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竜と聖魔とバツ2亭主  作者: 鳥井雫
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聖の神様と腰振りダンス



 恒例の朝の授業が終わり、トーヤと七海さんが各自ボタンを配っている。子供達はそれを大事そうに手に取って、各々が自分の糸に通して身につけていた。

 ルカとメイは首飾りの様に首から下げて、アンリはミサンガの様に左手に巻いている。それが上手に出来ないネネは、半泣きになって祥果さんに手伝って貰っている。

 いつもの授業後の風景だ、教わる度に自信に満ちた表情になる子供達の反応も然り。


 それを眺めるのも、父親として光栄に感じる央佳だったけれど。今日は殊の外熱心に、ダンスの授業が白熱していたような。七海さんは子供達のスタミナに根負けしたように、部屋の隅でへばっていた。

 これはメイの発案で、つまりは自分の所の神様の趣味に起因しているらしい。『聖』の神様はコスプレとか可愛いモノが大好きで、そんな衣装で踊りを披露してあげたいとの事で。

 それに付き合う姉妹や、衣装を用意している祥果さんは結構大変かも。


 いや、みんなで楽しんでやっている感もあるから文句も言いようが無い。央佳も見ているだけだが、楽しそうな雰囲気は伝わって来ている。祥果さんの用意した衣装は、どこかのお嬢様学校の制服みたいなコスプレ衣装で。

 これには男性陣も、諸手を挙げて絶賛の勢い。


「子供達の覚えの良さは凄いよね、この後すぐに本番だっけ? 私達もついて行っていいんだっけ……陽平君、歌の伴奏頼んだよ?」

「こ、声が涸れそう……この世界、ギターとかキーボードとか無いのかよ、央佳?」

「あるにはあるけど、割と高かったかも……王都には売ってなかったな、確か。何回目かのバージョンアップで、どこかの街に追加されたんだったかなぁ?」


 授業では何でも屋に成り下がった陽平は、他の先生に乞われるまま黒板を用意したり、歌の伴奏(肉声で)を際限なく繰り返したり。子供達が頑張っているので、陽平も下手に手を抜けないと言うこのサイクル。

 とにかく本番は間近らしく、トーヤの申し出で彼らもついて行く事に。神様に面会する機会など、人生で皆無に等しいのだから。メイは気楽な返答で、着飾ってくれば問題無いよとの返答だったので。

 そんな訳で、王都のNPCショップで服飾に散財する4名。


 神様と対面するのに、失礼の無いようにとの配慮なのか。皆が選んだのは、割とお堅いアンティーク臭漂う洋服だった。陽平のみ、何故か和服の着物をチョイスしていて。

 アンタそれはどうなのよと、七海さんに突っ込みを喰らっていた陽平だったが。メイの反応は真逆で、これは神様も喜びそうとの事で。

 挙句の果てに、パパにもこれを着て欲しいとおねだり。


 そんなこんなで良く分からない集団は、揃って下町の神殿へと入って行く。祥果さん渾身の衣装も、子供達は既に着込んでスタンバイ済みだ。

 上手く踊れるかなぁと、心配しているのは先生役を仰せつかった七海さんのみ。トーヤも恐らく、全く別種類の緊張を抱えているのだろうけれど。

 何しろ神様との初対面だ、緊張するなと言う方が無理。


 その場所は、以前に姉妹だけで神様に文句を告げに来た中庭の外れだった。メイが単身進み出て、厳かな表情で祈り始める。子供達が膝立ちになるのに合わせて、大人達もそれに倣い。

 神様は呆気無い程に簡単に現れた、今度も風の神様が同伴している。そして初出の『聖』の神様は、子供達の可愛い衣装を見て大はしゃぎ。

 メイの作戦は、何と言うか大当たりだったみたい。


 その当人は、まだまだ神様を喜ばせてあげたい様子で。姉妹と七海さんに合図を送って、散々練習したダンスを、伴奏(七海さんと陽平の肉声)に合わせて踊り始める。

 夫婦の視点では、遠い田舎の祖父母に孫の可愛い姿を発表している感覚だろうか。末娘が失敗しないか心配しつつ、手拍子でリズムを取っている。

 その当人のネネが、一番楽しそうなのが救いではある。


 発表は何とか無事終わり、神々からは拍手のお返しが。ホッと胸を撫で下ろす夫婦、トーヤは恐らく神様ってナンと気さくなんだろうと驚いている事だろう。

 そこからメイだけ進み出て、聖の神様と秘密の会議を始めてしまった。他の姉妹は夫婦の元に戻って来て、満足そうな笑顔を見せている。

 七海さんも満足そう、全くトチらなかった姉妹を徹底的に褒めている。


「央佳……お前の次女は、神様と何を話し合っているのかな?」

「加護返しの内容についてじゃないかな? 他の姉妹の時もそうだったけど、甘めにしてくれって頼んでいる気がする。急な弱体化だと、こっちに負担が掛かり過ぎるって理由で」


