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竜と聖魔とバツ2亭主  作者: 鳥井雫
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新しい家族、いえいえペットですよ!?



 王都でする事は結構あるから、時間が掛かるかなぁと思っていたのだが。昨日ワープ拠点を通してしまうと、意外ともう大丈夫じゃんって気もして来るから不思議。

 思わぬ所で請け負った、子供達の冒険者登録クエも滞りなく終了し。これでルカとアンリは、無事に後付けジョブ『戦闘体系派生システム』を習得する事が可能になって。

 明けて次の日、家族揃ってウキウキ気分で受付け前で雑談に興じる。


「さてと……ルカは召喚スキルが欲しかったんだっけ? アンリは何を取るか、もう決めたかい? ってか、2人はハンターポイント幾ら溜まってるんだっけ?」

「えぇと、私は81ポイントあります……アンリはもっと多く持ってる筈」

「……218ポイントあるよ、祥ちゃんは?」

「えっ、どこを見ればいいの?」


 央佳とアンリに教わって、何とかその数値を見つける事に成功する祥果さん。分かってはいたが、祥果さんの持っているポイントは著しく低かった。

 そもそもこの初期大陸では、ハンターPは多く取得出来ない仕様なのだ。つまりは、子供達との獣人拠点の殲滅とPK返り討ち、それから家族での塔アタックで得たポイントのみ。

 それでようやく、26ポイントを稼いでいた模様。


 相談した結果、祥果さんは今回後付けジョブの取得を見送る事に。確かに1つ2つ増えた所であまり意味は無いし、今でさえ魔法の多さに混乱の体なのだ。

 これ以上スキルや魔法を増やしても、意味は無いどころか圧迫にしかならない訳で。もう少しポイントが溜まるまで、放っておいても特に害は無い。

 傍観者に廻った祥果さん、お気楽に子供達のスキル取得を見守る事に。


 一番手に名乗り出たのは、そんな訳で長女のルカだった。央佳のアドバイスを受けて、取り敢えず4つほど念願の召喚スキルに振り込む事に。

 それで良いモノが出なければ、更に残りを注ぎ込めば良い。逆にこれ以上欲しいスキルが無いなと感じたら、セカンドジョブを取得するのを考慮に入れる感じだろうか。

 まぁ、実は央佳も召喚スキルの並びは良く知らないのだが。


 そんな小さな不安は、案の定と言うか的中したみたい。ルカが気合を入れて引いた召喚スキルは《指令》《召喚時間短縮》《パーツ付与:躰》《送還》の4つだった。

 どれを取っても、その並びが良いのか悪いのかさっぱり判然としない。ギルメンに相談しようにも、何と1人も召喚ジョブを取っている者がいないと言う有り様で。

 メイが機転を利かせて、受付けのお姉さんに質問してようやく判明。


「ルカ姉、召喚スキルを選択した時点でペットの種類と召喚の術は自動で覚えるんだってさ。ポイントで得たスキルは、ほとんどがペットに対して有効なスキルなんだって!」

「なるほど、そうなってるのか……父ちゃんの知識では、ペットは最初弱くて育てる必要があるって事くらいかなぁ。戦闘には自動参加してくれるけど、スキルが無いと言う事聞いてくれないらしいぞ、ルカ?」

「そうなんですか……大丈夫、お父さんとの約束通りに、ちゃんと面倒見て育てます!」


 こんな清々しい笑顔で言い切られてしまったら、頑張れと励ます他無く。どんなペットを貰ったのと興味津々の祥果さんの言葉に、エイッとばかりに初の召喚作業。

 呼ばれて出て来たのは、何とも不思議な球体の毛むくじゃら物体。宙にふよふよと浮いていて、ネネでも抱けるくらいの大きさだ。色はピンクで、一応顔らしきものも付いている。

 そしてデフォルメされた手足と、蝙蝠のような皮膜の羽。


 ネネがいち早く反応して、その物体の正面に縫いぐるみを突き出して挨拶。物体からの反応は皆無、姉妹からのリアクションも同じく。祥果さんのみ、可愛いねぇと賛同の得られない呟きを漏らす。

