表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

28/81

22.冬支度(2)

 やりました。



 罠を再稼働させ、小動物を数匹。

 枯れずに残っている食用草を一束。

 木々の森の目をかすめて、落ちているドングリをちょこちょこと。



 冬支度の追い上げ時期なのか、意外とまだ罠が役立ってくれていた。

 ただ、さすがに前よりも収穫は減った。獲物側が学習したのか、それとももう冬眠がはじまっているのか、あるいは触手から逃げた獣たちがまだ戻りきっていないのか。

 そうそう、全生物が裸足で逃げ出す触手効果も、人間姿になっては威力を発揮していないらしい。触手がいると獲物も全部いなくなるから、助かるといえば助かる。

 代わりと言ってはなんだけど、森には入れなくなった。前に森の奥まで行けたのは、触手がいて木々が大人しかったからなんだね。危険がなくなったら、現金にもまた嫌がらせをしてくるようになった。

 森の奥に行けば、木の実の収穫なんかでも食っていけそうなんだけどな。

 落ちてるドングリだけじゃ、腹は膨らまないぜよ。


 食料以外にも、枯れ葉と枯れ枝を大量にかき集めてきた。

 冬ごもりをするのに、火がなければ凍死しちゃうしね。

 ここってどう考えても山奥だから、雪も降るだろうし、かなり寒くなるはずだ。火を絶やさないよう、一冬越せるくらいのストックが欲しい。



 捕まえた獲物はすぐに仕留め、皮を剥ぎ、肉を解体する。剥いだ皮は洗って干して、肉は食用に。何度も繰り返すうちに、なんか手際が良くなってきた。

 解体慣れてくると、だんだんもっといい道具が欲しいなあとか欲が出て来るけど、今はそれどころじゃないので後回し。


 そんなこんなで数日。

 食料は今のところどうにかなっているけど、収穫が減って食い扶持が増えたせいで、ストックに回す余裕がない。

 日に日に日照時間も減っていくし、寒さも肌で感じるし、でもこれ以上効率を上げることもできないし。

 やりました、って言ったわりに、もしかして全然やれてない感じですかね?


 ちなみに、私があれこれ駆け回っている間、ニワ子と置物がなにをしていたかというと、立派な置物をやっていた。

 朝起きて、私が駆けまわる姿を横目にだらだらして、昼寝して、獲物の解体をする私を覗き見たりして、夜になると一緒に食事をとって寝る。

 う――――――ん、これは疑念の余地もなく置物。

 せめて水汲みくらいしてこいや。



 と言って置物をけしかけると、「承知した」と案外素直に頷いた。

「して、水汲みとはどういったものだ?」

 うーん、無能!


 仕方ないので、水汲みのレクチャーです。

 私と置物が出かけようとすると、「あたしもあたしも!」とニワ子がついてきた。君に水汲みは難しいと思うんだけど。

 彼女、日々置物と共に寝たりだらけたりしているけど、なにかやりたい気持ちはあるらしい。ただ、いかんせん鶏だ。できることに限りがある。

 畑が稼働中は、虫をとってくれて助かったんだけどな。この子にできる仕事ってなんだろう。

 頭の中に鶏肉が浮かんだが、さすがにそれは鬼畜すぎでしょ。羽毛も却下。「コケー」しか言わない状態ならまだしも、今は普通に言葉が通じるのだ。「やだやだ助けて!」なんて声を聞きながら、羽をむしるのはちょっと……。


 などと思案する道中。

 川原への道は、以前よりちょっと快適になっている。


 触手に食われる前に作りだめていたタイルが固まったからね。

 それを道の代わりに敷いたのだ。

 これで、川原への道に大豆を撒かなくてもよくなるし、うっかり芽が出て、台無しになることもない。大豆の場合だと、成長に応じてバリアの効果が変動するけど、タイルだとそのあたりも問題ない。

 なにより、歩きやすい。今までは、むき出しの地面を裸足で歩いていたからね。柔らかい土のある場所ならいいけど、うっかり石があったり虫がいたりしたら、足裏に直ダメージがくるのだ。

 だけどタイルだと、そんな心配もない。かなりいいアイディアだと思っている。


 これ、畑拡張の際にも導入していきたいなあ。

 また大豆の枯れ葉や枯れ枝が出たときに量産してみよう。粘土の取れる場所も、もう少し探してみないとね。絶対に不足すると思うし。


 なお、タイルの恩恵を受けているのは私だけの模様。

 タイルついでに足元を見たとき、置物の野郎が靴を履いていることに気がついたからだ。

 は?

 よくよく考えてみれば、この男、服を着ている。黒い長袖に黒いスラックス。黒い手袋。あったかそう。

 は????

 なんで長袖着てるの?

 私半袖半ズボンなんですけど??

 それも、血まみれ体液まみれで、洗っても洗っても腐臭が落ちない。一枚を着続けたせいで布がボロボロ。ちょっと力を入れると普通に裂けるレベルの代物なんですけど。

 いや全裸で来られても困るけど、ずるくない? 長袖は半袖も兼ねられるけど、半袖は不可能なんだよ? 袖伸びないんだよ?


「その服、どこから出たんですか?」

 衝動的に尋ねてみると、水がめ二代目を抱える置物が、私を見やった。

「人は服を着るものだろう?」

「はい」

「人の姿をかたどるときに、服を着ているのは当たり前だろう」

 ふーん。人型とワンセットでついてきた感じ。原材料はなんなんだ?

「替えの服はないんですか?」

「ない。だが、服の形を変えることはできる」

 おっと。意味不明の言葉。

「この服もまた、我の一部。多少の融通は効く。それに、服は場に合わせて変えるものだろう。……貴様はその服が気に入りのようだが」

 やかましい。

 好き好んできているわけじゃないわ! と怒りにあかせて黒い長袖を引っ張れば、置物が思いがけずつんのめる。

「痛っ」

 掴んだの、袖なんだけど。

「いきなり人の体をつねるとは。なんと無礼な小娘だ」


 ……………………。


 その服、感覚あるの!?





 冬の川原は寒々しい。木々が途切れ、風が吹き抜ける。

 ここにこうして水を入れるのだと示してやれば、置物は素直にまねをする。

 水を汲んだ桶の中、最後に大豆を放り込もうと中を覗いたとき、ふと見慣れない影があることに気がついた。

 水の中で、スイと動くその小さな影。

 魚だ。

 小指程の大きさで、大豆を入れるとしばらく苦しんだのち、何事もなかったように泳ぎ出す。たぶん無害化されたのだ。


 なるほど、魚。

 魚か。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