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Sランクギルドを追放されたクズは何でも屋を営むそうです  作者: 398
1章/無職のクズは秒速で一億円を稼ぎたい
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34話

 落ちてきたロイの元へとアイリス、そしてリーシャやハウエルが集う。


「ロイ様、ですわよね……?」


 どこか疑うようなアイリスの視線に、ロイはけっとだけ言葉に吐いてのそのそと立ち上がる。剣に魔力を纏わせた反動から、蒼穹の制服の右腕部分は直しようが無いほどに破れ、その下にある肌を露出させていた。そこには――夥しい数の蚯蚓腫れや内出血が。


 普段であれば不退転の決意によって強化されたロイの肉体は傷つかない。今回その肉体が傷ついたのは、遠距離にいる相手を殲滅する為にキャパシティをオーバーする程の魔力を込めたことが原因である。いってぇ、と愚痴を漏らしながらロイは雪を拾い上げ、右腕に付けて冷やす。


「ったくよー、俺以外の誰に見えるんだよ。正真正銘ロイさんに決まってるんだろうが」


「……です、よね。いや……ロイ様の、先程の魔力が別人のように思えまして」


「あー、そういうことか。仮にも俺は蒼穹にいた身だぞ、舐めてんじゃねー」


 ぺたぺたと自身の身体に触れるアイリスをロイはしっしっと追い払いんーっと伸びをすると、直ぐ傍に立っていたセルシウスの姿に気付いてハァ!? と驚き後ろ足を刻んで、そのまま雪に足を取られて尻餅をついた。


「おいこら!? リーシャてめぇどういうつもりだ! なんでこんなメンヘラ拗らせたような奴がいるんだよ!?」


「……ほう。人間が私をさも軽そうに扱うか?」


 足元まで伸びた銀の髪を振り払うと、セルシウスはその白い指先をロイへと伸ばす。おいおい堪ったもんじゃねぇとロイは四肢をばたばたさせ、情けない姿を見せながら後退。それを見たセルシウスは、先程までのロイの勇姿とは打って変わって情けない姿に、思わず笑みを零す。


「セルシウス。あんまり怪我人をからかうものじゃないわ――そいつはクズだけど、今ばかりは英雄よ、腕でも冷やしてあげたら?」


「ふむ……貴女が言うならばそうしよう。ロイ、腕を出せ」


 知らない内に仲良くなっていたリーシャとセルシウス――ロイ自身は知らないが二人は既に魔術師と精霊として契約を結んでいる――に驚きつつも、ロイは恐る恐る右腕をセルシウスへと差し出す。白い指先が傷ついた腕を一回、撫でた。すると瞬く間に雪のように白い銀糸がまるで包帯のようにロイの右腕へと巻きつき、あっと言う間に腫れていた部位を優しく包み込む。


「……冷たい糸、か。氷の精霊さまさまだな」


「ほう、知っているのか。氷糸を編み込んだ物だ、出来立てだから傷ついた神経を癒す効果もある」


「え? もしかしてマジもんの氷糸!? お、おいリーシャ! ハサミだ、ハサミを持って来い! こんなクソ高いもの巻いてられるかってんだ、売れば五百万……いや、一千万はするぞこれ!?」


 その通り、氷糸は大変貴重な糸だ。幾重にも雪が積み重なり極限まで研ぎ澄まされた凍土地帯、そこで長年の月日を得て精製された氷から僅かしか取れない糸が――氷糸。ロイの言うとおり、驚くほどの高値が付けられる貴重なものだ。

 なのだが、わざわざ氷の原初の精霊、セルシウスが直々に生み出したものを売ろうとするとは。リーシャは汚いものを見るような目でロイを見た後、少しばかり強めに包帯の巻かれた右腕をひっぱたく。声にならない悲鳴を上げながら雪の上を転がるロイを無視して、この場の全員――蒼穹のメンバー、そして補助要因として付いてきた他のギルドメンバーに届くように、声を上げた。


「――聞け! この場の脅威は既に去った! これも諸君が命を燃やし生へとしがみ付いた結果だ! 例え背を向けたとしても、恐怖に犯されたとしてもそれを恥じるな――生き延びた今を誇れ!」


 凛と澄んだ声。それを補助要因として付いてきたメンバーは、噛み締めるかのように、僅か一編でも聞き漏らすまい、と聞き入る。


「諸君らの働きをもってこのエレノア山脈の異常気象も解決し、都市の皆も安心するだろう――それに恩賞の授与も、このリーシャ・フローレスが保証する!」


 ようそんな目立つことが出来るね、と痛みが落ち着いてきたロイは雪の上で胡坐で座り込みながら、声を上げるリーシャを見上げていた。とても二年前、世界に絶望し死を受け入れようとしていた少女とは思えなかった――。

 リーシャは見上げているロイに気付くと、そのまま歩み寄りロイの左腕へ己の肩を通して立ち上がらせる。なんだなんだ、と近い位置にあるリーシャの横顔に変に緊張しながらも、ロイは脚へ力をこめて立ち上がった。


「――そして東国よりの密偵二人を打ち払う武勲を上げたロイ・ローレライ。彼の働きが無ければまだ窮地は続いていたかもしれない! 皆、彼の武勲は見ただろう! どうか彼の勇姿も王都で伝えてはくれないか!」


 バッ! とやってくれたなこいつとロイは眉をぴくぴくさせながらリーシャを睨むが、当人は悪戯気味にな笑みを浮かべ、空いている右手の人差し指を唇に当てる。


「一人で街を出た罰よ。ほら英雄さん、何か気の利いた事でも言ったら? 何でも屋の宣伝にもなるかもよ?」


「お前いつか絶対泣かすからな……ったく、しょーがねーから締めてやる」


 借りていたリーシャの方を返すと、ロイは仁王立ちで、この場に居る全員に届く声を張り上げる。


「――お前らァ! 凱旋するぞ! 戻ったら恩賞ガッポリ貰って酒池肉林の宴だ!!」


 ま、そう言うと思ってたわとばかりに苦笑しているリーシャ。アイリスはあらあらまぁまぁとにこやかに、されど瞳はどこか黒いものを宿しながら笑う。恩賞で頭がいっぱいになってしまった他のギルドのメンバー達は笑顔を咲かせて、これからの時間を考え、更に笑みを深めていくのであった。


 その一方、漸く亀裂から這い上がってきたフレイは四方でわいわい騒ぎが起こり始めているこの場を見て何事かと右往左往し、ハウエルから詳細を聞いて、落ち着いたのならば良かったです――そう零して、ロイへと視線を向ける。それには、あの溢れんばかりの魔力に対する疑念の思いが満ち溢れていた。


 ロイは窮地から蒼穹のメンバーを救い上げた。だが今回の事件では、その力――隠していたSSランクアビリティの片鱗を、存在を、辺りへと漂わせてしまった。ランクの低い者達はまだ気付いてすらいないが――この中でも突出してそういう方面に長けているリーシャは、恐らくはそうだろうと明確に察し始めてすらいる。


 今回の一件を始まりとして、ロイ達は様々な出来事に巻き込まれ、そして首を突っ込まざるを得ないことになるのだが――それはまだもう少し先の話だ。

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