 トーヤの小声での質問に、多分当たっている推測を返す央佳。その直後、メイの身体が青白い光に一瞬だけ包まれた。“加護返し”の儀式は、これで姉妹全員終わった事になる。

 メイが自分のステータスを改めて確認した後、大はしゃぎで神様に抱き付いていた。交渉と言う名のおねだりは、どうやら上手く行ったっぽい。

 それを目にして、再び驚き顔のトーヤ。


 央佳が前もって、神様と子供達は田舎の祖父母と孫の関係に似ていると話しておいたのだが。どうやら話半分に受け止めていたらしく、その馴れ合いに衝撃を受けているのだろう。

 央佳も実際、子供達が粗相をしでかさないかかなり緊張を強いられていて。実際神様の子供達に対する博愛振りは、全くもって揺るぎは無いのだが。

 やっぱり親心として、心配は常にしてしまう定めだったり。


「……あの、神様と対面するのは初めてなんですが……態度に失礼な点があった場合について、先にお詫びを申し上げておきます。その、幾つか質問をしたいと友達に付いて来たんですが」

「君の事は知っているよ、実に友達思いなのもね……子供達の両親は、共に実に良縁を結ぶのに長けている。だからこの世界に招いたと、そう言う返事で良いかな……?」


 今日も一緒に追随して降りて来て下さっていた、風の神様の申し出に。隣の聖の神様は微妙な顔付き、果たしてそこまで話して良いモノかと瞳が語っている。

 央佳にしてみれば、至って普通の自分がこんな事態に陥っている原因を究明したいとも思うけど。妻の祥果さんまで、何故に巻き込むのかと文句の一つも言いたいところ。

 確かに自分だけでは、子供の面倒は見きれないかも知れないけれど。


 下手に出ている神様に、しかし声を荒げて文句も言えない央佳である。しかも当の奥さんが、子供と一緒にニコニコご機嫌そうな様子であるなら尚更の事。

 しかしトーヤは、どうもその返事に納得がいかない様子で。こういう人間を選りすぐって試練を与える行為は、昔からあったのですかと新たに問う構え。

 それとも、来たるべき人類の窮地に向けての突発的なイベントなのかと。


「はははっ、確かに最近の人間は絆や愛情を軽んじて、個の利益や物理的な満足感のみを追い求めている。だが人間の視野が狭いのは、今に始まった事では無いんだよ。

我らはそれを広げようと、昔から様々な謀を試みて来た。時間は有限なんだ、そして君らの住む惑星の寿命もね……君ら人間が、どれほどに自分達の首を絞めるのが好きなのか、私達はいつも呆れながら眺めているのを知っているかい?

そこで我らは、この世界に目を付けた。補習するにはぴったりだとね」


 いつの間に自分は単位を落としてたんだと、ビックリ顔の央佳。それより話題が壮大過ぎて、全くついて行けそうにない。隣のトーヤや、子供達はどうなのかと横目で伺うも。

 トーヤは何やら、必死に考え込んでいる様子。その一方で、子供達は全くの無頓着で、思考は恐らく昼食のメニューに飛んでいる模様。

 付き合いはそれ程長くないが、親の勘でそれは分かる。


 子供達には、そんな意識が無いのは央佳には理解出来た。つまりはこの世界が唯一無二で、両親に対しても同様なのだろう。そこには何の、疑問も裏話も無い。

 恐らく神様の計画にとっても、それで良いのだろう。両親をひたすら信頼し、絆を順調に深めて行く。そして両親から無償の愛を受け、それを糧に成長して行く。

 本来の人間の、恐らくはありのままの成長過程だ。


 それがあちらの世界ではどこで狂ったのか、何故に自分が代表して補習を受けているのか、央佳にはサッパリ理解出来なかった。そもそも自分は、そんな大それた器では無い。

 それはトーヤも感じたらしく、何故自分の友人がと問い質してくれた。


「それを私の口から話すのは、何と言うか不正に近い解答の露呈だと思うがね? 自分で考えて導き出さないと、その“答え”は身につきはしないのさ、分かるだろう?

