娘の成長と上下関係について
さてさて、いつだって子供の成長は喜ばしいモノではある。確かにそうなのだが、同時に不安も芽生えるのが親心ではあるまいか。そう央佳は思うのだが、間違ってはいない筈。
例えばずっと補助輪付きで自転車に乗っていた子供が、それなしでスイスイと走り始めたとして。それは行動範囲の拡大や、自転車の速度アップを意味してもいる訳で。
迷子や事故の確率も、自然と上がってしまうのは致し方ない。
そんな微妙な親心、しかし膝の上に乗っかっている愛娘はとことん素直で従順ではある。何と言っても長女だ、頑張り屋さんで妹達の面倒や母親の手伝いも、率先して行ってくれる。
央佳の膝上は、いつもは四女の定位置である。それが証拠に、居場所を取られたネネが挙動不審な動きを見せていた。そこは自分の場所だと、長女に面と向かって文句は言えないせいで。
人形片手に、こちらを眺めてはウロウロするばかり。
ここはギルドの館の、訓練ルーム内である。どうしてルカを膝抱っこしているのかと言えば、まぁ何となくと言うか。長女の成長をステータス画面で確認した央佳は、戸惑いを隠せずに。
何となく壁際の椅子に腰掛けて、長女を一緒に招いたら。こんな格好になった次第だ、ルカに照れは全く無い様子。それどころか嬉しそうな表情、結構ギャラリーがいると言うのに。
現にギルド仲間の女性から、大っきな赤ん坊がいると囃されている。
訓練ルームでは、祥果さんとアンリがペアを組んで、模擬戦闘を行っている最中だった。先ほどまで、当のルカが新装備の披露を家族の前でしていたのだが。
アンリの進言で、母様の全く使ってないスキルの効果を、本人が知っておくべきとの意見に。それはそうだと、央佳が次の使用を催促したのだった。
そんな訳で、三女のヘルプを頼みにパペットに挑む祥果さん。
「桜花……娘を膝の上に乗せて、何をそんなに悩んでるんだい?」
「ああ、ここの所祥果さんのレベル上げに、子供達を付き合せていただろう? そのせいで子供達もレベルが上がって、種族スキルとかも含めて色々と取得したんだけどさ。
悩ましい性質のスキルが、わんさか増えてて途方に暮れてるんだよ」
例えばどんな事だよと、訊いて来たのはサブマスの飛香だった。氷種族の彼は、いつ見ても顔色が悪いように見える。その実切れ者で、大掛かりなイベントの担い手を、いつもこなしている苦労人でもあるのだが。
明日に迫ったネコ獣人の戦争ミッションでも、やっぱり進行役に任命されていて。央佳とその娘達の、現状の戦力の把握にと付き添っている次第だ。
そんな名目と関係なく、ギルド仲間が何人か見学に来てるけど。
「それって、その子の新しい『竜』スキルの事かい? さっき見せてたよな、さすがに新種族の魔法だって思ったけど。央佳も幾つか、覚えたんだろう?」
全くその通りだ、飛香の言ってるのは先立っての模擬戦闘でのルカのスキルのお披露目だろう。昨日のメイのお披露目に負けじと、長女も色々とアピールしてくれたのだが。
それが父親を困惑させているとは、本人はつゆ知らず。
当面、一番困っているのが長女が望んて得たペットジョブ関係のスキルである。その大半は補正スキルだが、命令するために武器スキルにセットすべきモノも存在して。
それらが地味に、ご主人のルカのスキルスロットを圧迫しているのだ。その現象は、央佳の足元を困惑してうろついているネネも全く同じ事。
ミッション達成のご褒美に、2つほど拡張されたとは言え厄介な問題だ。
例えばルカのペットのマリモが持っている《パーツ付与:躰》と言う補正スキルは、マリモを強化してくれこそすれ、ルカ本人には全く何の恩恵も無い。
