視する門番業務に戻った。ロイはそれを見て、おいおい犬かよ――と苦笑いしている。


「……おい、聞いているのかフローレス統括! 貴女には統括として育成する義務があるだろう!?」


 すっかり蚊帳の外となっていた喚くオッサン――煌びやかな服装からしてどこかの貴族だろう――はまだ諦めがつかないようで、リーシャの背後でその騒がしい口を開き続けていた。ぎろりとロイとハルの二人を睨みつけながら。怯えた様にハルはロイの背中へと隠れる。


「――マーシェル殿、何を勘違いしておられるかは存じ上げませんが、この二人はあたしの客人です。それにそもそも今日は立ち寄っただけであって、業務中じゃありませんので」


「それが上に立つものの態度かね!? それに貴女が教えるといっているのはそこのクズと小娘の二人にですか? それであれば私のほうが経験も知識も豊富にあって、基礎も出来ている! 条件は悪くはないはずだ!」


 そこでようやくリーシャは喚いている貴族――マーシェルへと振り返る。

 酷く醒めた瞳で見据えられたマーシェルは、その鋭い眼光に押され、一歩後ずさった。


「基礎が出来ている、それは結構。……では四大魔術元素には炎と風が存在しますが、それらを複合させた場合における魔術元素一個における分子配列は?」


「なっ……、き、詭弁だ、そんなものは応用でしかないではないですか!?」


 ――マーシェルの言うとおりであった。この大国でも複数の属性を混ぜ合わせた魔術は難しいものとされており、複合属性が必要な場面で扱える魔術師が存在しない場合、三人がかりで漸く達成できるものとされている。このような場合だと炎を扱えるものと、風を扱えるものと、複合を行い配分を調整するものの計三名。


「この程度は応用ではないでしょう、基本ですよ。これで条件は対等かと思われます、あたしも暇ではなく人を待たせている身ですので、お引取り頂ければと」


 顔を赤くしながらも引き下がらないマーシェルに、リーシャは内心で溜息を零す。彼女が一切教える立場に回らないのは、それが自身のプラスにもならず、かつ、相手に舐められていると理解しているからだ。自分より年上であって尊大な態度の人間に、誰がゼロから教えようと思うものか?


「……まぁいいじゃんリーシャ、頭の問題よりも実践で見てみようぜ? ほら、魔術師ギルドの塔の煉瓦って対魔術要素? 的なもの練り込んでんだろ。そこに打たせて、お前が納得したらこのオッサンも連れて行こう」


「き、貴様……立場を弁えんか!? オッサンとはなんだ、侮辱罪で衛兵を呼ぶぞ!? それにフローレス殿とお前の立場は違う、呼び捨てになんてするでない!」


 ――まためんどくさいことをバカが言い出したわね、と一方で溜息を付くリーシャであったが、振り向いてロイと視線を合わせれば、意地の悪い笑みを浮かべていたので――そういうことかと納得した。


「はぁ、わかりました。その提案を採用しましょう……雷属性の魔術をそこの窓がない壁に撃ってみてください、その度合い――詠唱速度や威力で加味し、講義に加えるか判断します」


「……承知しました。はっは、クズもたまには良い案を出すな? その目で見ていてくださいよフローレス殿、このマーシェルの雷魔術を――!」


 ハルは不思議そうにロイとリーシャを見つめていた。魔術師ギルドの壁に向かって意気揚々と向かって行ったマーシェルを見つめている、その二人の意地の悪い笑みを。ニャニヤと眉を八の字にして笑うリーシャが余程珍しかったのだろう、衛兵であるフォーレンに到っては、先ほどの講義の話を聞いていた時よりも驚愕に目を見開いて、大口まで開けてそれを見ていた。


「ハル、ハル! お前、魔術って使った事あるか?」


 こっそりとマーシェルに気付かれないようハルに囁くロイ。

 最も、リーシャの講義を受けられると天にも昇る気持ちのマーシェルは何も耳に入ってはいないが。


「とっても簡単なのであれば……お掃除の時に、窓の水を払う為の風とかですね!」


「ふふん、上々よ。いいかハル。魔術は長ったらしい詠唱よりも瞬間的なイメージが大事だ。使ったことがあるなら分かるだろ、あのパワーがごそっと持ってかれて放出されるイメージをしながら、頭に雷を思い浮かべろ。大丈夫だ、それでお前も雷が出せる」


 唐突なロイからの教えに、思わず慌てるハル。

 それを見越してだろう、ぽんぽんとロイが慌てたようなハルの頭を撫でた。


「安心しろ――俺がそういうんだ、ハルに出来ないわけがねぇ。なに、お前にゃ幸運の女神様もついてるさ、リラックスして、俺が呼んだら挑戦してみろ」


「わ、分かりました! 看板娘に恥じない働きをしようと思います!」


 その仲睦まじい様子を、じとーっとした瞳で見ているリーシャ。

 一人でテンションが上がっているマーシェルの事など眼中に納めてすらいない――。


「(そんな羨ましいのであれば貴女もいえばよかろうに……)」


「(黙ってなさいセルシウス。供給している魔力量削るわよ)」


「(大人気ない貴女が見れるのは嬉しいが、それは困る)」


 リーシャが以前契約した氷の原初の精霊、セルシウスも当然この場に存在している。姿を消してリーシャの頭上で脚を組んで浮かんでいるのだ。もっともその存在に気付いているのはロイだけであり、その事実だけでこのオッサン、マーシェルの実力など知れたものなのだが。


「――我は乞う者なり、偉大なる雷神よ、御身の力を我に降ろしたまえ、立ち塞がる怨敵を焦がす雷で焼払い、灰燼に帰せ!」


 長ったらしい詠唱だ。そんなことをしていたら前線では只の的じゃねーか、とロイは呟く。何が始まっているんだ、と魔術師ギルドの中から数名の職員が出てきて見守る中、壮大な詠唱を持ってマーシェルの雷魔術が放たれる!


