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Sランクギルドを追放されたクズは何でも屋を営むそうです  作者: 398
1章/無職のクズは秒速で一億円を稼ぎたい
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11話


「うおぇ! げほ……げほっ!」


 すっかり人通りも少なくなった深夜帯。ロイは茶髪を掻きながら路地裏から聞こえてくる咳き込んだ、酒と胃液を吐き出している音を聞きながら満月の夜空を見上げていた。吹く夜風は冷たく、思わず身を縮ませてしまう。


「ったく、ハメ外して飲みすぎるんだからよー。おーい、大丈夫かよ」


「う、うるさいわね! 久しぶりに酒なんて飲んだからつい……う……」


 吐いているのはリーシャだった。年頃の女がフツー路地裏なんかでゲロ吐くかよ、と思わず嘆息し、苦笑いしてロイは地べたに腰を下ろす。しばらくすると、青い顔をしたリーシャがフラフラと路地裏から戻ってきた。おぼつかない足取りだったので、ロイは立ち上がると傍まで歩いて行き、手を貸す。


「ほら、歩けるかよゲロ」


「うーっさいわね!?」


 文句を言いながらもリーシャは差し伸ばされた手を掴み、あっちよ、と指差し、自宅への道案内をする。おぶってやろうか、とロイが珍しく気遣って進言するも、結構ですと突っぱねてフラフラと、非常にゆっくりとした足取りで二人並んで歩を進める。


「あー、最悪よもう。こんな粗相するなんて、魔術師ギルドの統括の名前が泣くわ」


「どんなに偉いおっさんもゲロくらい吐いたことあるだろ、気にすんなよ。ほら、俺も吐いてるところは見てないし」


「おっさんと一緒にすんな、まだあたしは若いわ! 一体あたしをなんだと思ってるのよ、あんたは」


 へーへー、ゲロ吐いた後に文句言っても説得力ねーけどなんて言葉は喉に留めて吐き出さず、静かに夜の道を進んでいくのだった。


 ……


 辿りついたリーシャの家は豪邸と呼ぶにふさわしい作りをしていた。さすが統括様、とロイは思わず感心すると、正門に備えられた、重たい鉄製の門をぐっと押して中へと入っていく。リーシャ本人の不在中もリーシャの魔術が屋敷を護っているらしく、ロイは敷地内に入る時に奇妙な感覚、水に一瞬だけ浸かるような、決して心地いいとは言えない感覚を覚えた。


「……鍵開けたから、ちょっと二階の突き当たりまで運んでって」


 遂に力尽きたのか、リーシャの体が力尽きた様にガクッと崩れ落ちた。あら、とロイはその体を支えると、後で文句言うなよとぼやいて細い体をお姫様抱っこの様に持ち上げる。


「(物知りで、そして立場は統括様、基礎のステータスもアビリティもSS持ち。なのにこんなに軽いのか)」


 そんなことを考えながら、お邪魔しまーすと呟いて玄関のドアを押し開けた。どうやら靴を脱ぐ必要はないみたいだ、とそのまま中へと入って行き、正面に備えられた大きな階段を上っていく。突き当りの部屋とはあれか、と綺麗な装飾が施された扉を開けると、ベッドとソファー、そして様々な本が乱雑に置かれたデスクしかない質素な部屋がそこにあった。


 そのままリーシャをベッドに寝かせると、ロイは手持ちぶたさになる。勝手に家の中を歩き回るのもなぁ、とぼやき、リーシャを見るが既に心地よさそうに寝息を立てていたので、ロイは床で寝ることを決めたのであった。いくら女遊びが好きなロイでも、この状況下で手を出す様なことはしなかった。相手が、リーシャということもあったが。


 ……


 ん、と声を漏らしリーシャは体をベッドから起こす。目覚めたばかりの回らない頭では何も考えられずぼーっとしてしまうが、視界の片隅、ソファーからひょっこりと見えている茶髪を見た瞬間に心臓が跳ね、昨夜の自分が犯した粗相の記憶が蘇る。


「……さいっあく。いや、あれは人間的にも常識的にも、女性的にもないわよ、本当」


 思いっきりのしかめっ面。けれでもやってしまったことはしょうがない。これでロイが覚えてたらあいつが忘れるくらい頭を風の魔術でガンガン吹き飛ばしてもいいかも、とロイが聞いたら真っ青になる様なことを考えならがら、まだ口内に残る気持ちの悪い感覚をどうにかするため、キッチンへと向かうのだった。


