表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
竜と聖魔とバツ2亭主  作者: 鳥井雫
19/48

キノコ鍋をご一緒にいかが? いえ、結構です!



 昨日はなかなかに大変だった、特にダンジョン突入を2回もこなしたとなれば。フィールドでの狩りと違って、確かに優先権で他のプレーヤーに配慮しなくて良いのは助かるが。

 その分、色んな仕掛けでの出迎えや、狭い空間の圧迫感はフィールドの比ではない。そもそもダンジョンは、冒険者を苛めてやろうと言う嫌な思いの創成理念がある。

 そんな場所に、立て続けに通うモノでは無い。


 それでも成果は上々だった、央佳の経験値の入手も含めて。祥果さんと一緒にいると、どうしても保護の方に気が回ってしまい。自分の成長が疎かに、まぁ仕方が無いのだが。

 桜花のキャラは既にカンスト済みで、故にこれ以上レベルは上がらない。それでも経験値が一定以上貯まると、スキルPが貰える仕組みになっている。

 たゆまぬ鍛錬は、冒険者に宿命づけられている訳だ。


 そろそろレベル上限の解放が、バージョンupで導入されるのではとの噂もあるのだが。このタイミングで来て欲しくない央佳は、なかなかに微妙な立ち位置だ。

 他の冒険者にしても、まだまだ新種族ミッションの手掛かりすら得られていない現状を鑑みるに。自己鍛錬どころではない筈である、まぁ全てのギルドが掛かり切りな訳では無いが。

 少なくとも央佳は、祥果さんと子供達で手一杯なのが正直な所。


 今は既に、朝食も食べ終わって家族で朝の散策の途中。朝の会議では、今日はワープ拠点の開通作業をする予定である。それでも自然と、子供達の足は例の限定イベントへと向かい。

 確かイベントは4日目、明日で終わる筈だったような。これで貰える報酬も、確かにパーティの強化の糧となる訳だし。特に断る理由も無く、貰ったアイテムをネネに手渡す。

 ただし、その後の突飛な行動は、以前にも体験したような違ったような?


 四女は貰ったアイテムを、いきなり小猿へと投げつけたのだった。最初の日のように、全く躊躇いもせずに。しかし次の瞬間、前回とは全く違う展開が。

 小猿が巨大な大猿に変化、しかも後ろのアコーディオン奏者も同様に、マッドピエロと言う名前のモンスターに。大慌ての子供達、ネネがまたやったと叱ろうとしていただけに。

 その衝撃は、割と甚大で立て直しもやや後手に。


『ふはははっ、よくぞ我が変装を見破った! しかしそれが果たして幸福だったか、我が一撃を喰らってから判断して貰おうかな? 行けぃ、我が下僕共っ!!』

「おおっ、何だコイツNMじゃんかっ!? ネネはどうして分かった?」

「お猿さんが、きのうとちがった!!」


 前口上の間に、央佳は子供達を叱咤激励して戦闘準備を急がせる。それからネネに尋ねてみたが、幼女なりの推察は働いていたらしく。何とも素晴らしい当たりを引いたものだ、素直に褒めてあげると。

 調子に乗ったネネがお猿さんに突貫、そこからはグダグダの戦闘シーンへ。ピエロの召喚する小猿は、弱過ぎてメイの魔法で即送還される始末。オマケにアンリまで、調子に乗ってピエロにチャージをかまして接近戦を挑んでいる。

 何とか妹達を纏めようと頑張るルカだが、効果はまるで上がっていない様子。


 それでも圧倒的火力の為せる業か、まずはピエロがどうっと地面に倒れ伏す。その大袈裟な死に様に、央佳は少し違和感を持つけれど。残された大猿が途端にハイパー化、子供達はそれに気を取られて背後は全くの疎かに。

