勇者になんてなるわけねえ
是非、のんびりとゆったりとみて言って下さ~い。
道行く人々の視線の全ては、雑踏のなかを歩く、一人の少年に向けられていた。
少年の名は音無 唯。彼は十八歳という若さながら企業の経営を手掛け見事成功し、天才経営者として世界の注目を集めるべき存在となった。そのため、道行く人の目は、自然と少年へと引き寄せられていった。
「チッ」
音無は小さく舌打ちをすると、スマホに向けていた目線を上げ、鋭い目つきで周りを見やる。すると、先程まで視線を向けていた人々は気まずそうに目を伏せ、さっささっさと早歩きに横を通り過ぎていく。
その行動を見た音無は、また小さく「チッ」と舌打ちをすると、ゆっくりと横断歩道を渡る。途中、携帯を取り出し立ち止まる。音無の視線の先の携帯の画面には何やら変化し続ける折れ線グラフが並んでいた。
信号が忙しなく急き立て始めたとき、ざわめきが波紋のように広がった。
「(うるせえな)」
音無は不機嫌そうに、手元の携帯から視線を上げた。
瞬間、勢いよく向かってくるトラックが音無の目に鮮明に映し出された。
プ――――――――――――
クラクションの音が大きく響き渡る。
急ブレーキをかけたトラックの正面。そこにはもう、音無の姿はなかった。
目前に迫ってきていたトラックは何処へやら、音無の目の前には幻想的で美しい情景が広がっていた。
音無はその光景に唖然とする。
「あの〜、音無さんですよね?」
後ろをばっと振り返ると、そこには、思わず目を奪われるほどの美少女が存在していた。
少女は小さな口を動かし、笑顔でこちらに問う。
「あれ?、音無唯さんですよね?」
その少女は、真っ白な髪を揺らしながら、頭に?マークを浮かべ、オロオロとしていた。
「…そうですけど、なにか?」
音無は顔色一つ変えずに、驚きを隠して、冷静にその少女に応対する。
少女はその答えを聞くと、「よかった〜」と安堵の息と共に、小さく声を漏らした。そして、少女は満面の笑みを浮かべてこう言った。
「私の名前はハテナ•オリフォン。この世界の女神、そして、勇者をこの世界に呼ぶための巫女です。そして、音無唯さん。あなた世界でたった1人しかいない、勇者の素質を持つ者です。
現在、魔王の支配によってこの世界の人々は希望を失っています」
少女はそこで小さく息を吸い、真剣な眼差しでこちらを見つめた。そして、
「どうか、勇者となってこの世界を救ってはもらえないでしょうか」
一瞬の空白。 そして、少年は小さく「は〜」とため息をつくと、満面の笑顔でこう言ったのであった。
「お断りします」と。
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