 マリモみたいだねぇと、央佳は微妙に逃げ腰な応答。受付嬢の話では、自動取得で取り直しは効かなかった筈。変に子供達に悪印象を植え付けたら、この先ずっとルカが不幸に。

 ところが当のルカは、嬉しそうにその物体を抱き寄せる。


「この子の名前、マリモにします! 毛がフカフカで可愛いっ……!」

「姉ちゃ、ネネも抱っこする……!」


 どうやら龍人のツボは、他の種族とは違うようだ。それともこの2人が特殊なのかも、アンリはいつもの無表情だが、メイは思い切り相容れないと言う顔付きをしている。

 召喚スキルでのペット呼び出しは、どうやら最初に大量のMPを消費するようだ。その代わり、敵に倒されるまでコスト無しで維持が可能らしく。

 そして倒されたら、再召喚まで4時間待たないと駄目っぽい。


 先程ルカが引いた《召喚時間短縮》は、それを半分の2時間に短縮してくれるスキルらしいのだが。スロットを塞いでまで付けるかどうかは微妙、最初の内はアリかもだが。

 《指令》は絶対に必要だろう、ペットに指示を出すスキルなのだから。《送還》は必要ないかも、これは単純に、邪魔な時や死にそうになったら送り返す呪文である。

 《パーツ付与:躰》は少し珍しい、マリモに変てこな鎧が装備された。


「…………良かったな、ルカ。じゃあ次は支援スキルを取ろうか?」

「はいっ、お父さん」


 これは前もって話し合っていた事柄で、ルカの親孝行な発案から来ていた。つまりは馬車の御者を央佳だけに押し付けておくのは忍びない、何とかならないかと。

 ギルメンに尋ねてみたら、生活スキルにしろ乗馬スキルにしろ、とにかく支援スキルからよく出るとの話を聞いて。それならセカンドにと、そうルカが言ってくれたのだ。

 何とも良く出来た娘を持って、央佳の心情は感無量。


 上手い具合に求めたスキルの取得とは、残念ながら行かなかったけれど。結局ルカが得た支援スキルは《頑強》《オート回復》《移動力UP》の3つ。

 それぞれ使い勝手は良い補正スキルなので、それはそれで有り難い。綺麗にポイントを使い切って、これにてルカの今回の成長はお終い。

 代わって、三女のアンリが受付けへと進み出る。


「ネネの番はいつ? 父っちゃ、ネネのは……?」

「うん、ネネはまだちょっと早いなー。抱っこしてあげるから、おいで?」


 それであっさり、執着を失う四女。でも恐らく、信頼度の数値から行くと次はネネの番には違いない。《限定竜化》以外は戦闘力を持たない、ネネの弱体化を考えると恐ろしいけど。

 その時はもう、そこまで近付いているのは抗いようのない事実。しっかり家族でサポートする環境を、今の内から培っておかないと。自分一人ではまず無理だ、それは分かり切っている。

 助け合いこそ、家族の本分だと央佳は信じて。


 アンリの選択は、さっきだいたい一緒に考えていた。変わり種の異端と盗賊ジョブを、本人は希望していて。パーティで不足を補う取り方は、まぁ間違ってはいない。

 一点突破のピーキーな強さと言うのは、確かに存在するし否定はしないけど。全員が同じミスを犯して、全滅するなど馬鹿げているうえ美しくない。

 それならば、リスクと手法の分散は立派な戦法だと央佳は思う。


 PKの魔の手からの返り討ちのお蔭か、大量のハンターPを所有していたアンリ。お蔭で大量のスキルをゲット、代表的なのは異端では《影渡り》《ダメージ吸収》《ヒートアップ》、盗賊では《鍵開け》《スティールマインド》などだろうか。

 結構なレアが混ざっているのは、引きも良かったが一気な大量取得のお蔭もあるだろう。やはり異端は変わったスキルが多い、央佳も少し欲しくなってしまった。

 そう言えば、ギルメンの夜多架も異端スキルの使い手だったっけ。


「今、ギルメンに聞いてみたけど……《影渡り》はやっぱりレアらしいぞ? 持ってる人、滅多に見た事無いってさ。《ダメージ吸収》も、かなりレアで使い勝手良いらしいぞ、アンリ」

「……じゃあセットしてみるね、お父様」


 姉妹の中では、特別風変わりな戦闘スタイルのアンリなのだが、それに更に磨きが掛かった感じだろうか。文字通りに《影渡り》は、影を伝って短距離を移動出来る特殊技らしく。

 《ダメージ吸収》に至っては、ほんの短い間に限るが、相手の攻撃を吸収・反射してしまう超絶スキルらしい。ステータスの弱体化を補って余り得る力を、アンリは手中にしたっぽい。

 これもひょっとしたら、神様の甘やかしのせい?


