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竜と聖魔とバツ2亭主  作者: 鳥井雫
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鍛え直しが必要ですね



 本当に久しぶりの中央塔だ、ここは新エリアの文字通り中央付近に聳え立つ巨大な塔である。冒険に必要な設備は何でも揃っていて、だから冒険者の使用頻度はとても高い。

 今も目的があってか、それとも単なる暇潰しなのか、行き交う冒険者の数は結構多い。ただしここを利用するには、レベルを200に上げてミッションをこなさないといけない。

 つまりCクラス以上の冒険者だ、その称号と共にこの塔は解放される。


 中央塔の設備で、一番の目玉は何かと聞かれれば、もちろんミッションPの交換所であろう。ハンターPと違い、ミッションP交換はこの施設が初出である。

 従って宝具の交換や何やらに、溜め込んだミッションPを使用するのもこの塔に入ってから。もしくは宝具の性能を知って、血眼になってミッションPを溜める為に奔走するのも同様だ。

 冒険者が確実にランクが上がったのを実感するのが、この場所である。


 この塔の性質上、もちろん祥果さんは入る事が出来ない訳で。子供達はどうかなと思ったのだが、冒険者登録をしてしまったアンリも無事に通る事は出来た様子。

 ネネも同様にフリーパス、長女と次女は今回はお留守番である。祥果さんの護衛と言い換えても良い、ルカが大人しく了承したのはちょっと意外だったけど。

 気紛れなメイだけには、任せておけないとの判断だったのかも知れない。


 とにかく2人体制なら、央佳の心配もぐっと減るし安心だ。手間の掛かるネネを、こちらの監視下に置けるのも良い。その当人がご機嫌なのは、今日の主役は自分だと思っているから。

 まぁそれは半分は正解、四女の装備を揃えてしまおうと競売所に寄っているのだから。いつものように央佳が抱っこして、あれやこれやと見て回る。アンリも父親にくっ付いて、忌憚のない意見を述べている。

 その後を、申し訳なさそうについて行く前衛ズ。


「あの……子供との触れ合い中に申し訳ないけど、自分らの装備の選定もお願いします」

「おお、そうだった……中央塔に来たのは、ミッションポイントの交換も出来るからって事だったよな? 2人とも、ポイント溜まってるんだよな? そっちから固めた方が良いか」

「そうだね、ついでに補正スキルのセットもこなしちゃおう……って事は、ハンターポイントの交換が先かな?」


 喜一の控えめな催促に、提案を掲げたのは央佳のギルドのマスターであるマオウ。今回アドバイザーとして、そして央佳にお金を貸すために呼ばれた訳だが。

 マオウは完全アタッカーの金属鎧装備の前衛である、央佳よりそっち系の組み合わせはもちろん詳しい。そんな訳で指導役には適格だろうと、央佳が頼み込んだのだ。

 そしてまとまったお金が必要になった、央佳の借金にも応じた形。


 そんなマオウの補正スキル指南は、驚愕と混乱から始まった。喜一の方は、特に大きく弄る程では無かったものの。アルカの補正スキルの選択に関しては、常軌を逸していて。

 何でこんな組み合わせなのと、思わず詰問口調になってしまったマオウだが。いつもはのんびり屋で、ギルメンにも甞められちゃう程の大甘な性格は吹き飛んでしまった様子。

 それほど驚愕なスキル並び、何でこうなったと央佳でも思う。


 アルカの言い分を訊いてみると、どうやら彼女なりの法則と言うかキャラ愛が存在するらしい。女性特有の価値観なのだろうか、マオウにも央佳にも良く分からない。

 一応法則は存在するらしく、とにかく炎属性とか信頼度に関係したモノを羅列しているっぽいのだが。魔法もろくに使わないのに、炎スキル効果アップとか必要ない筈。

 他にも炎耐性アップとか信頼度アップとか、あんまり戦闘には関係ない並び。


「ああ、アルカさんは支援ジョブ伸ばしてるんですね……ハンターポイント溜まってるなら、第2ジョブに戦士を取りましょう……」

「ええっと、実は……第2ジョブは変幻取っちゃってて……」


 何でだ!! と、思わず素で突っ込んでしまった央佳とマオウ。変幻ジョブは片手武器の使用者が、主に《二刀流》とか《連携》とかを欲して伸ばすジョブである。

 他にもスタン技とか片手武器特有のスキル技が出易く、要するに両手武器に無い一撃の威力を埋め合わせるためのスキル並びである。両手武器使いには、無用とは言わないまでも意味の無いスキルが出る事もある訳で。

