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竜と聖魔とバツ2亭主  作者: 鳥井雫
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合コン? いえいえ、鍋パですよ!



 今夜の鍋パーティ企画に、大いに盛り上がっていたのは喜一と黒助のコンビだけだった。子供達はこの間の宴会規模を想像していたらしいが、お客がたった4人と知ってトーンダウン。

 しかも知った顔しか来ないと聞き及び、ウキウキ感すら無くしてしまった様子。それでも素直に夕食の支度を手伝うのは、やはり4日間の喪失の影響だろうか。

 それぞれの大切さを改めて知って、お互いに優しくなったような気が。


 カルマシステムの厄介さで、央佳の宿泊している宿屋に他人は招く事が出来ないせいで。いつもの手を使って、喫茶店の一室を6時間ほど借り切って進行する事に。

 そこで支度の辣腕を振るっているのは、ようやく調子を取り戻した祥果さん。子供達も一晩経って、親がちゃんといる事実に安心したのだろう。

 いつもの元気さを発揮して、騒がしい日常が戻って来た感じ。


 央佳には色々と考える事があって、今はネネの子守りに甘んじていたものの。頭はフル回転、って言うかギルドと連絡を取り合ったりと、実は多忙を極めていて。

 更にはアルカとエストの女性コンビからも、何度もテルが入って来て本当に忙しい。目の前には既に喜一と黒助が、何でも手伝いますよと忠実さを示している。

 新たな仲間が出来た事が、本当に嬉しいのだろう。


「……あっ、そう言えばこの前の限定イベントの景品交換! 騒ぎに紛れて忘れてた、まだ出来たっけか!?」

「今週いっぱいって話じゃ無かったかな、まだ表通りにNPC立ってたような……ああっ、まだ平気っすよ桜花の旦那!」

「旦那って……まぁいいけど」


 こう言うのは、忘れない内に処理しておかないと。ネネに室内で作業中のルカを呼んで来るよう、お遣いを頼んでやると。嬉しそうに鼻息も荒く、幼女は走り去って行く。

 ネネはすぐに、姉を連れて戻って来た。ルカは良く分かっていないようで、食事会の用意は順調ですと経過報告。それから何の用だろうと、不思議そうに小首を傾げる。

 この娘も、限定イベントの得点などすっかり忘れている様子。


 丁度良い事に、得点用紙はまとめてルカが預かっていたらしく。そのまま交換に行くぞと央佳が告げると、ネネと共に大人しく付き従う素振り。

 何故か喜一と黒助のコンビもそれに同伴して来たが。追い返す程でもないかなと、央佳は敢えて無視を決め込む事に。彼らも暇なのだろう、予定の時間にはまだあると言うのに。

 ちょっとウザいが、これから付き合いを持つ連中だし我慢しよう。


 交換所はまだやっていて、それは以前の受け付けの場所そのままだった。ただし、猿回しをしていた賑やかしのアコーディオン使いは、既にいなくなって寂しい限り。

 それを期待していたネネは、明らかにガッカリとした表情。一番先頭を走っていたのに、受付けの前で途方に暮れている。それを尻目に、ルカは自分達の稼いだ得点を掲示。

 それから央佳に向けて、何を交換して貰おうか相談して来る。


 こういう時は、得点の高い景品から貰って行くのが常套手段だ。低い景品は、ぶっちゃけはした金でも買えるのだから損と言おうか。そんな訳で、相談した結果貰ったのは以下の通り。

 ――『複合技の書:両手剣』『風の宝珠』『蘇生札』『修行の塔チケット』


 これでほぼ、限定イベントで得た得点は使い切る事が出来た。複合技の書と修行の塔チケットは、完全に長女のルカ用に交換したモノである。

 風の宝珠は、アンリの両手槍の複合技の為に必要だったから。蘇生札は、もちろん祥果さんに持たせるもの。他の子供に贈り物が無いのはアレだが、まぁ致し方が無い。

 ポイントは有限なのだし、加護を返した子供を優先しなければ。


 ルカが交換した複合技の書は、両手剣スキル50と光スキル20が必要との事だった。残念ながら、どちらもスキルが足りなくて即時使用は出来ないけれど。

 そこはレベル上げや修行の塔を使用して、スキルPを稼げば良い話だ。そんな目論見での交換だったのだが、それでも取得は先の話になりそう。

 それでも一応は、子供の成長のきっかけではある。


 取り敢えず複合技の書はルカに渡して、その他のモノは央佳が管理する事に。ネネがそれを見て、例の如くに自分も何か頂戴と駄々をこね始める。

 いつものように抱き上げて、この後はご飯が待ってるぞと気を逸らせてやると。簡単に釣られる幼女、お腹が空いたといつもの台詞。祥果さんが張り切ってたよと、ルカも請け合うと。

