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17.余裕綽々

 ところがどっこい、まだ夏の思い出を語る。


 糸をより、暖簾を作る傍らで、私は今後の食生活について考えていた。


 猪肉は、現在絶賛加工中だ。

 かまどの周囲に配置して、燻していた肉たちは、実は半分近く駄目になってしまった。

 原因は、肉同士が密集しすぎていたからだと思う。置き場所がないからって、肉同士重ねてしまったのが悪いのだ。

 肉と肉に挟まれた中央部分がいかれてしまったので、泣く泣く捨てることにする。


 捨てる先は、いわゆるあれである。

 肥溜めである。



 まあそれはいいとして、肉。

 残る肉は、きちんと広げて、肉同士重ならないように注意した。

 きちんと広げると、かまどだけでは場所が足りないので、その辺の土器にも張り付けておく。

 あと、解体残だった前足二本は、骨を抜いて肉を開き、天日で干すことにした。

 最初は石の上に広げて置いておいたんだけど、途中で糸ができたので、肉の一部を縛って吊るしてある。

 この気候なので、もう結構乾いているんだけど、どこまで乾かせばいいのかわからないので徹底的に吊るすことにした。次に雨が降ったときに乾燥終了させよう。



 食べる方も、近々で困っているわけではない。


 モツはもう食べきったけど、それこそ保存食用に大量の肉があるのだ。草と合わせれば、まあまあ生きていける。


 ただ、だからといってこのまま何もしなければ、保存食を食いつくすだけだ。

 それに、私の体は塩分を求めている。汗で塩を流すばっかりで、全然摂取が足りてねえ。ナトリウム欲しい。


 だから、欲しいのは塩と食料。できればタンパク質系が望ましい。

 繊維を煮たり糸を寄ったりしている間、私はそんなことをずっと考えていた。



 塩ってどこで手に入るんだ?

 海か? 海まで行かないとダメ?

 山じゃ無理かな。岩塩とか。でも日本で岩塩って聞いたことないなー。ここ、日本かどうかわからないけど。植生は日本っぽいんだけど、ちょいちょい外来種いるし。セイヨウタンポポ生えてるし。

 そもそも、岩塩ってどこで取れるんだ? 鉱脈あるの? その辺に落ちてるの?

 って考えると、岩塩は望み薄。かといって、どう考えても山であるこの場所から、海まで遠征なんて、今の資産じゃ無理無理の無理。大豆が米俵位あって、やっと山を下りられるレベル。

 ということで、塩への渇望止まないけれど、ちょっと今は保留にする。どうしても塩分不足に耐えられない場合は、最悪、汗を集めて蒸留することも視野に入れよう。これぞ究極の地産地消。



 塩が無理となれば、次は食料だ。


 大豆がなければ山の上にも下にも行けないわけだし、現大豆ストックはゼロ。育成中大豆は今なお青々としていて、大豆の最終形態まではもう少しかかりそうだ。

 大豆未装備だと、探索できても洞穴近辺か、せいぜい川くらいまでだ。枝豆程度だと、下手すると「勝てる」と思った生き物が襲い掛かってくる可能性もある。

 大豆は強力な武器だけど、逆に危険な生き物を引き寄せることもあるんだよね。

 なんというか、呪われしアイテム感がある。

 などと大豆をディスってみるけど、私単品でも襲われることからかんがみるに、私も呪われているよね。そのうえ大豆みたいに相手をねじ伏せることも、無害化することもできないから、攻撃力のない呪われた剣みたいなものか。まごうことなきゴミアイテムやわ。

 しかし、呪いも逆手にとれば役に立つ。




 そういうわけで、糸紬の合間に罠を作ってみました。


 狙いは小動物。ウサギ未満のサイズだと望ましい。

 罠は単純な落とし穴だ。少し深めに穴を掘り、中にはぴったりサイズのつぼを嵌めている。普通の土のままだと、横穴を掘って逃げられそうだしね。作っただけで使ってなかったつぼ達が、意外なところに雇用されたものだ。

 罠の餌には、枝豆半分を用意。このくらいなら、小動物も勝てると思ってくれるはずだ。

 落とし穴を隠すのは、古典的な枝や枯れ葉。洞穴周辺に余ったつぼの数だけ作ったから、結構な数になった。うっかり私が引っかからないように注意しないとね。

 あとは、獲物が罠にかかってくれるのを祈るだけだ。

 上手くいってくれるといいなあ。




 と不安に思っていたのが馬鹿馬鹿しいくらい、罠は入れ食い状態だった。

 いやあ、かかるかかる。ウサギ、タヌキ、ネズミにリス。たまに餌だけなくなっていることもあったけど、それも気にならないくらいによくかかる。


 罠にかかった獲物は、猪の骨で作った手槍で躊躇なくグサリ。

 あ、手槍、作りました。余った糸と木の枝と、猪の大腿骨で作った初の武器。攻撃力はそこそこ。装備すれば原始人感マシマシ。殺生に抵抗がなくなる効果あり。

 狩った生き物は皮を剥ぎ、肉を干して保存食にする。剥いだ皮の方は、毛皮にできないか模索中だ。煮たり叩いたり干してみたりして、いろんな産廃が出来上がっている。


 洞穴周辺には、無数の獣の皮と骨。

 無数の頭骨や血まみれの武器に囲まれているけれど、今の生活は、この世界へきて一番安定している。

 もっといい生活がしたくないわけじゃないけど、これはこれで心穏やかだ。

 食事をきちんとしているおかげで、怪我をしてもすぐに治る。鶏がいるから寂しさも紛れる。糸も作れるようになったし、食事もあるし、水もある。猪以来、大型獣はこの辺りに姿を見せなくなった。

 慣れれば案外、やっていけるもんじゃない。人間どんな場所でも適応できるものだ。

 最初こそきつかったけど、半引きこもりが余裕で暮らしていけるなんて、異世界さんサイドも根性が足りない。

 いや、むしろ私が優秀過ぎた説あるか? 意外な才能発揮しちゃった?

 わはははは。


 大豆の収穫も、きっともうすぐだ。

 これでもっと楽になるぞ!


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