 我らが欲するのは、“導く者”であり“声を発する者”なんだ。神々は手助けはするし、導きもする……だが直接の関与は、絶対にしないと決めているのさ。例えそのせいで、人類が滅んでもね。

 何故なら、それが人間を堕落させる最悪の手段だと心得ているからね」





 神様との対話に衝撃を受けている大人達と違って、子供達はウキウキだった。その理由はすこぶる単純で、別れ際に『聖』の神様から色々と踊りの報酬を貰っていたから。

 何だか良く分からない衣装はともかく、『聖の宝珠』は物凄い価値である。それからメイのおねだりに屈したのか、良弓の獲得可能なダンジョンチケットを1枚。

 お茶会帰りの手荷物としては、多分にして豪華過ぎる気が。


 とにかくこれで、子供達全ての“加護返し”が終了した訳だ。メイのカスタムを急いでとり行って、その後にはいよいよ新大陸ミッションを実行しなければ。

 そんな訳で、一旦祥果さんを“断崖の街”へとエスコートした後、メイを引き連れ中央塔へ。取り敢えずは簡単に装備を買い与え、それからスキルを充実させればいいよねと。

 暢気に構えていた央佳の前に、何故か大勢のギャラリーが。


「弓の事なら任せてよ、性能のいいの選んでみせるよっ!」

「女の子なんだから、性能だけじゃ無くて可愛い装備の方が良いわよねっ?」


 ワイワイと呑気に意見を述べるのは、奇面組の黒助と花組のエスト。他にも今日、ミッション手伝いに参加してくれるギルド仲間が、何人か買い物に付き合ってくれている。

 央佳としては、親子水入らずで装備やスキルのカスタムに勤しみたかったのだが。子供の思い出に残るかなと思ったけど、メイはそもそも博愛主義と言うか何と言うか。

 ルカやネネのような、独占欲に乏しい性格だったりするのだ。


 その事実を鑑みれば、こんな現状も悪くは無いのかも知れない。父親とその友達大勢と、メイを中心にワイワイと楽しくショッピングに興じる。

 メイの性格は何と言うか、大人にも物怖じしないし平等主義なおませさんとも取れる。以前央佳は、祥果さんに一番性格が似てるなと思った事があったけれど。

 今もそう思う、しっかり者のおませさんな所は特に。


 とにかく皆のアドバイスは、武器や装備の選択において時間短縮に大いに繋がった。可愛くて軽いタイプのレザー装備に身を包み、予備の武器の短剣まで花組にプレゼントして貰い。

 央佳の財布から、もっと手痛い出費があるのかなとも思ったのだが。意外に少なく済んだのは、実は闇ギルド襲撃の際のドロップ品の分配もここで済ませたから。

 強制参加の仲間と共に、散々分配方法について話し合ったのだが。


 襲撃者の落として行った装備品の中には、割と優れた品もあったのだが。特に未だレベルの低い、トーヤ達にとっては総とっかえしても良い程度には。

 それでも全部換金しての分配にしたのは、元の持ち主の念みたいなモノを嫌ったからだろう。その感覚は央佳にも分かる、そのまま使う事で前の持ち主と縁を繋ぐ不安感。

 とにかく迷惑料だと、売り払ったお金を受け取って貰えて何より。


 これで面倒な分配も終わったし、メイの装備新調も一通り終わった事になる。トーヤは改めて適正エリアで、Lv100を目指してレベル上げに勤しむ構えの様子で。

 一足早く新大陸ミッションに挑む祥果さんチームとは、暫しの間別行動となる訳だ。それでも不安はない、向こうのチームもこの架空世界に慣れて来ているみたいだし。

 時間をおかず、追い付いて来てくれる事だろう。



 そうそう、簡単な打ち上げの際にみんなで話し合って決めた事が幾つか。つまりは花組と奇面組、それからトーヤ達と央佳家族での夕食会で議題に上がった事柄なのだが。

 央佳の作ったバッヂに、名前がついてない事を持ち出したアルカ。せっかくだから、みんなで名前を決めようよと軽いノリで提案して来たのだが。

 父親のギルド繁栄を目論む子供達が、やんやの喝采でそれを支持したのだ。


 それからは、喧々諤々の議論合戦。色々と案は出るものの、なかなか全員が腑に落ちる名前が出て来ない。アルカや黒助のは特に酷い。やたらと乙女チックなのとか、横文字の羅列は素気無く却下を言い渡す央佳。