 央佳も堪らなくなって、もうご飯会を始めようかと提案する。


「そう言えば旦那……今日の鍋パーティに参加する女性って、有名な冒険者なの?」

「いや、そこまで有名では無い筈だけど……彼女達も、新種族のヒントを掴んでるらしいから。今夜集まったこの6人と子供達で、パーティ組めればいいかなって軽い気持ちだよ」


 央佳の発言に、おおっと大仰に驚く素振りの2人連れ。いよいよ待ち侘びた新種族ミッションへ取り掛かれるのかと、彼らのテンションも高くなっている様子だ。

 ただし、それは飽くまで彼女達の承認があってからの話だ。行儀良くしろよと、何となくいつもの癖で父親振ってしまう央佳に。先には~いと返事をしたのは、何故かネネだった。

 それに釣られるように、奇妙なコンビも返事をして来る。


 他の子供達が妬くかも知れないので、景品の交換は内緒にしようと、央佳はルカの耳元で囁きながら。元気良く頷く娘と一緒に、再び喫茶室前へと取って返す。

 その時には既に、アルカとエストの2人組は到着して入室を待っていた。彼女達には、前もってこの鍋パに至る経緯と目的を全て話してある。

 つまり、この前段階の顔合わせで一緒に入室するかどうかは決まる訳で。


 印象と言うのは本当に大事だ、彼女達が受けた衝撃はその顔色を見ればすぐに分かった。絶句して戸惑いつつも、央佳の推す理由を必死に理解して迷宮を彷徨っている様な。

 あの元気者のアルカでさえそうなのだ、しかしエストの方が幾分冷静だった。央佳は意外に感じたが、彼女が発した質問でその訳は瞬時に理解出来た。

 要するに、ゲームの理解度はエストの方が遥かに高いらしい。


「……異端ジョブを選択してるんですね、それにこの禍々しいオーラは……ひょっとして、呪いの防具をお祓いせずに着用してるとか?」

「えっ、そうなのかエスト!? そんな事したら、呪われちゃうんじゃないかっ!?」

「そうですねぇ……周囲に気を遣って生きて行く破目になるから、普通の冒険者は選択しないルートなんですけど。他者と異質の強さを求めるなら、それはそれでアリかも……?」


 ファンスカにもライトユーザと言うか、それ程強さやスタイルにこだわらない冒険者も多いのだが。エストは割と、幅広くキャラ強化の生業を網羅している様子で。

 女性にしては割と珍しい、遣り込み根性と言うか設定収集主義者のようだ。色んな事情に精通している者が、仲間に1人でもいれば心強い。

 内心で感心しつつ、央佳は奇妙な2人連れを売り込みに掛かる。


 つまりは、見た目程には性格は奇天烈では無いと。しかもそちらと同じく、新種族ミッションのヒントを得ているらしいので。どうせなら、一緒に進めるのも一つの案じゃないかと。

 何にしろ、今から始めるのは信頼度を高めるための食事会である。一緒に入室するのなら、そこを踏まえてから入るように。そう告げると、アルカは改めて2人の異端者を睨みつける。

 エストの方は、逆に飄々とした素振りで正直そっちも不安な感触。


 ところが、2人揃って返事はオーケーとの事。好感触な返事に、央佳も思わずホッと胸を撫で下ろす。奇妙な2人連れは尚更の事、有り難うを連呼して早速ドン引きされてたけれど。

