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16.虫対策

 で、先日で大豆が切れたわけだ。



 猪以降、大型獣が畑を荒らしに来ることはなかった。

 プランターに移した大豆は、再び畑に植え直し、順調に実を膨らませている。そろそろ花も打ち止めらしく、あとは実が大きくなって、枝豆から大豆に変わるのを待つだけだ。

 半数以下にまで減った大豆畑だが、相変わらず小型の獣を寄せ付けない程度の力はあるらしい。

 ただし、それはあくまでも、地を這う獣に限るらしい。

 大豆畑を頭から飛び越えてくる存在には、畑バリアはあまり役には立っていない。


 今までは、洞穴内に山ほど大豆があった。

 だんだん減っていったとはいえ、大豆は一つあたりの大豆力が高い。小さな生き物なら、大豆一粒でかなり敬遠させることができていた。

 だが、その大豆がなくなってしまったおかげで、厄介者たちが居ついてしまった。



 ――――虫である。


 寝苦しい暑い夜。頭の上を飛び回り、耳元で「ブ――――ン」と音を立てるけど、飛び起きるとどこにもいない。怒り任せに枝豆のさやでも投げつければ、そそくさとどこかへ飛び去って、しばらくすると図々しくも戻ってくる。

 気がつけば全身あちこちに刺し跡があり、かゆみと痛みで発狂しそうになる。

 夏の風物詩なんてもってのほか。滅ぼしてしまえと元の世界にいたときから、ずっと主張を続けてきた。

 人類の仇敵。もっとも人を殺した生き物と名高い――――蚊である。


 しかも、この世界の蚊だ。ただ刺して、ただかゆくするだけでは気が済まない。

 きっちりと毒を持ち、刺されるたびに熱が出る。刺された場所はやけどみたいに赤くなり、水膨れのように膨らんでしまう。さすがに蛇ほどの毒はなく、刺されただけで腐り落ちるほどの威力はないが、何分数が多いだけに厄介だ。



 洞穴内が安らぎの場ではなくなってしまった。

 鶏はうんざりして、大豆畑の中で眠っている。あいつは小さいからいいけど、私が寝ると寝返りついでに大豆をへし倒しかねない。


 どうにかして、虫の侵入を防ぎたい。

 どうにかならんものか。



 あっ。



 思いついたので早速活動開始。

 まずは、猪にやられた大豆の茎をチェック。


 駄目になった大豆は、枝豆だけ取って乾燥に回していたのだ。

 乾燥させたら粘土に混ぜ、植物避けの土偶を量産するつもりだったけど、一部予定変更。茎だけを回収し、縦に裂いて繊維チェック。

 うーん……強くもないし、弱くもない。そもそも生繊維のままで良いのかな? 腐らない? どのくらいの細さにすればよいのかわからん。


 わからないときはいつも通り、いろいろパターンを試してみる。


 太くしたり、補足したり、乾燥させてみたり、そのまま使ってみたり。

 あとは、大豆の繊維だと強度が不足しそうなので、そこらへんの草をいろいろ刈って試してみよう。




 いろいろやった結果、生は駄目だった。プツンプツン切れる。

 干してみたものは悪くない。ただ、ちょっと加工には固い。

 蚕の繭を煮る要領で、干す前に一度煮てみたやつは、なかなか。しなやかさが増した気がする。


 草によっても、頑丈さがかなり違っていた。

 当たり前だけど、茎が丈夫で刈りにくい草ほど、繊維も丈夫だった。いくつか試した中で、一番丈夫な草を選び出し、大量生産の犠牲になってもらう。周辺を探し出し、嫌がる草を刈りつくし、全部煮詰めて繊維にしてやった。

 名前のわからないこの草、たぶん違うけどとりあえず麻と呼ぼう。今後も固そうな茎を見つけたら繊維を取ってみて、丈夫さを比較。より頑丈そうな方を麻と呼び変えて行こう。そのうち、本物の麻に巡り合えるでしょう。


 煮詰めたあとは、天日に晒して乾燥させた。この気候だと、一日あればあらかた乾燥してくれるからありがたい。

 そうして作った、大豆繊維と麻の繊維。さらに繊維に沿って裂く。どこまでも裂けるので、加減を知らない私はどこまでも裂く。最終的に、直系〇.一ミリくらいになった。黙々とした作業に限界を感じたので、この辺でギブアップ。

 このひたすら細くした繊維。なにをするかと言えば、より合わせていくのだ。

 これもまた淡々と、三日くらいかけてよっていく。延々と続く気の狂いそうな作業なので、途中で食料の調達だったり探索だったりに出かけたけど、それを語るのはまた別の機会に。


 で、出来上がったのがこの糸。やろうと思えば案外作れるもんだね。

 長さは……五十メートルくらいはあるかな? 細いと強度が全然出なかったので、細めの毛糸位の太さになってしまっている。


 本当は、これを織ってカーテンみたいにしたかったけど、出来上がった長さがぜんぜん足りないし、織る方法もないから断念。

 代わりに、日曜大工をすることにした。


 太くて頑丈な枯れ枝を三本探して、二本は洞穴の入り口左右に立てる。残り一本は、立てた二本の上部に、橋渡しをするように結びつける。

 入り口を鳥居のように囲う木組みができたら、横に渡した木に、糸を括り付けていく。だいたい十センチ間隔。地面に届くくらいの長さまで、糸を等間隔につるす。

 風が吹くと、糸が巻き上がるので、糸の足元を細めの枝でくくる。出入りがしやすいように、一本の長い枝ではなくて、短めの枝で数本ずつ糸を束ねる。


 そうして出来上がったものを、私は洞穴の中から見上げていた。

 大豆の効果範囲、十センチ四方。弱い生き物は近寄りたがらないため、空を飛ぶ虫たちも避けて通る。これで、蚊の侵入も減るだろう。


 しかし、こうして見ると、これはあれだ。暖簾だ。

 本当は蚊帳っぽくしたかったけど、そこまで糸を量産できる体制ではなかった。だから、上から糸を垂らすだけにしたんだけど、出来上がってみれば見覚えのある形になっていた。


 なんだか、ちょっと風流みある。

 夏の日差しをさえぎり、縞々の影が洞穴内に浮かび上がる。

 風が吹けば、重りにつるした木の枝が、カンカンカンと鳴らしあう。

 ここにきて、なんか生活に余裕が出てきたな?

 風を受けつつ、風情なんて楽しんでる。やっぱり食の充実は心の充実。もしかして意外とやっていけるんじゃね? なんて思い始めている。

 変に余裕持つと、うっかり慢心しそうになるから気をつけなきゃ。舐めプしたら一気に形勢逆転もありうるで。


 でも今だけは、ちょっと心穏やかに休息を楽しむ。


 洞穴に吹く風は、以前よりも少し涼しくなった。

 夏の終わりが、近づいてきている。


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