 子供達は、珍しく静かに行く末を見守っていた。茶々を入れたり、自分達の好みを主張する風でも無い。時には大人顔負けの理論を振りかざす、メイですら言葉少ななのだ。

 何か案は無いかと、水を向ける父親の誘導も巧みにかわす素振り。


「それなら、祥ママに決めて貰ったらいいよ……名前を決めるのは、私達は昔から年長者に従う決まりなの。名前って、親が最初にくれる贈り物でしょ?」

「そっか、そうだよねぇ……央ちゃんのギルドの名前は、確か『発気揚々』だっけ? そんな感じで良いんじゃないかな、四字熟語で素敵なの……例えば和気藹々とか……?」

「あははっ、祥果らしいね、それ……うん、ホンワカしてて良いんじゃないかなっ?」


 メイのキラーパスに、全く動じずゴールを決めてしまった祥果さん。後押しするような七海さんの賛同に、周囲の面々も賛同の嵐。あれだけ白熱していた雰囲気も、一気に霧散して。

 さすがの祥果さんパワーだと、央佳はホッとしながら感謝の思い。論議し合うのは基本的に好きな彼なのだが、時に白熱し過ぎで険悪になる事も身を以て知っているので。

 それを瞬く間に沈める奥さんの魔法には、本当にただ呆れるばかりだ。


 願わくば、この即席ギルド『和気藹々』も、文字通りの良好な雰囲気で過ごして行きたいモノ。そんな風に思いつつ、改めてギルドバッヂを操作し始める央佳。

 新たなギルドの船出は、こうして始まったのだった。





 さて、新大陸ミッションの進行を語る前に、央佳が思い出した事が幾つか。時間の進行は少しおかしくなるけど、メイの装備カスタムの最中での出来事だ。

無料レンタル部屋に置いていた、娘の装備があったのを不意に思い出した央佳。そう言えば、メイも晴れて冒険者の手続きを行ったんだっけと。

娘の分も、レンタル部屋は用意されている筈だ。


 そう告げると、連れてってと抱っこをせがんで来る次女。メイの性格には不似合いだが、どうも甘えた方が父親が喜ぶかもと感付いた様子。

 この辺も子供らしくないが、聡い子なのだから仕方が無い。


 そんな訳で一緒にレンタル部屋の前まで行動して、それぞれの部屋で確認作業。次女が央佳の元にやって来た時に、精霊の剣と一緒に届けられたアイテムがあった筈。

 探すまでも無く、それは簡単に見つかった。“精霊のティアラ”は、やっぱりメイに装備させるべきなのだろう。“精霊の鏡”の方は、渡すべきかどうか判断はつかないけれど。

 取り敢えず、鞄に放り込んで持って出る事に。


 それにしても、久し振りのレンタル部屋だ。郵便物も、また微妙に溜まっていたりして始末が悪い。確か設定を変えれば、彼の常宿に郵便が届くようになってたような?

 部屋に常駐の妖精に怒られながら、央佳はその設定をこなして行く。それから溜め込んだ素材やアイテムを物色、すぐ使いそうな物はやっぱり鞄の中へ。

 そして何故か大量の、ログイン交換ポイントに暫し絶句。


 そう言えば、この前のレンタル部屋チェックでも、こんなの始まったんだと思った記憶も無きにしも非ず。つまりそれを綺麗に忘れて、溜め込んでしまっていたらしい。

 レンタル部屋の出入り口付近にいるNPCに話せば、ポイントとアイテムを交換して貰えるらしいのだが。溜め込んでいても仕方ないし、ここは一気に使ってしまおうか。

 そんな訳で表で交換作業をしていると、いつの間にか隣にメイの姿が。


「パパ、何かいっぱい郵便受けに入ってたよ……? 初心冒険者用のボーナスとか、ポイントとか色々? どうすればいいのかな、パパに全部渡そうか?」

「パパもたくさん貰ってるから、それはメイが持ってなさい。ポイントはこの人からアイテムに交換して……そうだな、留守番のみんなに何かプレゼント的なモノがいいかな?」


 それは良い案だと、せっせと2人で交換に励み。その後の家族との合流は、かなり騒がしい破目になってしまった。とにかくお馴染みとなった、経験値を多く貰えるお札とか、他にも属性のお札や呼び鈴の類いとか。

