52.躍進(2)
クロからX線が放たれているとすれば、導かれる結論は一つ。
ここの異常な大豆たちは、X線照射によって突然変異を起こしているのだ。
だからここだけ、大豆の育ち方がおかしかったんだね。
X線範囲内は大豆以外皆殺しだから、気付くのが遅れてしまった。私や牛の場合は、細胞が破壊されても勝手に再生しちゃうしね。
さあ、ここで私がなぜ蛍光板を知っていたのかお話します。
正解は、単純に興味があったから。
私が元の世界にいたころ、大学で生物学を習っていたのはご存知の通り。研究室は遺伝関連を希望。遺伝子の変化の観察や遺伝子操作を行っている研究室だ。
はい、それがまさにこれ。たとえ今は腐れ大学生でも、かつてはなにかを目指して受験勉強をしたはずだ。それが私にとっては遺伝子学。よりももっと踏み込んで、人為的な遺伝子操作だった。
だって、なんかわくわくするじゃない? 突然変異って響きも良い。この言葉をはじめて聞いた小学生諸賢が、胸を躍らせなかったはずがない。突然変異、ミュータント、うーん、ロマンである。
人為的なら、クローンとかも興味はあったんだけどね。やっぱりコピーよりもオリジナルを作る方が楽しそうでしょう。神の領域に踏み込んでいるようで、すごーくそそられる。
なので、こっち方面は詳しいのだ。こっち方面以外は致命的に詳しくないので、大学の成績は地底に突き抜けていたけど、いいのいいの。単位にさえなればいいんだよ。
さて。
さて、じゃあこれからどうするか。
環境がある。知識がある。興味がある。そして制限はない。倫理的になんやかんやも、宗教的になんやかんやもない。時間制限もない。だけどニーズはめちゃめちゃある。
もしも枯れない大豆が作れたら。年中収穫できる大豆があれば。ついでに鳥くらいなら、自分で蹴散らす大豆、そんなものが生み出せるのなら……。
やるしかない。
やらない手はないだろう。
倫理観なんてしったこっちゃねえ!
禁忌? 命をもてあそんでいる?
うるせえ! ここでは私が王様だ!
止める人間がいなければ、誰だって同じことをしたいと思っているんでしょう? 私は知っているんだ!
やってやるぜ、ウヒャー!
〇
やってやったぜ。