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竜と聖魔とバツ2亭主  作者: 鳥井雫
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晴れやかな空の下で



 久し振りのフィールドだ、晴れやかな空の下を堂々と闊歩するのがこんなに楽しいなんて。その思いは子供達も同じらしく、きゃいきゃいと騒ぎながら野原を駆け回っている。

 ここは王都から暫く北東へと進んだ、ちょっとした山を見上げる高原である。手長族の追手を撃破したお祝いを兼ねて、朝からピクニック気分でお出掛けした訳だ。

 そのついでに、溜め込んでる呼び水トリガーを消費しようと。


 家族のほかに声を掛けたのは、まぁお馴染みとなった花組と奇面組の面々である。それからトーヤ達にも参加の有無を尋ねたら、全員時間は大丈夫との事で。

 大丈夫じゃないのは、レベル的な安全性だけっぽい。そこはまぁ、これだけ人数がいれば護衛は万全だと請け合って。子供達も祥果さんのお蔭で、護衛役は慣れているし。

 そんな訳で、大所帯でのお出掛けと相成って。


 朝の内に王都で時間を潰したものの、その後は合流からの無事出発。最近は館の一室を寝食の場としている央佳ファミリー、そのため館の部屋は家族ムードに溢れてしまっている。

 そんな部屋の家具や小物を、事ある毎に祥果さんは王都のお店で購入して。子供達と楽しみながら、色んな物を取り揃えているらしい。こと部屋の飾りについては、男は出る幕ナシ。

 それは別に良い、奥さんが満足してるなら。


 ところが彼女達、最近は王都に寄る度に確認する事があるらしく。裏通りに続く小道を、毎回チェックして廻るそうで。アンリの発案らしいが、央佳にはその気持ちは良く分かる。

