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竜と聖魔とバツ2亭主  作者: 鳥井雫
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くたびれ儲けの反省会



 散々な結果に終わったネコ族の集落探索を受け、更には文字通り敵に追われてその場を後にした一行は。“断崖の街”の滞在続行は不味いと、ワープでエルフの里まで引き返して。

 そこで一泊して、開けて翌日。目覚めは決して爽やかでなかった央佳だが、ルカも闘いの傷から何とか持ち直した様子。それだけで央佳も、胸のつかえが軽くなる。

ただし、こちらは一夜明けても憔悴した感じの前衛陣2人。それを目にして何となく同情してしまうのは、自分の中の甘さだと己を叱咤してみたり。

 その甘さは、自分の家族をも巻き添えにする可能性もある訳で。


 前回と同じ喫茶室を取ると、祥果さんは自動的にお昼の支度を始めてしまった。これから央佳は、前衛陣を叱り飛ばす予定なのに。場合によっては、契約解除も有り得るのに。

 ほんわかとした彼女は、子供達と楽しそうにテーブルを飾り付けている。


 室内は、子供達の騒ぐ声以外は全く以て静かだった。パーティの全員が集合していて、車座になって向かい合っていると言うのに。食事の支度が出来るまで、部屋の隅っこで祥果さんを除いた5人の冒険者。

 その顔は一様に緊張していて、面目を失ったアルカと喜一は顔面蒼白状態。それをどう取り繕おうかと、考え込んでいる様子のエストと黒助。

 央佳はひたすら渋い顔、リーダーなんか引き受けるんじゃなかった。


「…………まずは反省会の前に、引き続きこのパーティで行くのか、更には俺がリーダーで良いのかを決めるべきかな? パーティ解散の流れでも、俺は別に……」

「そんなっ、見捨てないでっ!!」

「リーダーに文句なんてないですよ、むしろ呆気なく戦闘不能になった私達の責任が……」

「そうですよ、悪いのは悪い点として今後改善して行く方向で……一度の失敗で投げ出すなんて、冒険者らしくないと私は思いますよ?」


 央佳の言葉に、被せる様にアルカと喜一のデスコンビの追従が。さらに央佳を弱気だと攻めるような、サブリーダーのエストの建設的な発言が続く。

 確かに一度や二度の失敗など、難易度の高いミッションに挑む際には、日常茶飯事には違いない。ただし、央佳には家族が何より大事と言う譲れない立場もある訳で。

 このパーティの欠点が直らない限り、同じミスは何度も続くのは分かり切った事。


 その点をどう考えているのか、その情けない当事者に対して聞き及んでみるが。ひたすら小さくなって、申し訳ないと謝られては為す術もない。

 いや、建設的な意見を述べるなら、鍛え直すとか欠点(例えば喜一の常毒の呪い)を解消するとか、色々とやり様はあるのも確かではある。前回は全員の軽いノリで、それを無視してミッションに取り掛かったのが最大の敗因だ。

 備えが無かったために、現在憂えていると言う当たり前の事象が有る訳で。


「……放たれた手長族のガーディアンだが、今後ともこちらを狙ってくる可能性が非常に高い。それだけで厄介だが、更にギルドから新しく情報が入った。尽藻エリアのビレシャヴの森から、大量の新種族が溢れ出て来たそうだ。それにより、各ギルドの探索チームは全滅。……話を聞くと、どうやら手長族らしい」