 誰が何を貰うかで、少々姉妹喧嘩も勃発したのはいつもの事。



 その案件がまず一つ、メイは素直に『精霊のティアラ』を装備してくれて、その効果は絶大だった。装備していた衣装が光を放ち、目に見えて性能がアップして行くのが分かる程。

 ステータス画面で確認したところ、本当に各種性能が付与されていた。防御や耐性アップなど、まだ可愛い方である。種族スキルにも劣らない強力な付与が、幾つかの装備で発見されて。

 目眩を起こしそうな央佳、これはチート過ぎる装備じゃなかろうか?


 聖の精霊族は、こんな甘やかしも当たり前なのかも知れない。その点ルカやネネの龍人族は、厳しく突き離してその中で成長や絆の大切さを確立させる方針な気がする。

 アンリの魔種族に関して言えば、アレは完全な放任主義でしかない。実際、彼女の里から届いた連絡は皆無。本当の親の気配すら、感じさせない徹底振りだ。

 そこは敢えてこちらへの配慮だと、思う事にしている央佳だった。


 とにかくこれで、加護返し後の戦力ダウンは完全に念頭から排除されたと安心は出来て。本人は痴れっとしているが、父親に直接ティアラを被らせて貰った行為は嬉しかったみたい。

 そんな点もおませさん感が溢れている、父親としては心配な面も垣間見えたりして。とにかく仲良く腕を組んで、新たな次女の成長した姿を競売前にいた仲間にまず披露すると。

 みなが揃って、あんぐりと口を開けて絶句したのはナイショ。


 次女の精霊の姫様化は、様々な方面に物議を醸した訳ではあるが。家族といる時は、真っ先に普段着に着替えていつもの素振りのメイではあるので。

 央佳も別段気にしない事に、祥果さんも全く気に掛けてない感じだし。姉妹間の問題勃発は、まぁいつもの事だしとりわけ表面化しなければ良いとも思う。

 ルカの最初の視線が、やや批判的だった事を除けばであるが。


 とにかく何とか、メイの装備変更の案件は無事に終了に漕ぎ着けて。ちょっと横着だが、その変更点は新大陸ミッションの時に確認させて貰う事にして。

 そんな感じで安心していたら、サブマスの飛香に央佳自身のカスタムは進んでいるのかと尋ねられた。細剣スキルと竜スキルを伸ばしたい央佳は、全く進んでない現状を報告して。

 新エリアの『ヴァルキリアの塔』を頑張るよと、今後の活動予定を告げるのだが。


「スキルが欲しいなら、新しい『スキル収束装置』を仕入れたから使えばいいよ。桜花の子供が見付けた地下通路から、ギルメンが見付けて来たんだけどさ。桜花が使っても、誰も文句言わない筈だしね」

「えっ、マジでそんな良品が出たのっ? ……凄いな、ギルド所有で2つ目ってのも凄いけど。本当に使っても大丈夫かな、飛香?」

「桜花はギルド貢献でも所属年数でも、全然問題無いよ……ギルマスにも言っておくし、そんなに気を遣わなくても平気だよ」


 それは有り難いと、途端にテンションの上がる央佳。『スキル収束装置』とは、ギルドの館に設置するタイプの、ギルド専用の便利機能装置である。

 キャラが使ってない武器スキルや魔法スキル、更には複合スキルや種族スキルまで、装置に保管してポイントに還元してしまえるのだ。それで得たポイントは、もちろん自由に使える。