 央佳も良く知らなかった、異端ジョブの他のスキルの並びは《SP量up》《影踏み》《理裂き》《ヒートアップ》などなど。《影踏み》は敵を移動不可にするスキル、《理裂き》は相手の強化を打ち消すスキル、逆に《ヒートアップ》は自身の強化らしい。

 それだけ見ても、なかなか使える並びだ。他の属性魔法を伸ばしていないアンリにとっては、汎用性を入手する良い機会だったように思う。

 しかもアンリは、まだまだスキルPの振り分けは保留しているのだ。


 つまりは買ったばかりの両手槍に、幾らでもポイントを振り込む事が可能な訳で。何だか天井知らずに成長して行きそうな雰囲気、我が子ながら恐ろしい程強さを秘めた子だ。

 ついでに盗賊ジョブの並びだが、こちらは《ギル収入UP》《スティールマインド》《落下ダメージ減》《敵対心贈与》などなど。生活スキルが幾つか入っているが、それはそれで良い事だ。何しろアンリやルカは、レベルがまだまだ低いせいか、スキルスロットが多くないのだ。

 つまりは、幾らレアスキルが増えてもセット出来ない悲劇が待っていると言う。


 盗賊スキルはダンジョンや生活面で活躍出来るものが多いと聞くが、確かにそんな感じだった。落下ダメージを低くしたり、足が速くなったり、敵のドロップを微妙に良くしたり。

 ダンジョンでは鍵を開けたり気配を消したり、罠を感知したり軽業で段差を駆け上がったり。パーティに1人いれば、本当に便利なジョブには違いない。

 さっきも言ったが、アンリにそれ程のスロットの空きは望めないが。


 戦闘系で面白いのは、《スティールマインド》と《敵対心贈与》だろうか。《スティールマインド》は、敵からHPやSPを盗み取るスキルらしい。

 《敵対心贈与》は面白いスキルで、自分の稼いだ敵対心を、何と盾役に擦り付けるスキルみたいだ。アタッカーには是非欲しいスキルだが、果たしてアンリはそこまで削り専用のアタッカーに成り得るのだろうか?

 その将来が、楽しみなような不安なような……。




 ルカもアンリも、一応その場で使うスキルをセットし終わったらしい。とは言え、召喚ペットは最初の間、弱くて足手纏いにしかならない筈だが。

試しに外に出て、戦闘してみたいとのルカの願いに。それじゃあギルメンに連絡入れるかと、念の為の護衛の要請テルを飛ばす央佳。何しろ、ここは人の雑多な王都である。

どんな連中の監視の目が光っているか、分かったモノでは無い。


 それは昨日の、フィールド作業中も思った事。さすが雑多なレベルの冒険者が徘徊する王都、近付く者が高レベルだと、ついつい敵意を持っているのではと被害妄想を抱いてしまう。