「ええっ、つまり……封印は放たれた?」

「……えらいこっちゃ」


 これが自分達の所業のせいだろうと、この場の誰もが即座に思い至った。ただビレシャヴの森の変化は、良い結果なのか悪い因果なのかは現在判然としていない。

 ただ、あの戦いが新しいステージへと進む要因を作ったのはハッキリとしている。その結果をどう受け止めるか、ぶっちゃけ誰もが直視したくはない問題ではあるのだが。

 放り出して見なかった振りをしても、果たして良いモノかどうか。


 まぁ、その話は取り敢えずは置いといて。この面子で続けるか否かの採決は、ほぼ全員一致で可との結果に落ち着いた。リーダーも、引き続き央佳で良いらしい。

 それならまず一番の問題は、アルカと喜一の粘れない前衛に焦点が当たってしまう。鍛え直しましょうと、冷静な口調のサブリーダーのエストの意見に。

 被せる様に、彼女は鞄からたくさんのチケットを取り出して行く。


 ダンジョンチケットだ、これを好きに使ってくれとの事らしい。結構な数があるが、それならこちらもと喜一と黒助も同様に貢ぎ物を机の上に並べ始める。

 数としては、奇面コンビの捧げ物の方が断然に多い。しかもダンジョンチケットだけでなく、呼び水や修行の塔チケットまで差し出して来ている様子。

 2人コンビでは、確かに挑戦が難しいとは言え。


 全く、よくぞここまで溜め込んだものだ。確かに央佳一家も、限定イベントやらNMや集落落としで得た報酬を、ほとんど消費していないけれど。

 メイがすかさず寄って来て、並んだチケットを楽しそうに眺め始めた。テーブルの支度をしようとしていたルカも、その上に散らばる邪魔な紙類を胡乱な目で眺めている。

 きっとお腹が空いていて、食事の支度をさっさと始めたいのだろう。


「パパ、このチケットはエルフの里のだよ。しかも貰える報酬は、『耐呪の果実』だって! そっちのオジサンの、体質改善にいいんじゃないかな?」

『エルフの里の秘宝の果実は、結構有名だな。その果実は確か、呪いだけでなくあらゆる耐性が永久に飛躍的に上昇する筈だったような?』

「……お、オジサン……!?」


 オジサン呼ばわりされてショックを受けている喜一はともかくとして、獅子の盾の薀蓄は聞き捨てならない良情報。それが本当なら、前衛には是非欲しいアイテムだ。

 しかも永久効果と来ている、もし入手出来るのならコレは是非欲しい所。ダンジョンのチケットには入れる場所や、入手確率の高い報酬などの情報が記されている。

 他にも推奨レベルやパーティ人数なんかも、もちろん書かれているけど。


 このエルフの里で、まずは最初の鍛錬に臨むのも悪くない。いやいや、まずは簡単なダンジョンに挑戦して、パーティの練度を磨くのが先か。

 慎重に行くならば、その方が良いに決まっている。ところが予期せぬ事態は、往々にして不意打ちでその場をかき乱す。さっきまでご飯はまだぁと騒いでいたネネが、モジモジしながら父親に近付いて来たのだ。

 いつもの四女らしくない仕草、一体どうしたと言うのか。


 答えは割と簡単だった、2度ほど経験済みと言う事もあるけど。しかしまさかこのタイミングとは、時期が良いのか悪かったのか。つまりはアレだ、信頼度の3百超え。

 こんな時に“加護返し”とは、ちょっと待ってよと言いたい本心は重石を付けて心の奥底に沈めておいて。曖昧な賛辞を央佳が述べると、例の重量級の抱き付き攻撃が。

 とうとうネネもかぁと、お姉さん達からも良く分からない祝福の声が。


「あらあら、ネネちゃんが……お赤飯炊いた方がいいのかな、央ちゃん?」

「いや、どうだろう……? 他の子の時もしなかったし、ご飯大盛りでいいんじゃないかな?」


 困惑してるのが祥果さんと央佳だけと言うのは、まぁこの際は置いといて。姉妹は早速神殿に伺うのかと、父親にせっついて来る。いや困った、立てていた計画が総崩れな予感。

 いやいや、どっちみち前衛陣の補正スキルの組み合わせや、装備についてのカスタムのし直しは是非やっておきたい所だったし。そこにネネのお召替えを組み込めば、まぁ何とか。

 ……本当に、何とかなるのだろうか?


 取り敢えずは厳しい声色を作って、前衛陣にはその旨を伝えておく。つまりは今後キャラのカスタムは、こちらの提示する意見を積極的に参考にするようにと。自分の感性も大事だが、それがパーティを危険に晒すのは本末転倒だ。