 懇切丁寧なマオウの指導振りも、ここら辺から乱れ始める。


 喜一は予防線を張るが如くに、自分は戦士ジョブ一筋ですと高々と宣言してるけど。胡乱な目付きで、性質の悪そうな生徒達を眺めるマオウ。

ただ、アルカよりは数段マシだと思ったのだろう。変幻ジョブは央佳の方が良く知っているからと、アルカをこちらに丸投げにされてしまった。

マオウは喜一の面倒を見るらしい、正論だけに文句も言えない。


 さてさて、悩ましい設問に行き当たってしまった。しかも放置されていたネネが、自分の番はいつだと騒ぎ始める始末。そう言えばネネも、ジョブ持ちデビュー出来るんだった。

 これも随分と頭を使う問題だ、まずは冒険者登録をしないといけないんだっけ? そこは用意周到のアンリお姉さん、この時用に登録に必要なアイテムを余分に入手していたらしく。

 父親に向かって、ちょっと登録して来るねと妹の手を取って歩き出す構え。


 子供だけでは危ないかなと思ったが、実は窓口はほんの2つ先にあるらしい。それなら頼むぞと口にすると、信頼されたアンリは仄かに嬉しそう。

 ネネも大人しく従って、子供の成長ってこんな感じなのかと感動していると。大人になり切れない困ったアルカが、こっちの問題はどうするんだと空気も読まずにせっついて来る。

 央佳は振り向きもせず、取り敢えずジョブのポイント交換を適当に指示。


 相方が可哀想になったのか、エストも一緒に考えるねと助け舟を出して来るけど。後衛職の彼女は、前衛のスキルや立ち回りが詳しく理解出来る筈も無く。

 それでもこの娘のミッションPは、既に宝具交換可能まで溜まっている筈と請け合って来る。どれを交換するか迷っている最中で、先にそっちを固めてはどうかとの提案に。

 そう言えば、央佳も見たいアイテムがあるのだった。


 そんな事を考えていると、娘達が帰って来た。無事に登録が終わったらしく、ネネは鼻息も荒く興奮している様子。これで姉っちゃと一緒だと、大威張り絶頂である。

 アンリは軽く受け流してる、今日くらいは浮かれ気分を許してやろうと寛大な気分なのかも。しかしこれ以上天狗になると、容赦ない姉の制裁が待っている筈。

 姉妹間の力関係は、そうそう変わり様も無いのだ。


「それでネネは、どれが欲しかもう決めたのか?」

「姉っちゃの奴、ネネも自分のペットがほしい!」


 それで決定、子供は迷いが無くて本当に良い。ネネの溜めていたハンターPは、結構な量になっていた。取り敢えず5個交換しようかと言うと、幼女は素直にそれに従う。

 アンリも隣で、自分もちょっとだけ交換するねと父親の承諾を得ているけど。そこから先は何のリアクションも無し、どうやら当たりは引けなかった様子。

 そして肝心のネネの、引き当てた新ペットは。


 暫くは召喚の仕方に戸惑っていた四女だが、ようやく招く事に成功した新しい家族は。見た目は白い粘体のような容姿、所々柔らかい羽毛の生えたクラゲのようなデザイン。

 それがネネの頭の上に、チョコンと乗っかっている。


 央佳は思わず吹き出しそうになったが、何とか笑いをこらえる事に成功。一方のアンリは、何とも表現し難い表情に。一応妹に、親切に指差してここにいるよと教えてやっている。

 ネネもようやく気配に気付き、それをペロッとむしり取り。そのフォルムをしげしげと眺めて、ようやく納得したらしい。最後は笑顔で、元の頭の上に放り投げる。

 それを見て、再び央佳は吹き出しそうに。


 どうも召喚ジョブと言うのは良く分からない、この生物は果たして戦闘に役立つのだろうか? まぁネネが納得してるのなら良い、戦力がどうだとかの話はともかく。

 ここで再度、置いてけぼりになったアルカが横槍を入れて来た。央佳はご機嫌なネネを抱き上げながら、ふぅむと周囲を見回す。マオウは喜一と黒助を引き連れ、ミッションP交換所に赴いてここにはいない。