 思わず目を閉じてしまう雷光が迸り、重低音が辺り一面へ響き渡った。雷鳴である。

 雷が奔った魔術師ギルドの壁には僅かにではあるが、黒い焦げが発生していた。


「どうですかフローレス殿! このギルドの壁に傷をつけるほどの私の魔術は――」


 その直後だ。リーシャの瞳が一際赤く輝き、先程のマーシェルの放った雷魔術の時とは別物と思うほどの低く、轟くような音が響いた。見守っていた観衆、そして門番であるフォーレンでさえもその眩しさと発生した音の大きさに思わず竦みあがってしまう。


 再度、その魔術師ギルドの壁を見てみれば、マーシェルが付けた焦げ後なんて豆粒かと思えるほどの大きな焦げ後――そして抉れた痕がそこに残っていた。驚愕の瞳でぽかーんと大衆が見つめる最中、リーシャはロイへ向かって顎でくいっと、やれ、と指図する。


「ほいっと」


 気の抜けた声とは裏腹に、リーシャが放った雷魔術と同程度の雷鳴、そして重低音が響いた。マーシェルは汗が吹き出た額を拭い、ロイが魔術師ギルドの壁に傷つけた痕を見て、あわわと腰を抜かして座り込む。周りの職員も、あれが巷で騒がれているクズなのか、とざわざわし始めた。


「――詠唱していてそれは、基本が出来ていませんね。マーシェル殿?」


 返す言葉がないのだろう。マーシェルは青ざめた肌色で地面を見ているだけだ。

 顔色以外に表情は窺い知れないが、絶望したような顔をしているのだろうか?


「(どうしたんだよ今日のこいつ、俺の案に乗ってきた上に滅茶苦茶煽ってるけど……もしかして統括ってストレス溜まる職なのか? あんなに金もあるのに?)」


 複雑な心境で考え込んだロイだったが、今はそれじゃねーなとハルの背中をポンと叩いた。グッジョブといわんばかりに親指を立て、先程から立て続けに雷に打たれている壁を指差す。


「出番だ、やってみろ、ハル――」


「かしこまり……ッ!」


 ハルは両手を翳してイメージする。雷が出る瞬間を。直ぐに魔力が汲み取られていく感覚が身体を這い、向けた手のひらにソレが集中していくのが感じられた。


「(大丈夫――ロイさんが出来るって言ってくれたんです、なら私にも出来るはず!)」


 直後、極僅かなフラッシュと共に――か細い閃光が走った。それは確かに雷であった。辺りに障害物があるのにも関わらず、一直線に狙いを付けていたギルドの壁へと奔り、当たって掻き消える。


「ほら、出来たろ?」


「……出来ました、出来ましたよ! ロイさーん!」


 顔を喜びでくしゃくしゃに歪めたハルはロイの腰へと両腕を回して嬉しそうに飛びついた。しゃーねーなーとロイはハルを抱きかかえその場でぐるぐると回り始める。最初が肝心なんだよな、この無詠唱に慣れるか慣れないかは――と見事に初めての初めてで無詠唱を成功させたハルを祝うべく、ロイも全力で笑顔を浮かべながら、祝福をするのであった。


「納得していただけましたね、マーシェル殿。ではあたしは業務中でもないのでこれで失礼します。……ほら、見世物じゃないのよ、職務に戻りなさい!」


 リーシャが野次馬を一括すると、わらわらと職員達がギルド本部へと帰っていく。マーシェルも俯きながら、本部へと戻っていくのであった。去り際の一言もない――いい薬か、とリーシャは心中で呟く。


「……待たせたわね、あんたにしてはいい案だったわよ、ロイ?」


「お前こそ、雷魔術に設定するのは最高だったぜ?」


 ぐっとお互いに握り拳で健闘しあうロイとリーシャ。まぁね、とにやりとリーシャは笑ってそれに答える。

 雷魔術に設定したのは、ロイがその属性以外は殆ど扱えない――扱えても反動で痛い目を見ると知っているからだ。

 あーすっきりしたー、とロイが伸びをしていたところで、門番のフォーレンが、恐る恐るといった体でリーシャに声を掛けた。


「……不躾な質問で申し訳ありませんが――リーシャ様は、ロイさんとお付き合いをされていらっし……ひぃッ!?」


 リーシャに赤い瞳で睨まれてそそくさと逃げ去っていったが。何いってんのよ、とそっぽを向いて呆れたリーシャは、付いてきなさいとだけ言うと、一人でどこかへ向かって歩き始めてしまう。まるで表情を見られないように、先に進んでいるかのようだった。


「おい、何処行くんだよ?」


「あたしの家の地下室よ、一通りそこに器具が揃ってるから、そこでお勉強タイムね――」

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