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44.ざる豆腐・絹ごし豆腐・木綿豆腐(1)

 綿花発見。


 こっちに来てから八年目。

 味噌、醤油づくりに頭から行き詰まり、ちょっと角度を変えてみた。


 つまり、他の大豆製品を作って、クロに記憶を取り戻させよう計画である。

 おぼろ豆腐が駄目だったから、豆腐方面を発展させてもあんまり……って気がしなくもないけど、知識の底上げは今後重要だからね。


 ということで、八度目の大豆収穫を終えた晩秋。私は海辺の家近辺の草原を探索していた。

 草原(丸裸)。

 襲ってくるから、先に全部抜いてやりました。

 冬の間しか過ごさないから、この近辺はあんまり開拓が進んでいなかったんだよね。しかも冬は、だいたい海から水を汲んで、塩を量産するだけの日々だ。ここで作る塩が一年の起点になるんだから、そりゃもう必死だ。塩が切れた時点で、味なし生活に逆戻りだもんね。

 でも、八年目にしてようやく、少しずつ塩のストックも作れるようになった。ので、海辺の方の開拓をしようと思った結果。


 抜いた草を物色している中に、見覚えのある花を見つけた。

 花というか実というか。四つに割れた、丸くて白いコットン。長らく探し求めていた綿だ。

 ドキドキしながら手を伸ばすと、噛みつかれた。白い綿花が赤く染まる。こいつ、まだ抵抗する気か……!

 ううむ。綿花でさえもこの凶暴さ。しかし、大豆を押し付ければとたんに力尽きるあたり、愛いやつ。指一本分以上の価値はあるので、不問にいたす。


 血染めの綿の中を探れば、綿花の種が収まっている。一つの花から、だいたい十個から二十個ほどの種が取れた。草木も枯れかけの晩秋、きちんと残っている綿花は、だいたい五つくらい。合計で、百個弱くらいの種がある。

 これは丁重に保管して、来年の畑に植えてみよう。

 でも今は、とにかく糸じゃ。

 収穫した綿花で、布を作る!


 作れなかった(敗北)。

 綿、ぜんぜん足りんじゃないか。

 その割に、糸をつむぐのは恐ろしいほど難しかった。綿花って長い繊維でできているのかと思ったけど、実は短い繊維の集合なのね。縒り方が麻と全然違った。

 これは練習が必要そうだ……。



 翌年リベンジ。

 秋の半ばに収穫した綿花を、越冬用の家でつむぐ。繊維を一本ずつ取り出すのではなくて、絡み合ったまま太さをそろえていく感じ。片手に糸を巻き取る木の枝を持ち、ぐるぐる回しながら、もう一方の手に持った綿花から糸を引っ張り出す。

 これは……糸車が欲しい。

 仕組みはそう難しくなさそう。手でぐるぐる回す作業を、滑車に代わりにやらせる感じ。ただし、今の私の技術では、綺麗な円形の滑車が作れそうにないんだよね。

 未だ竪穴式住居暮らしだし、材木は基本、縦に割るか横に割るかしかないし。私の木材加工技術、もしかして低すぎ?

 木材加工どころか、石材加工技術も低い。現在も磨製石器時代。青銅器を操っていた弥生民にも馬鹿にされてしまう。

 石器は作るのは簡単だけど、壊れるのもめちゃくちゃに早い。鉄器が欲しいけど、そんな技術もなければ、作る暇もない。

 しかも、現在の状況で生きていけるので、なーんとなく切実さが薄いんだよね。まあ、石器時代でも、生きているからいいかなって……。

 などと考えながら一ヶ月。

 苦心しながら紡いだ糸は、布が作れるまでになっていた。


 が、待て。

 しばし待て。


 麻布とは違う、柔らかい感触。細くてしなやかな糸。

 これ、同じ方法で編めない。


 いつかの織機思案を思い出す。目を細かくして、縦糸と横糸を交互に組み合わせ、隙間なくぎゅっぎゅと押し込んでいくやつ。

 あの発狂するほど手のかかる作業。

 あれをやらなければならないのか。


 やらないといけなかった。

 ハンカチ作っただけで力尽きた。

 ウッ……来年は織機作ろう……トンカラトン……。


 ハンカチ。

 木綿のハンカチーフ。

 やったー! これで木綿豆腐が作れる!!



 豆乳作って、にがり作って、おからニワ子にあげて。

 豆乳ににがりを入れて固めて、穴あき土器に流し込んで水を切って……。


 木綿のハンカチどこで使うんですか(憤怒)。


 木綿豆腐、絹ごし豆腐って言うけど、もしかして木綿も絹も関係ない?

 蚕を探して森をうろうろして、殺人大樹と激闘した日々も無意味!?


 じゃあ、木綿豆腐と絹ごし豆腐の違いってなんだよ!



 穴あき土器の中で固まるこの豆腐。果たして絹なのか木綿なのか。はたまた第三の豆腐なのか?



「ざる豆腐だな」

 第三の豆腐だった。初耳豆腐だ。

 ざる豆腐とは?

「おぼろ豆腐からざるを使って水分を抜いたものだ」

 クロがスプーンを握り、豆腐を食べつつ解説する。

 ふむふむ?

 食べた感じ、食感は絹に近い。柔らかくて滑らかだが、おぼろ豆腐よりは形がしっかりしている。味は、にがりの苦みが若干あるだろうか。製法が悪いのか、ちょっと雑味がある。

 といっても、日常で雑味ばかりの日々だ。十分美味しい。豆腐だけでも良いけど、塩を振るともう少しおいしい。

「これ、絹や木綿とは別物なんです?」

「絹や木綿がわからぬから、答えようがないな」

 うーん、この反応は別物判定されているな?



 仕方ないので、もう少し思案。

 冬の間は海辺の家で過ごすので、塩を作りながら延々と考える。


 ざる豆腐、食感は絹とほとんど変わらない。

 じゃあ、絹との違いってなんだ? やっぱり絹で濾しているのか? どの工程で濾すんだ?

 それに、木綿ってなんだ。普通に作ったら絹になった。となると、木綿要素はどこで出していくんだ?


 私の知っている豆腐と、この豆腐との違いはなんだ。

 四角さか? たしかに、スーパーで買う豆腐は四角い。ということは、四角い型に嵌めて成型する必要があるのだろうか。

 ……言われてみれば、木組みの四角い中に豆腐が収まっているイメージがなんだかある。四角い木の中に豆腐を入れて、その中に布を敷いて――――。


 はっ。


 もしかして、この布か!

 木組みの中に敷く布が、絹か木綿かで変わるのか!?


 じゃあやっぱり、絹を探しに行く必要があるのか!!!!


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