《指令》と言うスキルも、ペットに指示を出すには絶対に外せないスキルである。だからルカも、文句も言わずセットして使っているのだが。
そのせいで、ルカが使いたいスキルが幾つかスロットから溢れているこの現状。
相談を受けた飛香は、それは残念だねと考え込む素振り。ただしペットジョブの人気の無さは、恐らくはこんな所に起因してるんだろうねと推測を述べられて。
確かにそうかも知れない、先駆者の集めるデータが無いとこんなに苦労するなんて。誰かペットジョブのベテランでも知り合いにいれば、根掘り葉掘り聞きたい気分。
しかし残念ながら、飛香にその手の知り合いはいない様子。
央佳の召喚ペットの狐のコンの為に、以前ミッション交換のアイテムを交換したのを思い出してみるが。あの並びに、似たようなアイテムは存在したのは確かである。
ただし子供達は、まだ中央塔に入れるレベルでは無い。だからミッションPを溜め込んでいても、それを交換出来ないもどかしさ。レベル200は、結構遠いとも思うし。
まぁ良い、この話は暫くは保留にしておこう。
他にも長女の取得したスキルで、気になる点が幾つか。まずは種族スキルで覚えている、謎スキル数個について。種族スキルはレベル10毎に自動取得する、その種族特有の補正スキルである。
『竜』種族のルカとネネは、だから央佳が見た事もない種族スキルばかりの並びだったりする。その中に見逃せないのが幾つか、まずはレベル100で覚えた《上位種》と言うスキル。
説明文を読むと、8属性種族に対し優位を得ると書いてある。
つまりは始まりに得られる『光』とか『闇』などの、央佳を含めた属性種族の事だ。新5種族は、彼ら冒険者に対して完全にその上位版であるらしい。
何しろ他の子供達も、更には『幻』種族の祥果さんまで綺麗にレベル100で同じ種族スキルを取得しているのだ。これは由々しき事態である、何しろ家族間のパワーバランスが。
それでなくても男は父親の央佳だけ、立場が無いとの思いは常にある。
今はまだ、子供達も素直で央佳に対して一定の敬意も払ってくれているけれど。将来は世間で言う、家庭内の粗大ゴミと言われない様に頑張らなきゃと、変な重圧を感じてしまう央佳。
尊敬される立場を護るのも大変だ、その努力は惜しまずに続けて行かなければ。
他にも大いに首を傾げる種族スキルを、ルカは取得していた。レベル110で覚えている
《竜姫》と言う名のスキルだ。説明だと、危機的状況に従者を召喚するらしい。
いわゆる危機回避スキルと言う奴なのかも、央佳も《風神》と言う種族スキルを持っている。風や雷種族は特に有名で、自身のHPが2割を切ったら自動的に発動するのだ。
風種族の央佳の場合、風の渦が出現して敵を暫くの間吹き飛ばしてくれる訳だ。
その間に回復をしたり、安全な間が取れる有り難いスキルではある。中には変幻スキルの《九死一生》を利用して、強引に自身のHPを減らして発動する猛者もいたりする。
アルカも持っているそのスキル、実は央佳は持っていない。盾役をやり始めてから、滅多に《風神》も発動した事は無い。しかし、娘の取得した《竜姫》と言うスキルは気になる。
試しに長女に説明を求めたが、良く分かりませんとの返事。
見てみたいとの気持ちは強いが、その為に娘を窮地に立たせる訳にも行かず。従ってこの件も保留……仕方の無い事とは言え、モヤモヤとした感情は治まってくれない。
娘を膝に乗せたまま、なんとも締まらない検証は続いて行く。
次はルカの覚えた、新『竜』魔法についての事案だ。この検証は、央佳も参加して念入りに時間を使って調べてみた。何しろ央佳も、『契約の指輪』のツテで覚えてしまっているのだ。
