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Sランクギルドを追放されたクズは何でも屋を営むそうです  作者: 398
1章/無職のクズは秒速で一億円を稼ぎたい
24/143

24話

 応接間となる予定の部屋では、ソファーにロイとハルが並んで座り、その対面に机を挟んでリーシャが座っている。なんでこんな修羅場みたいな空気になってんの、とロイは心中で嘆くがそれが酌み取られることはない。ハルが光の消えた瞳でお茶淹れますね、と言って立ち上がろうとしたが、リーシャは結構、とだけ言って指を鳴らす。それだけで、今しがた入れたばかりのような香り立つコーヒーがティーカップごと机の上に置かれるのであった。


「……えーと、リーシャさんは魔術師様なのですか?」


「そうよ、自己紹介が遅れたわね。リーシャ・フローレスよ、魔術師ギルドの統括役を勤めているわ。趣味は研究開発、そして副業まがいにこいつのスポンサー」


 コーヒーを口に含みながら、リーシャは簡単に自己紹介をした。副業というには儲けの目処が立っていなさすぎるが、適切な言葉が思い浮かばなかったので、リーシャはそう言っている。


「と、統括様なのですね……そしてスポンサー様と。申し遅れました、私はハルと申します。以前のフルネームはハル・グレイセスと言いますが、家からはとある事情で縁を切られている身ですので、ハルとだけお呼びください」


 ハルは面食らったような顔で驚いたが、どうにか落ち着いて返すように自己紹介をした。とある事情で、のところでリーシャはロイへと視線を投げる。ロイが軽く頷くと、リーシャは訳ありね、と理解し、ありがとうとだけ言ってティーカップをテーブルへと置いた。


 初めこそ敵対心というか、虚無のような感情を前面に出していたハルであったが、リーシャと話していくうちに緊張やトゲのようなものが取れたのか、次第に笑みを見せるようになる。瞳にも光のようなものが戻っていて、それを横目で見ていたロイはほっと一息つき、コーヒーで乾いた喉を湿らせるのであった。


「それであんた、なんでこの子が大荷物背負って店に来てるのよ。依頼人……には見えないけど」


「ああ、雇った」


「そう、雇っーーは?」


 思わず硬直するリーシャ。それは無理のないことだ。事業としての足場さえできていないのに、いきなり人を雇うのだから。給金とか手続きとかどうするのよと、ぐるぐる色んな悩みがリーシャの脳内で嵐のように巻き上がったが、一先ず落ち着くために残っているコーヒーを飲み干すと、懸念を解消するためにロイへと詰問することにした。


「スポンサー的なあたしに相談もないのは気になったけど、まぁいいわ。で、雇ってどんな仕事をしてもらうつもり?」


「えー? ほら、飯とか掃除とかしてもらったり、依頼の手伝いをしてもらったり?」


「看板娘を目指します! お客さんがっぽがっぽ入れてみせます!」


 両手を腰に当て踏ん反り返る二人組。無論、ロイとハルである。もしかしてこいつらは馬鹿なのかとげんなりした気分になるリーシャであったが、それでも挫けず、重ねて質問をする。


「……で、生活費は?」


「ぐっ!?」


 痛い質問をされたとばかりに胸を押さえるロイであったが、それを慰めるようにハルがロイと茶色い頭をよしよしと撫で始める。にっこりと笑みを浮かべたハルは、大丈夫とばかりにロイへと伝えるのであった。


「大丈夫ですよ、私にも貯金はありますので任せてください! 成功する時まで、私もサポートします!」


「おおっ、ハルよ……俺がハルを選んだ目に間違いはなかった! 任せてくれよな、俺がこの店を立派にしてお前にもいい給金支払ってやるからな!」

 

 完全にもヒモである。

 雇用関係という意味が崩壊しそうな会話であった。


「ロイさん、素敵です……!」


 何を見せられているんだ、あたしは。リーシャはそう呟くと、呆れた瞳で二人の世界に入り込んだロイとハルを見つめるのであった。当初こそ、ハルに嫉妬する気持ちがなかったといえば嘘になる。監視用の鳥を介してみた二人は楽しそうだったし、妬ましいともリーシャは感じていた。

 だが、実際に見てみればそんな気持ちは失せてしまった。


「(……ベクトルの違う馬鹿が二人集まっただけだわ、これ)」


 詳しい事情を聞く為に、リーシャは再度指を鳴らしてコーヒーを取り出すと、二人の馬鹿が戻ってくるまで淹れたての香りを楽しんでいるのであった。

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