 どうやら本当に、アルカの世話は央佳がしなければならない様子。


「まぁ落ち着いてくれ、アルカ……お前さんの弱点は大別して、粘れない体力の少なさと攻撃を空振りしやすい点の2つだ。これをどうやって克服するかだが、実は色々とやり方は存在する訳だよ。……例えばどんな敵も一撃で倒す力があれば、弱点なんて関係ないだろ?」

「…………本当だ!」

「他にもあるぞ、物凄い性能の防具があるとする……どんな攻撃もダメージをゼロに抑える能力だ。それをアルカが持ってたら、HPが幾ら少なかろうと平気だろう?」

「………………本当だ!!」


 なるほどと、目から鱗が落ちた様な表情のアルカ。きっと彼女は騙されやすい性格なんだろうなと、央佳は憐憫の目で眺めるが。要するにバランスを取るか長所に頼るか、多少偏っていようがキャラ設定においては大事な点には違いなく。

 核になるスキルとか武器防具の存在があれば、少しはキャラの設計図も練り易いのだが。何かそんなレア物は無いかと尋ねたら、エストと一緒に考え始め。

 央佳も取得スキルを聞き出して、使えそうなモノを並べて行く。


 この辺りで子供達は、完全に飽きて施設の隅っこで人形遊びに興じ始めてしまった。新しくペットとして参入した、軟体生物も交えて楽しそうだ。

 そんな中、エストが思い出して示したのは『命の刻印の鉱石』と言う合成素材。随分前に入手したまま、鞄の奥に仕舞い込んだままだったらしい。

 せっついた甲斐があった、これは防具にHPプラスを加工出来る素材である。


 央佳も支援スキルから《頑強》と《防御+20%up》を、変幻スキルから《九死一生》と《S/Hチェンジ》を何とか拾い出し。割とレア系の、埋もれたスキルにスポットを当てて、アルカの立て直しを図る。

 《頑強》は己のHPが2割まで減ったら、その後の攻撃を一定回数1桁ダメージに抑えると言う、危機回避スキルである。これで危機に遭遇しても、大慌てせずに済むかも。

 逆に変幻スキルの《九死一生》は、そのスキルを使用する事で自分の体力を2割まで減らしてしまう荒技だ。その代わり、攻撃力の飛躍的な上昇を得られる訳だ。

 《S/Hチェンジ》は回復技で、SPをHPに変換する技らしい。だから《九死一生》で攻撃力上昇⇒《頑強》で粘って⇒《S/Hチェンジ》で自己回復と言うコンボも見えて来る。

 危機回避と攻撃力の上昇を一度にやってのける、なかなかの作戦だ。


「……それは凄いぞ、アルカスペシャルと名付けてもいいかなっ!?」

「……何でもいいんじゃない? それより桜花さん、ひょっとして私達の倉庫にも掘り出し物が置いてあるかも……ちょっと見て来て良いですか?」

「いいよ、ごゆっくり……マオたんからも通信来てて、良さそうな装備を交換出来たってさ。俺もちょっと行って来るよ」


 そんな訳で、更に使えそうなアイテムが倉庫に眠ってないかのチェックに向かう花組。央佳は子供達を引き連れて、ミッションP交換所へと赴く。

 ネネは最近作った即席ギルド用のバッヂを使って、祥果さんとお姉さん達にペットを購入した事を報告したらしい。アンリがその容貌を説明したが、上手く伝わらなかったそうで。

 さもあらんと央佳は思うが、向こうも平和そうで何よりだ。


 央佳もバッヂを付けているが、会話をモニターモードにしているので、彼女達の会話は視界の端の小さなモニターに文字の羅列で窺えるのみ。モードは色々と切り替えが出来て便利だ、央佳はこっちの作業に集中したいための設定をしているだけ。

 用事があれば、システムが勝手に会話モードに切り替えてくれる。さらに子供達もいるので、向こうもこちらの状況もお互いバッチリ分かってしまう訳だ。

 そんな通信システムを利用して、祥果さんが央佳に話し掛けて来た。


『央ちゃん、ちょっといいかな? メイちゃんが、たまには遠出の散歩がしたいって。だから、ワープ通路を使って王都に行ってみていいかな?』

「えっ、王都まで行くの……? うーん、まぁ前回は殆ど観光出来なかったからなぁ。分かったよ、ただし危険な裏通りとかには近付かないで……子供達がエリア区分け良く知ってるから、ちゃんと言う事聞いてね、祥ちゃん?」