 観客は実は央佳だけでなく、周囲にはEクラスの冒険者が何人か声援を送っていて。それでテンションが上がっているのかも、確かに街中での戦闘は見学者が存在する傾向が。

 そしてその中から、不意に注意喚起の声が多数上がる。


「後ろ後ろっ、気を付けて……ピエロが生き返って来たよっ!!」

「ええっ、ふえええぇっ!?」


 聞き覚えのある声だなと思ったら、何と黒助だったみたい。手に汗握って子供達の応援をしている、央佳の方がまだ呑気かも。実際、気分はアトラクションを楽しむ子供を見守っている父親みたいな。

 パワーの強い大猿を、ルカとネネが相手取っているので。必然的に、ピエロはアンリとメイの分担に。多少気持ち悪そうに、蘇ったピエロと対峙するアンリと。

 頑張れ子供達と、皆の回復作業に勤しむ祥果さん。


 ピエロは死霊化したからか、通常武器での攻撃が著しく効き難くなっているみたいだ。やや苦戦中のアンリに、更なる苦難が。死霊ピエロが再び召喚魔法、今度はカラフルなファンキーゴーストが3体。

 アンリも即座に、影騎士を召喚して対応する。メイはタゲを取ってしまいそうで、過剰な手出しを控えていたけれど。妹のピンチに、その戒めを解禁した様子。

 《エンジェルリング》からの範囲魔法で、ゴーストは瞬時に蒸発。


 観衆からは、オオッと言うどよめきが。天使モードを見られたメイは、何だかとっても恥ずかしそう。それでもその効果は覿面で、死霊ピエロはとっても苦し気。

 それに見事に付け入ったアンリ、召喚技以外は大した事の無かった生き返りピエロは程無く没。同じくらいの時間に、大暴れしていた大猿もお亡くなりに。

 観衆を魅了した戦闘も、これにて無事終了。


「いやいや、凄かったな~~! 見応えあったよ、限定イベントでこの敵は初めて見たっ!」

「確かに、見付けにくい敵だったのかも……メイ、ポイントは幾ら入った?」

「ええっと……うわぉ、20ポイントだって、パパ!」


 それは凄い、恐らくこの限定イベントで一番の大物なのだろう。こう言うのを見付けるのも、限定イベントの醍醐味だ。観客から拍手を貰いつつ、家族はその場を退場する。

 もっとも、黒助と喜一は知人の顔でついて来たけれど。どうやら央佳達と、もっと仲良くなりたいらしい。昨日は結局、彼らのダンジョン攻略を手伝ってあげたのだが。なかなかに大変だった、やっぱり1日に詰め込む分量では無かったかも。

 その経緯と結果を、ちょっとだけ紹介しよう。




 お昼を食べ終わった央佳とその家族は、子供達がまだまだ元気だとの事実に鑑みて。それならば頼まれ事を片付けようかと、例の奇妙な2人組と昼過ぎに合流。

 待ち合わせ場所は、エルフの里の中央あたりに広がる公園みたいな場所。秋の景色とファンシーな風景が混合する、何とも時間を潰すには持って来いの場所である。

 実を言えば、家族でお昼の時間からここで過ごしていたのだが。


 子供達は仔犬のようにはしゃぎ回って、本当に疲れを知らない。央佳は召喚ペットを出して、いつものようにネネのお相手。祥果さんは、日向ぼっこをしながら編み物に勤しんでいる。

 その周りを、姉たちが追いかけっこをして遊んでいる訳だ。何とも幸せな、家族の一コマではあるものの。はしゃぎ過ぎから、姉妹喧嘩になるのがいつものパターンで。

 適当に仲裁している最中に、奇妙な依頼主の登場と相成って。


 さて、ここからは本気のお仕事モードだ。それを知らせる為に、家長の央佳は大きな声で集合の合図。争うように整列する姉妹達、何故か釣られて2人組も隣に整列。

 出遅れた祥果さんは、自分の場所を探して右往左往。


 アンリがさり気無く、自分の隣に祥果さんを招いてくれていた。本当に良く出来た子だ、取り敢えず子供達から遊び気分は一掃された様子。

 浮かれた気分のままの冒険は、確かに余計な危険を呼び寄せると言うのもあるけれど。何より生活にメリハリは必要である、それから仕事と遊びの配分も。

 どちらかに偏り過ぎると、人間が駄目になってしまう。


「さて、これからもう一度ダンジョンに突入するぞ。今回はゲストが2人いるので、総勢8人になっちゃうな……さて、パーティの最大数は6人だから、誰か留守番に回って貰わないと」