 アルカと喜一は、それには素直に頷きを返す。元々は、そこまで我流にこだわりは無いようで一安心。ここで我儘を通されると、全く立ち行かなくなってしまう。

 そんな訳で、彼らのキャラの洗い直しは後日と言う事に――




 反省会を含めた昼食が終わって、一同は軽くパーティ練習に出掛ける事に。とは言え気軽に外のフィールドには出られない、放たれた追手と遭遇する危険があるからだ。

 だから全員から集めたチケットを、惜しみなく使用する事に。10枚以上あるのだから、ケチっていても仕方がない。ネネの加護返しは、その後に組み込む事に。

 正直保険を、少しでも掛けておきたい気分の央佳。


「えっと……メイ、ここのランクは幾つだっけ?」

「ランクCだから、パーティレベル的には低い設定な筈だよ。心配し過ぎだって、パパ」

「でもねぇ……昨日の結果を知ってるだけに、お父さんの苦労は分かって上げようよ?」


 お気楽に返事をするメイに、父親を擁護する意見を述べるルカ。それを聞いて、怯むように落ち込む前衛ズ。まぁこのレベルのダンジョンなら、余程の事が無い限り失敗はしない筈。

 その代わり、報酬のレベルも低く設定されているけれど。練習なのでそこは別に構わない、軽い打ち合わせの後にいざ突入。先頭は央佳とルカ、これはいつも通りだ。

 問題の前衛ズ――アルカと喜一は、2列目を担当。


 今回のダンジョンも、草木がわんさか溢れる程の構成だった。壁にも天井にも蔦がびっしり生えていて、黒い小さな昆虫が草葉の間を這い回っている。

 蝶々も普通にとんでいて、ネネがそれに反応して追い掛け廻し始める。それを諌めたのは長女のルカ、戦闘モードへの切り替えはさすがと言った所。

 それを四女に期待しても、まだまだ無理みたいだけど。


 それでも加護を返してしまうと、今までと同じと言う訳にも行かないのは事実で。今後の課題が山盛りの宿題となってる気配に、央佳も多少ゲンナリな気分。

 祥果さんがいつものように、しっかりネネの手を取ってパーティの中央へ。その隣を、メイとアンリがしっかりと固めている。しんがりは今回、エストと黒助が付いてくれて。

 1パーティだと言うのに、随分賑やかな行軍になってしまっている。


 狭い場所での戦闘だとか、色々とフォーメーションは考えるべき必要があるけれど。それをいぶり出すのが今回のアタックだ、最善の闘い方をこのメンバーで見つける為に。

 そんな事を考えている間に、早速最初の敵がお出ましと相成って。


 さすがランクの低いダンジョンだけはある、数は多いがそれ程強い敵は存在せず。丁寧に央佳とルカの2トップで、ブロックしながら殲滅して行く。

 最初は順調だったこの方程式、央佳の固定した敵を喜一が殴り、ルカの前の敵にアルカが斬撃を加える感じで進んで行く。ただ敵が5体以上出現すると、前衛陣が慌てる場面も。

 央佳は敢えて、足止め魔法を使用せず仲間の反応を窺う構え。


 ルカはその事を良く分かっているようで、同じく全く慌てていない。何しろ出現する敵は、軟体生物やら小動物やらで迫力も無いモンスターだらけだし。

 その分、数の多さで驚かせようとする意図は、ある意味こちらの指向にも合うと言うモノ。盾役以外でも、前衛は敵をキープするべき場面は幾らでもあるのだ。

 大抵の前衛は、HP量や強固な防具でそれを補うのだが。


 どうもこの2人は、キャラ作成からしてその意図が見えてこない。困ったチャンには違いない、自分が倒れたら後衛も危なくなると言うのに。何より慌てるのが宜しくない、前衛がどっしりしていないと、後衛まであたふたしてしまう。

 中盤には食虫植物の群れと、その被害に遭った骸骨モンスターのお出迎えが。骸骨系の敵は、突きや斬り系の武器ではダメージが芳しくないと言う特性を持っている。

 その代わり、殴り系の武器が弱点なのだけど。


 ファンスカと言うゲームでは、2つ以上の武器スキルを伸ばすのは物凄く大変だ。不可能ではないが、スキルPが2倍も掛かってしまう。その分、属性魔法スキルを伸ばした方が経済的だと誰もが知っている。