 祥果さんもこちらの世界に慣れて来ているし、元々臆病な性格だから危険な場所には近付こうとしない筈。長女と次女が護衛についているし、それほど危険は無いと思いたい。

 この世界の見聞を広めるには、やはり自分の足で歩き回るのが一番だ。ところがその話を一緒に聞いていた、自称祥果さんの護衛一番手のアンリがソワソワし始めて。

 向こうに合流して良いかと、父親に伺って来た。


 もちろんオーケーだ、こちらはネネの装備の購入がメイン。それからちょっとした実験、子供達もミッションPの交換が可能なのか見てみたかったのだが。

 アンリもネネも、窓口で素っ気なく断られたと同じ答え。こちらは残念ながら出来なかった様子、姉妹も結構ポイントを貯め込んでいただけに無念である。

 戦力アップに宝具級の装備交換は、手っ取り早くてお得だったのだが。


 それを確認後、アンリはワープ通路を求めて去って行ってしまった。マオウと奇面組の面々も、既にこの場にはいない様子。残されたネネは、自然と父親の足元に。

 こちらも用事を済ませようと、央佳も窓口で交換景品を眺め始める。目的のアクセサリーは程無く見付かった。知り合いから聞いていた通り、ペット用の機能しかついていない品だ。

 ちょっと勿体無い気もするが、これもまぁ家族サービスだ。


 幸い溜め込んだミッションPの、半分程度で交換は可能な様子。宝具級では無いのだが、それでも結構なポイントを求められた。形は丸まったイモリ、銀細工の耳装備だ。

 趣味ではないが、どうやら性能は求めていた以上のモノっぽい。仕方なく交換を申し出て、早速新装備を装着して、スキルのセットもそれ用に弄り直す。

 これで央佳も、ペットのコンを常時出しっ放しに出来る事になった。


 久し振りの再会に、四女は飛び上がらんばかりに大喜び。早速名前を呼びながら抱き寄せて、フカフカの狐の毛並みをぐりぐりと撫で回して可愛がっている。

 この子のレベルは、確か40程度だったか。幾つか高価な宝珠を、食べさせて得た結果である。その中には、竜の宝珠と言う信じられない高価なモノまで入っていて。

 央佳がこのペットスキルを常用に踏み切った、大きな要因でもある。


 ところで奇面コンビは、一体どこに消えてしまったのだ? ギルマスに通信を飛ばすと、その行方は程無く判明した。何と塔の最上階にある、カジノ場で景品交換の最中との事。

 そこでユニークアイテムや合成用素材の、一斉交換に至ったらしい。どうやら喜一と黒助は、パーティプレイが出来ない時間を、カジノで過ごしていたそうで。

 そこで稼いだ大量のコインが、大活躍したらしい。


 合成師の当てはギルド内にもあるので、後はベース防具を買うだけっぽい。結構お金が掛かるけど、防御力+20%やHP+20%が付与された防具は秀逸と言って過言では無い。

 装備箇所にもよるが、競売やバザーに出せば3百万は下らないだろう。喜一は腕と頭の2部位を、その合成品で賄うつもりらしく。それからブーツは、決戦前にはカジノ場で交換したユニーク装備に履き替えるようだ。

 常時装備出来ないのは、極端に耐久度が低いから。


 ユニーク装備は、得てしてこんな感じで工夫しないと駄目な事が多い。ただし局所的に使うなら、秀逸極まりないと言った感じだろうか。+20%の恩恵を得られれば、局所的な使用でも活躍してくれそうな雰囲気。

 喜一はそのほか、スキルスロットが増えるペンダントもミッションPで交換していた。これは紛れも無い宝具である。優秀なその性能のお蔭で、補正スキルを2つほど追加でセット出来る訳だ。彼は追加で、防御系に加えて攻撃力アップの補正スキルを選択した模様。

 攻守ともにパワーアップ出来て、本人もホクホク顔の様子。


 ただし、さすがのマオウも喜一の呪い装備には匙を投げたみたいで。これは自分にはどうにも出来ないと、早々に諦めを表明していたのだが。

 それは何とか、次回のダンジョン探索で目処が立ちそうかもとは伝えてあって。それが無理なら、本当にお金を貯めて呪い解呪を神官に願うしかなくなってしまう。

 ただし、簡易的には聖水で3分間は解呪出来てはしまうのだ。


 それを念頭に入れて交換した装備品に、『救急ベルト』と言う名のユニークアイテムがあるそうで。これはバーチャ仕様ですっかり使いにくくなったポーション類を、魔法を使う感覚で使用出来るようになる装備品らしい。

