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2.アランフェス学園入学式

「意外とたくさんの人が集まるのですね」


 アランフェス学園。王都の北東部の広大な敷地を有する学園である。入学式の会場へと続く行列をマクベスとジャンヌは眺めていた。


「国中の15歳の貴族の子息女が集まるからね。あと、将来有望な平民の人。おそらく、学園の学生数は千人を超えていると思うよ」


「友達100人以上作れますね」と嬉しそうに言うジャンヌに対して「呑気だなぁ」とマクベスはひどく冷めている。


「マクベス様にもお友達が出来たら、是非紹介をしてくださいね。それじゃあ、私は、騎士科の入学式の方に行きますね」


「ジャンヌ。大人しくするんだぞ? 知っていると思うが、宝玉が騎士となるべき女性を選ぶ際には、血筋が関係しているという説が有力だ。そして、ジャンヌの家系から騎士を輩出したことはない。血でいえば、とても珍しい」


「それくらい知っていますよ。遡った限り、騎士となるのは当家では初めてです!」とジャンヌは胸を張る。


「いや、分かっていないよ。逆に言えば、騎士を輩出した家柄は、宝玉に選ばれることを前提として、騎士になる訓練を幼いころからしている」


「知ってます、知ってます。だから、宝玉に選ばれる可能性を上げようと、血を濃くしようとしている人だっているのですよね。宝玉に選ばれた私も、引く手数多かもしれないってことですよね? 大丈夫です! 私は一途ですから!」とジャンヌはマクベスをちらりとみた。

マクベスは自分の思いに気づいているのかは分からない。むしろ、自分の血目当てで近づいてくる男に自分が簡単になびくとマクベスが思っていることが気になる。そんな軽薄な女ではない。親も、マクベスと婚姻を結んで欲しいと思っているであろうし、親も他の家からの結婚の依頼が来ても断るはずだ。


「ちがうね。そこが問題じゃない」


「結構重要なところだと思いますけど?」


「ジャンヌは一週間前に宝玉に選ばれ、騎士となった。問題は、宝玉に選ばれることを前提として騎士の訓練をしている人たちがたくさんいることが問題なんだよ。ジャンヌは剣を触ってまだ一週間。僕から見ても満足に素振りもできない。だけど、物心つく前から剣を振っていた人たちがたくさんいる。そして、そんな人たちは実際に宝玉に選ばれ、騎士になっている。そんな騎士たちと戦っても、ジャンヌは絶対に勝てないからね? 争いになったらまず負ける。だから、争いは避ける。いいね?」


「どうしてそんなに真剣に言うんですか。それって、私が誰かと喧嘩する前提じゃないですか!」とジャンヌは顔を膨らます。実際にジャンヌは肩書きだけ騎士であると言ってよい。だが、それではあんまりな気がする。


「ジャンヌが喧嘩をするつもりがなくても、相手が喧嘩をするつもりがあるかも知れない」


「マクベスは心配し過ぎ!」


「いや……実際……」


「これはこれは、ヒルスシュタット家のお坊ちゃまではないですか。こんなところで何をなされているのですかな? 観光ですかな?」と、マクベスとジャンヌの背後から声が聞こえてきた。


「こういった輩が学園には多いんだよ。やれやれ」とマクベスはため息を吐きながら後ろを振り返る。


マクベスとジャンヌの後ろに立っている人物。【バリスハウゼル侯爵家】の長男。【ダルシス】であった。

マクベスのヒルスシュタット家とは中の悪い侯爵家だ。親同士も仲が悪く、そして必然的にその息子達であるマクベスとダルシスも仲が悪かった。


「まったく、君の足りない頭にはいつも驚かされる。この国の貴族の子弟の年齢くらい頭に入れておくべきだね。いや、入らないのかな? 僕も君も、アランフェス学園に入学する年齢じゃないか。そして、常識から考えれば、僕はこの学園の学生になったということだよ。そんなこともいちいち説明しなければ分からないのかい? それに、僕の方こそ君がここにいるのは驚きだよ。【バリスハウゼル侯爵家】の次男は優秀だという噂を聞いたことがあるからね。長男は廃嫡されるものとばかり思っていたよ」