その内の1つが、物凄くエフェクトの派手な《九頭竜》と言う竜魔法である。これは術者の後方に首長の竜が出現し、レーザーのブレスで攻撃してくれると言うモノ。
名前を見た瞬間、央佳はヒシヒシと嫌な予感を覚えていて。
しかし、央佳が唱えた《九頭竜》は期待外れの首1本のお出ましとなって。とんだ名前負けのスキルだ、看板に偽りありと文句が言いたい所ではあるのだが。
ルカの使用した同じ魔法では、首が2本出現していて。長女の竜スキルは90、つまりはスキルの高さにモロに依存する魔法らしい。
央佳としては、チート魔法を拾わなくて良かったような残念なような。
もう一つ指輪のリンクで得た魔法だが、こちらは幾分かまともだった。《竜剣》と言う名前で、近距離での防御力無視の力場での攻撃である。
通常は剣のような形を作るのだが、ある程度は自由に加工出来るようだ。発生場所も掌とか自分の武器に纏ってとか、色々と工夫が可能みたいなのだが。
ルカの使用風景を見た瞬間、央佳は思わず絶句してしまった。
長女は自分の頭の角の片方に、力場を纏わせて使っていたのだ。近付いて来たパペットを、盾で動きを封じた後。頭を振り様の一撃で、ソイツの首を撥ねてしまっていて。
角の威力でゴリッと斬る様は、何と言うかもう。
勇ましいなと思いつつ、とても自分には真似出来ないその所業に。ルカは凄いなぁと、何となく褒めてしまって後悔。あの戦法が癖になったら、自分のせいになっちゃうかも。
もう一つ、ルカだけが取得した竜魔法は《天竜》と言う飛行呪文。結構なスピードが出るみたいで、トレーニング室では狭過ぎた模様。
それでも同じく飛行魔法を使った、アンリと楽しく飛び回っていた。
それを羨ましそうに眺めるネネ、正直父親の立場で思うに、四女にはこんな危険な魔法を覚えて欲しくない。ネネだと本当に、どこに飛んで行くか分からない危険があるのだ。
親として、そんな危険な状況に立ちたくなどないのが本音。
とにかくそんな感じの長女の成長に、戸惑いっ放しの央佳だったけれど。装備の類いは全く弄っていないし、ハンターPの交換も保留としてある。
保留な事案が随分とある気がするが、それはまぁ仕方の無い事だ。少なくとも、以前よりは確実に強くなっているのは事実なのだから。
珍妙な種族スキルは放って置いて、いつもの盾役に期待しよう。
今はメイも参戦して、買って貰った弓矢を姉妹と祥果さんに披露している。アンリはすぐ隣で傍観モード、たまに祥果さんに何やら指示を出している。
央佳が奥さんに対してほぼ放置な分、子供達が気にしている様でもある。その内に、訓練室のパペットでは物足りなくなったのだろう。
父親の前まで来て、強敵を相手に新スキルを使ってみたいと提案して来た。
「……明日、大規模な戦闘があるんなら、ネネを含めて練習したい、お父様……」
「地下水脈の時も、戦闘はちょっとあったけど……あの時の敵も、ここの人形も全然物足りないよ、パパ」
「うぅん、ここのハードモードじゃ駄目なのか、2人とも? 困ったな、近場にそんな都合のいい敵なんているかな……?」
「それなら地下の、針千本の里に行ってみたらどうだい、桜花? ギルドクエで、戦闘系も色々と受けてる筈だし、敵の強さも文句は無い筈だよ?」
央佳が子供のおねだりに困っていると、近くにいたサブマスの飛香が声を掛けて来た。そう言えばギルド会話では、何度も“やたらと強い新種族の獣人”の噂は耳にしていたような。
恐らくソイツ等は、尽藻エリアの手長族に相当するのではとの推測が為されていたけれど。それほど強い敵なら、確かに地下迷宮の探索が滞っている理由も分かる気がする。