 ルカが祥果さんにもう入って良いか、尋ねに入ってすぐに戻って来た。お客さんを待たせる訳には行かないと、こちらも即時オーケーが貰えたっぽい。

 そんな訳で、一団は貸し切り室内へと雪崩れ込む。


 室内は、何と言うかかなりアットホームに飾り付けられていた。子供達の描いた絵が壁に貼られていたり、折り紙で作られた飾りが貼られていたり。

 祥果さんの作った人形が小さなソファに陳列されていたり、例の如くメイとアンリがお迎え余所着を着込んでいたり。テーブルの支度も完璧で、大皿に摘める料理が山のように用意されていた。

 そしてお客を持て成す気満々の、祥果さんの姿が。


「うわ~~っ、凄いなっ! ただのお食事会かと思ってたら、こんなお招きに与かるなんて! 用意が大変だったでしょ、祥果さん……子供達も、相変わらず可愛いなぁ!」

「本当に凄いなぁ……おっと喜一ちゃん、僕らの鍋が一際豪華に見えるよっ!」

「突っ立ってないで、さっさと座ってくれ……子供達が腹を空かせてる。席順はそっち側の角を2組で、こっち側をウチの家族でいいかな?」


 ひたすら飾りに感激しているアルカと、ひたすら鍋の出来に感動している黒助を、上座の方向へと押しやる央佳。今回の鍋パの主役と言うか、一応はゲストではあるので。

 メイとアンリは、ネネをとっ捕まえて同じ衣装へと着替えさせていた。ルカも同様に以前の宴会で着ていた、カラフルなワンピース姿である。今回は踊らないのかと央佳が尋ねると、踊った方が良いかと聞き返されてしまった。

 それはもちろん、娘達の可愛い姿は見てみたい。


 それを聞き届けたメイは、素早く姉妹に号令を掛ける。どうやら踊りと歌の担当は、この何でもソツ無くこなす次女らしい。少女が懐メロを歌い始めると、姉妹が揃って踊り出す。

 完璧に揃っているとは言い難かったが、それでも踊りは可愛くて楽しかった。やっぱり上手いのは、年長のルカとメイの2名である。余裕があるのか、踊っている時の笑顔が何とも癒される。

 三女と四女は、無表情と頑張っている顔なのが少し残念な箇所だろうか。


 それでも1曲踊り切ると、周囲からはやんやの喝采が巻き起こった。優しいゲストで良かったと、央佳は心から感謝する。ここで踊りの評価を口にするのは、何と言うか粋では無い。

 可愛かったよと、姉妹それぞれ誉めそやして頭を撫でてやると。みんな照れながら、満更でもない様子。抱き付いて来たのはアンリとネネで、先程までの顔色は霧散している。

 何とも現金な子達だ、まぁ気持ちは分かるけど。


 即興の公演のプレッシャーから解放された子供達は、口々にお腹すいたと両親に食事の催促。ゲストも着席しているし、鍋も既に火が掛けられている。

 子供達が席順でゴネた為に、試行錯誤の時間を挟んでようやく全員が着席出来た。向かって左側の面にメイと祥果さんとアンリ、続いて右の面に央佳とルカ。

それから、四女のネネはちゃっかり央佳の膝の上。


「ええっと、今から鍋パーティを始めるけど……誰か何か、言う事あるかな? 祥ちゃん、開催の言葉ある?」

「えっ、私……? 特に無いけど……みなさん、たくさん料理作ったので今日は食べて行って下さい」

「お招きに与かって、本当に光栄だよ。それから、新しい知り合いにも挨拶を!」

「あっ、はい……こちらこそっ!」


 央佳と祥果さんの遣り取りはともかく、アルカと喜一の掛け合いはまるでふやけた沢庵のよう。無理やり央佳の乾杯の合図から、鍋パは始まりを告げて。

 腹を空かせた子供達は、野獣のようにご馳走に群がって行く。出遅れたのは、央佳の膝の上のネネただ一人。父親にせっついて、給仕をねだっている。

 ただし、減って行くのは定番のお握りや玉子焼きや唐揚げばかり。


 これこれ子供達、今日のメインは鍋なんだよと央佳は脳内で突っ込みを入れる。彼らが手伝って苦労してゲットした大鍋は、キノコ中心の具材ながらも美味しそうに煮え立っている。

