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Sランクギルドを追放されたクズは何でも屋を営むそうです  作者: 398
1章/無職のクズは秒速で一億円を稼ぎたい
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22話

 

 エレノア山脈。中央王国の北に聳える穏やかな山ーーだったところだ。今となっては厚い雲が空を覆い隠し、白銀の山へと変貌を遂げてしまっていた。つい一週間ほど前はまだ山肌が見えたのに、アイリス達蒼穹のメンバーが訪れた時は既に雪山と化していたのだ。標高は決して低くは無い、調査をするのにも骨が折れそうだ。マスターであるハウエルは深いため息を零す。


 ちょうどロイが遊楽、桜での一見を片付けている頃にハルエル達は麓まで到達した。暗い闇、雪まで降る中を進むのは危険だと判断したため、まだ穏やかな麓でキャンプをして一晩を過ごしたのである。早朝の冷たい風に吹かれながらも、ハウエルは戦斧を豪快に振り回し、鍛錬に励むことにした。

 フレイは自らが命を預けている愛剣の手入れを行い、アイリスはメンバー達の為に朝食を作りと、長丁場となりそうな雪山の調査へ向けて、それぞれ準備に励む。


 そしてそれを遥か高みーーエレノア山脈の一際高い山頂から冷たく見下ろすのは、氷のように冷たい瞳を湧き上がる激怒に歪め、足元まで伸びた白銀の髪を風に躍らせた女。身にまとうは薄い蒼銀のタイトなドレス。


「……また来たのか。今度は逃がさぬ」


 人智を超えた存在は腕を組みながら、その場でハウエル達蒼穹のメンバーを観察するようにただ見ていた。


 ……


 朝食を食べ終えたロイは膨らんだ腹を撫でながら満足そうにぷはーと息をつく。部屋の奥ではハルがかちゃかちゃという音を立てながら使用済みの皿を鼻歌交じりに洗っていた。二度寝でもするかなぁ、気分いいしと敷かれたままの布団にロイが横になったところで、ハルが洗い場から戻り、手に持った盆の上に乗せられた茶碗をちゃぶ台の上へと置いた。

 

「……粗茶ですがー。ロイさん、食べてすぐ寝ると太るんですよ、いいんですかー豚さんになって」


「バーカ、ナイスバデーな俺が太るなんて事はありえないんだよ。お茶ありがとうな」


 転がったばっかりのロイは起き上がると、ちゃぶ台の前に腰を下ろして、熱い茶を手に取った。一口飲んだところを見計らったかのように、ハルが口を開く。


「ところでなんですけど、ロイさんが始めたという何でも屋さんですが、人は足りているのでしょうか?」


「ん? あー、始めたばっかだぞ。仕事がなくて暇なくらいだわ……」


「ではでは! 看板娘として私とか雇ってみませんか!?」


「ぶっ……お前、いきなりなに言い出してんだよ。この店に恩義あるんじゃねーのか?」


「確かにありますが、いつでも出て行って構わないとレンさんに言われてますし……それにロイさんの近くがいんですよ、乙女心です!」


 へーと聞き流しながらロイはお茶を飲む。熱い香りが心地いい、酒とはまた別物のいい気分になれるねと独り言を心中で呟いた。ハルが何でも屋ねぇ、とよくよくロイは考える。さっきは頭ごなしにないわーと思ったが、朝に美味い茶は飲めるし手間な仕事はハルに教えて任せればいいし、それにハルのことだから言えば飯も作ってくれるだろう。


「……あれ、意外とありか?」


「はい、ありだと思いますよ! ほらほら、尽くす健気な後輩だと思って!」


 唇に手を当てながら深く考えるロイ。その表情は痛く真剣なものであり、雇った場合に自分がどれだけ楽をできるかと計算していた。なんともクズな、小さい男である。それに対してハルは期待に満ちた、キラキラと輝いた瞳でロイを見ていた。


「給金はいくら欲しい。始めたばっかで軌道に乗るかもわかんねーんだ、暫く支払いが厳しいかもしれんぞ」


「大丈夫ですよ、当分は生活費だけいただければやりくりします! ふふ、お買い得です!」


 生活費、という言葉にロイは一瞬だけ、ん? と考えたが、まぁいいかと流す。どうせ軌道に乗った際は人も雇うつもりだったし、こうやって創業期から進んで参加してくれる人は貴重か、とハルを迎え入れる方向で考えを固めた。


「……うっし、んじゃウチにくるか、ハル。こき使ってやるぜ、覚悟してんだな!」


「任せてくださいよ、頑張ります! ……それじゃあ私は早速レンさんにご報告してきますね!」


 止める間も無くハルは立ち上がると、本当に嬉しそうな笑顔を浮かべながら部屋を出て行くのであった。廊下から大きな音とともにハルの悲鳴が聞こえたが、小走りすぎて転んだのだろう。なにやってんだよ、と苦笑しながらロイはハルの淹れてくれたお茶を味わう。


「まさか、こんな早くに人を雇うとはねぇ。さっさとハルに仕事覚えてもらって楽させてもらおう……」


 そう呟いて窓の外を眺めたのであった。

 給金の問題も、仕事もまだ一件、しかもハルからしか依頼をもらっていない状態。それにもかかわらずこの考え。この男、やはりクズである。


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