央佳達も辛酸を舐めた敵と、同等の強さを誇る敵が徘徊していれば当然だ。
祥果さんと相談した結果、予習は大切だとの見解を示されて。それもそうだなと、思わず納得してしまった央佳。本番で慌てるよりは、余程良い心構えだと言わざるを得ず。
そんな子供達は、今は中庭に出ておやつタイムを楽しんでいる最中だ。祥果さんはどこからか、もち米を仕入れて来たらしい。お重に入ったおはぎは、凄く美味しそう。
ご相伴に与りながら、央佳の頬も緩み気味。
「この黄な粉のまぶしてあるの、凄く美味しいね、祥ママ! 次もこれ食べちゃおうっと!」
「ダメよ、メイ! こっちは数が少ないんだから、お父さんの分が無くなっちゃうでしょ!」
「……父ちゃんの分はいいから、欲しい子で分け合いなさい」
ネネの面倒を見ていた央佳は、そう言ってしまってから暫し後悔。食い意地からでは無く、そこから取り合いの姉妹喧嘩が始まるのを半ば確信したからなのだが。
実際は、照れたようなメイの反応の後に。やっぱりいらないからパパが食べてと、珍しく遠慮した物言いが発動。何と食い意地より、思い遣りが勝ったらしい。
それを微笑ましく、眺めている祥果さん。
結局は、祥果さんの分をメイとアンリで2等分して、央佳の分はルカとネネで分ける事態に。その“不公平”を気にする姉妹に、祥果さんは優しく教え諭す。
つまりは、子供達の喜ぶ姿が親にとっての一番のご褒美なのだと。
それは央佳も同じ思い、ただし子供達が見せる“思い遣り”や“優しさ”も充分なご褒美である。今もネネが、自分の分をあーんと央佳の口元にお返ししてくれていて。
手掴みのせいで泥団子に見えなくもないが、問題は子供の優しさである。食いしん坊のネネでさえ、それを分け与えてくれようとしているのだ。
その思いだけで、お腹いっぱいの央佳であった。
おやつ休憩を終えた央佳一行は、仲良く揃って館の地下へと進んで行く。子供達のご機嫌も好調を維持していて、まるでハイキングに向かっているかのよう。
実際は、地下の洞窟を歩いているのだが。
ゲームとしてプレイしていた頃と違って、こんな暗がりに来るとどうしても視野の確保が気掛かりになって来る。感覚がどうしても、暗闇の向こうの危機に敏感になってしまうのだ。
生き物の本能として仕方ないのだが、灯りの確保にも限界がある。ところが子供達は、ハイスペックで暗がりも全く気にしないと言う。
この不公平さ、如何なモノかと思ってしまう。
それはともかく、実は央佳がこの『針千本の里』を詳しく探索するのは初めて。子供達もそうらしく、キョロキョロと物珍しそうに周囲を眺めている。
メイの暴走はいつもの事、ネネも祥果さんにねだって針千本族を近くで観察するのに夢中。人見知りとは言え、この変わった種族には興味津々な四女だったり。
アンリはそんな2人を、傍で眺めながら母親を護衛中。
央佳はそんな子供達を見ながら、簡易モニターを開いてギルドクエの確認など。ギルドクエは、ギルド員であれば誰がクリアしても全員に報酬が出ると言う特性がある。
もっとも、貢献度によって報酬のランクは上下するのだけれど。たまに贈られて来るアイテムに心当たりが無くて、まごついてしまうのはご愛嬌。
昔は良く、央佳もヘルプを頼まれてあちこち駆け回ったものだけれど。
子供を所持するようになって、徐々にギルメンと距離を置くようになってしまって。更に今は、祥果さんと加護を返した子供達の世話で手一杯の状況。
それでも一応、パーティ単位で貢献出来るようになって来た手応えも感じつつ。この得体の知れない里でも、しっかり頑張らないとなぁと気合を入れて。
取り組むべきクエを選別、さてどれにしようか?