 子供はやっぱり、すき焼き風に生卵を付けて食べる方が楽しいだろう。小さな器に卵を割ってかき混ぜていると、隣のルカが不思議そうに覗き込んで来た。

 ネネとアンリも同じく、初めて見るやり方に興味津々。


「お前達もやってご覧、こうやって鍋の具を卵に浸して……ほら、ネネ」

「……おいちい!」

「あっ、溶き卵を使うんだ……私の家は使った事無いなぁ」

「でも美味しそうですよねぇ、私もやってみようかな?」


 食べ方の評論会はあっという間に白熱し、更にはキノコの種類の薀蓄やら鍋の王道は何だろう的な議論にまで発展して行った。その間、子供達はひたすら卵を消費して行き。

 これを食べない事には、喜一と黒助の間の信頼度も上昇しないので。央佳も半ば義務的に口にしたが、当然ながら美味である。肉もキノコも、こんなに味わい深いなんて。

 大鍋の中身は、あっという間に無くなって行く。


 確かに食事会の面目は保たれているが、問題はこれからの指針だったりする。鍋の消費に満足している男達に見切りをつけて、央佳は話題を冒険方面へと導く事に。

 アルカとエストの女性コンビは、話し相手には気持ちが良いのは判明したが。組んで冒険するには、果たして信頼がおけるのかどうか。まぁ、一度は契約を交わした以上は組まないと話にならないのだが。

 それ以上に信頼の低い奇妙コンビが加わるとなると、かなり微妙。


「話は変わるけど、今後の計画について詰めて行かないか? 最近、あちこちに知り合いが出来て、色んな仕事を手伝う約束をしてるんだけど。この奇面コンビも、実は新種族ミッションのヒントを得てるって話なんだ。だからこの際、ここの皆でパーティ組んでみないかって提案がまず1つ」

「……ああっ、私達に訊いてるのか! 別に構わないよな、エスト? こっちも色々パートナー探してたけど、イマイチ信用に足る冒険者が見付からなくって……渡りに船だよっ!」

「そうですねぇ、私も別に構いませんけど……呪いって、神殿で解けないんですか?」


 エストの懸念は、誰もが思う当然の疑問点である。何しろ呪いの種類によっては、味方に殴り掛かったりと獅子身中の敵以外の何物でもない。ここをスルーしてしまうアルカの方が、かなりのうっかりさんとも言えるけど。

 奇面コンビが、しどろもどろで弁解するには。今まで何度か、その手の呪い解除にはチャレンジしているらしかった。当然と言えばそうだ、彼らも好んで呪われている訳でもなし。

 ただ、それには大量のお金が必要らしく。


 纏めてみると、大体こんな感じらしい。解呪のランクは色々あって、お高くなるにつれてパーセンテージは上がって行くのだが。1千万出しても、せいぜい確率は60%程度らしく。