 しかも他人にも使えるらしく、後衛が持てばパーティの薬箱として有効だ。カジノ場の景品交換で、これを2つ入手した奇面組。1つは黒助が持つそうで、もう1つをパーティに提供してくれるらしい。

 有り難い申し出だが、使用者は散財を強いられる事になりそう。


 まぁ、皆がお金を出し合えば別に大丈夫だろう。射線の通らない時の黒助も、これさえあればポーションマスターの役どころを担えると言うモノだ。

 ここまでの報告を聞いた上では、前より随分とマシになった気もする央佳。はしゃいでいるネネをコンごと抱き上げて、合流予定地の競売所へと移動する。

 マオウからは既にお金は借りている、こちらもネネの買い物を済ませる事に。


 ご機嫌なネネの装備を適当に弄り、前衛仕様へと仕上げて行く。金属鎧も嫌がらない四女は、鍛えれば結構頼りになる壁役兼アタッカーになるのかも。

 武器は引き続き、槌系で良いとは思うのだが。棍棒の出物は数が少なく、更に槌系のモノとなると殆ど無い。かと言って、幼女に刃の付いた武器を持たせるのは抵抗がある。

 仕方ないので、この前得た大木槌をそのまま持たせておく事に。


「どうだ、ネネ……動き難かったりしないか? ってか、変身しないでモンスターと戦う事が出来るかな? ダメだったら、無理しないでもいいんだぞ?」

「ネネは怖くないよ? 父っちゃと姉っちゃと、あと祥っちゃと一緒にたたかう!」


 ムフーと鼻息も荒く宣言する幼女、ステータス的には秀逸なのだがどちらを信じて良いのか悩ましい。そんな事を考えていたら、ようやく花組の2人が合流して来た。

 聞けば倉庫の中に、結構な数の未使用素材やら複合技の書やらが入っていたらしい。花組の経緯を聞くに、以前は固定メンバーで派手に冒険に勤しんでいたらしい。

 その華やかな時期に、結構なアイテムを溜め込んでいたそうなのだが。


「女子だけで4人で組んで、ずっと新エリアをメインに冒険していたんだけどさ。まず1人が結婚を機にリタイヤしちゃって、もう1人は新エリアは飽きたってメンバー脱退しちゃって」

「もう少し我慢してれば、新種族ミッションのヒントを共有出来たのにねぇ……あらっ、アンリちゃんがいないけど大丈夫?」

「あの子は祥果さんの方に、散歩の護衛に行ったよ……うおっ、何だコレ!? 魔法同士の複合書って、俺は初めて見たぞっ!?」


 複合技の書とは、普通は武器+属性魔法がスタンダードである。例えば片手剣スキル20+風スキル20とか、そんな組み合わせで威力の強いスキル技を生み出しているのだ。

 ところがエストの持っていた複合技の書は、闇スキル150+炎スキル150などと属性魔法スキル同士の組み合わせなのだ。コレはビックリ、ありそうで無かった複合スキルだ。

 恐らくは、市場にも出回っていないだろう。


 本来ならば、自分達で消費してしまうのが前提のスキル書なのだが。どれも、やたらと設定スキルが高い。そのため花組も使用に至っていないみたい、ちょっと勿体無い話である。

 そんな複合技の書が合わせて3枚、それから普通の武器の複合技の書が、両手槍やら何やらと5枚程度。防御やHPや腕力を上昇させる合成用の素材が、ゴロゴロと8個程度。

 物凄い溜め込みようだ、使ってないのが勿体無い程度には。


 アルカは気楽に、そっちで使えそうなモノは融通するよと言って来るけれど。そんな事をして貰ったら、切るに切れない縁が発生してしまうではないか。

 足元では、ネネとコンの運動会が始まって多少騒々しい中で。ギルマスと奇面組も合流して来て、彼らも余った装備を提示して来る。マオウの見立てで、パーティに役立ちそうな物をカジノ場で交換して来たとの事で。