 だからと言って、備えが全く無いのも困り者だ。例えは骸骨なら、光系の攻撃魔法に切り替えるとか。前衛と言えど、その位のスキルの余りは存在するのだから。

 第一、苦手な系統の敵だからと、その間ずっと役立たずなのは論外だ。


「――《岩砕の陣》……!」

「わっ、パパの魔法凄いっ、面白いっ!」


 央佳の唱えた土魔法は、自分の武器に岩をコーティングして殴り系の武器に変えるモノだ。特に面白いとは思わないが、メイのお気には召した様子で何より。

 魔法としては変わり種だが、その効果はバカにならない。実際、他の前衛の両手持ち武器よりも、高いダメージを叩き出してくれる現状を鑑みれば。

 こんな相手の弱点を突く魔法も、有ると無しとでは大違いなのだ。


 喜一とアルカは、央佳の戦い振りに何度も感心する様子を見せるけど。そこから少しは学習して欲しいと、心ならずも思ってしまう。子供のルカでさえ、盾で殴る方がダメージが出ると機転を利かせているのだ。

 獅子の盾はその度に愚痴をこぼしているが、彼女の浮遊ペットはご機嫌な様子。何しろ今回は、まだ一度も死んでいないのだ。このまま順調に、育って欲しい所である。

 暇だったメイが植物モンスターを焼き払い、このエリアは踏破成功。


 このダンジョンは、幾つかのエリアで構成されているようだ。塔のように階層では無いが、所々に切り替えの安全エリアは存在している。

 まずはそこで最初の休憩を取りながら、軽くミーティングなど。後衛のMPはそれほど減ってはいないが、合間に取る休息はとても大事だ。ネネが祥果さんをせっついて、おやつのクッキーを食べ始めると。

 他の姉たちも、独り占めはさせるモノかとワッとたかって行く。


「論外だな、実際に戦う姿を見るのは3度目だけど……装備が薄かったり、勝手にダメージ受けたりする前衛なんて、破れかけたポイで金魚掬いをするようなもんだぞ?」

「そのマニアックな例えはともかく、確かに後衛には余分な負担を与えてますね。祥果さんが可哀想ですよ、私はアルカの介護は慣れてますけど」

「か、介護って……エスト、酷い……」


 央佳とエストの改めての前衛陣へのダメ出しに、やっぱり改めて傷付くアルカと喜一。お世話掛けて済みませんと、深々とした謝罪に祥果さんは困惑模様。

 こちらこそ旦那がきつく言って済みませんと、社交辞令の挨拶を返し。お菓子がもとで取り合いの喧嘩になりそうな子供達を宥めつつ、祥果さんは曖昧な笑みを浮かべる。

 心の中では、もっとたくさんクッキーを焼いておくのだったと後悔しながら。


 これはミーティングだから、文句はしっかり言った方がいいよとアルカの助言にも。良く分かっていない祥果さんは、皆さん良く頑張ってますと大甘な評価を口にするのみ。

 代わりに黒助が、前衛が多いので弓矢の射線が通り難いですと発言した。彼の武器はこのパーティでは、トップクラスの攻撃力を誇る逸品だ。

 確かに埋もらせておくのは、余りに勿体無い気がする。


「まぁ、今回は練習ラウンドだからなぁ……特に前衛の動きを見たかった訳だから、後衛の問題は後回しでもいいいんだけど。確かにダメージ源を1つ封印されるのは、勿体無いかな」

「でしょでしょ、まぁボクの場合は矢を撃ち込む度に結構な散財してる訳なんですけどね? でも、何にも役に立たないのはアレでしょ! 大きな敵だと、一応上に射線は通るけど」