 キッチンでうがいと歯磨きを済ませたリーシャは、ミルで珈琲豆を手挽きすると、ドリップするためのフィルターへ粉末を入れお湯を注ぎ込んで行く。指先ひとつでお湯を生み出せるリーシャにとっては非常に手軽で、何度も繰り返したルーチーンとなっていた。


 物音でロイも目覚めたのだろう。へんてこな寝癖がついた茶髪を掻きながら、キッチンまでたどり着くとリーシャへおはよーゲロ女といい、怒ったリーシャの風魔術で吹き飛ばされ廊下の壁に叩きつけられていく。ミシミシという嫌な音がしたが気にせず、リーシャは淹れ終わった珈琲を二つのコーヒーカップへと注いだ。


「……お、前、朝っぱらからなんてことしてくれてんの!? ロイさんの天才的頭脳に欠陥なんて出来ちゃったらどうしてくれんだよクソ!?」


「うっさいわね、デリカシーがないのあんたには!? ほら、コーヒー淹れたから目覚ましにでも飲みなさいな。あとあんたが使っていい歯ブラシはあの青いの、シャワー浴びるならあっち」


 怒り声でも手際よくぴっぴっとそれぞれの場所を指で指してリーシャは言う。もともとの買い置きを出しておく辺り、手際がいい。そのままキッチンのテーブルへ座り込むと、やはり魔術でサクッとトーストを二枚焼き、器用にそれを浮かせ操作してテーブルの上に皿と一緒に配置する。

 リーシャは魔術師としてSSランクだった。これくらいのことは造作もない。


「てか朝飯まで用意してくれたんか、悪いな。ちっと歯ブラシだけもらうぜ」


 シャコシャコと歯を磨いてきたロイは、そのまま椅子へと座り込む。待っていれくれた様で、二人揃って両手合わせていただきますと行ったあと、ロイもリーシャも、コーヒー片手にトーストへと齧りついた。


「……あたし今日は休みなのよ。商業ギルドに届け出とか出すんでしょう、手伝ってあげるわ」


「まじかよ、悪いな。現実的な話聞いちまうと売れるか、果てや軌道に乗るかすら不安だがやってみねーことにはねわかんねーからな。気張っていくとしますか……」


「ひとまず、届け出を出すにも店の場所は書かないといけないから、先に物件探すわよ。あんまり高いところにしてもしょうがないし、安いところで探しましょう。売れたら店舗の位置も変えればいいわ」


「そうさせてもらうぜ。……なんだかんだ世話焼いてくれるあたり、リーシャって面倒見いいよな。いい加減に俺以外にキャラ作るのやめたらどうよ?」


「うっさいわね、それは仕方ないでしょ。権力者とか年だけで中身はガキなんだもん。ちょっとくらい無口キャラ作って威圧してかないと舐められて話になんないわ。予算の申請だけでも小言ばっかりなんだもの、この国が魔術研究とか捨てちゃったら、あっという間に東の大国に侵略されておしまいってのわかってないんのよ!」


 うっとおしそうに語るリーシャ。確かにそれは真実だった。魔術を極めんと発展させている中央都市、方や魔術だなんて不確定なものは排除しどのような凡人でも等しく扱える機械を研究、発展させて行っている東の大国。ちょうどそのパワーバランスが取れていて、この国の王、アルカディアが牽制までかけているからこの平穏が続いているのだ。魔術の研究をやめてしまえば東の大国の技術レベルが上回り、中央大国での防衛線を突破してしまうだろう。そして戦火が広がっていくのは、想像に難くない。


「へー、なかなか苦労してなさることで。偉い人ってのはやっぱ大変だな」


「その分、自由に予算も触れるし、好きな研究はできるけどね」


 トーストを食べ終えコーヒーを胃に流し込んだリーシャは立ち上がると、ロイへ覗いたら四肢を千切るわよ、と言い残してシャワールームへと向かって行った。残されたロイは青い顔をして、大きなため息とともに、一人になったキッチンで呟く。


「SS持ちが千切るとか言ったらマジで千切ってくるんだろうな……いやはや、ジョークになってねぇってマジで」


 手挽きのコーヒーの苦い味を口内に感じながら、一人リーシャが出てくるのを待つのであった。

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