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Sランクギルドを追放されたクズは何でも屋を営むそうです  作者: 398
1章/無職のクズは秒速で一億円を稼ぎたい
13/143

13話

 ロイの憂鬱な物件探しの一日が始まった。一番初めに訪れたのは、ロイが嫌がっていた蒼穹のギルドハウスである。アイリスがゴネた結果、ロイが折れる形になったのだ。リーシャといえば、不満げに鼻を鳴らしながらもロイの後をとことこと追う様に歩き続けていた。

 リーシャとアイリスが無言の重たい空気の中、パン屋から歩くこと十分ほどか。ロイ達は蒼穹のギルドハウスへとたどり着く。外見は大きなログハウス。煌びやか、というよりも質実剛健というのが相応しい作りをしている。


 冒険者ギルドに置けるギルドハウスは、各メンバーの溜まり場と言っても過言ではないものだ。各自部屋を与えられているギルドもあれば、武器庫や倉庫の様にして扱っているギルドも存在する。蒼穹は前者、Sランク以上のアビリティ、もしくはステータスを持つ者にのみ個室を与えていた。

自身の能力値の開示に抵抗がないものは、ギルドマスターへ提出し認証してもらい、部屋を割り当てられる仕組みであった。この制度はアイリスを始め、蒼穹では多くの者が利用をしている。

 自身のステータスに自身がある者達だからこそ、開示だなんてするわけだが。基本は自身の生命線にもなり得る情報なので、Aランク以下のギルドでは開示をする者は殆どいない。ロイは平然とステータスを開示することを、Sランクの慢心だよなぁ、と思って見ているが。


「只今戻りました、アイリスです」


「お帰りなさい、アイリスさん。……チッ、なんでロイさんが蒼穹のギルドハウスに来てるんですかね、追放されたはずですよね?」


 アイリスを迎えたのはここ最近で勇者とまで呼ばれ始めた男、フレイであった。長い黒髪の下で憎々しげに表情を歪めながら、露骨に嫌そうな態度を取っている。


「俺だっててめーの憎たらしい面なんて拝みたくねぇわ。アイリスに連れてこられたんだよ、ここで飯食おうって。あ、お前の分のパンはねーぞ、自分で買ってこい天狗になってるカス」


「……随分と上等な物言いですね、そんなに僕が不満なら今日にでも決闘をーーっ、り、リーシャ様!?」


 売り言葉に買い言葉。仲の悪い二人が今まさに睨み合いから洒落にならない喧嘩に発展しそうになったタイミングで、フレイはようやくロイの背についてきたリーシャを見つけた。途端に嫌味な態度はなりを潜め、慌てた様にバタバタし始める。


「なんでリーシャ様がここに……失礼しました、紅茶でも淹れて参ります!」


「あ、そういうのはいいわよ。魔術師ギルドの統括としてきてるんじゃなくて、こいつの付き添いだしね。ね、付き添いよね、ロイ?」


「あ、あぁ……そうだな、付き添いだよ、付き添い。ただの付き添いなんだからアイリスさんはテーブルの上の果実を片手で握りつぶさないでよ、なんで丸いのばっかり好んで潰してるの……み、見るな!? 俺の下半身を見るんじゃねぇ!? こればっかりは潰させねーからなぁ!?」


「お下劣ですわロイ様、このアイリス、そんなこと考えたことすらありませんわ!」


「じゃなんでそんな俺の下半身見ながら念入りにりんご潰してんだよぉ!?」


 途端に始まった漫才の様な馬鹿騒ぎに、フレイは神経を苛立たせる。なぜこの様なクズの男の周りに、前線で前衛職と共に肩を並べられる凄腕のヒーラーや、魔術師ギルドの統括という立場までのし上がったリーシャがこんなにも仲良くしているのが理解できなかった。そんなクズの様な男より、人望も得て、実力もある僕の方がその立場は相応しいんじゃないかと、嫉妬の黒い炎を燃やす。


「……アイリス、潰すのはよしなさい。汚くなるわ。やるなら一撃でスパッと行きましょう」


「リーシャさんにしてはいい意見ですわ! そうですね、未練たらしくすり潰すよりもスパッと行きましょう!」


 指先を軽く振ると、それだけでリーシャの目の前にあったりんごが綺麗に八等分される。ロイはそれを青い顔で、悍ましい様なものを見る目で見ていた。逃げても逃げてもこの二人からは絶対逃げられない、ロイのスペックではこの二人には絶対に勝てないというのが、さらにロイを怯えさせる。


