18.収穫
つつがなく夏が終わり、秋のはじめ。
たいしたイベントもなく、大豆が実ってくれました。
夏の終わりから秋にかけて、私がしていたことといえば、罠チェックと大豆の葉入り土器の作成だ。
罠の方は、さすがに最初よりも効率が落ちた。小動物側も学習するのか、なにもかからない日が続いている。ま、それまで入れ食い状態だったので、こういうこともあるでしょ。食べ物的には早急に対処が必要なほど困ってないので、もう少し様子を見てから考えよう。
土器の方は、現在レンガとタイルを大量生産中。
粘土という粘土を掘りつくす勢いで採掘し、なくなったらまた探し、ひたすらに作り続けている。木組みの型でひたすら形をそろえた直方体の集団は、現在日干しで乾燥中。乾かした後は、順次かまどで焼いて行くつもりだ。
そのレンガ造りの途中で、ついに大豆が収穫期を迎えたのだ。
枝豆の時期を終えた大豆は、急速に枯れていった。
青々とした緑は、今や色あせた枯れ草色。葉は落ち、風が吹くたび大豆のさやがカシャカシャ鳴った。落ちた葉は当然回収済み。大事なレンガの材料です。
そんな枯れ草みたいな大豆のさやの中に、見知った大豆が収まっていた。
こうなるともう、すべての作業は一時中断。最優先事項の大豆様を、丁重に収穫せねばなるまい。
収穫した大豆、実に千粒に上る。
おおおお……あの猪の野郎にめちゃくちゃにされてなお、これだけの大豆が手に入るとは。
トイレわきや、川原に向かう道すがらにも、大豆が育ってくれていたのが幸いした。もしかしたら、他にもあちこちで投げた大豆たちが、逞しく育っているかもしれない。確認する術がないのが残念だ。
大豆収穫後の、茎や葉にももちろん活躍の場は用意されている。
茎は繊維を取り出して、麻(仮名)とより合わせて糸になってもらう。葉はレンガへ。根っこは……根はどうしようかな。
と思って根っこを掘り出してみると、なんかちょいちょいコブがある。これって噂の根粒菌? 食べられるかな?
気になるけど、根っこの処遇は後回し。
今は豊かな大豆に気持ちが向かう。
大豆千粒。今まで見たことのない量だ。自然と、心がワキワキしてくる。
千もあれば、一日一粒食べても余る。鶏と合わせて、一年間で七百三十粒だから……二百七十粒も残る! わはははは!
わは…………意外と少なくない?
二百も残ると考えると多そうな気がするけど、あくまで一日一粒食べたらペースだ。食事につき、最低一粒は使用するから、一日一食しか食べられない計算になる。
それに加えて、大豆は武器であり、防具でもある。大豆バリアでこの洞穴を守り、大豆を投げて敵を追いやる。武具としての大豆は、一度で数十は使うであろう消耗品だ。
さらには、来年用の種大豆もストックしておかなくてはならない。今年は二十植えたけど、来年はせめて倍。できれば百くらいは大豆を植えておきたい。
うっかり失くしたり、鶏がつまみ食いしたり、保存失敗で腐ったりの不慮の事故まで考慮すると、案外ぜんぜん、まったく余裕がない。
やったー大豆祭りだー!
などと浮かれて、うかつに大豆の水煮を作るところだった。きちんと保存しておかないと。最低限、一年分の大豆と生育用だけはよりわけておこう。
保存用だから、乾燥もさせておいた方がいいかな? パッと見は乾いているけど、うっかり根っこでも出たら来年が来ないからね。
来年の植え付け用大豆は乾燥させて、鶏に盗まれないよう、蓋付きのつぼの中に封印。
一日一粒用大豆と護身用大豆は、つぼをわけてそれぞれ保管。
なんにせよ、大豆があるのはいいことだ。心に余裕が出る。
――――さて。
大豆を得たということは、ついに遠征が可能になったということだ。
今の私には、手槍という武器もある。食事も十分とれており、体力も十分。道具もいろいろ用意できるようになった身だ。
さすがに海にまではいけないが、ここらでもう少し、行動範囲を広げてもよいのではないだろうか。
余剰がそこまでないから、下準備は念入りに。あまり深入りはせず、危ないと思ったらすぐ逃げる。勝てると思ってはいけない。
常に慎重に、一番の安全策をとるべし。慢心はいかんよ、慢心は。
まあ、ここまで生き延びてきた私だし? 大豆だってあることだし?
死にはしないでしょ!
槍持った。大豆持った。非常食持った。原始人スタイルよし。鶏お留守番よし。
よしよし。
じゃ、いってきまーす!