 三女も昔は、そうやって新しい扶養者を見定める立場だったのだ。今はこうして央佳と縁を結べたが、この前姿を見掛けた子も良縁を結べるとは限らない訳で。

 その心配が、常に少女にはあるらしい。


 祥果さんもそれは同じく、よその子とは言え不幸になどなって欲しくは無いとの思いで。いつも裏通りを見渡して、いないねぇとアンリと話し合っていたりして。

 央佳にしてみれば、これ以上子供が増えるのはどうなんだろうと言う疑問が。別に嫌とか駄目とか言う程では無いけれど、これ以上養えるかなと言う不安はある。

 祥果さんには決して言わないが、まぁそんな思いは心中に存在していて。


 幸か不幸か、今の所5人目を知らせる報告は届いていない。戦力的に見たら嬉しい話なのだろうが、今だって子供達の教育には苦労しているのだ。

 最初の頃は、4人一緒同じ授業内容で全然平気だったのだけれど。最近は各自好みが分かれて来ていて、それに沿って教えようと思ったらかなり大変だ。

 だからこの時期にトーヤ達と合流出来たのは、本当にラッキーだった。


 ここから気を付けるのは、まずはルカとネネの人見知りである。はやく自分の友達に慣れて貰わないと、おちおち授業も押し付けられない。

 メイの算数大好きは置いといて、アンリとネネのお話好きは伸ばしてあげたい。ルカは我慢強くて運動神経は良いが、勉強はあまり得意と言うか好きではないらしい。

 ただし、一番家事や手伝いを頑張るのはルカだし、妹の面倒見も良い子だ。


 次女のメイは、子供の頃の祥果さんに似てるなと思った事があるけれど。祥果さんから編み物を教わったり、理路整然的な考え方はやっぱり似てるかも知れない。

 四女のネネに関しては、実は一番勉強熱心だったりする。字を覚えるのも早いし、今では簡単な漢字まで使いこなす。ネネの描く絵は、漢字交じりでかなり味があったりする。

 これで「父っちゃ大好き!」とか描かれた日には、ちょっと泣いてしまいそうに。


 三女のアンリも、なかなかに勉強好きであるのは間違いない。物静かな外見からは、向こうの世界なら文学少女に見られるかも知れないけれど。

 それなりに活発なのは、近しい者なら誰もが知る事実。何より央佳が評価してるのは、甘え上手な所である。これは子供達全員言える事だが、愛情を隠さず素直に甘えて来る。

 人を愛するって、本当は難しいスキルだと央佳は思う。



 そんな姉妹事情を吟味して、央佳は野外の散策中にも色々と作戦を練っていた。つまりは班分けを3つにして、それぞれ役割分担を振り分けたのだった。

 まずは偵察班に、喜一と黒助とアンリの3人を選抜。前方の危険を排除しつつ、目的地へのルートを示す役目である。ハードな役だが、指名された面々は張り切っている様子。

 次に指令班として、アルカとエストと祥果さんとメイの女性メンバー陣。呼び鈴の座標を読み取ったり、マップを書き込んだりと偵察班と密に情報の遣り取りをこなす班である。

 これも重要な役目だ、指示を間違えると全員が迷子になってしまう。


 最後にトーヤ達の護衛として、央佳とルカとネネの竜組を配置。確かに護衛も大切だが、本音はトーヤ達に長女と四女が慣れて貰うためである。

 今の所、その作戦の効果は物凄く薄いけれど。ルカは聞かれた事だけに答える程度、ネネに限っては父親を盾にして顔を合わせようともしない。

 さすがに困ったなぁと、央佳が友達に表情で知らせた所。


「ルカちゃんにネネちゃん、祥ちゃんに勉強を教わってるんだって? 歌は好きかな、お姉ちゃんが教えてあげよう♪ どんな歌がいいかな~?」

「……お父さんが好きなのが、その……あったら」


 お父さんの好みは良く知ってるよと、七海さんは張り切って長女と距離を詰めて行く。どちらかと言えば、ボーイッシュでガサツな性格に思われがちな七海さんだが。

実際は、仲間思いで機転の利く利発な女性には間違いない。


 央佳も信頼度で言えば、トーヤ以上に七海さんには心を許している。仲間が5人もいると、何と言うか自然と役割的なナニカが決まって来ていて。

 祥果さんは別にして、難しい話や議論相手は間違いなくトーヤが頭に浮かんで来る。逆にのんびり何も考えずに遊びたい時は、陽平の出番だろうか。

 琴子さんは、祥果さん以上に本の虫で知識量は素晴らしい。トーヤと一番話が合うみたいだが、ちょっと頭でっかちな所も見受けられる。

 その点七海さんは、思うより感じろってなタイプの行動派である。


 陽平と気が合うような気もするが、央佳が見た限りでは終始衝突ばかりである。気が強いのは間違いないが、芯がしっかりしていて信頼のおける女性なのは前述の通り。

 このゲームにも以前から誘っていたのだが、仕事の忙しさとジム通いの時間が欲しいとの理由で。断られ続けていたのだが、今回は仲間のピンチだとの認識の結果だろうか。

 信愛に熱い七海さんらしく、一肌脱いでくれたらしい。


 そんな彼女は、率先して子供達と仲良くなる手段を講じてくれていた。元々央佳夫婦から、家庭教師の要請話を聞いていた事もあったのだろうが。

 早速、七海さんの得意分野の披露をしてくれるらしい。ルカとネネは、最初こそおっかなびっくりの様子だったのだけれども。父親も一緒に歌う姿に、いつしか人見知りは消え失せ。

 一生懸命に歌う姿は、七海さんに及第点を出させるには充分過ぎ。


「良い子達じゃないか……学習意欲の根底が、父親に褒められたいってのが少し気になるけど。あの頃の子供ってのは、学習って本能の筈なんだけどな。そう言えば、央佳がこっちの世界に来た時には、既に親子関係は構築されていたんだっけ?」

「あぁ、俺の事は全員が父親だと認識していたよ……祥果さんは、逆に知らない女性って感じで警戒されちゃってたけど。父親べったりなのは俺も気にしてたけど、まぁ1日の大半を一緒に過ごすんだし、向こうの世界の親子関係と違って来ても仕方が無いんじゃないか?」

