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大きな飴と小さな飴

作者: 三日天下

 エー氏には8歳の甥の娘がいました。嫁いだ姉の娘です。

 ある日、姉夫婦が旅行へと出かけている間、エー氏は甥の娘を預かることになりました。

 娘は飴が好きだと聞いていたエー氏は、さっそく娘を連れてお菓子屋へと行きました。

「さあ好きなお菓子を持ってきなさい。なんでも買ってあげるよ」

 エー氏がそう言うと、娘は嬉しそうに笑って飴の売り場へと走っていきました。

 数分後、娘は選んだ飴を持ってきました。

 しかし娘が選んだ飴は、とても小さな物でした。

 エー氏が飴の売り場を見て回ると、もっと大きくて美味しそうな飴が沢山あります。

 なぜ沢山の飴の中から、この子は一番小さな飴を選んだのだろう。

 エー氏は考えました。

 ああ、この子は遠慮をしているのだな。子供なんだから気にしないでいいのに。

 そう思ったエー氏は、売り場で一番大きくて美味しそうな飴を手に取りました。

「遠慮なんてしなくていいんだよ。こちらの飴のほうが大きくて美味しいよ」

 そう言ってエー氏は娘に大きな飴の方を勧めました。

 しかし娘は首を振りました。

「ううん。私はこっちの飴の方が好きなの」

「けどそんな小さな飴じゃすぐに舐め終わってしまうよ。こちらの飴の方が大きいから長く舐められて得だよ」

「いいの。私、小さい飴の方がいいの」

 その後も、エー氏はなんども大きな飴を娘に勧めました。

 しかしどれだけエー氏が勧めても、娘は小さな飴の方を選ぶのです。

 仕方なくエー氏は小さな飴を購入し、娘に与えることにしました。

 しかしなんだか納得できない気持ちで一杯でした。

 数日後、エー氏はその出来事を従弟の二人に話しました。

 エー氏の話を聞いた二人は、娘に興味を持ちました。

「なぜその子は小さな飴の方を選んだのだろう」

「遠慮したのでないのなら、本当は飴の事が嫌いだったのではないか」

「いや。それはないようだ。あの子が飴好きなのは間違いないらしい」

「それならますます変だ。大きい飴の方が長く舐められる。そちらの方が飴を楽しめるではないか」

「ふむ。わけがわからないな」

 二人は相談しました。

 しかしどうにも判りません。

 何故あの子は小さな飴の方を選んだのだろう。

 気になった二人は娘の元に行きました。

 そしてエー氏と同じように、娘を連れてお菓子屋へと行きました。

「さあ好きなお菓子を持ってきなさい。なんでも買ってあげるよ」

 二人がそう言うと、娘は嬉しそうに笑って飴の売り場へと走っていきました。

 数分後、娘が選んできた飴は、やはりとても小さな物でした。

 エー氏と同じように、二人も大きな飴を勧めました。

 ですが、娘はやはり小さな飴の方を選ぶのでした。

「いったい何故なのだろう」

「判らない。この子は変わった子だな」

 二人はエー氏と同じように、この出来事を知人たちに話して回りました。

 話を聞いた人たちも、その娘に興味を持ちました。

 そして三人と同じように、娘に飴を買ってあげたのです。

 決まって娘は小さな飴を選びました。どんなに大きな飴を勧めても小さな飴を選ぶのです。

 人々は娘のことを噂しました。

「まったくどういうことだろう。あの子はなにを考えているのだ」

「小さい飴よりも、大きい飴のほうが得なのに。なんで小さな方を選ぶんだ」

「本当に判らない。全く変な娘だ」

 誰一人として娘の考えは判りませんでした。

 好奇心から人々は、娘に飴を買い与えました。しかし決まって娘は小さな飴を選ぶのです。

 人々は娘のことを変わった子だと考えました。

 しかし娘は、決して変わった子ではなかったのです。

 娘は本当はとても聡明だったのです。そのことに気付く者は誰もいませんでした。

 大きな飴の方が長く舐められて得だと人々は思っていました。

 しかしそれは間違いであることを娘は知っていたのです。

 もしも娘が大きな飴を選んでしまえば、人々は娘への興味を失ってしまったでしょう。

 そして、誰も娘に飴を買ってくれなくなったはずです。

 ですが、小さな飴を選んでいれば、人々は娘への興味を忘れず、これからも飴を買い続けてくれるのです。

 そちらのほうが大きな飴を買ってもらうよりも、ずっと長く飴を楽しむことが出来るのです。

 そのことを知っていたから、娘は小さな飴の方を選んでいたのでした。

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