 こちらにはアンリがいるので、不用意に接近する者に対してはアドバンテージがあるものの。敵意の程度までは察知が出来ず、一々身構えるのも疲れてしまう。

 そんな訳で、今回も何人かが護衛に来てくれる事に。


 受付けを離れようとしたら、パパは交換しないのかとメイの素朴な質問。そう言われてみれば、実はハンターPは結構溜まっていたりする央佳だったり。

 彼の勝手な約束事として、何か良い事があった日などに、運試し的に交換に踏み切る時があるのだが。せっかくここまで出向いているのだから、交換も悪くないかも。

 最近は、子供にかまけて自分の成長は棚上げばかりだったし。


「よぅし……父ちゃん、交換しちゃうぞ!!」

「頑張って、央ちゃん!」


 祥果さんと、それから子供達から一斉に掛かる励ましの声。何を頑張るかは不明だが、つまりは良いスキルを引くためのくじ引き前の念入れみたいなモノである。

 長い事ネットゲームをやっている央佳だが、家族からこんな声援を受けるのは初めてだ。感動しつつ、気合を入れて変幻と支援ジョブを1つずつポイント交換。

 支援は普通の生活スキルだったが、変幻スキルの方は聞き慣れない名前だった。《変幻精霊召喚》と言うのは、名前から察するに召喚スキルなのだろうけど。

 央佳は種族魔法スキル以外の召喚系のスキルなど、聞いた事が無かった。


 ひょっとしたらレアスキルなのかも知れない、後でギルメンに聞いてみるとして。今出来る事と言えは、試しに召喚してその機能を自分の目で確かめる事。

 そんな訳で、スキルをセットしてのお試し召喚に踏み切る央佳。ポンッと出て来たのは、キツネによく似た小さな精霊生物。何と言うか……戦闘力は無さそうだ。

 外れ感が漂う中、ネネが嬉しそうにその子を捕獲して抱っこする。


 種族魔法スキルでの召喚は、確か風種族なら《風の精霊召喚》みたいな感じで、出て来るのはオーブのような無形の精霊の筈だ。それに形や戦闘力を与えるためには、精霊石なるアイテムをトレードするのが通常なのだが。

 最初から形を持っている変幻の精霊にも、そのルールは通用するのだろうか? 子供達の受けは良いようだが、戦闘力が無いスキルなら即封印となってしまうかも。

 召喚中のMPのスリップも気になるし、用途が不明なのは超不安。


「パパ、その子も最初は弱いから育てないとダメなんだって。でも経験値じゃあ成長しないから、色々と試してみて下さいだって」

「なんだそりゃ、随分と曖昧な……精霊石は必要ないのかな?」

「ん~~、ルカ姉は持ってない……?」


 メイに尋ねられたルカは鞄を漁るが、どうやら持っていない様子。央佳も鞄の整理は手伝うが、子供達の鞄の中身や所持金をじっくりと見た事は無い。そこは親子とは言えプライベート、勝手に覗かない様に気を付けているのだが。

 まさかそんなアイテムまで持っている可能性は、全く吟味などしていなかった央佳。驚かされたのはアンリの一言、鞄に入ってたと取り出した大人の拳大の石は、まさに精霊石。

 『飛龍の精霊石』と言う名前で、鍾乳石のような見た目である。


 飼い主の央佳のお構いなしに、勝手に子供達の手でトレードは実行される。変幻の精霊はそれを飲み込んだが、すぐに吐き出してしまった。流れる沈黙、訳が分からない。

 それを破ったのは、何とルカの持っていた獅子の盾。


『その狐の精霊は、石より珠を食べて成長するのさ。我が主のペットとは違って、かなりの偏食家ではあるな。ただし、一気に強く出来る分、戦力という点では優れているのかな?』

「珠って……ああっ、宝珠の事かな?」

「ええっ、そんな高価なモノを……待て待て、その育成は正しいのか?」


 央佳の小声での葛藤は、どうやら子供達には届かなかった様子。メイが祥果さんに何やらねだったと思ったら、簡単に陥落された祥果さん、次女に2個の宝珠を手渡してしまう。

 どうやら預けていた、水と氷の宝珠らしい。それをあっという間に平らげる変幻のキツネ、何とも贅沢な食餌ではある。その額200万以上、ペットに掛ける額では無い気が。

 この価値観は、果たして正しいのだろうか……?


 獅子の盾の話では、これでレベルが20上がったらしい。そんな事まで分かるこの盾、少々口煩いがなかなかの知識者らしい。良いモノを手に入れたかも、ペットは別にして。

 それでもこの召喚魔法を、続けて使うかは微妙かも。今もMPが徐々に減って行っているし、魔法を頻繁に使う戦法の自分には、コイツの召喚維持は辛い気が。

 そんな言い訳を考えていた央佳の視界に、なおもキツネに餌を上げる長女の姿が。


 どうやら宝珠を隠し持っていたらしい、素直で実直なルカらしくない行動だが。その宝珠の正体を悟った央佳、思わず大声を上げてしまう。

 その時には既に、竜の宝珠はキツネの精霊の咢の中。慌てて駆け寄るが、一足遅く宝珠は露と消えてしまった。驚いた表情の子供達、特にルカは叱られたと思った様で。

 硬直したまま、半泣きの表情に。


「あぁ、ゴメンよルカ……怒った訳じゃないんだ、ちょっとビックリしちゃってね。……今の宝珠は、どこで手に入れたんだい?」

「……あの、龍人の神様が内緒で下さって……それを思い出して、お父さんのペットにあげようと思って……」

「ルカちゃん、お父さんは本当に怒ってないからね? ……央ちゃんが怒ったの、いつまで遡ったら思い出せるのか分からないくらい、本当に怒らない人だから」


 自分でもそれはよく覚えていないが、ルカには本当に悪い事をした。とは言え、本当に心臓が飛び出す程に央佳が驚いたのも事実。何しろ竜の宝珠、欲しい者は1千万出しても欲しがるアイテムなのは間違いなく。