 だからキャラのカスタム変更などに、超便利なのだ。


 ただし、使用人数に制限もあるし、保管の限界も存在する。修行の塔みたいに、チケットがあれば何度も通える訳では無い。だから今回使えるのは大ラッキー、棚から牡丹餅だ。

 そんな訳で、ウキウキしながら保管スキルの選定など。


 結局、片手剣や土スキルを5個ほど預けて、合計で15Pの還元ポイントを得た央佳。それを細剣に10P、竜スキルに5Pほど振り込んで。

 もちろん目標には全く足りないが、とにかく始めの一歩を踏み出せた事実は大きい。この調子で頑張るぞと思ったのが、つい先日の夜の館での出来事。

 お返しに、停滞している地下迷路のお手伝いなど考慮しつつ。



 それから花組のエストに、変なアドバイスを貰ったのもその頃の事だった。限定イベントが終わって、さて自分と家族の稼いだハンターPをどう使おうかと考えていた所。

 新エリアでちょっとした当てがあるから、溜め込んだポイントを使うのは待って頂戴と。どうやら彼女達が発見した、新種族に関連した妙なツテがあるらしく。

 それを掘り下げて訊くのは、マナー違反だなと引き下がる央佳。


 取り敢えず、事態がハッキリするまではそのアドバイスには従うつもりだ。本音を言えば、翌日に迫った戦争ミッションに向けて、少しでも成長しておきたかったのだが。

 ここは仲間の顔を立てる事に、何しろ他にも成長の当てはあるのだし。


 一番確実なのは、新大陸ミッションをクリアしての、スキルスロット+2の恩恵である。そのミッション進行の風景も、ダイジェストでお送りしよう。

 “エルフの里”で得た『水脈の羅針盤』を頼りに、“断崖の街”から断崖の隙間の一つを探し当てた一行。お手伝いは央佳家族のほかに、花組と奇面組、それからギルド員が10名!

 はっきり言って、人員余剰も甚だしい。


 それでもこう言うのは、一種のお祭りだと理解もしている央佳。仲間のレベルアップ、新エリア到達を祝うどんちゃん騒ぎ的な。だからどんと構えて、ひたすら感謝していれば良いのだ。

 そんな訳で、各所に出て来る敵の群れはお手伝いに丸投げして。自分は新しく生まれ変わったメイのチェックなど。父親の後衛参加に、明らかに戸惑っている子供達だが。

 それなら自分も後衛にと、言えない真面目な長女はとっても寂しそう。


 逆にアンリとネネは、とっても嬉しそうで戦闘そっちのけで騒いでいる。お披露目を言い渡されているメイと来たら、緊張も感じさせずリラックスないつもの様子。

 ご機嫌に、新しく取得した弓スキルや聖魔法を順に使って行きながら。自分自身も、その使い心地を確かめている感じ。その中の取得弓スキル群は、まぁ順当と言うべきか。

 結構な威力を誇る《貫通撃》以外は、SP溜めに使う程度。


捻ったスキル技では、《影縫い》とか《痺れ矢》が存在するけれど。メイの性格としては、搦め手を挟むよりさっさと相手の息の根を止める方法を選ぶタイプ。

その手段が次女に備わっている事も、問題ではあるのかも。


 その主要な問題源の『聖』スキルだが、まぁ汎用性は上がった感じだ。《メビウスリング》や《ルーンアンカー》は、敵を足止めする魔法と思って差し支えない。

 方向性はやや違って、前者は大勢を一斉に幻覚の迷宮に放り込む感じだろうか。後者はダメージ付きで、敵の身体からルーン文字が浮き出てくる仕様で。

 移動も行動も、一切を封じ込める怖い魔法である。


 回復系の魔法も覚えたようだが、MPコストも高くて使い勝手は宜しくないかも。ついでに覚えた水魔法で、回復や支援魔法は賄う心積もりらしい。

 これで祥果さんの負担も、少しは減るかも?


 本人もそのつもりでの取得らしいし、良い事だと央佳も思う。そう、メイに限らず子供達の本性は、基本的に親孝行なのだ。しかし最後にと、大盤振る舞いした攻撃魔法の顛末に。

 その場にいた央佳も大慌て、単発で直撃した《シルバーレイ》の新魔法はともかくとして。同じく新魔法の《エンジェルウィッシュ》込みの《サークルブレード》は、全弾クリティカルしてしまう酷い顛末。