「……それなら、ネネを前に出せばいい」


 アンリの何気ない呟きに、一斉に大人達の視線は幼女に集中。確かにこのサイズなら、どんな敵でも上方に射線は通るかも。さすがアンリ、見る場所が違う。

 一方、皆にジロジロ見られたネネは、吃驚仰天して例の如く人見知りを発動。近くにいた祥果さんに抱き付いて、まるで本物の母子の様な情景に。

 思わずホッコリする央佳、まぁネネの前衛参加はおいおい考えて行くとして。


 他には大きな問題も提起されず、パーティは休憩を終えて次のエリアへと進む事に。陣形はそのまま、エリアの広さも前とほぼ一緒な感じを受ける。

 敵の種類も、昆虫や小動物系が大半を占める中。スパイス的に、トラップ形式の植物タイプが一行を驚かせて来る。急に狭まった箇所に配置されてる蔦植物とか、食虫植物とか。

 コレ系の敵は、わざと前衛をスルーして後衛を狙って来るのが常で。


「わっ、ネネちゃん……!! 央ちゃんっ、ネネちゃんが蔦に絡まってる!!」

「祥ちゃん、後ろに敵がいるよっ!」


 蔦のトラップで宙に浮いている四女に、祥果さんがパニックを起こし掛けている間に。その彼女を狙おうと、迷彩色で隠れていた食虫植物が動き出していた様子。

 それを目敏く見付けたメイが、祥果さんに注意喚起を呼び掛けているが。いち早く動いたのは、ぴったり護衛にくっついていたアンリの鋭い槍先だった。

 一撃でトラップ植物を屠って、祥果さんの安全を確保する。


 その間放っておかれたネネは、空中遊泳を楽しんでいた訳では決してなく。央佳の風魔法での蔦切りから、ルカと祥果さんの合同キャッチで事無きを得て。

 おおっと親子のコンビプレーに感心するゲスト達、お前らも少しは活躍しろよと内心で央佳。ランクの低いダンジョンだが、嫌らしい仕掛けは多い気がしてきた。

 それを裏付けるように、例の大量の木の実投げリスが後半に発生。


 任せてと前線に躍り出たのは、体力を温存していた黒助だった。負けるモノかと、釣られてメイも躍り出る。そこからは前衛を無視した射撃大会、火力は圧倒的にこちらが上のよう。

 呆れた感じで見ているルカはともかく、その間にヒーリング作業を促すアンリは大したモノだ。素直に従う祥果さん、やんちゃ者の回復はエストに任せて。

 回復役が2人いるから、取れる作戦ではある。


 そんな感じで進んで行った、第2エリアの中ボスはウッドゴーレムだった。ゴーレムと言うよりは生木が動き出した感じ、斬系の攻撃ダメージの効果が高いのなんの。

 蔦のバインドがウザい位で、前衛の火力であっさりと撃破に至ってしまい。そこでのドロップに、割と良品が混じっていたのがある意味問題に。

 白木の大槌だ、両手棍扱いなのだが結構ダメージが高い設定の武器だ。


「ハンマー系の武器って、結構珍しいよね……攻撃力もあるし、高く売れるかも?」

「そう言えば、報酬の分配方法は決めてたっけ? ダンジョン探索も、前の取り決めでいいのかな? チケット提供者を優遇で4等分でいいかな?」

「私達は、それで全然かまいませんけど……ネネちゃん、どうしたの?」


 エストに語り掛けられたネネは、びくっと摘み食いを見咎められた仔犬のようなリアクション。どうやらドロップした白木の槌が、いたくお気に入りの様子。

 アレが欲しいのと、祥果さんが優しく問い掛け直すと。恥ずかしそうに頷いて、一緒にお願いしてと祥果さんに頼む素振り。ゲストチームには、まだ人見知りしている様。

 その可愛い素振りに、花組も奇面組もメロメロな有り様。


 どうぞ貰って頂戴と、孫にお年玉でも振る舞うような素振りはアレだけど。“加護”返し後のネネの武器について色々と考えていた、央佳の懊悩は綺麗に裏切られた感じ。

 自分で使用する武器は、自らの気持ちで選ぶのは正道だ。


 その点については、全く文句の無い央佳。ついでにメイも、次のエリアで武器問題の片を付けてしまった。このエリアに初出の小猿は、木の上から弓を使って攻撃して来る嫌な奴で。

 そのドロップに、白木の弓と木の矢束がわんさか。木の矢束のダメージは軽微に過ぎないが、白木の弓はまぁまぁな性能だろうか。それに飛びついたのは、次女のメイ。

 父親にねだって、早速その場で装備する始末。


 その手の行動は、ルカの時にもあった気がする。“加護”を返す前に、自分のお気に入りの武器を装備すると言ったような。ひょっとして、きっかけさえ与えればそんな流れになっていたのかも知れない。