「ていうかなんだよ、初めからそんな風に仲良さげに話してろや! 無駄な喧嘩に俺を巻き込むんじゃねぇ!?」


 ……


「で、アイリス。なんであたしとロイをギルドハウスなんかに呼んだのよ。理由くらいあるでしょ?」


 玄関口から向かって正面のソファーに座るのはロイとリーシャ。奥側にはフレイとアイリスが座る様な形で四人は朝食としてパンを食べていた。ロイは本当に一欠片もフレイにパンを渡すつもりはなかったのだが、アイリスが食べなさいというと、ロイもフレイも何も言えず、そのままフレイも朝食に混じることになった。

 フレイはどこか緊張した様子でアイリスとリーシャを見ていたが、しばらくすると落ち着いてきたのか、今では呆れた様な顔でため息も零しつつパンを食べている。


「……察しがいいですわね、リーシャさんは。今日ですが、私たち蒼穹は北側の山、エレノア山脈へこの寒さの調査へ参ります。今朝王室から使いの者がきまして、その方から受け取った情報によると、日頃から穏やかな山のはずなのに雪化粧がかかっているとか」


「王室も調査が早いわね、あたしもまだ観測してないわよ、それ。もっとも、本部に向かえばデータは出てるかもしれないけど」


「ギルド単位でそこまで辿りつける方が異常ですよ、王室は調査系のギルドをいくつも囲ってそれですのに、魔術師ギルド単体でそこまでわかるというのは」


 多少呆れた様に苦笑すると、アイリスは手元のティーカップを手に取ると、一口飲んだ。ロイも合わせた様に口に含むと、紅茶の良い香りが口内へ、鼻腔へと広がって抜けていく。リラックスできる香りだ。悔しいがフレイの淹れた紅茶は美味い、といやいや感心しつつ、アイリスが話を続けるのを待つ。


「ま、伊達に天才とか言われているわけじゃないってことね。それでその話をあたし達にしてどういうつもり? まさか既に蒼穹を出た二人を、その調査に連れて行こうってわけ?」


「まさか。そんなこと、さすがに私も出来ませんわ。お二人にご依頼したいのは、万が一ー私たち、調査隊のメンバーが帰らなかったこときのこと」


 真剣な顔で、アイリスはリーシャを見つめ言葉を放つ。帰らなかったときのこと。それつまり、調査の途中で何かしらの問題が発生し、動けない、もしくは……死んだときのことを言っているのだろう。


「季節が変わる、ずれる、もしくは延長されている。こんな異常は初めての観測です、私がいる限りパーティのメンバーは誰一人として死なせはしない心算ですが、動けなくなってしまうと厳しいので、保険をかけておこうかと思いまして」


 人差し指を立て、快活に笑うアイリス。なるほど、とロイは感心する。これならば既に蒼穹を出たリーシャでも、追放された身であるロイでも、関係なく依頼を受けられる。蒼穹のギルドのルールに、一度メンバーから出たものに対しての依頼の制限は一切かけられていないのだから。追放も同様、規約をひっくり返してもそんなルールは出てこない。

 マスター、ハウエルのおっさんは激怒するだろーけどな、とロイは隣で苦笑した。


「……アイリスさん、リーシャ様に依頼をするのは分かります。彼女は最高の魔術師だから。でもそこのロイさんまで含めるのは何故なんですか? 僕には……理解できません」


「実績が欲しいのかしら、フレイ? 彼は以前の東との大戦時もリーシャさんを単身救い、その前にも戦場で孤立し殺される寸前だった私を救い上げています。これでは不満ですか?」


「ぐっ……いえ、ありません。出すぎた口を出してしまい、すいません」


 きっとフレイに睨みつけられ、俺を睨まれてもなーとため息を零すロイ。実際、他の前線で戦っていたフレイが見たものは全身血まみれに汚れきったロイの姿とリーシャの姿だけだ。アイリスの時も同じ、ロイが二人を生死ギリギリの所で救い上げるシーンを見てはいない。故に、納得しない。ただ運が良く美味しい成果にありつけたのだろうと、心の底からそう思っている。


