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37.焼き鳥

 まずは落ち着いて考えよう。


 命綱の大豆。ある。

 遠出をするからと、袋いっぱいに詰め込んで来た。道中で半分くらい使ったけど、まだ余裕がある。冬くらいは越せるはずだ。

 名無しにも、大豆袋は持たせていた。合流すればさらに余裕ができるけど、生きている保証がないのがちょっと怖い。

 食料。数日分はある。

 これも、出立の時に詰め込んで来た。干し肉、干し果実が、同じく袋に入っている。

 武器。ある。腰に括り付けた斧だけは、なにがあっても離さなかった。斧ということで、木と戦うにしても、切るにしても役にも立つだろう。

 それから、黒曜石ナイフがある。道中で散々襲われることもあり、解体して肉を剥ぐために持って来ていた。


 オーケー。これなら数日はもつはずだ。


 太陽は西に傾き始めている。今日中に山へ戻るのは難しそうだ。道もわからないし、たとえ来た道を見つけられたとしても、戻っている間に夜になってしまう。

 少なくとも、今日のところはここで過ごさなくてはならない。


 となると、最初にするべきは火だ。

 それから、水の確保。猪から作った水筒はあるけど、残量が心もとない。

 最後、寝る場所の確保。

 山のような自然の洞穴は見当たらない。森はあっちから襲ってくるから論外。消去法で、

敵の少ない浜辺付近に拠点を構えることになる。


 さて。じゃあ、やりますか。




 やりました。


 満潮になっても波の来ない浜辺付近に大豆を撒いて、安全地帯を確保。

 枯れ草と枯れ枝を集めて火を起こす。焚火付近を取り囲むように、拾った枝をぐるりと突き立て、柵を作るのも忘れない。自分の服をほどいて糸を取り出し、柵に鳴子を巡らせておく。

 寝る場所は、ひとまずはここで済ます。寝るって言っても警戒しながらだし、膝を抱いて目をつぶるくらいがせいぜいだ。なら、別にちゃんとした場所を確保する必要はないでしょう。

 ただし、水は見つからなかった。海しかない。川でもあればと思ったけど、見える範囲には存在しなかった。そもそも、川がそんな近くにあるなら、さかのぼって拠点まで戻っているわ。

 仕方がないから、今日のところは水筒の水でしのぎます。明日には川を見つけておかないとなあ。


 今日の夜を無事に過ごしたら、明日は川と名無し探しだ。川だけ見つかったら、先に戻るべきか否か。

 名無し、人型をしているせいで、私と命の残機を共有しているんだよなあ。下手に死なれまくっても困るし、このまま行方不明になられても困る。復帰には最低でも一週間くらいかかるから、それまでに見つけられるといいけども。

 見つからなかったら、どうしよう。今から一週間探し回ると、さすがにもう冬が近い。山の方では雪が降り出しているかもしれない。

 山に戻って来年を待つか、いっそこっちで冬を越すか。いや、家もないし準備もないし、こっちじゃ普通に無理だな。

 食料だって、ないわけじゃないけど、ずっと過ごしていくには不備がある。


 その不備というのが、なにを隠そう、大豆を通さねば食べられないことだ。

 干し肉、干し果実。どっちも無大豆製品である。食べるときは、鍋で大豆と煮詰めなければ、血を吐いて死ぬ。

 あるいは、大豆と一緒に食べてもいい。しかしこの大豆もすべて生なのだ。

 小鍋、名無しに持たせていたんだよなあ。あいつ戦闘要員じゃないから、荷物持ちをするしかなかった。鍋もだし、紐とか布とか、道中で獲得した戦利品とか、まんべんなく役に立ちそうなものは全部あっちにある。

 それがこんな裏目に出るとは。


 おかげで私は、またしてもニワ子を食す羽目になる。

 大豆以外がすべて敵となった世界において、神に選ばれた異邦人たるニワ子は、唯一そのまま食べられる食材だからだ。


 だから、つまり、その。

 これは不可抗力だ。




 日が暮れかけるころ。まだ真っ暗になる前に、私はニワ子を解体した。

 もう三回目なので、鶏の解体も慣れたものだ。首を落とし、逆さ吊りにて血抜きを行い、全身の羽毛を剥ぎ取る。

 腹を裂いて内臓を掻き出し、水洗い――の水がないので、海水で洗う。

 ニワ子の血の匂いにつられてか、小魚やら蟹やらが集まってくるので、定期的に場所を変える必要があった。あいつら噛みついてくるから嫌い。ニワ子以外にも犠牲になった獣がいるらしく、この海岸には大きめの獣の骨がごろごろ転がっていた。怖い。

 内臓を抜いた後は、ナイフで骨を外す。それから、手羽、もも、胸にざっくりと分解。骨は集めてひとかたまりにしておく。パーツが多い場所が復元場所になるからね。海に流れて行った内臓を起点にされたら、ニワ子が無間地獄に落ちてしまう。

 パーツに分解した後は、しばらく海水に浸した後、それぞれ一口大に切って、尖らせた枯れ枝に刺す。内臓も同様に。

 そして、豪勢に焼く。焚火であぶり、すこし濃い焦げ目がつくまで焼いて、脂が滴るころあいで、熱いまま食べる!

 はふっ! うま!

 ニワ子うま!

 ほんのり塩味。久々に、素材以外の味を感じた。串焼きの塩だこれ。塩を振ったわけじゃないけど、塩水に漬けることで、味がほんのり移っている。

 さすが万能調味料。久々の味覚に、舌がちょっとぴりぴりするけど、それを差し置いても断然おいしい。筋肉質で引き締まったニワ子の肉も、この野趣あふれる料理によく合っている。

 うま! ピリピリ。うま! ピリピリピリ。


 うん、さすがにちょっとおかしい。

 舌がしびれているんだけど。

 だんだん味より痛みの方が強くなっていく。原因なんだ?

 …………あっ。

 海水――無大豆の海水に含まれる微生物を、ニワ子ごと摂取しているんだ……!

 あー、なるほどなあ。少量だったから、はじめはピリピリするだけだったんだ。

 はじめは。


 少量の毒も、摂取することで蓄積し、毒となることがある。

 なーるほど。この世界の食料は、蓄積毒でもあったんだなあ。

 ごふっ。


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