 それが呆気なくペットに消費された衝撃は、まぁ推して知るべき。だからと言って、長女を叱りつける程の事態では無い。ルカはただ、その価値を良く知らなかっただけだ。

 そして本心から、父親の為になると信じての行動なのだから。


 仲直りの印に、優しく長女を抱き寄せながら。さて、フィールドでお試し戦闘を始めるぞと、央佳は威勢よく言い放つ。獅子の盾が場の雰囲気を全く読まず、狐の精霊はレベル30に達したと報告して来た。

 央佳がルカの肩を抱いて歩き出したのに続き、祥果さんがアンリの手を引いてそれに従う。ネネがキツネの精霊を両手で抱きかかえて、それに続いてよたよたと歩き始める。

 一番後ろを、幼い妹を見守るようにメイが続き。


 NM塔でのパーティ練習は、無駄では無かった様子で一安心の央佳。何度か振り返って、たまに祥果さんと目があったりすると。

 その瞳が、家族の舵取りしっかりねと言ってるようで、気の引き締まる思い。まぁ良い、いつかルカがその荷物の半分でも引き継いでくれるだろう。

 ――そう信じて、央佳は長女を抱く腕にギュッと力を込めて。





 祥果さんを含めた子供達は、しばらく輪になって話し合っていた。央佳と護衛役のギルメンは、大きな岩の上に腰掛けて周囲に睨みを利かせている。幸い、この荒野に人影はそれ程多くは無い。

 やがて子供達は、2つのグループに分かれて狩りを始めた。ルカとアンリのペアは、少し先の道端で一緒に狩りを始めている。ルカは主に、盾の使い方を練習している様子。

 逆にアンリは、新スキルを使って縦横無尽に駆け回っている。


 アンリの成長は目覚ましく、ほとんど別キャラと言っても過言では無い変わり様。新しく得た両手槍のスキルと、異端と盗賊ジョブをふんだんに使用して。

 遠くからチャージ技で距離を詰めたと思ったら、《影渡り》を使って戦線離脱。攻撃で敵対心を取り過ぎると、《敵対心贈与》でルカのお尻をペタッと触ってヘイトを擦り付ける。

 その行動に、姉のルカは少々不満そうで。


「……ねぇ、アンリ。そのスキルは、触るのお尻じゃないとダメなの……?」

「……だって、触り易そうなお尻だから。それよりルカ姉のペット、ちゃんと育ってるの……?」

『育っているよ、お嬢さん。ここの敵はレベルが高いから、成長も早いね。ただし、召喚ペットの本当の成長は、ハンターポイントの注ぎ込みの方が重要なのさ』


 本当に博識な盾である、少し感心した様子のルカとアンリ。戦闘を続けながら、熟練度上げに専念する。ペットは先程から攻撃らしきことをしているが、ダメージは物凄くしょぼい感じ。