 今更それを知っても仕方が無いが、祥果さんはやや批判的な見方をしている模様。小さな子供が武器を持つのは危ないと、心の中で思っているのは丸分かり。

 このゲーム世界では、それを含めて個性なのだけれど。


 新武器を得て調子に乗ってるメイとネネはともかく、一団は3つ目のエリアを突き進む。このエリアは起伏が激しく、芝草と枯葉のフサフサとした感触が足の裏に広がる。

 武器を使いたくて仕方が無いネネは、前衛まで出張って父親の隣を陣取っているが。面倒を見る立場の央佳は、どうも気がそれて仕方が無い。

 ところが湧いて出た骸骨の群れに、ハンマーは無類の強さを見せ。


 面白いように撃沈して行くその勇姿、なかなかに前衛が様になっている。って言うか、完全に調子に乗っているのだが、残念ながらそれを止めるメイとアンリは後衛なので。

 家族間の役割分担では、央佳は大甘に分類されている。ルカも小言は多いが、父親の前だと完全に大人しいキャラになってしまう。だからそのまま前衛に居座って、意気揚々と先頭を歩くその小さな姿が。

不意に消えた途端、やったと呟く姉たちの胡乱な表情。


「ええっ、央ちゃん……ネネちゃんがまた消えたっ!!」

「……お調子者は放って置けばいいよ、祥ちゃん……」


 アンリの冷静な突っ込みを、そのまま採用するとネネは戻って来れなくなる可能性も。あの子は極悪スキルを持っているので、最悪巨大竜化で逃れられるとは思うけど。

 四女が引っ掛かったのは、単純な落とし穴の仕掛けだった。驚いて捜索に動き回ったお陰で、喜一も見事に隣の穴に落っこちてしまっている。

 それを見て、救出陣も慎重にならざるを得ず。


 父っちゃと慌てた感じの返事は聞こえて来るので、穴の中に凶悪な仕掛けは無い様子だが。外の状況はこの好機を放って置かないみたいで、新たな敵がワラワラと出現して。

 ルカとアルカは、飛んで来た大量の蛾の群れを迎撃に向かう。助けを乞われた央佳は、ネネの嵌まった穴に手を伸ばす。アンリが近付いて来て、それ食虫植物だよと助言して来た。

 とすると、中の四女は徐々に熔解されて行く?


 慌てるのは央佳ばかりでない、人数の足りてない前衛も大慌て。何しろ蛾の数が多い、しかも嫌らしく頭上から毒の鱗粉攻撃が。さらに土の中から、モグラの軍勢も加わって。

 強敵でこそないが、パニックは確実に感染して行って。仕方なくアンリの召喚した、影騎士が前線に参加。更に黒霧が近付くモグラを捕獲して行く。

 意地でも祥果さんの安全は、確保する構えの三女。


 その頃央佳は、どうやっても届かない娘の救出に苦心していた。ネネが小さ過ぎるので、お互いが手を伸ばしても届かないのだ。幸い幼女は、父親の顔を見てパニックには至ってない。

 考えている内に、央佳は先程のアンリの言葉を思い出す。この仕掛け自体はモンスターを使った罠だ、だったら敵を倒せば解消されないか?

 一縷の望みを掛けて、央佳は穴の内部を剣先で突っつきに掛かる。


 作戦は見事成功、穴の上に敵のHPバーが出現した。機を得た央佳は、嵩に掛かって突っつき攻撃。穴の下のネネも、父親が何をしているのか理解したようで。

 思い切り穴の中で暴れ回って、HPはあっという間にゼロに突入。その途端、ポンッと言う感じで穴から飛び出てくる幼女。央佳が空中でキャッチして、めでたく救出成功!

