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Sランクギルドを追放されたクズは何でも屋を営むそうです  作者: 398
1章/無職のクズは秒速で一億円を稼ぎたい
33/143

33話

 エレノア山脈、三合目地底湖。そこでは黒髪、黒外套の自身をトゥーと名乗った男とフレイが剣戟を交わしていた。金属音を奏でながら火花が散り合う。フレウはトゥーの隙を見つけては炎魔術を打ち込んでいたが、トゥーの謎の結界によって全て阻まれてしまっており、決め手に欠けていた。

 そしてずきずきと這い上がる足の痛みも、フレイの焦燥感を募らせる。


「……おい、あんた。その様子だと僕が足を傷めてるのも分かってるみたいだけど、何でそこを攻めてこない。遊んでいるのか?」


「いやいや、まさか。Sランク相手に遊んでいる余裕だなんて……俺はただ、姉さんを待っているだけだよ。こんなの遊びにも入らない」


 瞬間的にフレイの頭に血が上る。今まで自分自身が築いてきたモノを否定されたに近い、翡翠の剣を握る手に力が篭る。裂帛の気合を共に、フレイは痛む足を気力で捻じ伏せ、鋭く一歩を踏み出した――。


 一方でロイといえば、未だにワンと相対し行動を起こせずにいた。全身に力が漲っていくのが分かる。全身の筋肉が、臓器が、そして骨子でさえも、不退転の決意を掲げて青天井に強化されていく。今のロイであれば目の前の女、ワンを押さえ込む、もしくは殺すことは造作もないことだ。だがその身体に埋め込まれている核――それをどう処理すればいいのかが分からない。


「……おいおい、ロイ。散々啖呵を切っておいて、動かないのかよ。ったくもー何か気が抜けんなぁ。んじゃ、あたしからいっくぞー」


 まるでこれから散歩にでるぞ、と言ったかのように気軽な掛け声だった。しかし起きた変化は劇的。蒸気がワンの全身から溢れ出し、ロイの視界が奪われる。それと共にロイの警鐘が全力で鳴り始めた――避けろ、と。すぐさまその場にしゃがみ込むと、頭上を何かが走る。それと共にロイの背後で轟音が響き渡り、蒸気が一転して晴れ渡る。


「うっそだろ……これ、俺の不退転あってもヤベーんじゃねぇの……」


 地底湖が存在する洞窟に風穴が開いていた。外の吹雪く景色が覗くそれを、ロイは青ざめた表情で見ている。


「お、良く避けたな! ちっとはマシに……なりそうか……!」


 大斧を振りかぶり迫ってきたワンを、ロイは素早く起き上がり手に持った剣で迎撃する。莫大な質量を持った斧と、強化されて尋常ではない魔力を保有したロイの剣が衝突した。生み出される衝撃波がびりびりと大気を揺らし、少し離れた場所で剣戟を交わしていたフレイやトゥーもそれに前髪が揺らされる。


「っな……バカな!? なんでロイさんが、あんなものと打ち合える……!」


 最悪は自分が二人を相手しなくては、と心中で考えていたフレイはロイとワンが繰り広げる重い一撃の繰り返しに驚愕した。フレイとロイが前線で肩を並べていたのは勝ち戦の時のみだ。ロイが不退転の決意を掲げ、それを見たことは一度も無い。奇しくも、ロイの全力を始めて間近で見た一人目となった。

 トゥーもその光景には驚いた様で、ぽつりと言葉を漏らす。


「まさか……姉さんと真っ向から打ち合えるだと!?」


 そしてその隙をフレイは見逃さない。翡翠の剣が宙を踊り、幾つもの剣戟を走らせる。然りとそれがトゥーの首筋を捕らえ両断する――はずだった。トゥーがただの人間であれば。現実は、切先が首筋を捉えたのにも関わらず火花が散っただけだった。フレイは初め金属製の鎧かと思ったが、切断された外套から除くモノを見て、苦々しげに溜息を零す。