「パパ、新しいクエは無いみたい……溜まってるのを片付けないと、次のクエ出て来ないみたいだよ!?」
「そっか、それじゃあ……この『針千本族の外敵』ってクエ、受けてみようか。内容は分かってるけど、もう一度依頼者から話を聞こうか?」
「分かりました、祥果さん達を呼んで来ますね、お父さん」
メイの報告に、一家の行動方針を打ち出す央佳。それを聞いて、傍にずっといたルカが、皆を集合させるために走り出した。本当に良く出来た子達だ、そしてこのチームワーク。
メイは既に、訪れるべきNPCを簡易マップで選別していた。戻って来た祥果さんは、この里の住居の不思議を子供達と話し合っている。
どうも半地下で藁ぶき屋根の建物群に、いたく感激しているっぽい。
確かに、この地下に生活する針千本族の居住区は独特に見える。灯りは半分は、魔法のランタンに頼っているが、発光する苔が壁や天井に密集してたりもする。
それが綺麗で、見て歩くにも面白い場所なのかも知れないけれど。今は依頼が先決なので、余分に取る時間は余り無い。一行はメイの案内で、この里の長のねぐらへと歩いて行く。
そして驚きの邂逅、何と身体の大きな族長だろうか!
「おっきい、凄いねぇ……ネネちゃん、あんまり近付いたら失礼だよ?」
「母っちゃ、触ったらダメ……? お山みたい、すごくおっきい!」
祥果さんとネネの寸劇はともかくとして、族長を名乗る“レッドニードル”は大きかった。呼び名の語る通り、その皮膚を覆う針は赤くて長大だ。
ただし、戦当時でない今はどちらかと言えば淑やかな長毛にも見える。そしてその巨体に似合わず、瞳は優し気で知性を感じさせる光を放っていて。
そんな族長の語る依頼は、要するに敵対種族の駆除依頼だった。
ギルメンが苦労していたのは、確かそのカウント方法だと耳にした事を思いだす央佳。一度エリチェンを挟むと、全部リセットされてしまうらしく。
そして迷路には、ご丁寧に強制ワープの罠が仕掛けられているらしい。
「それは大変だねぇ、倒す敵も強いらしいよ、パパ?」
「ああ、蟻獣人はともかく有角族って『魔』の戦闘種族が厄介らしいな。……アンリはその種族について、何か知らないか?」
「……とにかく硬い、そして強い……外殻に棘がびっしり、あと黒い?」
取り敢えず、三女は有角族の事を知っているらしい。強くて棘があって強い人型の種族らしく、武器と魔法の攻撃を得意としているらしい。
要するに、標準的な獣人のタイプの強化版らしいのだが。ギルメンが相当苦労していると言う評判からして、厄介な特殊能力も備えているのかも知れない。
そんな強敵を、合計7匹退治して来るようにとのお達しだ。
ついでに蟻獣人を12匹、それがクエ達成のノルマらしい。私がちゃんと数えるねと、メイの申し出を素直に受けて。いざ、揃って迷宮前の岐路に立つ一行。
迷宮と言うより、3本のルートが延々と現れる無限ループの地下通路である。行きの進路決定も大切だが、戻って来れなければ報告も出来ない。
それなら私が道順を覚えておくねと、今度は祥果さんの申し出。
ネネも覚えるよと、四女の申し出にニッコリと笑い返して。それじゃあみんなで頑張ろうと、央佳の舵取りに全員の元気な返事。まずは最初の道順だが、それはアンリが示してくれた。
つまりは、敵が一番多い道は真ん中らしい。
これは便利な超感覚だ、言葉通りに広くない洞窟は蟻獣人の群れで溢れていた。コイツ等の外殻も結構硬いし、当然斬撃も効き難くて仕方が無い。
ただし関節の部分は、そんなに硬くも無いし弱点ではある。しかもネネのハンマーが、思いの外ダメージ源となる事が判明して。叩き系の武器には、硬い外殻も効果は薄いらしい。