「ふむ、なるほどね……考えてみれば、凄く贅沢な環境だよなぁ」


 確かにトーヤの言う通りだ、2人は前を行く女性陣から少し離れて歩きながら、そんなよもやま話を語り合って。子供の教育論や難しい話は、幾ら語っても飽きない題材だ。

 そんな呑気な後列に、前を行く偵察班と指令班から伝令が入った。どうやら獣人の集落と、呼び水のトレードポイントを一緒に見付けたようだ。

 央佳がトーヤに尋ねた所、彼らは集落攻めを1度もこなした事が無いらしい。


 この世界でもアクティブな七海さんは、是非やってみたいと乗り気である。ルカにも気軽に話し掛けて、コツや注意点を聞き出そうとしている。

 当のルカは目を丸くして、顔を赤らめてパニック状態。今にも父親の方へと逃げて行きそう、まだ人見知りは拭える状況には至っていない様子。

 ネネはと言えば、定位置の央佳の足元に戻って来ている始末。


 もう少し時間が必要だなぁと、央佳は観念した素振り。それよりNM戦と集落攻めの作戦を立てないと、今回はレベル50台のトーヤ達もいるのだし。

 両方を見付けたアンリは、央佳にすり寄って来て褒めて貰いたい素振り。よいしょっと抱き上げて、その成果を頬ずりで報いてやる。それを微笑ましく、周囲の面々が見守って。

 そのままの姿勢で、まずはNM戦のメンバーを選出して行く。


「呼び水はEランクだし、トーヤ達とルカとネネの編成で行こうか……ルカ、しっかりな!」

「はっ、はい……お父さん!」


 多少荒療治だが、大事なリア友だし早く仲良くなって欲しい。他の面々はルーキーと子供のコンビに頑張れと声援を送っている。パーティを組みながら、役割の分担を話し合うルカとトーヤ達。

 不安そうなルカが、助けを求める様に父親の央佳に視線を投げ掛けて来る。ネネも抱っこされているアンリを、羨ましそうに眺めていたりして。

 身が入っていないのがアリアリ、それを察して祥果さんが危機感を持った様子。


「ルカちゃんにネネちゃん、そんな気が散った状態で戦闘なんかしたら怪我しちゃうよっ!? 私とアンリちゃんが代わりにパーティに入るから休んでて……央ちゃん、いいよね?」

「あっ、ああ……構わないけど」


 勢いで了承してしまったけど、ルカは明らかにしゅんと項垂れてしまった様子。いつもは優しい祥果さんの言動に、明らかに姉妹間に緊張が走っていた。

 指名されたアンリは、父親から飛び降りて皆の元に合流。トーヤが盾役で戦闘を進めるらしいが、それより気になるのはこの場に溢れ出た雰囲気である。

 央佳もそれを緩和出来ずに、ちょっとまごついてしまっている。


 戦闘は、思った程には手こずらずに終了に漕ぎ着けた様子。盾役のトーヤは光種族を選択していて、武器は片手斧で力のこもった攻撃も魅力的だ。

 陽平は両手武器アタッカーで、武器は両手斧を使用していた。炎種族で、気質には合っている様ではある。もう1人前衛を選択した七海さん、こちらも性格に合った雷種族のアタッカーだ。将来は二刀流を目指しているようだが、残念ながら今は《二刀流》のスキルを引き当てていない様子。

 短剣と盾装備で、それでもスタン要員としてはなかなかの存在感である。


 ただ1人の後衛は、水種族の琴子さんが担っているようだ。恐らく全員が役割分担を決めて、種族まで計算して選んだのだろう。無駄の無いフォーメーションを4人で組めるようになっている。

 ただこのファンスカと言うゲーム、スキル取得は運に大きく頼る仕様となっている。欲しいスキルがなかなか出ないとか、何故か取得が補正スキルばかりに片寄っているとか。

 思うように行かないのが、まぁ1つの醍醐味ではある訳だけど。


 例えば七海さんの《二刀流》とか、トーヤの盾スキルの種類とか。琴子さんの回復スキルは、幸いにも順当に揃ってはいる様だけど。陽平の攻撃スキルも、まぁ悪くは無い感じ。

 親友達の戦いを眺めながら、央佳は少しだけ安心していた。及第点を与えられる動きとスキルの並びだと思う。後は順調にレベルを上げて、経験を積んで行けば良い。

 その頃には、スキルの並びも今の比では無くなっている筈だ。


 そんな事より、心配なのは初めて祥果さんに叱られたルカの精神状態。傍目で見てもしゅんとしていて、そのダメージは大きい様子。ただ央佳から見て、祥果さんの行動は概ね正しい。