「あら、メイとネネをサブにすれば、全員で突入出来ますよ、お父さん? 私とアンリでも構いませんけど、加護を返していない2人の方が便利だと思います」

「ああ、ペット扱いって事か……それって、まだ可能なのか?」


 ルカの説明では、まだ全然平気らしい。つまりは限定イベントで貰った時のように、桜花の付属NPC扱いだ。確かに以前はそれを当然と思っていたが、こうして家族になってしまうと釈然としない気持ちが先に立ってしまう。

 つまりはゲームのシステム的な扱いだ、それを有効利用すれば良いとの事なのだが。不利な点としては、どうやら央佳が『土竜の尻尾』などのワープアイテムを使うと、パーティ員でない姉妹も一緒に飛んでついて行ってしまうらしい。

 他にも色々と、細かい注意点があるかもとルカ。


 取り敢えずメイとネネに訊いてみるが、留守番よりはずっと良いとあっさり了承の返事。それならそのフォーメーションに否は無い、祥果さんにも特に不服は無い様子。

 奇妙な2人組、黒助と喜一は元より央佳の“ワンマンアーミー”振りを頼って来ている訳で。その事については、むしろ歓迎の素振り。そして問題の、彼らの火力だが。

 外れ者になる程の奇異な能力は、恐らくは並以上の筈。


 取り敢えずそんな体でパーティを組んでから、今度は2人から話を聞く事に。丁寧な喋りの喜一は、大鎌使いのアタッカーで。破壊力はずば抜けているのだが、呪われ武具のせいで常時毒状態であるらしい。

 こうして話している最中でさえ、街中でうっかり衰弱死もありえる困ったちゃん。しかも武器の方の呪いはもっと酷い、スキルを使用し過ぎると亡霊に身体を乗っ取られてしまうとか。

 そうなると、敵も味方も関係なく無差別殺戮マシーンになるっぽい。


「通常攻撃も、自分にダメージ返って来る事があるし、攻撃力が高いだけに酷い武器です。……殺戮モードになる可能性は、そんなに高くないんですけれど。そうなった場合、殺されてしまっても文句は言いません。むしろ、被害の出る前にそうして頂ければ……」

「僕も2回程、餌食にされてるからねー。喜一っちゃんの殺戮モードは、かなり酷いよw」

「こっちも、足止め魔法は結構持ってるけど……時間が過ぎたら、自然と収まるモノなの?」


 殺戮モードは、最大10分で消滅するらしい。つまりは常毒状態の身なので、回復さえ味方がしなければ勝手におっ死ぬという(笑)。こんな酷いコンボ、央佳は聞いた事が無かった。

 まぁ、その程度の枷なら何とかなるだろうと央佳の予想。常に前衛にいて貰えるのなら、央佳がすぐ隣で対処する事が出来る。そんな魂胆も含めて、前衛の配置は決定。

 つまりは央佳が中央で、左右をルカと喜一で固めるフォーメーションに。


 お次は割と軽いノリの黒助だが、彼は弓使いの後衛アタッカーだった。しかもこの弓も、呪い解除の逸品らしく。解除はしている物の、割とマイナス要素はふんだんに残っていて。