そんな訳で、今回はネネも前衛で頑張る事に。
それを聞いて、チョー張り切る幼女だったり。父親の側で、勢い良くお気に入りの武器を振り回している。適材適所には違いないが、四女の場合はお調子者の血が黙っていない。
今回は、蟻獣人の群れを退けた後にそれが発動した模様。
「今の群れって、蟻獣人だけだったよね、パパ? 蟻を6匹、クリアしたよ~」
「……次は有角族探さないと、でも私の感覚でも分からない……」
「アンリちゃん、気にしないでも大丈夫よ……あれっ、ネネちゃんは?」
戦闘後の軽い休憩中に、みんなで話し合っている最中に。洞窟の先の方でちょろちょろしていた四女の姿が、急に消えてしまったと慌てた祥果さんの報告。
そんな訳は無いと、央佳とルカで探してみるけど。確かにその姿は、どこを探しても見当たらず。自然の洞窟風味なので、窪みや隠れる場所はそれなりにあるのだが。
どこにも四女の姿は見付からず、慌てる夫婦。
もっとも、子供達はさほど慌てていなかったけど。バッヂの通信機能を使って、アンタ何したのよと責める口調で妹を叱ってるアンリの姿に。
慌て気味に央佳も、どこにいるんだと聞き込み調査。半泣きのネネは、橋が見えると要領を得ない返事のみ。すぐ行くから待ってなさいと、取って返す気満々の央佳に。
これで討伐数はリセットだねと、メイの呟き。
どうやら四女は、エリア外退去のワープ罠に掛かってしまったらしい。そんな幼女を確保するため、家族は地下迷路を出て例の吊り橋のある広間へと舞い戻って。
何とか大泣きになる前の四女の保護に成功、しかしホッとしているのは夫婦だけ。姉妹の視線は、割と冷たかったのは致し方が無いのだろう。
そんな諸々の事情の果てに、再アタックの地下迷宮。
央佳的には、無理に依頼をクリアする必要は無いとも思っているのだが。何しろ明日は戦争ミッションが待っている、子供の新スキルも大体見れたし。
ところが、やらかしたネネを批難していた姉妹が、罠の回避方法について熱心に話し合っていて。長女のルカがその内に、マリモを使えば何とかなるかもと言い出して。
つまりは子供達は、まだまだ挑戦する気満々らしい。
子供のヤル気に水を差す程、野暮では無いと思っている央佳。引き際だけ間違わなければいいかと、このクエの進行を子供達に丸投げする事に。
そんな訳で、アンリの進路決めから敵の殲滅までは一応順調に終了。戦いには参加したネネだが、幼女だけその熱量は明らかにダウンしている模様。
戦闘が終わった途端、さっさと安全な父親の足元に避難している。
代わりに先頭に立ったのは、長女のルカだった。一応三女がサポートに立つが、厳密には必要なかった様子。って言うか、先頭を歩いているのは誰あろうペットのマリモである。
なるほど、単純な作戦と言うか何と言うか。人身御供には、確かに持って来いの役割ではある。召喚ペットなら、例え別の土地に飛ばされても再召喚で主人の元へと舞い戻れるし。
実際そのパターンで、ルカは3度も罠の場所を見破ると言う快挙。
「凄いぞルカ、お手柄だなぁ……メイ、あと何匹でクエは終わる?」
「有角族がたくさん残ってるよ、パパ!」
確かにそうだ、蟻獣人はもうたくさん倒して来ているのは知っていたが。肝心の有角族は、どうも洞窟の深奥に配置されている様で、今の所出遭いは皆無。
パターンを変えてみようと、央佳は三女に敵の気配の少ない洞窟を指定させてみる。成る程と、目から鱗の理論にポンと手を打つアンリ。そして次の洞窟に、待ち構えていた有角族。
コイツ等は、どうやら群れずに襲って来るらしい。