「保険とはいい心構えね。あたしはいいわよ、万が一と言っても元ギルドメンバーが死ぬのはいい気持ちではないし」


 ちらりとリーシャは隣のロイを見る。


「俺も構わんぜ」


 ロイはパンにひたすら噛り付いている。そうよね、あんたはそういうやつよね、とリーシャはがっくりとため息を零して、話をまとめることにした。


「依頼料は前金で一千万。統括のあたしをそっちの都合で動かすんだからいいわよね、事が起きてしまった際は内容によって請求かけるわ。いいかしら?」


「ええ、問題ありません。それでリーシャさん、ロイ様という力を借りれるのであれば安い方だと思いますが?」


 アイリスの言った事は事実だ。仮にもSランクギルドに所属していたロイと、魔術師ギルドの統括という立場にあるリーシャ、この二人を指名しての依頼であれば相場と照らし合わせると一千万でも叶わない。ましてや、普通であれば事が起こったら追加、だなんて事もできないのだ。他のギルドであれば更に上乗せをしてきたであろう、待機料金だなんだのと難癖をつけて。


「別にいいわよ、それくらい。元蒼穹メンバーとしてのよしみよ、それに……最悪、調査はあたしが単独で見てこようとも考えていたしね、ちょうどいいわ」


「……俺としては一億円欲しかったけど、リーシャが言うならいいか」


「あんたがそういうのふっかけないって知ってるから下手な冗談はやめたら?」


 本気で引いたような顔を見せたフレイとは対照的に、リーシャもアイリスもくすくすと笑いパンに手をつけ始めた。この二人は知っているからだ、いざとなればこの男はどんなに危険な状況でも率先して飛び込む事を。それを考えると、ロイの性格を利用した気分になりアイリスは僅かに顔を歪めたが、リーシャさんもいますし、と踏ん切りをつけ、紅茶を口へと含む。

 大きなパンを食べ終えたロイはふーっと一息つくと、フレイに向かって指差し、告げる。


「……雪山は視界が悪い。それに積もった雪に隠れて崖が潜んでいる事もある。いくら剣技が自慢でも、バタバタ動くのはよせよ。可能なら無属性の魔術で距離を取りながら戦っておけ。異常気象なんだ、普段とは違う特性を持った魔物も出ているかもしれん」


 唐突な憎い相手からのアドバイスにフレイは目を白黒させるが、彼もSランクギルドのメンバーであり、最低限の礼儀は保有している。嫌いな相手からだとしてもそれをありがたく受け入れることにした。


「まさかロイさんからアドバイスだなんて。……腑には落ちませんが、活用はさせてもらいますよ」


「俺だってしたくてしてるんじゃねーよ、万一があった場合を考慮してるんだ。一人が隊列を乱すと後ろも崩壊する、特に敵からの攻撃を捌いたり、敵陣に切り込んでいくお前のようなタイプは必要なんだ。ドロップアウトすんじゃねーぞ」


「……ロイさんに笑われないよう、遵守します。他にはないんですか、ありがたいアドバイスは?」


「凍傷だな。金属の鎧をつけて戦う前衛はありがちだ、気づいたら指が取れてるとかも聞いたことがある。炎属性の魔道具でも持って行って、常に体温とかに気を配れ。……他にはだなーー」


 クズと罵っていた相手から得られる知見が非常に質の良いものであり、自分自身が検討すらしていなかったことさえも突っ込んだり提言してくるそのアドバイスに、フレイは思わずゾワッとした。この男はどれだけ場数を踏んだのかと。噂や行動から見えるクズさとは相反するそれに、フレイは次第に真剣に聞いていくようになる。


 散々文句を言いながらも、自分より後に蒼穹に入った後輩、フレイに対して、細々と指導していくロイ。それをリーシャはやっぱりお節介ね、いいことだけど。と微笑みを携えながら見ているのであった。アイリスも同様に、やはりロイ様を選んだ私の目に狂いはありませんでしたわ、と恍惚とした表情で見ていた。


「(バァーッカでやんの! こんなことも知らないのかよカッスが! てめえに死なれると万一の時に手間なんだからよ、ちゃんと生き延びてくれよ!? うわ、己の無知を晒してちょっとしゅんとし始めてるし、マジウケるんですけどー!!)」


 もっとも、ロイの内心はクズそのものの思考であったが。


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