3.クラス編成
騎士科の入学式は、あっさりと終わりました。それもそのはずです。騎士科は本来、アランフェス学園のおまけのような学科です。
なぜ騎士科が設立されたかというと、騎士が仕える主が学園に通うとなれば、当然護衛として騎士は付き従います。ただ、この学園の生徒の多くが騎士を従えていて、生徒一人に騎士が一人いると言っても過言ではないのです。
そうなれば、40人のクラスであれば、生徒40人にその護衛の騎士40人と、教室が手狭です。だから、主が勉学に励んでいる間、その待機時間に騎士も学ばせては? ということを誰かが思い付いて、そして設立されたのが騎士科です。
アランフェス学園の目的は、正科。つまり、将来この国を支える人達を育成することを目的としています。騎士はそれを陰ながらお支えするのです。
マクベスは、この国の大貴族の一角である、ヒルスシュタット侯爵家の跡取りですから、周囲から期待されていると思います。本人がやる気があるかは分からないですけどね。
入学式が終わると、騎士科のクラス編成です。騎士一人一人に実技を課して、クラス分けをしていきます。AクラスからDクラスで、Aクラスが成績上位の方達が集められます。
「剣術の腕前を見せてもらう」
生徒達が指導騎士のかけ声で整列をしていきます。まずは剣術の試験で、自分が腰に付けている剣ではなくて、木刀を使っての試験です。それも、木刀を持って十メートルくらい離れた案山子のような人形に斬りつける。
ただ、それだけの試験です。当然、案山子のような人形は攻撃をしてきたりはしません。人形ですから当然でしょう。
「Bクラス」
「Aクラス」
「Cクラス」
木の棒を持って人形に生徒騎士が斬りつけていきます。それを見ながら指導騎士の方は次々とクラス分けをしていきます。
「セルシアさん、どうしてこれでクラス分けができちゃうのですか?」
バリスハウゼル侯爵家のダルシスさんの騎士、セルシアさんと私は入学式の席で隣通しで座りました。マクベスとダルシスは仲が悪いみたいだけど、私はせっかくセルシアさんと知り合いになれたのですから、是非友達になりたいです。アランフェス学園での友達第一号はきっとセルシアさんです!
「見れば力量くらい分かるものだ」とセルシアさんは答えてくださいました。
セルシアさんはどうやら、男性っぽい口調を話されるようです。とっても凜々しい感じです。胸は私より大きくとても女性的な方ですが、凜々しい、頼りがいがある騎士というように感じます。ちなみに、セルシアさんが私より胸が大きいのはきっと、私よりも2歳年が上だからでしょう。セルシアさんは、17歳だそうです。
私も胸の成長が始まったら、鎧の胸の部分を調整しなければならないと思います。騎士の鎧は全てオーダーメイドです。そして造る際には、肩幅と胸のカップをばっちりと量られます。装着する者のカップの大きさによって、鎧の胸部の膨らみが変わるわけです。
つまり、鎧の胸元がDカップであれば、その装着している人もDカップと直ぐに分かるのです。騎士の鎧を着て外を歩くというのは、自分の胸の大きさをさらけ出して歩いているようなものなのです。
夜会のドレスのようにコルセットで上げて、こっそり布を詰めたりできません。
そして、マクベスは大きい方が好きなのです。本人はそんなこと言いませんが、舞踏会に行ったときのマクベスの視線の先を見ていたら簡単に分かります。
「ジャンヌ。まず、あの騎士はAかBクラスだろう。おそらくBかな?」
「え? まだ構えただけですよ?」
セルシアさんは、まだ生徒騎士が木刀を構えただけなのに、どのクラスに分けられるか言い始めました。
「Bクラス」と指導騎士が言いました。
「セルシアさん凄いです。本当にBクラスでしたよ! 予知能力ですか?」
「予知とか、そんなはずないだろう。先ほどの騎士は、左脇辺りに隙がある構えをしていた。わざと隙を作っているならAクラスだが、あれは本人の構えの癖だと思ってな。矯正が必要だろう」
「へぇ。いろいろな事が分かるのですね! セルシアさん凄いです!」
「いや……というか、ジャンヌは対人で試合をしたことなどないのか?」
「剣でですか? 無いですね。剣を初めて触ったのがつい最近ですし……。あっ! でも、お屋敷の菜園に実ったトマトを狙った鳥を箒で撃退したことはありますよ?」
「そうか。まぁ、これからということなのだろう。さて、そろそろ私の番だな。お互い健闘しようじゃないか」
セルシアさんの番となりました。セルシアさんは構えて……早っ! あっという間に、案山子までの十メートルを移動して、木刀で人形の胸を付き、そして人形の首部を木刀で斬りつけました。
人形の首が飛んでしまいました。丈夫そうな人形だったのですが、流石は私のアランフェス学園の友達第一号のセルシアさんです。
「Aクラス。代わりの人形を用意する。それまで待機」と指導騎士が言います。
きっとセルシアさんの剣の威力が凄かったのです。
それにしても、そろそろ私の番です。緊張してきました。人形が運ばれてきます。そして設置されていきます。待っている間、私はどんどん緊張してきます。
セルシアさんはAクラスです。せっかく友達になれたのですから、私もAクラスに入りたいです。
「次!」
人形の準備が終わり、またクラス分けが始まりました。
いよいよ私の番です。とっても緊張しています。それでも! と私は前に進み出て、人形に向かって木刀を構えます。
一度深く深呼吸をして……
「Dクラス!」
あれ? 私がまだ一歩も動いていないのに、指導騎士は私のクラス分けをしてしまいました。
「あれ? まだ私は何も……」
「人形の交換で時間が押しているのだ。それに、構えを見ただけで素人と分かる。お前は基礎からだ! 次!」
私はDクラスでした。
「セルシアさんと同じクラスが良かったです」
「それは今のままでは難しいかも知れないな。半年後にまた入れ替え戦があるから、それまでお互い精進だな」
「はい!」
Dクラスとなってしまいましたが、Dクラスでもきっと友達できると思います。