 周囲の喧騒も、いつの間にか静かになっていて。


 どうやらメイとアンリが、魔力を総動員して倒し切ったらしい。何にしろ、誰も犠牲にならずに済んで良かった。……と思ったら、喜一がいないと黒助が騒ぎ出し。

 そう言えば、早い段階で落とし穴に嵌まったんだと皆で思い出したのは良いけれど。救出した時には、既に体力は1割しか残っていないと言うギリギリ具合。

 恐るべし、食虫植物の溶解液と毒状態のコンボ。


「……何も出来ずに死ぬかと思った……」

「思い出して貰えて良かったな、このまま消化されて骨になってる所だったぞ」


 洒落にならない事態だったが、驚かしの仕掛けもここまでだった様子。このエリアの中ボスは大きいサイズの蛾と、土中からいきなり出て来るモグラのコンビ。

 いきなり足を取られたり、毒の鱗粉攻撃には苦労したが、火力に勝るパーティは簡単に敵を退ける。蛾は毒耐性のピアスを落とし、モグラは『土竜の尻尾』を落とした。

 しょぼいドロップだが、無いよりはマシか。


 構造的に、恐らく次が最後のエリアだろう。パーティは気を引き締めつつ、休憩後に再び進み始める。ちなみに懲りたネネは、再び元の祥果さんの隣の位置へ。

 軽いミーティングでは、やはりもう一人くらいは回復役が欲しいねとの意見が出た。祥果さんがMP回復魔法やスタン魔法を持っているので、そっちに専念した方が良いかもとエストの意見が出たのだが。

 現状では、それも儘ならないと言う。


 前衛の問題と言えば、やはり盾を持たない前衛ズが薄いとの確証が得られ。これに関しては、戻ってからのテコ入れが必須との意見が多数出て。お金を掛けてでも、何とかすべしとの事。

 槍玉にあげられた前衛ズは、揃って身を竦ませていたけど。


 喜一に限って言えば、削りのパワーは信頼出来るレベルである。ただしスキル技で畳みかけられない瞬発力の無さとか、敵のタゲを取っていないのにHPが減って行くヘタレ具合は如何ともし難く。

 アルカがそれに比べてマシかと問われれば、実はそんな事も無くて。確かに腐っても炎種族、一撃のパワーは凄いしHPも少なくは無いのは前衛向きなのだけど。

空振りの多さと装甲の薄さは、その長所を完全に消し去っていて。


 とにかく最後のエリアだ、気合を入れて突き進むメンバー達。特に問題の両サイドは、汚名返上と息を荒げている。このエリアの仕掛けは、隣のと似たり寄ったり。

 最後の大ボスは、食虫植物に寄生されたウッドゴーレム。2部位仕様で厄介な上、骸骨戦士の召喚が厄介だったけれど。数の優位はこちらも一緒、難なく退け勝利をもぎ取る。

 そして宝箱と大ボスから、金のメダルと果実を6個ほどゲット。


 使えばHPやMP、腕力などがちょこっと上がる果実だ。報酬の分配は後回しにして、喜んでいる連中を引き連れて魔方陣で退出。結構疲れた気がするのは、数々の変な罠のせいか。

 それから邪魔にならない場所で車座になって、最終的なミーティングをちょっとだけして。前衛ズのカスタムは、後日中央塔でする事で決定して。

 それから皆で、ダンジョン通いを重ねて強くなる事で合意に至った。


 今回のダンジョン挑戦で、このメンバーも決して悪くは無いとの感触を得た央佳。子供達も楽しかったと言ってたし、人間性にも問題は無い様子で何より。

 別れ際のまた今度も、だから決してお世辞や御為ごかしでは無い。

――それが何より、嬉しい央佳だった。




 夕食後に家族揃って大浴場に出掛けて、それからエルフの里の外れに立つ神殿へ。エルフは信仰を持たないと言う設定の為か、その神殿はとても小さかった。

 彼らは自然の一部、精霊に近い存在らしい。そのため神様との距離は、人間よりも近いのかも知れない。そこだけ見れば、新種族に近しい存在なのかも。

 良く分からない議論だ、信仰とは何かも含めて。


 とにかくこんな場所でも、神様を呼び出すには充分だとルカは請け合った。そこは木々と茂みが、丁度良い具合に隠れ家を作ってくれたような空間だった。

 央佳一家が入り込むと、やや狭く感じるような場所だ。


 今回龍人の神様を呼び出したのも、やっぱりルカだった。一応ネネも、一緒に前に出て跪いて畏まっている。姉妹の呼び掛けは、今度はいつもよりずっと長かった。

 エルフの信仰の無さが起因なのかも知れないが、そこまで細かい事は分からない。とにかく呼ばれて現れたのは、風の神と龍人の神の2神だった。

 それには呼んだ当人のルカも、ちょっと混乱している様子。


『おっと、土地柄のせいか祈りが混乱してしまった様だね。どの道ここは私達の管理する土地だから、暫くご一緒させて貰うよ。心配せずとも、ちゃんと龍人の神もご同伴してるからね』