それでも強さは、相当上のランクに感じられたけれど。メイの新魔法の効きは良いが、定番の輪っか魔法も普通にダメージを叩き出している。
結局メイの闘い方は、弓矢を使用する他は大きく変えなくても大丈夫っぽい。アンリも幾つか新魔法を覚えているが、基本は変わらず影騎士と魔法の飛礫での攻撃が主力だ。
それで充分に強いのだから、文句の付けようも無い。
黒い外殻の有角族は、全身を黒い鎧で覆われた様な見た目だった。蟻獣人に較べると、全てのスペックが1段か2段上な感じを受ける。
その特殊技には、央佳も舌を巻く思い。手長族はその長い手で、派手な特殊技を繰り出して来たのだが。コイツ等も基本は同じ、伸びた棘からの放電攻撃や、最悪なのはカウンター技の《牙折り》という技だろうか。
棘を利用して、こちらの武器の耐久度を減らして来る技である。
「ああっ、またやられた……っ! 武器が壊れちゃう、コイツ嫌い……!」
『主よ、そんなに雑に攻撃するからだ……もっと敵の動きをよく見て、スタン技も織り交ぜないと』
凸凹コンビのルカと獅子の盾の遣り取りはともかく、央佳もこの敵には苦戦中。なるほど、コイツ等が群れて出ない訳が良く分かった。複数で出られたら、かなり厳しい。
今の所、2体同時の出現が多いけれど、それでも苦戦してしまっている。前衛にとっては難敵だ、大人しく盾役に従事して後衛の魔法攻撃で倒す方がラク。
もしくはネネのハンマー技、さすがにこの巨大武器は敵も壊せない様子。
途中から、次女と三女の貫通系の武器のコンビが、《貫通撃》でのダメージを一緒に試していたりして。このダメージは、どうやらアンリに軍配が上がった様子。
悔しそうなメイだが、どちらにしろ武器で大ダメージ源が存在するのは有り難い事だ。それでも程々にしておきなさいと、央佳は釘を差すのを忘れない。
それに対して、は~いと素直な2人の返事。
有角族との対戦も、数をこなせばそれなりに慣れて来る。最初こそバタついていたが、盾役2枚での対応では危ないシーンも特に存在せず。
メイの数えでは、今闘っている敵で最後らしい。ネネの騒ぎで余分に時間は掛かったけど、総合してもそれほどの苦戦では無かったかも。
いや、スペック的には結構な強敵だったけど。
とにかく無事に、与えられたノルマは終了したとの報告。それじゃあ戻ろうかと、そのまま反転して洞窟を戻る事に。3本洞窟の長さは精々が50メートル程。
その間の繋ぎに、ちょっとした空間が幾つも存在するのだが。
そこには敵も出ないし、迷った冒険者用に退出用のワープ魔方陣すら存在する場所で。どうにも行き詰まった場合、央佳のギルメンも利用している代物なのだが。
今回、そのショートカットを利用するのは、依頼に反するかもしれないと。ここまで来た道順を、祥果さんから聞き出して。素直にその逆を、戻る事に決めた央佳。
念の為と、ルカがマリモを操作して先に歩く事に。
メイ辺りは、そこまで慎重にならなくてもいいじゃんとお姉ちゃんに異議を唱えているけど。敵は全て掃討しているので、さっさと戻りたいのが本音らしい。
ところが順調に戻っていた洞窟の3本目の戻り道、急に消失したマリモの姿に一同ビックリ! こちらの油断を思い切り突いた仕掛けに、ただ唖然とするばかり。
それを見て、それ見た事かと大威張りな長女。
「ほらご覧なさい、こういう意地悪な仕掛けだってあるのよ!? 今までの苦労が水の泡になる所だったでしょ、何か言う事ある、メイ?」
「うん、まぁ……ゴメンナサイ……」
「お手柄だったな、ルカ。みんなも、最後まで気を抜かずにな!」
