クリームスープは、だいきらい
遠くのおんぼろスピーカーから流れる使い古された冬の歌のリズムに合わせてベルの音が鳴る。
温かく包まれた毛布の中を手放せなく、ギュッと身体に巻いたまま、ドアスコープを覗いた。
「神のご加護を、アーメン」
長い夜は明けて間もなくというのに、眠気眼を白い手で擦る子と、側には細身長身の父がドアの前で、信者でもない僕の家の前で、暫く祈りの言葉を唱える。
父の肩掛けカバンには、折りたたまれたパンフレットのようなものが束になって入っており、留守だと判断したのか、そのパンフレットをポストの中に入れ、隣の部屋へと移動した。
もうすっかり身体は冷えてしまった。
珈琲を入れよう。
ポットは、冬前に壊れてしまった。
鍋に水を張り、コンロの火にかける。沸騰を待つ間に、8枚切の食パンを2枚トースターに入れて1000ワットで5分。
バターを出すために、冷蔵庫を開ける。
冷蔵庫よりもずっと、冷えてしまった手は感覚をなくしていて、バターナイフを落としてしまった。それを拾い上げると同時に、小さな鍋が目に移る。
気泡が出てきた大きな鍋の隣に、その小さな鍋を火にかけた。
甘い冬の匂いが、一気に部屋をかけ巡る。
昨日の夜が、今日の朝を少し暖かいものにしようと、クリームスープは小さな鍋の中でとてもゆっくりと温かくなっていく。
僕はクリームスープが大嫌いだ。
それだというのに、私はクリームスープが好きだからと作り始めてしまうし、とても寒いというのに、駅前のイルミネーションを観に行こうと僕を連れ回すし、
苦手な甘いショートケーキと、いつもはいかないお惣菜店のチキンまで買い、僕を少し世間の楽しさと引き合わせようとする。
そんな夜は、君が持って帰って、また穏やかな寒い部屋が戻ってきたいうのに、大嫌いなクリームスープが連れ帰ってきた。
苦いコーヒー、いつものパン、大嫌いなクリームスープ、寒い朝、寒い部屋。
電話が鳴り、声が響く。
「おはよう」