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35.加速する三年目

 無事に冬を乗り切った。

「あたし、いつも死んでない!?」

 無事じゃなかったニワ子が、半泣きで私に食ってかかる。ごめんなさい。

 でも、死亡カウントで言ったら私の方が多いと思う。

「しかもまたスープにして!!」

 ごめんぬ。


 ご不満ニワ子は置いておいて、今年も種蒔きの時期がやってきた。


 外の畑は、すでに拡張済みである。昨年のさらに倍ほどの広さ。この調子で、どんどん手を広げていきたい。

 あとは、種をまくという段になって、私は大豆を睨んでいた。


 あっちの大豆は、ちょっと粒が大きい。

 こっちの大豆は、色味が若干緑がかっている。

 そっちの大豆は、ちょっと縦に長い。


 色と形で、だいたい三分割できる。

 ふむ。


 煮て食べてみると、粒が大きいやつは甘味が強い。

 緑がかっているやつは、少し雑味というか、青臭さがある。

 縦に長い奴は、身が締まっていて満足感を与えてくれる。

 ふむふむ?


 拡張した畑を三等分して、三種の大豆をそれぞれ植えてみた。

 遺伝的なものなのか、収穫した際のタイミングや、育ち方のせいなのか。それは、今年の収穫が教えてくれることだろう。



 大豆を育てている間は、収穫後の旅支度を整える。

 徒歩四時間。

 これって結構な距離ですよ。往復で八時間となると、朝に出かけても、帰りは夕方近くなる。

 そうなると、まず必要なのは食事だ。途中で絶対にお腹がすくから、お昼ご飯が必要になる。

 それから水。川沿いを下るから、川の水を飲めばとも思うが、飲める水とは限らない。もっと言うと、どんな水生生物が襲ってくるかわからないから、正直川に直接口を付けたくない。

 足元が悪いだろうから、靴もしっかりしたものが欲しい。頭上を守るフードか帽子もあるとなおよし。


 無事に海を見つけたら、今度は道の確保だ。

 海水による塩分は今後絶対に必要になるので、今後頻繁に通うのは間違いない。

 えっここの拠点捨てて海に作り直せば?

 ははっ。

 …………だってせっかく作ったのに……。



 まあ、先のことはその時考えましょ。

 まず食料。は、冬ごもりで食べつくしてしまったので、また秋までにコツコツ溜めることになる。

 水。は水筒に入れる必要がある。これ、実は前々からちょっと考えていた。

 昔の人は、動物の内臓を水筒にして、水を運んでいたんだよね。牛の胃袋を使っていたと言う話を聞いたことがあったけど、牛はこの辺りでさっぱり見かけない。

 なので、代わりに冬に獲れた猪を代用することにした。

 各種内臓に水を入れてみて、容量や水漏れ、運びやすさなんかを試した結果、選ばれたのは膀胱でした。

 膀胱。

 だって、もともと水をためるところだし……。

 大きさ、頑丈さ、使いやすさ。すべて膀胱が勝ってしまった。

 中身はよく洗った。きちんと乾かした。臭いもない。無問題。清潔オブ清潔。

 私だって、竹でもあればそっちを使いたかった。でもこの辺、竹林ないし。代用できる者もないし。仕方ない。仕方ないんだ……。


 靴は、草履を改良中。今は親指に引っ掛けているだけだけど、これだといざというときにすぐに脱げてしまう。足首にわっかを通して、かかとにもひもを通して、足全体を包む様にすればいいかな?

 使う当てのなかった小動物の皮は、草履の裏に縫い付ける。……ってこれ、普通に革靴にすればいいのでは?

 草履は慣れれば作るのが簡単だから、普段使い用にして、遠征用にオール革で靴を作ればいいんじゃないだろうか。


 皮を加工している間、名無しには頭上を守るフード付きのローブ的なものを作らせる。糸が大量に必要なので、これもまた集める必要があるなあ。


 とかなんとかやっているうちに、収穫の時期を迎えてしまった。

 畑が広くなったばっかりに、農作業に時間が取られて、他の作業が圧迫される。大豆より大事な物はないから、しかたないことなんだけども。



 で、収穫の結果。

 スイカくらいの壺に四つくらい。大豆長者である。

 また来年のための種大豆を残すことになったんだけど、ここでちょっと思案。


 今年は大豆を植える段階で、大豆を三種類に分けた。

 それぞれ、畑を分けて植えてみた結果、植えた大豆と同じ種類の大豆が収穫できたのだ。


 収穫量が多かったのは、粒が大きくて、甘みのある大豆だ。

 三つ平等に大豆を撒いたのも関わらず、これだけつぼ二つ分になった。

 緑がかった大豆は、成長が早かった。他は初秋に収穫期を迎えたのに対し、これだけ晩夏の収穫だった。

 ちょっと粒が長い奴は、収穫量が若干少なめ。粒には虫食いも多く、味はいいけど育てるのが難しいみたいだ。


 追加で、大豆の無害化能力も調べてみた。

 大暴れの雑草に対して、三種の大豆を投下してみて、どれが一番早く大人しくさせられるかを見た。

 結果。

 大粒大豆が一番早い。

 緑の大豆が一番遅くて、長い大豆が真ん中くらい。


 ふむふむ?


 大豆の中でも種類があるみたいだ。

 この三種の中では、大粒大豆が総合力で優っている感じ。

 ただ、成長が早い緑大豆は、それはそれで有用そうだ。

 味のいい大豆は、味はいいけど優先順位が下がるかな?


 大粒大豆と緑の大豆で、ハイブリッドが作れないかな。

 成長が早くて収穫量があり、効果の高い大豆。これは今後にすごく役立ちそうだ。来年は交雑をしてみよう。

 代わりに、長い大豆は植えるのを控えよう。収穫量が少ないのは、今の状況だと致命的な欠点だ。


 原種の大豆三種は、それぞれ別口に保存しておこう。

 よく乾燥させて、小さめのふた付きのつぼに入れ、冷暗所に保管する。その冷暗所というのは、つまり洞穴の中である。最近、ここはめっきり冷蔵庫になっている。



 さて、こうなると、遠征に選ばれるのも大粒大豆ということになる。

 無事に三年目の収穫を終えた。

 大豆の煮汁を森に撒き、伐採と収穫も終えた。

 越冬用の食料も、最低限を確保した。薪は割って、冬越え用の分は家の中に保管してある。

 体力は十分。きちんと食べるものは食べた。風呂も入った。


 季節は秋の半ば。少し肌寒い上天気。


 袋いっぱいの大粒大豆と、水の入った猪の膀胱を腰紐に括り付け、よく研いだ石斧を握る。

 革でできた靴を履き、麻布で作った外套を羽織る。

 お供に顔以外にとりえのない男と、攻撃力の高い雌鶏を従え、いざ出発。


 生きて帰れるといいなあ。


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