 まずはステータスの面で、装備すると知力と精神力が下がってしまうのだ。しかも使用すると、ランダムに矢の消費が余計にかさむ仕様らしく。

 只でさえ金喰いジョブの弓矢使いなのに、このマイナスは酷い。


 両手武器アタッカーの中でも、弓矢使いはトップを争うダメージを叩き出す。これは弓と矢の攻撃力を足す事が出来る性質上当然と言っても良いのだが。

 あまり使う冒険者が多くないのは、それなりに理由があって。つまりは前述の通り、とにかく金が掛かり過ぎるのだ。それこそ1度の冒険に10万単位とかはザラらしい。

 矢束の過剰な消費が、その主な原因である。


 しかも後衛職なので、あまり強過ぎるダメージを与え続けると、盾役からタゲを取ってしまう恐れが。余程こなれたパーティで無いと、居場所が無いと言う。

 央佳がソロにならざるを得なかったのも、まさにこのパターンだった。しかも黒助は、異端スキルも相まってピーキー過ぎるキャラに仕上がっているのだ。

 そもそも弓矢使いは、敵に接近されると攻撃手段を失うと言うデメリットが。


 この困り者も、央佳の一言で片が付いた。つまりはメイと同じ敵を、同じタイミングで攻撃してくれとの丸投げである。了解と軽く請け負った黒助、小さな子供によろしくと挨拶。

 とにかく久し振りにパーティ活動出来るだけで、舞い上がる程に嬉しいらしい。央佳に言わせると、本末転倒だと思うのだけど。強くなり過ぎて弾かれるなど、まるでコミック界の正義の味方だ。

 その境遇に、自ずから飛び込んで酔い痴れている感じも見受けられるけど。


 実際、2人共に異端ジョブと呪いの装備のせいで、ギルドを放逐されると言う目に遭っているらしい。元々大きなギルドでは無かったそうなのだが、それ故の暴走だったとも言える。

 何かを為そうとすれば、大きな力が必要である。それが集団の力ならば、ここは繋がりを意識して拡がって行けばよい。それが無理な状況なら、個々で強くなるしか無い訳で。

 だからと言って、禁断の力に頼るのは考えモノ。


「……だそうだ、先人の忠告は為になるなぁ。いいか、お前たちも安易に力に頼って楽をしようとするんじゃないぞ? 後になって、余計な苦労を背負う事になるぞ」

「「「「は~~い!!」」」」

「……耳が痛いです」


 素直な子供達の返事に混じって、駄目な大人のため息が2つ。変なお手本にされてしまって、かなり凹んでいる様子。そうは言っても、味方の足を引っ張る程の力は逆に不必要だ。

 過ぎたるは及ばざるが如し、それを地で行く2人である。


 とにかく曲がりなりにもパーティの一員として招いたのだ、それなりの働きはして貰わないと。今から挑むダンジョンは、それほど難しくないと言う話だし。

 とは言え、彼ら2人での攻略は無理らしいので、それなりの仕掛けは存在するのだろう。時間内にクリア出来れば、お目当ての報酬は100%ドロップするらしい。

 それは何より、何度も通わなくても済む。


 さて、ダンジョンの中だが午前中より確実に騒がしい道中に。出て来る敵もキノコばかりで、何ともファンキーで気が緩んでしまう。せっかく出陣前に央佳が皆の気を引き締めたのに、八割がた無駄になってしまった。

 それでも順調なのは、やはり圧倒的な火力のお蔭だろうか。大きな被害も無く、一行はダンジョンを奥へと進んで行く。祥果さんの回復魔法は、もっぱら毒状態の喜一ばかりへ。

 それを定期的に貰う呪われ土竜、申し訳ないと礼を述べる姿は哀愁に満ちている。


 この呪い、どうやら他のオート回復スキルや特殊防具での打消しは不可能らしい。何とも強烈だが、それだけ恩恵も大きいと言う事か。体力自慢の土種族だからこそ、取れた手段とも言えるけれど。