 取り敢えずは、出来るだけの事はしたと胸を張るギルマス。


 気勢だけは高いパーティの、パーツが少しずつ揃って来た感はあるけれど。パズルのピースも、上手く嵌まらなければただのゴミに過ぎないのが道理。

 マオウからは、ここからはそっちの腕の見せ所だとのプレッシャーが漂ってくる中。合成師の手配を約束して貰いつつ、何とかなるかなと重く考えないよう努める央佳。

 どの道賽は投げられたのだ、後は出た目の数だけ進むだけ――




「祥ちゃん、ちょっとここで待ってよう。アンリちゃんが合流するって……あっ、来た来た!」

「何だ、アンリったら装備は全然変わってないじゃない。せっかく、お父さんにくっ付いて行った癖に……」

「あら、本当ね……そしたら、向こうはネネちゃんだけが残ったのね」


 それはそれで、ちょっと心配な祥果さん。手の掛かる四女は、人見知りなので勝手にほっつき歩く事は無いとは言え。大人ばかりの中に残しておくのは、少し不安な気も。

 向こうには旦那の央佳がいるので、ちゃんとしてくれているのは分かっているが。この場にいない者の心配を、自然としてしまうのが親心ではある。

 さり気無く寄って来たアンリに尋ねるが、三女の返事は至ってシンプル。


「……後付けジョブでペット取って、幸せそうだったよ?」

「そっか、それなら良いんだけど」


 それよりお腹空いたと、アンリの気安いおねだりに。散策の前におやつにしようかと、他の姉妹にも問うてみると。ルカもメイも、躊躇なく同意の構え。

 食べるのに良い場所は無いかと、祥果さんは周囲を見回すけれど。ここはもう、人の多く行き交う王都の大通りである。歩けば木陰やベンチのあった、エルフの里とは勝手が違う。

 子供達と相談した結果、大広場のベンチか祥果さんの無料レンタル部屋が候補に。


 人目の多い広場で食べるのは、悪いとは言わないが女性として慎みがあるとは言えない行為。割と古風な祥果さんは、子供達を引き連れて自分のレンタル部屋へ。

 以前に子連れで入れなかった経緯があるが、今は大丈夫だろうとメイも請け合うので。そっち系の数値の見方も曖昧な祥果さんだが、さすがに段々と慣れて来た。

 大人しく付いて来る子供達との、信頼度は今では3百前後だ。


 案の定の目論見通り、子供達を室内に招き入れる事に成功して。祥果さんは軽く勝利者気分、信頼って大事だなと内心思いつつ。しかしその室内の殺風景さに、ショックを覚えてみたり。

 子供達は思い思いの場所に腰掛けるが、そもそも家具はベッドとタンス程度しかない。簡素な机も一応あったが、4人での食事に耐えうる出来では無い感じ。

 それでも一応、ランチバケットを置く台に使用するけど。


 取り出されたおやつは、フツーの焼きモロコシだった。魔法の鞄の恩恵で、時間が経ったにも拘らず湯気を立てていて美味しそう。最初に覗き込んだのはメイだったが、腕を伸ばしたのはアンリが最初。

 ここら辺の姉妹関係は、祥果さんには良く分からない。喧嘩になる時もあれば、自然と年長を敬う事もあるし。今は年少からドウゾとの配慮かも、次に手を伸ばしたのはメイだったから。

 最後にルカが1本取って、仲良くベッドに腰掛けて食べ始める姉妹。


「この部屋は家具とか少ないね、祥ちゃん? パパの部屋は、合成の装置とか素材とかいっぱい置いてあって、狭い位なんだよ?」

「買い揃えますか、今から買い物に出て? お父さんはもう少し掛かるだろうから、その位の時間はあると思いますよ?」


 メイとルカの文句は、至極もっともで祥果さんも出来ればそうしたい。ただし、あまり使わない部屋の家具を揃えるのは、何だか勿体無い気もする。

 それならば、今夜お泊り予定の領地の館の部屋の方を彩りたい。どっちにしてもお買い物はしたいけど、あれこれと散財するのも何となく嫌だ。

 素直にそう言うと、お金は稼げばいいんだよとアルカの弁。


 彼女達の流儀は、極めて単純な様子。姉妹仲良くベッドに腰掛け、食欲を満たした子供達。これは美味しかったから定番にしてと、ネネの取り分まで食べられてしまいそうな勢い。

 メイの計画だと、この後王都観光しながらショッピングだったらしいのだが。お金稼ぐならバザーかクエでもしようかと、臨機応変に話を持ち掛けて来る。

 さて困った、限られた時間の中で何をしよう?