は~いと元気な返事と共に、父親に褒められて上機嫌なルカは、マリモを再召喚して再び先頭に立つ構え。何にしろ、今回は長女の大手柄には違いない。
お陰で、また最初から敵を倒してカウントを稼ぐ手間が省けた。まぁ最悪、ネネが飛ばされなければ依頼クリアを先にこなせば良い話なのだけれど。
それでもリーダーの央佳が飛ばされたら、カウントをリセットされていたかも。
ペットジョブなんて役立たずと言う風潮は、ここ最近の子供達を見ていたら全く当てにならないと央佳は思う。それでももう少し、ペット用のスキルの圧迫はどうにかならないモノか。
先頭をペタペタ飛ぶマリモを見ながら、思わずそう考えてしまうけど。
今後の成長に期待なのは、子供達と全く同じなのだろう。気長に待っててあげよう、それはネネのペットも全く同じだ。例えそれで無駄飯食らいに終わっても、それを養う甲斐性くらいは持ち合わせている……と思う央佳である。
考え込んでいると、いつの間にか針千本の里に至る吊り橋の前に出ていた。明らかにホッとした表情で、父親を振り返るルカを褒めてやって。
里の族長に対面して、見事にクエ達成の報告など。
『……ほう、厄介な敵や仕掛けをものともせず、依頼を完遂するとな。なかなかの強者と見た、これなら次に進む地図を渡しても大丈夫だろう……。
ただし、この先の敵の強さは桁違いになって行くぞ? なにしろ、あの地下迷宮の奥には、館を造った領主の隠し財産が眠っているのだから。
果たしてそれに対面出来る運と技量を、お前さん達は持っているのかねぇ?』
――『魔』種族の三女、最新アンリ所有スキルの紹介など。
***アンリ*** 種族『魔』♀ Lv120
種族スキル《広範囲探索》敵の接近を感知《魔法抵抗力+30%》魔法耐性up
《魔氣》MP・SP量up《魔法詠唱短縮》詠唱時間の短縮《殺気探知》敵の殺気を探知
《魔心》ステータス大幅up《前衛適応》前衛に必要なステータスup
《才能》スキルスロット+1《修練》敵の苦手パターンを覚える
《上位種》8属性種族に対し優位を得る《魔氣》魔スキルup
《カリスマ》召喚モンスターの威力up
魔スキル《魔騎召喚》……影騎士を召喚・使役する
《マジックブラスト》……単体・複数への攻撃魔法/酔っ払い効果
《クロスハーケン》……自身を中心にした攻撃魔法
《暗黒魔霧》……有形の霧での防御・金縛り等
《ダーククロウ》……自身に飛行・前衛能力up
《ヘビーポイント》……対象に腐敗・鈍重・
《摩訶×死戯》……超絶攻撃魔法
《護凶四腕》……術者の腕を武器と共に倍にコピー
《薔薇死蜘蛛》……小蜘蛛による麻痺・毒攻撃
《魔月照》……対象を回復・ステータス異常もたまに回復
両手槍スキル《ペンタスラスト》……5連突き
《猛襲チャージ》……遠距離からの襲撃技
《牙焔突き》……斬撃威力UP/敵の移動力ダウン
《旋風突き》……風複:風属性の突攻撃
《貫通撃》……相手の防御力無視の一撃
《闇芯突き》……闇複:闇属性の突攻撃
風スキル《風鈴》……対象の敵対心up
《俊敏付与》……自身の敏捷値を上昇
闇スキル《ダークタッチ》……対象のHPを吸収・暗闇効果
《SPヒール》……自身のSPを徐々に回復
《闇の腐食》……敵の防御力ダウン
後付けジョブ《影渡り》……短距離の影を使ってのテレポート
《ダメージ吸収》……敵の攻撃を吸収・反射
《スティールマインド》……敵のHP・SPを盗む
《敵対心贈与》……自身の敵対心を特定の仲間に付ける
《鍵開け》……鍵付きの箱や扉を開ける
***以下、スロットオーバーにより泣く泣く封印(笑)。
補正スキル、生活スキルは略。




