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12.VS猪

 あの猪は、大豆畑を荒らすのが目的だった。

 おかげで、健康な大豆の半分を失ってしまったけど、逆に言うと、まだ半分は残っている。


 大豆はこの世界の生き物の天敵。

 弱いうちは、断固として始末するべき存在だ。

 ならば、枝豆よりも強い猪は、再びここへ現れるはず。大豆に育ち切る前に、始末するために。




 そういうわけで、今朝の私は大忙しだった。


 荒らされた畑の後片付けももちろんのこと。夜の対策を考えなければならないのだ。



 というわけで、かまどの位置を移動して、土器の中で一番大きな器に湯を沸かす。

 折られた大豆は、しかたないから枝豆のまま収穫。ちぎり取った枝豆は、お湯の中にぽい。


 枝豆を煮る間、作るだけ作って使わなかった土器を物色する。


 これなんてちょうどいかな?

 長いだけの板。物置なんかに使えないかと、二、三本作ってみたけど、硬度が足りなくてすぐに割れるんだよね。

 あとは、枝豆収穫後の大豆の茎を用意。残大豆は、ポケットの中にセット。

 武器がないのは、正味なところかなり痛い。石器の槍でもいいから、それっぽいもの作っておくんだった。


 ま、しかたないか。

 たまには残虐行為に手を染めるときもあるでしょう。


 さて。

 じゃあちょっと復讐といきましょうかね。


 〇


 翌夜中。予想通り、再び猪が現れた。


 昨日よりは若干警戒しているらしい。猪は用心深くあたりを見回していた。

 かまどの位置が変わっていることに気がついているのか、それともなにか不穏な気配でも察知しているのか。


 獣は鼻をひくつかせ、一歩ずつ足を進めた。

 進む先には、昨日荒らした大豆畑がある。

 掘り返し、噛み切ったはずの大豆の茎が再び並んでいるのを見て、猪は低く唸るように鳴いた。

 様子がおかしいことに、気がついているのかもしれない。


 私は畑の反対側から、猪に向けて、大豆を一つ放り投げる。

 額にコツンと大豆の当たった猪は、不愉快そうに私を見やった。


 腹を立てたように鼻から息を吐き出すと、猪は前足で地面を蹴る。

 それから、勢いよく駆け出して――――。



 畑に足を踏み入れた瞬間。

 ぱきりとがした。



 地面が割れ、周囲の土を巻き込んで落ちていく。

 落ちた先は穴の中。割れた土器と、根元を齧られた大豆の茎が、猪と一緒にいるだろう。


 用意したのは単純明快。

 太古の昔から仮に使われ続けてきた、落とし穴である。

 即席で作った穴の上に、重いものを乗せるとすぐに壊れる土器の板を渡し、土でちょっと隠した後で、猪に折られた大豆の茎を差しただけ。

 他の大豆は、土器プランターに植え替え済みだ。作った土器は無駄なく使う。これがエコロジストのなせるわざ。



 この単純な罠に、猪はものの見事に引っかかってくれた。

 穴の中からは、地面を蹴りあがろうとする猪の鳴き声がする。

 あとは、すみやかにこの猪を仕留めるだけだ。


 昨日の今日で、掘った穴だ。さほど深いものではない。ぐずぐずしていると、すぐに脱出されてしまうだろう。

 だけど、撲殺するにも力が足りない。刺殺するには武器がない。焚火程度の火では、踏み消されてしまう。

 重めの石を落とすのも考えたけど、それで死ななかった場合、最悪踏み台にされて逃げられる可能性もある。


 じゃあどうするか?


 私の背後。

 かまどでぐつぐつと煮えたぎるのは、水がめいっぱいの熱湯だ。あの猪が踏み荒らした枝豆を大量に煮締めて作った、この世界限定の猛毒である。

 枝豆の殻であれ、枯れた葉であれ、大豆由来であるならば、多少なりとも魔除け効果がある。

 少量なら弱く、多ければ強く、大豆に近いほど効果は増していく。


 枝豆を凝縮した熱湯は、熱かろう。

 液体なら、振り落とすことだってできるまい。


 私は煮え立つ素焼きの水がめを、素手のまま抱きかかえ、猪の頭上に放り投げた。


 ガチャンと水がめの割れる音がして、そのすぐ後に、猪の甲高いほどの悲鳴が響いた。



 ……熱湯である必要はないんじゃないかって?

 大豆の効果は、あくまでも相手を怯ませ、無毒化・無害化するだけ。その過程で苦しんだり怯んだりはするけど、死には至らない。



 ただの枝豆水じゃ、殺せないじゃん。


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