 それでも項垂れる我が子にフォローは必要だ、なるべく説教臭くならない様に。次はちゃんと頑張りなさいとの言葉に加え、自分の大事な友達のアピールも忘れない。

 家族と一緒で、自分の大事な仲間なのだからと。


 それから最後に、祥果さんは怒っている訳じゃないんだよと念の為の確認の言葉。ルカの元気は戻らなかったが、それでも次は戦力の必要な獣人の集落攻めである。

 闇ギルドの横ヤリの心配はそれ程ないが、全員が低レベル帯に合わせて行動するのも少々怖い。央佳と喜一は護衛役でレベルを落とさない事にして、残りのメンバーでパーティを組んで。

 集落の外れに屯している輩から、殲滅戦を開始。


「もー、ルカ姉ったら……しっかり気合い入れ直してよね! 祥ちゃんに怒られるって、どんだけだらけてるのっ!?」

「うっ、うるさいなぁ……ちょっと良く知らない人達と一緒だから、緊張してただけだよっ!」


 人はそれを人見知りと呼ぶのだが、尚も姉妹での言い争いは続いている様子。それを見て隣の喜一が、央佳に向かって大変ですねぇと囁いて来る。

 確かに大変だが、上手い事メイがフォローをしてくれているみたいで一安心。ルカの頬にも朱が差して来て、生気が戻って来たのがここからでも分かる。

 更に七海さんからも、何やら任せておけとのゼスチャーが。


 確かに同じ前衛だから、接する事は多いとも思うけど。護衛の立場を忘れて、央佳はそちらばかりを気にする破目に。即席パーティの前衛は、段々と敵の多い地域へと侵入して行き。

 それがわざとだったら、大した演技力だと央佳は思う。七海さんが敵の集団へと、《スパークの》雷魔法を撃ち込んだのだ。これは珍しいスタン魔法で、範囲効果もある訳だけど。

 それに気を惹かれた獣人の一団が、2匹ほど七海さんに襲い掛かって来る。


 大袈裟に驚く七海さん、獣人のレベルは彼女達より幾分か上である。このピンチに隣のルカがいち早く反応して。挑発技と大剣のスキル技で、七海さんの安全を確保する。

 ネネもこの混乱に気が付いた様子、壁の一角を作るよう指示されて、それを何とかこなしている。央佳も喜一も、この時点では護衛と言うより授業参観に訪れた父兄の気分。

 周囲の安全確認などそっちのけで、子供達の奮闘を見守っている。


 その甲斐あってかは不明だが、その後は順当に集落の奥まで到達。2つに分かれたパーティは、なかなか上手に敵を分断させて各個撃破の流れを作っている。

 全体の指揮を執るトーヤは、やはりゲーム世界でもその頭脳の出来を遺憾なく発揮している。パーティが敵に囲まれないように、危機に陥らない様に位置取りをしっかりしていて。

 圧倒的にこちらより多い敵の数を、上手く誤魔化す術を心得ているようだ。


 NM獣人の襲来にも、慌てず強い方のパーティで当たっている。残った方が雑魚の掃討をして、相方の安全を図っているのも流石だ。そろそろ王様が出現するぞと、央佳のアドバイスに。

 は~いと元気な返事が、子供達から返って来た。ここまで来ると、央佳と喜一もようやく安心して見学していられる。何故なら、敵の獣人の数は片手で数えられる程に減っているから。

 今も張り切るアンリによって、強敵が1体沈んで行って。


「アンリちゃんは本当に凄いね、エースの働きっぷりだなぁ……あれで、魔法の威力も凄いんだものなぁ」

「たまに突飛な事するけどな……でも、確かに戦闘力はずば抜けてるよ。姉妹の中でも特殊ではあるかな、前衛と後衛の両方で力を発揮出来るってのは」


 戦場で目立つ三女の評論を、央佳と喜一とでしていると。獣人の王様が出現したようで、にわかに慌ただしい雰囲気が立ち上がる。ルカのパーティが、それを抑え込みに動き出し。