 マクベスが言っている【バリスハウゼル侯爵家】の長男とは、明らかに【ダルシス】であった。


「相変わらず口が回るやつだ。しかし、その貧相な騎士はなんだ?」とダルシスは無遠慮な目つきでジャンヌを見つめてきた。


「なんですって――」とジャンヌが言いかけたのを制し、マクベスは前に進み出た。


そして、「まぁ、お互いこの学園の生徒になったのだから、お互い仲良くしよう」と手を差し出す。


「嫌だね。覚悟しておけよ、マクベス。積年の恨みを晴らしてやるからな」とダレシスはマクベスの差し出した手の甲を弾いた。


「それはとても残念だよ。ところで君の後ろにいるのは君の騎士だよね。僕等に紹介してくれいかな?」


 ダルシスを無視するかのようにマクベスは視線を後ろの騎士に移した。本当にこの二人は仲が悪いのだとジャンヌは思い知らされたと同時に、後ろに立っている騎士は綺麗な人だと思った。

 年齢は、ジャンヌとマクベス、そしてダルシスよりも2、3歳上であろうか。大人という雰囲気を纏っている。


「名前は【セルシア】。俺の騎士だ。馬術、槍術、弓術までも修めている。それに、剣術に至っては超が付くほど一流だ。お前の騎士とは大違いの、自慢の騎士だ」


 ジャンヌは鼻で笑われた。そして思う。このダレシスって男、嫌いだと。


「セルシアさん。初めまして。ヒルスシュタット・マクベスです。そしてこっちは僕の騎士のジャンヌ。先週、宝玉から騎士となる啓示を受けて昨日騎士となったばかりだ。どうか、セルシアさん。ジャンヌを出来る範囲で良いので目をかけてやってほしい」


 そう言って、マクベスはセルシアさんに対して頭を下げた。侯爵家の次期当主として滅多なことでは頭を下げないマクベスが頭を下げている。ジャンヌは少し驚く。侯爵家ともなれば、自分が悪かったとしても相手に謝罪させるほどの地位だ。


「ははは。マクベス。頼む相手が違うぞ。そういうのは、セルシアの主人であるこの俺に頼むのが筋だろう?」とダレシスは勝ち誇ったように笑っている。


 やっぱり、この人嫌い、とジャンヌは思う。


「私だって、掃除、洗濯、料理に手芸。それに、紅茶を淹れることに関してなら、宮廷仕えのメイドに負けない自信があります」とジャンヌはダレシスに言い返した。


「おい。騎士風情が俺に口を聞くな。マクベス。そんなことも教えてないのか?」


 ダレシスの声のトーンが下がった。不快感な表情となる。先ほどまで柔やかだったセルシアさんまで冷たい顔をしていた。


「申し訳無い。謝罪する」


 一瞬の緊迫した雰囲気の中、マクベスが今度はダレシスに対して頭を下げた。


「まぁ、メイド風情が騎士になった。むしろ、そんな奴を騎士に選んだお前の滑稽さに免じて許してやろう。セルシア。マクベスの騎士に、騎士のいろはを教えてやれ。メイドが騎士になろうなどという夢物語を打ち砕いてやれ」


「御意に」


「感謝致します。セルシアさん」とマクベスはセルシアさんに微笑んでいた。


「おい! 俺に感謝するべきだろうが!」


「君にも感謝しよう。感謝の印として、今後、君が蜘蛛が苦手だということを口外しないことを誓おう」


「マクベス! 5年も前の話を持ち出すな!」


「では、もう恐くないと?」


「うっ……」とダレシスは青い顔をしていた。


「良かったな。バリスハウゼル侯爵家の次期当主が蜘蛛が苦手など、秘密にしておきたいことだろうしね。君の秘密は守られた。ところで、そろそろ入学式が始まる時間だ。ジャンヌ。セルシアさんと一緒に騎士科の入学式へと向かうんだ」


「か、畏まりました」


「勝手に俺の騎士に指示出すな!」とダルシスは声を荒げたあと、「セルシア。行け」と指示を出した。


 主君の指示を受けたジャンヌとセルシアは騎士科の入学式へと向かうのであった。

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