『久し振りだな、我が子達よ……今度は末娘の加護返しか、順調に信頼が育めているようで何よりだ。狭い場所だが、皆寛ぎなさい』

「有り難うございます、風の神様に龍人の神様」

「ありがとうございましゅ!」


 元気の良いルカとネネの挨拶を受け、残りの家族も多少緊張を和らげて。とは言え神々の面前である、完全に寛ぐには至らない央佳と祥果さん。

 子供達はそうでも無いようで、早速アンリが神様におねだりに掛かっている。所有する複合技の書をチラッと見せて、まるで田舎の祖父母に甘える孫のよう。

 そんな単純な策略に、あっさりと引っ掛かる風の神様。


 アンリがちゃっかり、風の宝珠を2個ほどせしめている間、龍種族の姉妹は神様とゴニョゴニョ秘密の会話を続けていた。央佳夫婦は、子供達が粗相をしないかひたすら心配している。

 木々を渡る風のざわめきは、しかし穏やかで場は清浄さに満ちている。そんな空間で下世話な心配をしているなと、央佳などは少し情けなく思うのだが。

 やっぱり子供の突飛な行動は、場所柄なと選ばない訳で。


 アンリは今度は、姉の分の光の宝珠を神様にねだり始めていた。祥果さんが大慌てで、三女を呼び戻そうと声を上げているけれど。太っ腹な神様は、何故か光の宝珠も持っていたようで。

 姉妹仲良くするんだぞと、これまた気前良く贈り物をして下さる風の神様。家長として礼を述べる央佳だが、神様と視線が合うと案の定竦んでしまった。

 己の未熟さや小ささを、改めて突き付けられるような体験を経て。


 気遣うような素振りが、隣の祥果さんから漂って来る。同志と言うか、逆に子供達はこの感覚は決して理解出来ないのだろうなと央佳は内心考えつつ。

 祥果さんの隣のメイが、緊張気味の親に代わって口を開く。最近の冒険で大失敗をして、お姉ちゃんが敵に吹き飛ばされちゃったと。嘘では無いが、またまたおねだりする気かと冷や汗が止まらない央佳と祥果さん。

 アンリも口裏を合わせて、あの敵はチート過ぎると父親の口真似をする。


『あぁ、それは桃源郷へのトリガー集めのクエじゃな。その護衛の種族は、確かに強力じゃからなぁ……龍人の神よ、何かヒントだかアイテムだか贈ってやれないかな?』

『シャングリラのミッションか、冒険者達が苦労していると聞くが……確かに、トリガーとなる3つの鍵を集めるのは難儀だろうて。ヒントは各大陸のあちこちに散りばめられておる、普段からアンテナを立ててちょっとした違和感を探すが良かろうて』


 そうらしい、央佳は言い渡された言葉を脳内整理、意外と難しいミッションだと再確認に至る。あの手長族が守護していた鍵は、集めるべきトリガーの内の1つに過ぎなかったとは。

 シャングリラと言うキーワードは、確か護衛役の手長族も発していた気がする。そこに辿り着く事こそが、このミッションの本命ルートなのだろう。

 いや、辿りついてからこそが、本当のコンテンツの始まりなのかも?


 龍人の神様は、再びルカとネネに何やら言葉を掛けていた。それから四女の小さな身体が、淡く光を放ち始め。その光が収束すると、誇らしげなネネが一目散に父親に突進して来る。

 “加護”返しの儀式は終わったらしい、ここからは央佳とその家族がこの子の面倒を見て行くのだ。今まで以上に、愛情と責任と優しさと厳しさを以て。

 小さくて温かな身体を抱きしめながら、そんな決意を新たにする央佳。


 子供達はなおも、手長族に追われていてフィールドに出れないと神様に不平を述べていた。そこは自分達で頑張りなさいと、甘やかしばかりでない所を見せる神様。

 それはそうだ、神様は人を怠惰にするために存在している訳では無いのだから。子供達に援助して頂いただけでも、本当に有り難い事だ。

 その上ミッションのヒントまで貰って、至れり尽くせりと言うモノ。





 ――改めてお礼を述べようと思ったら、神様は既にいなくなっていた。
















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