 一番安いので、3百万で確率は25%くらい。4回に1度の奇跡を夢見て、それに何度か挑戦してみたものの。見事に夢は裏切られ、今に至ると言う。

 何と言うか……安物買いの銭失いの極みだ。


「ん~~っ、私なら1千万貯めてから最上ランクの解呪を頼むけどなぁ! でも、それでも60%なのかぁ……酷いぼったくりだなぁ」

「現実的に言えば、2千万用意してから挑戦するのが無難ですけど……果たしてその武具に、それだけの価値があったかどうか……」


 アルカのぼやきに対して、エストの批評は辛辣ゆえに正当性が目立ってしまい。思わず央佳も同情する程、奇面の2人はしゅんと項垂れてしまう有り様。

 話題を変えるべく央佳が目線を移したのは、相変わらず能天気そうなアルカの姿。今は食事も落ち着いて、リラックスしながら子供達の食事風景を眺めている。

 当の子供達は、まだまだ食べる勢いに翳りは無い。


「確かに後衛はともかくとして、前衛は心配だな……万年毒状態の男に、対戦の度に倒れる女。これでパーティ組もうってんだから、少し考えて行かないと」

「ちょっ、私は別にそこまで弱くないぞ……! 対人戦に慣れてなかっただけだ、モンスター相手ならそこまで酷くは無い……筈だ! なぁ、エスト?」

「う~~ん……アルカは戦闘中に空振りは多いし、補正スキルも考え無しにセットしてるし、猪突猛進でスキルの使い方も気分任せだけど、まぁ私の良きパートナーですよ?」


 良くもまぁ、相棒の欠点をこれだけ流暢に並べられるモノだ。央佳は少し感心したが、前衛にこれだけ不安要素が絡むと、パーティとして順当に機能してくれるかも怪しい。

 最終的には子供達を頼る事になるのだろうが、余り負担を掛けたくないのが本音ではある。そもそも祥果さんも、圧倒的にレベルと場数が足りていないのが現状なのだ。

 その補佐で、子供達は手一杯には違いないのだから。


 その辺を踏まえて、改めて央佳は2組に対して質問する。この6人+子供達で組んで、新種族ミッションに取り掛かる意思と用意はあるのかと。

 アルカとエストは、お気楽にそれを了承して来た。喜一と黒助は、飛び上がらんばかりの喜びを交えて承認の構え。話の流れ上、央佳は祥果さんと子供達にもお伺いを立てるけれど。

 やっぱり良く分かっていなかったっぽいが、全員がコクンと頷きを返して。


 これで即席パーティは結成された、かなり不安の濃い面子ではあるが。子供達がいる分、戦力不足とは言えないのが有り難くはあるけれど。

 取り敢えずは結成記念に乾杯の音頭を央佳がとると、リーダーは桜花さんで良いですよねと、頭の切れるエストが念を押して来た。皆に全く依存は無い様子、仕方なく引き受けるけど。

 子供達は、父親の出世を無邪気に喜んでいる様子。


 これが喜ぶべき事態なのかは、甚だ怪しい所なのだが。リーダーを言い渡されたからには、この泥舟を無事に対岸へと渡し切る指揮を取って見せないと。

 試しにどこかのダンジョンで、腕試しでもしてみようかと提案する央佳に。いやいや、ここまで来たら一刻も早くお宝を拝みたいと熱望するアルカ。

 ちょっと待て、ヒントを解いて即お宝なんて、虫の良いシナリオが存在するのか?


「でもさぁ、せっかく念願のパーティが揃ったのに、更に足踏みするのはちょっと辛くないかな? お預け喰らったみたいで、悲しいぞ?」

「確かにそうですねぇ、ここは勢いに乗って一気にミッションに取り組みたい気も……」

「ん~~、でも……せめてフォーメーションくらいは確認しないと」


 イケイケのアルカと喜一に較べると、慎重な意見を述べるエスト。央佳はどちらかと言えば慎重論に偏っている、何故ならばそこまで新しい仲間を信頼していないから。

 ファンスカはカルマシステムを採用しているが、だからと言って全く知らない冒険者とパーティを組む機会が無い訳では無い。むしろ序盤の狩りやレベル上げでは、そっちの方が多い位である。