「……鉄の身体、配線、貴様……機械人形か!」


「ちっ……少し、驚きすぎた」


 トゥーが体制を立て直すが、剣を握る手が震えていた。先程の剣戟がどこか致命的な部分に衝撃を与えたのだろう。以前の東国との戦争で機械人形の知識を得ていたフレイは、今こそ好機と追撃をお見舞いする為、魔術の剣技の複合技を放とうと自らの背後へ剣を引き絞る。


「クソ、何してんだよてめぇ!? ああ、もう、沸いてきたのに……!」


 だがこれは一対一の戦いではない。ワンがトゥーの事を救出に入ろうとするが、それは致命的な過ち。ワンはその大斧を持ってロイをその場に繋ぎ止めておくべきだったのだ。だがそれに気付けないのも無理は無かった、この場でロイの急激な魔力の上昇に気付いているものは誰もいなかったから。

 平常時であればフレイも、ワンも、トゥーも気付けただろう。だがここはセルシウスが管理する山であり、フレイはもとより、ワンもトゥーもセルシウスの洗礼を浴びていた。原初の精霊の魔力が満ち溢れた今、誰も気付かない状態が生まれたのだ。


「――最近、ロイさん舐められすぎじゃね?」


 ロイが握った剣に莫大な魔力が込められた。それは限界を超えても剣へと注ぎ込まれ、注ぎ込まれ、刀身が蒼く輝き、金色に輝く皹が奔るまでに到る。そこまで視覚化してようやく、外の三人はその異常に気付く。フレイは初めの驚きさえも越え、言葉を発する事すらできず。トゥーはしくじったかとばかりに瞳を見開き唇を噛み、ワンといえば――その輝きを一目見た途端、トゥーを護る事を放棄し、狂気的な笑みと共にロイへと斧を向ける。


「吹き飛べいけ好かないカッッッッス面がああぁァァ!!」


 ―ーロイはトゥーの顔が嫌いだ。済ましたようないけ好かない顔を見ていると吐気がするほどに。だがしかし、今この場で叫ぶ事はないだろう。それが裂帛の気合ともなれば尚更だ。締まらない咆哮と共に投擲されたロイの剣は、込められた魔力で自壊しながらトゥーへと稲妻のように迫り、直撃。酷く鈍い音を上げ、この洞窟の壁すら貫き、どこまで吹き飛ばされたか分からない程遠くまで飛んでいく。


「……あっ、やべ。あいつコアに核使ってるじゃん!?」


 青ざめた顔で自ら吹き飛ばしたトゥーの後を覗き見るが、爆発が起きていないことを確認してほっと一息つく。そうして、目の前で大斧を構え狂犬の瞳でロイを見据えるワンへと向かい合った。


「うほー、今回ばかりは冷や冷やしたわ……本当にああいう顔した連中にロクなやつはいねーわな。このロイさんを一瞬でも驚かすとか、何やらせてもダメだわ。……で、クソロリ。お仲間はもう吹き飛んだぞ、連れて帰れや」


「見つけた……見つけた! 遂に見つけた! あたしはぁ!? お前を!? 待ち望んでたんだよォ!」


 高らかに笑い声を上げるワン。そのどこか狂気染みた、病んだような動作に思わずロイは気持ちわる、と一歩引く。それを見逃さずワンはロイを両断せんとばかりに横薙ぎの一撃を放つが、胴へと直撃する寸前でロイの腰から抜き放たれた二本目の剣が受け止めた。強化されたステータスは尋常のものではない。不退転の決意のみならず、今のロイには常在戦場で強化もされているのだ。吹き飛ばされなどせず、足で大地を掴むかのように、その場へ留まり続ける。


「んぎぎ……! おい、コラ……何が、探してた、だ!?」


「あたしはな、あたしより……強い相手を探してた……それが修羅悪鬼、お前だ……!」


 ――駄目だな。会話にならない。狂犬は手なずける事もできない。

 そう結論を下したロイは、どこかふざけた様な表情から一転し、鋭く――大斧と剣を挟んだ直ぐ先にある、ワンの瞳を見据えた。そして、フレイには聞こえないような声量で、ワンへと告げる。