 メイの意見は建設的で、バザーでさっとお金を稼いでそれで買い物に行けばよいとの事。祥果さんも姉妹も、概ねその意見には賛成して。

 いざメイン大通りに飛び出して、暫くはあちこちをウロウロして。どうやらこの王都では、バザー会場も数か所存在するらしい。メイはその中で、人の多い場所を窺っていて。

 ようやく次女が太鼓判を押したのは、一際賑やかな公園広場のような場所。


「ちょっとメイ、ここは情報とか売ったり買ったりする場所じゃないの。祥果さんの作った編み物とか、私達のいらないドロップ品を売る予定じゃなかったの?」

「だって人が少ないと、そもそも買う人もいないって事じゃない。作戦変更、何か芸して小銭稼ごうよ、お姉ちゃん?」

「……芸なら歌とか踊りとか? 情報は、珍しいスキル技とか見せたらいい……」


 アンリの意見にそれ良いネと、すかさず乗っかって来るメイ。ルカは何か反論の言葉を探していたが、結局は諦めて流れに身を任せる事にしたようだ。

 祥果さんはと言えば、この場所が何に役立つのか良く分かっていない様子。ここはルカが言ったように、冒険に役立つ情報を不特定多数に売ったり買ったりする広場だ。

 もちろん特定の者に、そっと売る事も可能だし、その為に餌をばら撒いて客を寄せるなどのテクニックも必要なのだが。ちなみにすぐ近くに、個人通信向けの個室も完備している。

 情報とは、時に大金に化けたりもすると言う良い証拠だ。


 子供達には、特にそんな考えも無い様子なのはアレだが。ここもスペースを借りるのに前金が必要らしく、大人しく支払いに向かう祥果さん。

 絶対その分以上は取り返すからねと、お金の話になると熱くなるメイ。アンリも何気に気合が入っている様子で、備え付けの浮遊ボールをペチペチと叩いている。

 この浮遊ボール、見た目は本当に球状の浮遊するボールである。例えば冒険者が珍しいスキルを入手したとして、その情報を売って小銭を稼ごうと思っているとして。

 その威力を他人に知らしめるために、的になってくれる有り難い装置である。


 これ込みで場所を借りた祥果さんと子供達、流されるままのルカは止める術も持たず。妹に促され、一緒に定番の持ち歌と踊りを、姉妹の中心で歌い踊るのみ。

 反応はすぐに現れた、広場の人混みが何事かと祥果さんの借りたスペースに集まって来る。1曲目が終わる頃には、割と盛大な人だかりが出来ていたりして。

 大喜びのメイは、姉のペットにお捻り収集を命令。


 実際は妹のアンリの帽子を取り上げて、マリモの嘴にそれを引っ掻け、客の面前を往復させただけなのだが。いち早く理解した冒険者達が、その中に競ってお金を放り込み始める。

 2曲目はもっと盛況だった、とは言え姉妹の振り付きの持ち歌はこの2つでお仕舞なのだが。戻って来たおひねりを見て、メイはちょっと興奮気味。

 群衆はまだ、期待に満ちた目でこちらを窺っている。


「ちょっとお姉ちゃん、アンリちゃん……コレまだまだ稼げるよっ、何か余興して!」

「余興って……何すればいいのよ? アンリは何か、芸とかある?」

「……祥ちゃんのためなら、武芸とか披露する?」


 人の波が減らない中、姉妹はヒソヒソ声でお小遣い稼ぎの相談に勤しむ。父親からは特に、自分達の力を見せ付けてはならないとは厳命されていない。

 だからと言って、目立ちたがり屋な性格は姉妹の中には存在せず。それでも祥ちゃんの為ならとのアンリの言葉に、人見知りのルカも頷かざるを得ず。

 街着から戦闘着に瞬時に着替え、妹達を見据えてヤル気モードをアピール。


 それに応えて、アンリも戦闘モードからの《魔騎召喚》で影騎士を従える。見学者からのどよめきの中、ルカの《拍龍》で模擬戦闘開始。バレーボール大の仮想敵は、竜魔法に弾かれて斬撃範囲の遥か外へ。

 すかさずそこへ、アンリと影騎士のチャージ技が炸裂する。


 加速する影騎士の斬撃の中、アンリは《影渡り》で戦線離脱。姉の隣までワープで後退して、その距離から《マジックブラスト》の魔法詠唱を開始する。

 それに被せる様に、ルカも《双翼撃》の魔法の準備。空中に出現した2翼の竜の長大な翼が、敵をぶった切るように振り下ろされた。同時にアンリの純粋な魔力の黒弾の群れも、哀れな白いボールに被弾して行く。