 つまりは信頼に足る人物を選定するための、合コンの場みたいな。


 それによって性格的に反りが合うとか、戦術的に馬が合うとか。そんな雰囲気を、システムが信頼度として計上して行く訳だ。ベテランになると、あまり気にしなくなるが。

 だけど確実に、その手の雰囲気は存在するしパーティを組むには重要な要素だとの認識もある訳で。それを無視してパーティを組んでも、良い結果にはならない。

 そんな事実を経験で知っているだけに、やはり不安は大きい。


 子供達とのパーティは、何だかんだで上手く行っている。子供達は素直で、こちらの言う事に何の疑問も無く従ってくれる。大人はそうじゃない、我と言うモノが存在するのだ。

 もちろん子供にも我欲はあるが、それはほぼ一点、親に愛されたいと言う純粋な形に集約される。それが大人になると、様々な欲が出て来る。

 目立ちたいとか役に立ちたいとか、活躍したいとか必要とされたいとか。


 それぞれの個性や我欲を、上手くまとめるのがリーダーの役目なのだろうけれど。子供の世話の他に、こんな厄介な役職を追加されても憂鬱でしかない。

 頼りになりそうなのは、唯一エストくらいだろうか。祥果さんに関しては、相変わらず戦闘中はテンパり気味で子供達のサポートは不可欠だし。

 普段の生活では、物凄く頼りになるのにこのギャップ。


 まぁ良い、彼らには借りもある事だし、組むと決めたからには文句は言うまい。こちらは出来る範囲内で、祥果さんの身の安全を確保しながら行動するまでだ。

 ギルドとの約束もあるし、新種族ミッションの取っ掛かりはしっかりと得ておかないと。幸いな事に、朝からのクエスト廻りでこの街のワープ拠点は開通が済んでいる。

 つまりは、この街でやり残した事はもう無い訳だ。


 イナゴの如き子供達の食欲は、今回も発揮されていた。祥果さんの用意した料理は、ほとんど食べ尽くされていて。会話に夢中な大人達を尻目に、満足げな表情を浮かべている。

 それを見ながら、やはり満足そうな奥さんを眺めつつ。央佳は考える、次の街ではどんな冒険が待っているだろうかと。アルコールの廻った脳で、ただぼんやりと。

 ルカがひっきりなしにお酌してくれるせいで、今夜も良い気分。




 央佳に酔いが回る前に、仲間で取り決めた事が幾つか。取り敢えず重要なのは、6人での冒険で得た報酬の分配方法。央佳が示したのは、3等分で分ける方法だったけれど。

 つまりはアルカとエストで1組、便宜上これを花組と呼ぶ事も承認済み。それから喜一と黒助、これを奇面組と呼ぶ事を無理やり認めさせて。

 それから央佳夫婦、この3組での分配方法を提示したのだが。


 子供達の分け前が無いのは可哀想との事で、花組と奇面組から異議の申し立てが。確かに最大の戦力は、実は子供達だったりする。臍を曲げられたら堪らない、その理屈は良く分かる。

 そんな訳で、皆で示した修正案で4組での報酬分配に改変。花組と奇面組に加え、央佳とルカとネネの3人での通称竜組がまず1つ。それから祥果さんとメイとアンリの、聖魔組で2つ。

 これで全部で4チーム、基本的に指示出しもこのチームで出す事に。


 次に、新種族ミッションの進め方だが。まず最初は、初期エリアから侵入可能な奇面組の示すヒントから取り掛かる事に。そこで得られる報酬は、基本的に奇面組を優先して回して行く。

 それが無事終わったら、今度は新エリアに赴いて花組の示すヒントに取り掛かる。そしてそこで得られる大物報酬は、花組が優先権を得る事が出来る。

 そして央佳は、クリア後にその情報をギルドに持って帰れると言う寸法だ。


 最大戦力の子供達の意見は、特に無かった様子。基本的に父親には絶対服従なので、まぁ当然とは言えるのだけど。この『獣』種族の内情については、全く知らないとの事だった。

 半ばそうだと思っていた央佳だが、それを聞いて少し残念な表情を浮かべてしまう。前情報は、もちろんだがなるべくあった方が良いに決まっている。

 それが自分達の安全を、少しでも引き上げてくれるのだから。


 新種族ミッションに関する打ち合わせは、こんな感じでまとめられ。食事会も食べる物が無くなったのを踏まえて、これにてお開きに。信頼度をチェックしてみると、それぞれ一気に30近く上昇している有り様。

 これは確かに凄く便利なアイテムだ、使い捨てで無いのがまた良い、素材を追加すれば何度でも再利用出来る。奇面コンビの喜びようは、まさに天にも昇る勢い。

 それを傍目で眺めるのは、ちょっと気持ち悪かったけど。


 子供達は満腹後の気怠さを漂わせ、ひたすら眠そうだった。宿まで頑張れと励ましながら、使用した喫茶室を皆で後にして。その後は軽い挨拶、今後とも宜しくとかミッション頑張ろうなとか。

 取り敢えずは良さそうな性格の仲間で良かった、これで我の強い際物揃いだったら、恐らく一瞬で破綻してしまうだろう。央佳は自分のカリスマ性など、まるで信頼していない。

 ましてやリーダーシップなど、威張れる程度も持っていないと自負している。


 辛うじて、父親としての威厳を保っている程度だ。それを否定されてしまうと、ちょっと辛いモノがあるけれど。夫としての信頼度も、平均以上にはあると思う。

 今回は話の流れで、仕方なくリーダーの重責を請け負ってしまったけれど。本当はそんな役職など勘弁願いたい、自分と家族の事で手一杯な現状を鑑みれば。

 やれやれだ――せめて新種族ミッションが、スムーズに進む事を切に願う央佳だった。












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