5.入学式の夜
「マクベス、お茶を入れたよ」
アランフェス学園での入学式が終わり、一緒に屋敷へと帰宅しました。慣れない鎧姿で一日過ごしたせいか、とても肩が凝っています。鎧って重いです。
それに、マクベスは、家では騎士の姿、つまり鎧で私がいるよりも、メイド服でいる方が良いと言っていたので、それも意識してメイド服を着ています。
公的には、既に私は、マクベスの騎士ですが、ヒルスシュタット家の屋敷の中ではメイド兼騎士という立ち位置なので、どちらでも差し支えはないのでしょう。
でも、せっかくメイド服をまた着ることにしたのに、マクベスは何も言ってくれません。今日一日、学園であったこととかを話したいのに、先ほどから本を読んでばっかりです。ちなみに、マクベスは読書を邪魔されると少し機嫌が悪くなる性格です。
「ん、あぁ」
机に置いた紅茶を、本から目を離さず飲みます。マクベスが好きなラウラカン茶を使った紅茶で、疲れが取れる効能があるのですが、あまりマクベスは特に何も言いません。本に夢中になっているようです。
その姿を私は後ろで眺めます。
マクベスの前には積み上げられた本。帰宅途中に話した限り、どうやら課題図書が出されたそうです。本のタイトルから察するに、税金の話、開拓の話、戦争の話、地理の話と様々な本です。
ちなみに、私も文字は読めます。次女とは言え私は教育を受けているのです。
それにしても今日一日、疲れました。マクベスには気付かれないようにこっそり欠伸をします。後ろで控えているのも仕事ですが、学園に通うという慣れないことをすると疲れますね。
「ジャンヌ。疲れているだろうから今日はもう大丈夫だよ」
欠伸したのにマクベスは気づいたのでしょうか。
「え? でもまだマクベスは読書するでしょ?」
「あと少しだけかな。寝間着だけベッドに用意してくれたら下がっていいよ」
「もう用意したよ。お茶はお代わりいる?」
マクベスは本に夢中で、私が簞笥から寝間着を出したことに気付いていなかったのでしょう。
「もう一杯だけ飲もうかな」
ティーカップの底に残っていた紅茶を捨て、カップを別に用意していたお湯で暖め直します。ランプの上で熱していた水は丁度良い温度。ラウラカン茶を使って紅茶を淹れるときは、熱すぎると苦みまで一緒に出てしまいます。高い温度過ぎてはいけません。
ラウラカン茶は、70度から80度の間でもっとも香りと味がでると言われています。また、85度以上の温度では、ラウラカン茶特有の苦みまで染みだしてしまい美味しくなくなります。そして昨年に乾燥させたラウラカン茶は、この時期だと70度より少し低い温度。68度のお湯を使うと良いのです。
「はい、どうぞ」
「ありがとう」
「じゃあ、また明日ね」
私は、マクベスの部屋から退出します。今日は流石に疲れました。早く寝たいです。明日、また寝起きの悪いマクベスを起こさなければなりません。