 お世辞にも、頼れる壁役とは言い難い。何しろ土種族は、体力自慢の代わりに魔法防御はからっきしなのだ。お蔭でキノコの特殊技、胞子飛ばしでは毎回悲惨な目に。

 回復役の祥果さんは、お陰で大忙しである。


 後衛の黒助は、それに比べて随分マシである。メイの号令で、一気呵成の攻撃を敵に浴びせると。大抵の敵は、一撃で倒れて前衛の負担は大幅に軽減されてしまう。

 もっとも、黒助のお財布には全然優しくは無いのかもだけど。ソロでしこたま稼いでいるのだろうが、なるべく矢束は温存して起きたそうな気配。

 それでも敵の殲滅には、大いに役立ってくれている。


「弓矢っていいなぁ……パパ、私のメインの武器に弓矢って、どう思う?」

「悪くは無いな、魔法だけだとMPが枯渇すると、攻撃手段が無くなっちゃうしなぁ」

「だよねぇ……私はSPを消費する技って使った事無いし、何か勿体無い」


 確かにそうだ、メイが魔法以外で攻撃する姿は、ちょっと違和感を感じるけれど。央佳の元へ来た時から、次女は魔法一本の後衛パワーアタッカーだった訳だ。

 メイの種族ステータス的には、筋力や器用度の数値は高くないけれど。それはそれ、高過ぎると今度はまたまた『後衛がタゲを取ってしまうジレンマ』に陥ってしまう。

 パーティ間のバランスを取ると言うのは、本当に難しい。


 まぁ、今どんなに悩んだところで、現時点でメイのカスタムは不可能な訳だし。神様に“加護”を返してからの事だ、今のメイの信頼度の数値は200以上あるとは言え。

 どうやらこの娘、巧みにその数値をコントロールしてるっぽい。わざと甘えないよう、そう言うイベントが起きない様にと。姉妹で急速に弱体化してしまうと、央佳が困ると判断しての行動らしいのだが。

 さすがに姉妹で、一番頭の切れる子ではある。


 どちらにしろ、次に“加護”を返すのは順番からしてネネの筈。この子は甘えん坊なので、とても数値は上がり易いのだが。ちょっと放置しただけで、ガクッと下がる恐ろしさ。

 攻略の難しい子ではあるのだろう、ピーキーなのは戦闘性能だけでは無く性格もそうらしい。最近は大人しく言う事を聞いてくれるし、戦闘にも竜化無しで参加してくれるし。

 随分と接しやすい子になっていると、偽らざる本音でそう思う央佳。


 それはともかく、ダンジョン攻略に話を戻すと。出て来るキノコは3種に分類されて、小さい塊で出現するタイプと大きなタイプ、それから細くて傘の立派な人型タイプが存在して。