 束の間の激しいコンタクト、敵のボスのスキル技はやはり派手なモノが多い。それでも踏ん張る頑張り屋のルカ、暫くして雑魚の掃討を終えた別パーティも合流。

 数の暴力で、ものの数分で最後の大ボスも終焉の運びに。


 後は、嬉しそうに宝箱を開けて回るメイとアルカの毎度の姿が。それからホッと身体の力を抜いたルカに、七海さんが近付いてナニやら感謝の言葉を述べたっぽい。

 ひたすら照れているルカ、その時祥果さんも近付いてやはりお礼を述べたのだろう。友人の窮地を救ってくれて、どうも有り難うと。その途端、長女は大号泣を始めてしまった。

 慌てたように、周囲の大人が宥めに掛かるけど。


 央佳は特に心配はしていない、これは長女と祥果さんの問題だから。自分の奥さんに任せておけば、きっと上手に場を収めてくれると言う確信がある。

 事実、祥果さんに抱きしめられたルカの泣き声は、次第に小さくなって行った。七海さんと琴子さんも、そんな2人を微笑ましげに眺めている。

 更にその脇に、心配そうなアンリとネネの姿が。


 他の面々は、驚きながらもそっとしておこうと考えたのだろう。つまりはこれは、家族間の出来事だから嘴を突っ込むべきではないと。概ねそれは当たっている、多少気まずい顔をして仲間が央佳の方へと集まって来る。

 央佳はお昼休憩を提案して、寛げる場所の探索を皆に依頼する。丘陵が拡がるフィールドだから、落ち着ける場所には事欠かない筈。

 メンバーの総意で決まった場所は、小高い丘の大木の木陰だった。


 そこにメンバーが固まっていると、暫くして女性陣が丘を上がって来た。ルカは祥果さんに肩を抱かれていて、取り敢えずは落ち着いている様子。祥果さんの反対には、アンリが抱き付いていて塊になっている。

 央佳が進み出て、ご飯にしようと奥さんに告げると。頷きを返した祥果さんは、子供達に手伝ってと元気に告げる。央佳はキャンプ道具を取り出して、場を確保。

 そして始まる昼食会、場は一気に賑やかに。


 ぶっちゃけ、央佳家族以外は食事を取る事にあまり大きな意味は無い。食事効果で多少ステータスに補正が入ったりとか、一緒に食べると信頼度が上がる程度だ。

 休憩も、リアルで取った方が寛げるのは確かである。現にリアルにトイレ休憩に入る人もチラホラ、央佳家族に限ってはモリモリ食事を腹に詰め込んでいるけど。

 女性陣が固まって、穏やかな空気を作り出している。


「……その年で子持ちは大変だな、央佳。しかも姉妹の性格が、それぞれ違うみたいだし。実際やっていけてるのか、毎日大変だろう?」

「そんな事もないよ、夫婦での共同作業だしなぁ……向こうの世界だと、仕事と家庭との両立が大変って感じになるんだろうけど。子育ての予行演習って思えば全然苦でもないし、実際子供達は可愛いしなぁ……」


 なるほどと、陽平は央佳の答えに納得した感じ。隣で2人の遣り取りを聞いていたトーヤは、子育てに正解は無いもんなと呑気な物言い。確かにそうだ、同じ性格の子供なんている筈も無いのだし。

 対する女性陣は、軽い会話で子供との距離を詰める作業に勤しんでいた。ルカは泣いた後の照れ臭さから、ようやく抜け出して脱力した良い表情を見せている。

 メイとアンリも、普通に祥果さんの隣で昼食を楽しんでいる様子。こちらの2人は、大人相手でも全く物怖じせずに対応している。むしろ興味深そうに、祥果さんのリア友に質問を浴びせ掛けている。

 四女のネネは、辛うじて姉達に包まれて平静を保っている感じだろうか。


 もう心配は無いかなと、安堵しながらそちらを眺めつつ。央佳は午後の予定を、仲間達と話し合う事に。午前中に消費した呼び水は2つ、まだ3つほどこの付近で使える予定のトリガーは残っている。