 ボロボロになった怒れる敵の集団が、こぞって後衛へと押し掛けて来て。


 ついつい思い出したのは、央佳がソロへと至ったあの日の気まずさ。慌ててブロックしながら、後衛に詰めてて良かったなと思ってしまう自分を笑ってしまう。

 アンリとネネも手伝ってくれて、その場は事無きを得たのだが。気まずさはあの時と全く同じ、祥果さんと一緒にひたすら手伝いに集まってくれたメンバーに謝罪の嵐。

 それを目にして、流石のメイも考えを改めた様子。


「ごめんなさい、パパに祥ママ……今度から、ちゃんと加減して魔法を使うようにするから」

「ちゃんと反省してくれるんなら、これ以上は言う事無いよね、央ちゃん?」

「まぁ、そうだな……前と較べると反省出来るだけ進歩してるかな……?」


 お手伝いのメンバーも、子供のやんちゃ振りには鷹揚に対応してくれたお蔭で。それ以上の問題には発展せず、夫婦としても穏便に済ます事に。

 ルカだけは、1人残された前衛で何やら文句を言いたそうな素振り。それを悟った央佳は、メイのお披露目を切り上げて。サボっていた分を、前衛で取り返す事に。

 それを見て、諸手をあげて歓迎する長女。


 地下水脈の空洞は、時に広くなり狭くなりして、くねくねとどこまでも続いていた。出現する敵はコウモリや水棲の生物、それから地下水脈の迷宮に集落を作っていたリザードマン達。

 それらを蹴散らして進んで行く一行、人数がいるせいでサクサク進んで順調そのものだ。一番の難所であるはずの、リザードマンの集落攻めもあっという間の出来事。

 数の暴力で、拠点落としも短時間で攻略成功に至って。


 後はちょっとした謎解きとか、イベント動画を幾つか見せられて。あの断崖の高さを登り切って、ようやく新大陸の入口へと到着。大きな谷の下を流れる、川のほとりへと一行は出る事が出来て。

 その谷を上へと続く、細い階段を一列になって登って行くと。すぐ近くに“最果ての街” ベーデンが確認出来る。冒険者にとって、そこは新大陸最初の街ではあるのだが。

 その街に入れば、すぐにまた強制動画が待っている。そしてワープ拠点の設置とスキルスロット+2の報酬を、無条件で得られる訳だ。

 理由は簡単、冒険者とは“外敵を狩る存在”に他ならないから。


 つまりはこの周囲の現状は、差し迫った脅威に溢れている事になる。当然ながら、出現するモンスター達も初期大陸とは違って格段に強くなっている。

 そこで冒険者達は、己を鍛えて取り敢えずはレベル200を目指し。そして新ミッションの、中央塔へと至る道へと挑んで行く事になる訳だ。

 それは祥果さんも子供達も、今後通る道には違いなく。





 ――お手伝いメンバーに感謝しつつ、家族のミッション達成を祝う央佳だった。







 ――姉妹最後の“加護返し”を終えた、メイのスキル一覧。




***メイ*** 種族『聖』♀ Lv107


種族スキル《法力》全ステータスup《魔法攻撃力+30%》魔法攻撃力up

《聖天》MP・SP量up《魔法詠唱短縮》詠唱時間の短縮《才気》スキルスロット+1

《聖心》ステータス大幅up《後衛適応》後衛に必要なステータスup

《感応》敵の弱点察知《霊視》魔法範囲up《上位種》8属性種族に対し優位を得る

聖スキル《サークルブレード》……複数の光輪による攻撃・防御

    《エンジェルリング》……頭上に浮かぶ光輪による浮遊&弱体無効

    《エンジェルウィッシュ》……攻撃・弱体系の魔法のレジスト

    《ルーンアンカー》……力ある文字で相手の行動を封じる

    《シルバーレイ》……単体に銀光で攻撃

    《メビウスリング》……対象を幻覚の迷路に放り込む

    《ホリーグレイス》……肉体も物体も、魂さえも時限付きで修復

    《ホリーブレス》……パーティ全員を回復

弓スキル《二段撃ち》……1度に2回射撃を行う

    《ランブルショット》……唸りをあげる一撃

    《狙い撃ち》……クリティカル率アップの一撃

    《痺れ矢》……相手を痺れさせる

    《貫通撃》……相手の防御力無視の一撃

    《影縫い》……相手の動きを一定時間封じる

水スキル《ヒール》……対象のHP回復

    《ウォーターシェル》……対象の防御力up

    《ウォーターミラー》……対魔法防御力up

    《ウォーターランス》……単体に水の槍で攻撃




 ***弓関係の補正スキルは、結構出たけど略。神様に貰った『聖』の宝珠は本人使用。

  水の宝珠も、余ってたのを1個だけ使用。後付けジョブは、もう少し後で取得予定。













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