 どれも胞子飛ばしのステータス異常にする特殊技が、とてもウザくて大変だ。こちらの回復役は祥果さんしかいないので、持って来た薬品がどんどん減って行く始末。

 ルカの出していたペットに至っては、あっという間に送還される破目に。


「……前のダンジョンより楽かなって思ってたけど、意外と大変ですね、お父さん」

「そうだな、人が増えても楽になるとは限らないのが、バーティの奥深さだよな。……祥ちゃん、MP大丈夫?」

「少しヒーリングさせて、央ちゃん。回復役って、結構大変だねぇ?」


 メイかアンリに、回復スキルがあれば良いのだが。央佳も土と風系の魔法で回復魔法は持っているし、ステータス異常を治す魔法も風系で1つ持っている。

 二刀流で前衛支援の立ち位置だと、割と回復も視野に入れて動く事もあるけれど。それだとルカがいまいち不安で、今の所その立ち位置は考慮に入れていない。

 つまりは回復役は、祥果さんに頑張って貰う他無い訳で。


「戦闘終わった後の回復は、俺の方でするから、祥ちゃん。分担して少し負担を減らそう、薬品には限りがあるからね」

「私が常時、天使化しておくって手もあるけど……MPが持たないよねぇ」


 メイのその案はナイスだが、奥の手にさせて貰う事に。例えば中ボスや大ボスとの戦闘とか、案の定にそいつらもキノコ系のモンスターだった訳だ。

 中層からは、多少意趣替えが混じって敵もバラエティに富んでいたけれど。ただし、動物や人間の死体にキノコが生えたモンスターは、モロに食欲が減退してしまう。

 そしてこいつ等も、病疫をばら撒いたり呪いを掛けて来たりで忙しい。


 驚いた事に、喜一は呪いの耐性が異常に高いようだった。呪い装備のせいなのかも、呪いは重複しない設定とか良く分からないが。前衛が呪われると、パーティ瓦解の危機に陥る事が侭あるので。

 そう言う点では、部分的には頼れる存在なのかも。


 景色も上層から凝って来て、キノコの敷き詰められた通路から、椎茸の生えたほだ木の列のトンネルまで。色々と凝った趣向は良いが、こっちの身からもキノコが生えて来そうな錯覚に。

 新鮮な空気が吸いたいねと、ルカもそんな妄想に捉われている様子。少しおかしく感じたが、自分の心情も似たようなモノ。さっさと攻略しようと、一行はズンズン奥へと進む。

 そして順調に、最終ボスの間へ。


 大ボスももちろんキノコ、キノコ傘も立派な流浪人風のお侍さんが3人お出迎え。前衛がそれぞれ受け持って、盾を所有していない喜一の前の敵から屠る作戦に。

 敵も両手持ち、日本刀の切れ味はすこぶる良さ気である。喜一の体力の減り方も、ちょっと並ではないと心配する程。盾持ちの央佳とルカでさえ、ブロックしそこなうと甚大な被害が。

 このパーティ、短期総攻撃型なので受けに回ると脆い一面も。


 それでも持ち前の攻撃力で、早々と1匹目を撃破すると。攻撃は最大の防御の言葉通り、被弾が大きくなる前に連続で敵を仕留めるに至って。

 ボスの日本刀での特殊技には、盾持ちの2人と言えども苦労はしたものの。甚大な被害を出す前に、何とかボス戦を終焉に持ち込む事に成功したパーティ。

 大喜びのエンディングに、お宝とご対面の運びへ。


「ちゃんと宝箱に入ってたな、キノコ鍋セット。良かった良かった、これで約束は果たせたよ」

「ああっ、本当にありがとう……これは僕らで貰うから、他のドロップはそっちで貰って頂戴なっ! ……それからモノは相談なんだけど、この鍋セットを一緒に……」

「いや、それはちょっと……うん、しばらく考えさせて!」


 こう言う断わり文句は、ジメジメ暗くしたら負けである。取り敢えず保留を匂わせつつ、そこまで信用した訳じゃないよと向こうに暗に知らしめる。

 央佳一人だったら、まぁ別に変な連中と信頼関係を結ぶのにそこまで躊躇いは無かっただろう。ただし今は、妻も子供もいる身である。危ない橋をひょいひょい渡るには、身が重過ぎだ。

 あからさまにガッカリする2人連れだが、こればかりは仕方が無い。


 連絡は取るし、次のミッション合同作戦も前向きに考えるからと、情け心半分にそう伝えると。少しだけホッとした顔で、今後とも是非よろしくと帰って来た。

 とにかく攻略成功したダンジョンを出て、昨日はそれでお開きとなったのだが。その後彼らと関係を築くかどうかは、何と言うか縁次第かなと思わないでも無し。

 ……などと、昨日別れた時点では思っていたのだが。




 いきなり街中で出会ってしまった、まぁこちらが目立っていたのもあるけれど。子供達は次の獲物を目指して、どんどん先を進んで行っている。順番がどうのと、言い争いながら。

 仲裁役は祥果さんに任せて、央佳はさり気無く彼女達と距離を置いて。こちらは今から、ワープ拠点を通すつもりだと、ついて来る2人組に今日の計画の披露。てっきり手伝うよと、軽い了承が返って来るかと思ったら。