 先程の集落攻めで、トーヤ達の経験値も結構溜まったらしい。報酬は後で山分けするとして、この後はまた移動の予定。遠足みたいで面白いなと、相変わらず呑気な陽平だが。

 トーヤも同意らしい、ゲームに熱中するタイプでは無いと思ってたのに。


「よくゲームに時間を費やすのは勿体無いって、教育関係者が漏らしてるけどさ。多くの子供がゲームに熱中する熱量を、本当に彼らは理解しているのかな? 最近は大人のゲーマーも珍しくないし、ネット依存症なんて騒がれたりもしてる。その原因は、現実の希薄感とか重度な現実のストレスにも要因があるんじゃないかな?」

「ゲーム世界は現実逃避の場所だってか、トーヤ? 俺にとっては暇潰しと、それから友達を助けるための場所かなぁ? もちろん皆と遊べるのは楽しいし、ゲームって結局はそう言う側面が大きいって俺は思うけどな?」

「楽しくないと続かないもんな、陽平は特に飽きっぽいし……ひょっとして俺がこの世界に招かれたのは、現実逃避が原因なのかもなぁ?」


 そんなの誰だって内包してるよと、トーヤの言葉に陽平も激しく頷いている。この世界に招かれた理由は相変わらず不明だが、分かった事が1つだけ。

 家族やギルドと言う形態は、どこでもきっちりと機能すると言う摂理。人間は結局の所、群れないと生きていけない動物なのだ。むしろこちらの世界の方が、絆の大事さは身に染みる程。

 大掛かりのクエやミッションは、単独では絶対にこなせない仕様だから。


 ところが現実の人間関係の希薄さは、どんどんと加速して行っている気すらする。親子関係の愛情の低下とか、地域付き合いの変質とか会社の正規雇用率の減少とか。

 挙げればきりが無い程度には、社会の孤立化は進んでいるのだ。架空のオンライン世界に人々がそれを求めても、仕方が無い環境が整って来ている。

 もっとも、この架空世界に問題が全く無いかと問われれば、そんな事もないのだが。


 所詮は人間の、自身の問題がついて回るのは当然である。人間の変容が悪い方に傾くと、ゲーム世界も荒れて当然だ。ただ、人と人が親密に付き合えるソースではあると央佳は思う。

 ファンスカで知り合った友達も、央佳にはたくさんいる。ここにいる喜一や黒助、それからアルカやエストも含めて。子供達をそのカテゴリーに入れて良いモノかは、甚だ疑問だが。

 それも含めて、縁の複雑怪奇さは肌で味わっている気もする央佳。



 そろそろ昼食休憩を終わって、探索に戻るよと仲間と子供達に告げる央佳。アンリが率先して、再び偵察班を買って出ている。それなら自分達もと、奇面組も前を行く構え。

 結局は午前と一緒の構成で、フィールド探索を行う事に。央佳はのんびり、トーヤや陽平とお喋りしながら後詰め役に従事している。その少し前を、祥果さんグループが進んでいる。

 その中には、ようやく硬さのほぐれて来たルカとネネの姿も。


「まぁ、人見知りがそんなに悪いかって言ってもさぁ……よく知らない他人が怖いってのは、生き物の正当な反応の部分もあるんだし。実際怖い奴もいるんだから、半分は正解だと俺は思うけど?」

「陽平のその発言は、人懐こい人物代表としてのモノと捉えていいのか? 確かに簡単に人を信じて、痛い目に遭うパターンも無視出来ないとは思うけどな……」

「俺も祥果さんも、無理やり子供の性格を矯正しようとは思ってないよ。ただ、今度勉強を見て欲しいって頼んだ相手に、心を許せず気もそぞろな対応は失礼だと考えてはいるかな。子供を叱るのも躾けるのもパワーがいるよ、そのへんは覚悟しといてくれよ?」


 央佳の脅すような言葉に、トーヤは承知しましたと軽口で返して来る。その後は、誰が何を教えるかとの教師役の打ち合わせや、こっちの世界での活動予定やら。

 ギルドはもう入らないで良いのかとの央佳の問いに、お前の作った奴でいいじゃんと、貰ったバッヂを指差して陽平の呑気な返事。これは簡易版なんだけどなと、一応説明するが。

