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32.小休止(やばいもの試食会)

 石鹸づくりの間、他に何もしていなかったわけではない。

 煮汁を撒いたあたりが良い感じに大人しくなっていたので、木を選んで伐採していた。


 選ぶというのは、木材的な意味もあるけど、第一は木の実だ。

 未成熟の実が多い木は後回しにして、たわわな実のなる木を伐採する。


 秋も深まる木々の実りは豊かだ。

 すずなりに連なる赤い実。丸くて透き通る、ちょっとくぼんだ赤い実。濃紺のブルーベリーみたいな実。

 うん。

 つまり、私は山の木の実がさっぱりわからない。

 インドア派に、山のことなどわかるはずがないのだ。せいぜい、あ、これ見たことあるかも? くらいの理解である。

 食べられるのか食べられないかもさっぱり。うっかり毒だったりしたら怖いなあ。

 でも、これだけあって食べないわけにはいかない。食べられるものが判明したら、今後の生活ももっと豊かになるわけで。


 そういうわけで、石鹸の合間に私は試食会をしていた。

 ニワ子と名無しを誘ったが、「わざわざ死にたがる理由がわからん」との理由で断られた。冒険心のない奴らめ。


 試食するのは、山で取った果実に加え、刈り取った野草。根。そして茸だ。

 いや、茸はやばいでしょ。そう思わないでもない。山菜の知識のない私には、茸の知識なんてあるわけがない。正直、確実に中ると思っている。なんなら、一度くらいは死ぬんじゃないかと思っている。

 しかし待て。

 私はなにも、望んで死にたがっているわけではない。できれば死にたくない。人間だもの。

 だが、長期的に見れば、食べられるものが増えるのは重要だ。例えば拠点を離れ、大豆もなくなった状態で、食べなきゃ死ぬというとき。目の前の茸を食べられるかどうかの判断が命取りになる。間違った方を食べて死に、その死体を野生動物にさらわれて、無間地獄再来の可能性だってある。未来を見据えれば、食料を見抜く目は絶対に必要になる。

 そして、食べて死ぬなら今しかない。大豆収穫が終わり、冬までまだ時間はある。時間にも食料にも余裕があり、体力があるために生き返りも早いであろう今。

 新規食料開拓のために、少数の犠牲を払うことができるのは、このタイミングしかないのではなかろうか――――?


 というわけで、いざ実食。

 ぐえー(吐血)。


 大豆を通さないとなんにせよ食べられなかった。

 猿並みの反省。


 大豆と共に小鍋に入れて、一度火を通してから再チャレンジ。

 いざ実食(嘔吐)。


 これ、やばそうな色してるな、死ぬ覚悟しよ(おいしい)。


 これ、さっき食べたのと似てるしいけるやろ!(臨終)




 そんなこんなで、石鹸づくりが終わってから、二回くらい死んだ。

 一度の復帰に一週間。二度で二週間くらい。死んだら解体してくれと遺言を残したので、復帰はけっこうはやかった。

 ただ、プラスアルファで食当たりやら中毒の回復に寝込んでいたので、合計で一ヶ月くらい経ってしまった。

 不本意ながら二度も自殺したうえ、遺体の解体まで求めた私を、同居人の二人は不気味そうに見ていた。

 が、よく考えたらもともとだったわ。無問題。


 結局、勝率は五割くらい。

 半分くらいは食中毒を起こして、半分くらいはまあ食べられた。その中でも、ちゃんと美味しく食べられそうかな? というのはさらに半分くらいか。

 食中毒にも程度差があって、腹痛数時間で済むものもあれば、その場でけいれんをおこすものもあった。少量しか食べていないせいもあるんだろうけど、死に至るものは案外少ない。死亡事故は二例だけだ。片方は呼吸困難による死だったので、とてもつらかったです。

 しかし、意外と食べられたと言うべきか、意外と食べられなかったと言うべきか。

 茸の死亡は一度のみで、雑草による中毒死があったのも意外だ。今まで平気で刈った端から食べていたけど、危ないことしてたのね。こわいなあ、とじまりしとこ。


 食べられたものは、その特徴をよく覚えておく。

 茸は食べられるものと食べられないものが、ほんと詐欺みたいによく似ているから、厳密にチェックしておかないとだめだ。

 紙があれば、この特徴をメモしておけるんだけどなあ。仕方ないから板に刻み込んでおく。そのうち、筆記用具も作る必要があるだろうなあ。


 でも、おかげさまで食料はかなり集まった。

 食べられる判断以外にも、美味しいもの判断もけっこうできた。果実の中には甘味が強いものもあり、苦みばかりを食べ続けてきた身には、染みわたるほど美味かった。

 木の実の名前はわからないけど、まあいい。ニワ子たちにも食べさせてあげよ。


「…………イチイの実だな」

「は?」

「それはホテイシメジだ。酒と食べると毒になるぞ」

「は?」

 名無しの野郎が、私の集めた食材を見て言い放つ。ついでに、非食用として除けたものも見ている。

「……この捨ててあるものはトリカブトだな? 噛み跡がある。よく食べたな貴様、こんなもの」

 は?

「大豆のおかげで、原始的な知識が少し蘇っているようだ。食えるか食えないかの判断くらいはつくぞ」

「はああああああ!?」

 ふざけんな! 死ね!

 死んだの私だ! シット!

「気が狂ったかと思ったわ。我の力で狂うことなどあるまいに」

「早く言え――――――!!」


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