 黒助が急に難しい顔をして、今は時期が悪いと言い出した。


「……いやね、さっき上空を飛竜が飛んでるのを見掛けたんだ。あのどぎつい紫色は、間違いなく『危刃変迅』の“悪鬼”のチャドだよ。武闘派ギルドの一角だね、ああやって奴らは存在を誇示して対戦相手を募るのさ」

「私達も、何度か手合せした事あるけど……勝率はせいぜい、3割ちょっとですかねぇ? 武闘派を名乗るだけあって、弱者には滅多に手は出しませんけど……桜花さんのお子さん達は、果たして弱者と言えるかどうか」


 確かにそうだ、連中にしてみれば美味しそうな獲物にしか見えないだろう。その子供達は、現在2体目に湧かせたミイラ男と対峙している。ワーキャー言いながら、何故か包帯に巻かれているのはネネだったり。

 本人はそれを遊びと認識しているのか、そのままの姿でちょろちょろ動き回っている。祥果さんが慌てながら、幼女の後を追い掛けているけれど。

 どうみても、緊迫した状況には見えないと言う。


 黒助の話によると、闇ギルドは大きく分けると2つの派閥に分類されるらしい。つまりは多少の諍いを気に掛けず、己の強さのみを追求する『武闘派』と。

 それから本当に犯罪者となって行き場を追われ、徒党を組んで半ば快楽的に弱者をいたぶる『犯罪者』とに。この2者は、闇ギルド同士でも仲が悪いらしい。

 そして両者で、彼らの街“不夜城”の覇権を争っているとか。


「やけに詳しいな、どっからそう言う情報を仕入れて来るんだ?」

「う~~ん、実を言うと何度か『武闘派』の連中からはスカウト受けていてさ。連中は常に迎合者と、それから挑戦者を探しているのさ。僕らは以前から、目を付けられていたからね」

「最近はもっぱら、挑戦者として扱われてますけどね。何か変なルールの対戦ゲームの、相手を探しているらしくって。新大陸か、尽藻エリアに行けばいいのに……」


 なるほど、そう言う裏が存在する訳だ。確かに連中からしてみれば、強い挑戦者を募るのは、どこの街でも構わないのだろう。最近は初心者には護衛付きが主流だし、中級者の新大陸では逆に探し難くなってしまうのかも。

 尽藻エリアはその点、強者には困らないだろう。だが連中も、クエやミッションに頻繁に訪れる地でもある訳だし、そこで倒されて出禁になるのはかなり嫌なのかも。

 そうすると、消去法で初期大陸が一番お手軽と言う論法が。


 そんな理論を導き出せても、何の解決にもなりはしない。仕方なく、央佳はギルドのメンバーや知り合いに、護衛の依頼をばら撒きに掛かる。

 素直に正直に、何か裏通りに大物が居ついて獲物を探しているらしいと打ち明けると。話した相手が不味かったのか、央佳の正直さが変に招き寄せたのか。

 トラブルメーカー2名が、早急に参戦を申し出て。


「……知り合いが約2名、厄介者を退治しに来てくれるってさ。他にも護衛役してくれる人も、何人か向かって来てくれてる……」

「……知り合いが大勢いて、本当に羨ましい事で」

「……それで僕らは、護衛と迎撃どっちに協力するべきなのかなぁ?」


 最初の喜一の呟きは敢えて無視して、央佳は黒助の質問にもちろん厄介な方だと答えを返す。自分こそ、トラブルから逃げ出したいと心底思いながら。

しかしそれは、多分無駄な願いに終わるだろう。


 朱連とアルカが、口々に任せておけと胸を叩いて勇んでやって来るのだ。それはもう厄災以外の何物でもない、トラブルは必ず起こるモノだと央佳は観念して。





 ――せめてそれが、小さい程度で済みますようにと天に願うのだった。
















評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