「俺はな、お前なんか探してねーし……ッ!」


 拮抗していた剣と斧、その均衡が崩れた。

 火花を立てせめぎ合うロイの剣がワンの斧をじりじりと、だが確かに押し返す。大地を噛み締めていたワンの脚もそれに引き摺られるかのように、砂埃を上げながら後退を始めた。


「――クソロリよりも、柔らかメロンな女の方が好きなんだよ、ボケが!!」


 ああ、最低だ。だがそれに突っ込むものはもう居ない。フレイは茫然自失のようにロイが圧し勝つ姿をただ見ているだけ、ワンは自らを真っ向から圧し退けるそのロイの姿を、恍惚の瞳で、狂気の笑みで見ているだけ。


 そして均衡は崩壊し、大斧が大きく弾き飛ばされた。ワンがそれを引き戻すよりも速く――ロイの真上へ蹴り上げるような足蹴が、ワンの股関節を襲撃。歪な破砕音を響かせながら鋼鉄で出来たワンの肉体が、先程落ちてきたばかりの裂け目、その頂点を目指して吹き飛ばされていく。


「相手は鋼鉄だから――倫理の問題も無しィィ!!」


 追撃とばかりに先程トゥーにも見舞った、尋常ではない魔力が込められた剣が投擲される。それは上空へ舞い上がっていくワンを的確に捉え、極彩色の花火と、地響きを轟かせながら爆発する。普段ならばそれでロイも追撃の手を止めたが、相手は核を積んだであろう――そして今まで見た事もない機械人形。


 即座に大地を蹴り飛翔。強烈な脚蹴りにより大地に皹が入る。周囲の崖を蹴りつつ速度を増し、そのまま遥か上空へと向かっていく。亀裂さえも飛び出し上空を踊るワンの元へ辿り着くと、そこには上半身と下半身が千切れかけながらも、笑みを浮かべ辛うじて繋がっている右手で斧を構えたワンが居た。


 裂け目からも飛び出た今、下方ではリーシャとその隣に立つセルシウスが、何事かといった瞳でロイとワンを見据えている。その視線を背中に感じながら、宙へと待っているロイは腰から三本目の剣を引き抜き、大声で、遥か下方にいるリーシャたちにも届くように怒声を放つ。


「――リーシャ! 凍らせやがれ――!」


 その声に反応し即座に魔力が集い始めるのを感じながら、ロイは右手に構えた剣に魔力を込め、同じく宙を踊るワンへと笑みを投げた。思いっきり嫌らしく、嫌味な笑みだ。


「ってな訳でな、俺を殺したけりゃてめぇは実力も乳も足りてぇ」


「てめぇの性格が腐ってるのは分かったよ修羅悪鬼――今度は、あたしが、お前のクソ玉二つとも潰してやるからな――」


「やってみろや、クソロリ風情が!」


 ロイの剣が振るわれワンを直撃し蒼光が爆ぜる。その一撃は吹雪を割るに留まらず、遥か天まで一閃し、暴威が収まった後には落ちていきそうな程に透き通った蒼い空が顔を覗かせた。そして下方より放たれたリーシャの氷魔術が鉄屑の体へと成ったワンを捉え、熱し始めていた機械の身体を急速に凍て付かせていく。

 粉々に砕け散った剣の破片が、青空から覗く陽光に反射しきらきらと煌く姿を見ながら、ロイは頼むぞリーシャ先生雪の上でも落ちたら痛いから助けてくれ、と情けなく祈りながら自由落下に身を任せるのだった。ワンを撃破した為、ロイのアビリティである不退転の決意は効力を弱めているのである。

 どうにか雪に追突するぎりぎりのところでリーシャの風魔術に救われたロイは、ぼふんと柔らかな雪に落ちる感触を背に、ほっと一息を吐くのであった。


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