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46.見つからない

 にわ……。


 にわ…………。


 ニワ子……どこ…………。



 山か? 山の方の拠点にいるのか?

 たしかにあそこなら、倉庫にしまいきれなくなった大豆の貯蓄がある。

 竪穴式住居もあるし、こっちにいるよりは上の方が安全かもしれない。


 痛む体をおして、松葉づえを片手に山登り。うおおおおお!!

 ニワ子ー! どこだー!


 いなかった。


 ええと……なら、水で流された?

 海辺の拠点周辺で震えているのかも?


 うおおおおお!

 ニワ子ー!!


 拠点付近の草を刈り、木を倒し、大豆を植えて安全地帯に変えていく。

 十数日かけて辺り一帯を丸裸にしたけれど、いない。


 そ、そうなると……。

 水に襲われ、川に流され……ニワ子は軽いから……どんどん流されて……。

 海?

 海なのか……?


 おおおおおん! ニワ子おおおお!!

 カンカンカンカンカンカン!!

 舟完成!

 出航!

 沈没!!!


 浜辺から離れて即、魚どもが船に齧りついてきやがった。

 四方八方からコツコツ齧られ、あっという間に浸水。水に落ちる前に舟から飛び出し、浜辺に着地して事なきを得る。

 これ、沖まで出てたら逃げ道がなかった。うう……今の技術力では海は無理だ……。

 そもそも、海にいるという保証もない。

 海辺付近はだいぶ切り拓いたけど、もしかしてもっと遠くにいるのかもしれないし、地面に埋められているのかもしれないし、山の上の方に連れて行かれてしまったのかもしれない。

 おお……。


 に……。

 にわ……。

 にわ……にわ……。


 にわ………………。


 おおん! うおおん!!

 やだー! やだやだやだ! さみしいよー!!

 もう一人で寝るのやだー!

 話し相手いないのやだー!!

 クロもいないし、ニワ子もいないし、一人やだやだやだ!!!


 こ、こうなったら、さらに文明開化だ!!!

 海でも山でも切り開いてやる!!!



 と、ここでちょっと冷静に考える。

 今すぐにニワ子を探し出すのは難しい。うっかり突っ込めば私が死ぬ。

 私が死んだら、牛が復活して手に負えなくなる。

 慎重に、しかし確実にニワ子を見つけ出さなくてはならない。

 だから、まずは金属の加工技術を磨く。そして、鉄製の舟で出航を! する!!

 それで駄目だったら、山を平地に! する!!


 今はシンプルな鋳造しかできないけど、これからは鍛造も考えていく。

 金属鉱脈探し、炉作り、鍛造施設づくり。山のようにやることがあるけど、まずはできるところから!

 やるぞやるぞやるぞおおお!!!




 そうなると、真っ先にするべきことと言えば、やっぱり拠点の復興なのだ(冷静)。

 ニワ子探しに奔走している間に、そろそろ牛の復活時期になってしまった。

 ニワ子探しの副産物で、大豆を大量に植えていたが、きちんと開墾していたわけではないので、発芽状況がいまいち悪い。その上ここで牛が目覚めれば、大豆がなる前に食べ尽されてしまうだろう。

 もう一ヶ月くらい延長したい。

 でも、目覚めて即また死ねば、彼女も疑いを持つだろう。

 復活から死までは、いつもだいたいタイムラグがある。窒息だろうが撲殺だろうが考察だろうが、目が覚めて「あっ死ぬ」と思ってからの死だ。かならず、生き返って周囲を確認する時間がある。

 このラグこそが、死の苦しみを味わわせる原因だ。どうせ生き返れない状況なら、意識のないままもう一度殺してくれと思うが、きちんと意識は取り戻す。そこできちんと死の苦しみを味わうからきついのだ。

 だが、このラグをなくせないだろうか?

 復帰する場所はわかっている。元のパーツが多く残っているところ――すなわち今回の牛の場合は、この骨だ。

 屠殺するには、復帰してからでなければならない。死んでいる状態の骨になにをやっても無効だ。ちなみに、復帰直前は骨の周りからボコボコと泡のような肉塊があふれ出し、あっという間に生前の姿になる。このボコボコ状態も、攻撃は無効。

 ふむ。


 ……たとえば。

 たとえば、牛の力でも押しのけることのできない大岩の隙間で復帰したらどうなるんだろう?

 絶対に復活したらその体積では収まらないだろう、って大きさの箱の中にとじこめたらどうなるんだろう?


 …………。

 石櫃を作った。

 中は、砕いた牛の骨がギリギリ入る程度の大きさだ。

 石櫃自体も頑丈には作ったが、蓋が簡単に外れそうな気がするので、これをさらに崖に埋める。

 ちなみにこの場所、ニワ子探しに駆けまわっている間に見つけた場所だ。片面が海に面した断崖絶壁。水が岩を削り、周囲は小さな湾のような状態になっている。

 ちなみに埋めるといっても、相手は岩崖だ。穴は掘るのではなく削る物。石櫃が収まるサイズまで削り、中にそっと納めておく。

 さすがの牛も、岩崖を砕くほどの力はないだろう。と期待して、念のため手を合わせる。アーメン。

 これが原初の埋葬である(大嘘)。



 さて、今のうちに畑を整えておかなければ。

 今回は、品種改良を重ねた大粒大豆ではなく、味の劣るスピード大豆に活躍してもらう。


 どうせ牛に味なんてわからないって!

 うおおお、鬼の居ぬ間に開墾!!




「…………あ、あら?」

 海辺の拠点。新居の前で、牛はぼんやりとした声を上げた。

「わたし、死んでいたのよね? 大豆を食べて……」

「はい。きっと、腐った大豆にあたったんですよ」

「ああ……そう、そうね。……駄目だわ、ぼんやりして。なんだか、いつもより生き返るのに時間がかかったような気がするの……」

「いやいや、いつも通りですよ。だいたい一ヶ月」

 季節は春。ちょうど、大豆を植える時期。

 畑はまだ更地状態で、大豆の芽も生えてはいない。

「そう……だったかしら? ああ、でもそうよね。最後に死んだときから、季節も変わってないし」

「そうそう」

「なんだか、おうちが建っているようにみえるのだけれど」

 牛の目が、私の背後に向かう。

 牛も入れるように巨大化した、真新しい木の香りのする新居である。

「牛さんが死んでいる間に私が立てたんです」

「畑も広がっているような気が……」

「牛さんがいない間に、木を切って草を刈ったんです」

「川の様子、ちょっと変わってない?」

「牛さんがいない間に、治水工事したんです」

 といっても、川沿いに土袋を重ねただけだ。これが堤防となって、次は被害がおさえられることを願う。

 それから、川にいくつか支流を作った。川からわかれたそれらはため池に集められ、それを農業用水をして利用する。ここも、洪水時に水をためる場所になってくれるはずだ。

「あなた……すごいのね。たった一ヶ月でこんなにするなんて」

 牛が感心したように私を見やる。いえいえ、とんでもない。と私は首を振る。

 かつて憎み合っていたとは思えない、穏やかなやりとりだ。

 いいじゃないいいじゃない。仲良くしようよ! 仲間なんだしさ!

 牛のいない間、私もすっかり怒りが引いた。考えを改め、穏健派になったのだ。

 さあ牛さん、今後とも末永くよろしくね!


 〇


 牛を崖に封じて、十年と一ヶ月。

 牛はその間、一度も復活することはなかった。


 やっぱり、完全に孤独な生活は堪える。


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