 しかし既に、簡易ギルドの人数は10人を超えていると言う恐ろしい事実が(笑)。


 ギルドに名前を付けるべきかなとの、陽平の気の利いた提案に。トーヤが『異世界探索クラブ的な』何かが良いだろうと真顔で返して来た。それだと不審に思われるぞと、一応央佳は突っ込んでおくけれど。

 取り敢えず女性陣からも名前の案を募ろうかと言ってると、偵察部隊から再び何かを発見の報せが入って来た。既に前線は戦闘に突入している様子、移動中の獣人の群れっぽい。

 慌てる程の事でもないが、前を歩いていた祥果さんグループはダッシュで移動中。


 後ろで駄弁っていた央佳達も、おっとり刀で駆け付けて。苦戦しているグループの応援へと、戦闘参加からの盛り返し。敵はカモシカ型の獣人らしい、俊敏な動きはさすがのレベル。

 コイツ等の集落も、近くにあるのかも知れないけれど。うろついていた一団は、大体20匹程度らしい。NMが混じってるぞと、アルカが騒がしく皆に忠告を飛ばしている。

 後ろから戦況を観察していた央佳は、素早く長女に押さえ込みの指示。


 NMカモシカ獣人は、派手な角と飾りで一発で所在が判明したようだ。ルカは勇ましくそいつに突っ込んですかさずキープ、その背後を七海さんとアルカの女性陣が護っている。

 いかにルカが盾役仕様とは言え、囲まれたら一転ピンチになる状況には違いなく。こちらの倍の人数相手に、ペットや防御系の壁を利用して不利な状況を回避している。

 それを指揮しているのは、祥果さんの側に控えるメイだったり。


「……あのメイって子は全体の状況を見るのが上手いな、祥果さんを上手に操ってるよ。……おや、今回は央佳も戦闘に参加するのか?」

「さすがにこんな場所まで、PK軍団はついて来てないだろうからな。戦闘指揮は、後衛からの方が全体を見渡せれるから良いんだよ。メイは確かにセンスあるよ……祥ちゃんは、そっち系全般は苦手みたいだからね」


 レベル制限を受けながらも、器用に一気に3匹の獣人を相手取りながらの央佳の総評に。何しろ央佳もペット持ち、その上豊富な盾スキルを所持していると来ている。

 勉強になるなと、隣の盾役見習いのトーヤの弁。更にその隣には、豪快な一撃を放り込んで来る陽平の構図。戦況判断は重責なので、本当は自分がした方が良いと央佳は思うのだが。

 娘を信じるのも、父親として大事な責務だとも思ってみたり。


 そんな事を考えている内に、獣人の群れは霧散していた。と言うより、全滅させてしまっていたらしい。一息つきながら、戦闘解除からリラックスモードに。

 この事態を招いたアンリは、さほど気に病んでいる風でもない。それがこの子の特徴とも言える、央佳も軽く注意するだけに留め。ドロップ品を報告するメイや、活躍を褒めて欲しそうなルカやネネとも軽くコミュニケーションを取る。

 それから呼び水の座標チェック、どうやら近くまで来ているみたい。


 そこからは怒涛のトリガーNM3連戦、段々とこなれて来た仲間達との連携に、さほど苦も無く撃破して行く。そしてお決まりの報酬チェックに、思い切り湧く面々。

 これがゲームの醍醐味だ、苦労の後には大抵はそれに見合った報酬が待っている。たまに外れも存在するけど、それすら気の合う仲間との笑い話になってしまう。

 充実感を味わいながら、最後のトリガーをポイントに放り込むと。


 その姿を見た途端、子供達がワッと今日一番の盛り上がりを見せた。央佳はその正体を知っていたけれど、まさか子供達の本能がそれを察知したと言うのか。

 出現したNMは、ファンスカでは超有名な『へそくりニャンコ』と言うモンスター。とにかくドロップが凄い事で知られる、福の神的な扱いの敵だったりする。

 もちろんそれを知る央佳やベテラン陣も、異様な盛り上がりを見せ。





 ――そのドロップに一同が湧くのは、それから数分後の事だった。










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