 その派手な戦闘エフェクトに、群衆からは大きなどよめきが。


見学していた冒険者の半数は、これが未知の魔法である事を瞬時に理解した。残りの半数は、ボールの周囲に出現するダメージの値にひたすら驚いているのみ。

ほんの僅かなベテラン勢のみ、噂の子供NPCの所在に行き当たって納得顔。しかしこれ程の戦闘力を秘めているとは、ワンマンアーミーの呼び名は伊達や酔狂では無いと確信して。

 そう言う意味では、この模擬戦闘には数万ギルの価値がある。


 実際に“昇り鯉”のマツダが帽子に放り入れたおひねりは、まぁ3千程度だったけど。百ギルが精々の広場パフォーマンスに対して、破格の報酬には違いない。

『Dsell猿人』のサブマスを務めるマツダは、情報収集にも余念がない。今は尽藻エリアでの新種族ミッションに難儀しているが、それはやはり情報不足から来るモノだと思っている。

新種族ミッションに取り掛かるなら、やはり新種族をもっと知らないと。


 王都をぶらついていて、まさか新種族の子供NPCを拝めるとは思っていなかったけれど。あの保護者みたいな女性は、一体何者なのだろうか?

 “ワンマンアーミー”の関係者かも、是非お近づきになりたいのだが。その女性に近付こうとしたら、愛想の無い子供NPCに思い切り道を塞がれてしまった。

 その槍先が、威嚇するようにこちらを向いている。


 その向こうでは、上手く行った興行に興奮した様子の子供NPCと保護者の女性。帽子に入っている大量のお金を、幸せそうに数えている。

 多少お金が掛かっても良いので、色々と情報を聞き出したかったのだが。せめて顔だけ覚えて貰って、渡りを付けたかったのだが。そんなに押しの強くないマツダは、子供に凄まれてすごすごと引き下がるのみ。

 本当に参った、一体情報はどこに隠されているのやら?



「どうしたの、アンリちゃん……変なお客さんでもいたの?」

「……不審な動きをしてたから、近付かないよう牽制してた……」

「そっか、変に質問攻めにあっても嫌だから、さっさとこの場所を離れようか、祥ちゃん?」


 メイにそう催促されて、祥果さんは大人しくそれに従う構え。観衆の目は尚も彼女達を好奇の目で眺めていて、その場を逃げるのには一苦労だったけど。

 王都を上の方へと進んで行くと、ようやく喧騒は遠く離れて行った。特に人見知りの激しいルカは、ホッと胸を撫で下ろす勢い。石垣やレンガで舗装された道路や壁は、上品でさすが王都と言うべきレベル。

 更に街の上方は、上流階級者用の住まいや施設が建っているらしい。


 珍しいモノでも見るように、そんな街並みを眺める祥果さん。こんな場所にあるお店は高そうねぇと、変な心配が口から出て来る。メイは少し考えて、この辺りに図書館があった筈と口にする。

 その発言に、敏感に反応する祥果さん。本好きな彼女は、図書館も割と頻繁に通っているのだ。しかも今は子供連れ、子供達の教材になる本も借りれるかも知れない。

 そんな訳で、メイに案内して貰っていざ図書館へ。


 王国最大の図書館は、建物も広くて重厚で蔵書の数も流石の多さだった。その中の設備も、なかなかお洒落で中をうろつくだけで楽しいかも。

 そこからはみんなで分担して、興味を惹く本を探す事に。20分掛けて、全員で10冊程度リストアップ。そこで祥果さん、借りれる冊数や入会の仕組みを知らない事に気付いて。

 受付けに話し掛けて、意外と簡単な申込みなのを説明される。


 冒険者登録証の提示と、貸し出し冊数に対して保険金が必要らしいが、まぁ問題は無いだろう。保険金は結構取られるが、本を返せば戻って来るとの説明がなされ。

 メイはぶー垂れていたが、ルカは借りた本を大切に抱えて満足そう。揃って建物を後にして、街の散策に戻ろうかと階段を下って活気のある冒険者通りへと戻って行く。

 先頭を行くのはアンリ、その歩みが不意に止まって。


 そこは裏通りへと繋がる、雑多な通路の一つだった。屋台同士の合間のごみごみした細い通りの向こう、小さな影を見掛けてアンリはそれに親近感を覚えた様子。

 そこにはアンリと同じ年頃の、肌が黒くて髪の毛の白い少女が立っていた。黒いシルクハットを被っていて、白いワンピースを着た変わった着こなしの子供だ。

 その子とアンリの視線が、束の間宙で絡み合う。





 ――その瞬間アンリは理解する、この子は親の当てを間違えた『魔』の里の子だと。







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