 ルカの両手剣には、たったの20Pしかスキルを注ぎ込んでいない。盾と竜スキルを優先した結果だが、今後の課題は両手剣スキルを伸ばす事だろう。

 その頃には、ペットのマリモも多少は強くなっている筈。


 一方のアンリは、両手槍スキルに結構大量のスキルPを、つい先日振り込んでいた。大量の両手槍スキルを得たが、今日もたくさん新しい後付けジョブスキルを取得した結果。

 スロットオーバーで、ほとんどの両手槍スキルは封印と言う残念な事に。致し方ないと割り切って、アンリは新しいスキルを中心にセットしていた。

 この後使い勝手を検証して、セットの微調整をする予定。


 それにしても、神様は加減してくれたとは言え、ステータスの減少は本当に痛かった。それに伴ってSPやMPも低くなってしまい、戦闘能力は大幅ダウンと言う有り様だ。

 祥果さんのガード役を自負していた三女だが、これでは任務を遂行出来ない。取得したスキルを使いこなして、更には両手槍のダメージももっと増やして。

 ――早く強くならなくちゃと、新たに誓うアンリであった。



 一方の祥果さんとメイのチームは、一風変わった狩りをしていた。これは祥果さんの持っている幻魔法スキルの《震振打針》に、鈍足付与効果がある事が分かったためで。

 それなら魔法だけで、ソロで倒す方法を覚えようよとメイの言葉に。戦闘においては色々と学ぶ立場の祥果さん、素直に子供に師事する事にした様子。

 これもひとえに、戦闘中に子供達の足手纏いにならない様にとの思いから。


 やり方は至って簡単、まずは遠くにいる敵に《震振打針》を撃ち込んで鈍足状態に。怒った敵は接敵しようと、こちらに向かって来るのだが。

 動きがスロー状態なため、幾分時間が掛かるので。その間に、攻撃魔法をズンズン撃ち込むのだ。それで時間内に倒せれば良し、駄目なら眠らせるなり何なりして仕切り直しだ。

 割とありふれた方法なので、後衛職は良く取る方法だ。


 祥果さんも覚えておいて損は無い訳だが、いかんせん彼女の持つ魔法には少々偏りがあって。幻魔法自体は優秀な揃いが多いのだが、攻撃魔法は《幻突》くらいだ。後は風魔法の《ウィンドカッター》で、リキャスト到来時間より敵の到着の方が早い結果に。

 こうなると、もう《虚仮嚇し》で追い返すくらいしか手が無いのだが。他にもたくさん獲物のいるフィールド、追い返すにも忍びないと言う事で。

 護衛として祥果さんの前に立ちはだかるネネが、ワンパンチでやっつける。


 実は竜形態でなくても強い四女、武器を持っていないと言うのに、でたらめなパワーを秘めている。そのステータスは、ルカの廉価版と言った感じでモロに前衛タイプ。

 普段は怖がりなネネだが、ゆったりとした動きの敵には威圧感を感じないのだろう。大威張りな態度で、自分の手柄を褒めて欲しくて仕方が無い様子。

 それを胡乱気に眺めるメイと、手放しで賞賛する祥果さん。


 とにかくこんな手順で、祥果さんメインでの狩りは続く。自分の持つ魔法スキルの特性やリキャスト時間を、一つずつ吟味するように。

 まったりとした雰囲気のまま、狩りは続く――



 今日の護衛は、ギルドからは夜多架だけだったのだが。何故かこの間フレ登録したアルカとエストが、暇だからと言って駆け付けてくれて。

 央佳のミッション参加の受諾を受けて、少し話を詰めようとの事らしい。例えばいつから取り掛かるかとか、他のメンバーはどうするかとか。

 相変わらず威勢の良いアルカだが、仕切りは苦手みたい。


「確かにそうだな、桜花の言う事も一理ある……順番は大事だよなぁ、人数を集めてから取り掛かる時期を考えるのが普通だよね」

「そっちのギルドからは、応援出せないんだっけ? こっちから出そうか、暇なのたくさんいるよ……例えば、ここにいる夜多架とか?」

「いや、それはパワーバランス的に宜しくない! ってか、ウチのヘタレ軍団を誘いたくないし、だからそっちも2人にしてくれ。後の2人は、別のギルドから誘おう!」


 良く分からない理論だが、何となく根底の心理は分かる気もする。隣のエストも概ねその意見には賛成らしいのだが、残念ながら助っ人の当ては無い様子。

 夜多架も暇人と称された事には文句を述べたが、こちらのやり方にケチをつけるつもりは無いみたい。ギルマスが先日述べた契約条件、つまりは桜花を貸し出す代わりに、このパーティが得た情報をクリア後に貰うと言うモノだが。

 その施行さえきっちり守ってくれれば、問題は無いらしい。


「後の問題は……祥果さんがまだ新大陸に行けないから、そこをクリアするまで待って欲しいって事くらいかな? こっちは戦力になる子供達がいるから、レベル上げは問題ない筈」

「了解した、何なら私達もレベル上げ手伝うよ! ってか、何か元気に狩りしてるけど……アレはレベル上げとは違うの?」

「ああ、アレは子供達が後付けジョブを取得したから、その性能チェックだよ。俺も実はペット持ちになっちゃったんだけど、ずっと出しておくとMPの消費が激しいしなぁ。……誰か、何か良い方法知らない?」

「ん~~、そう言えば……ミッションPで交換する召喚ペット用のアイテムで、凄く性能の良いのがあるって聞いた事が。高ポイントかも知れないけど、覗いてみたらどうです?」


 央佳の質問に答えたのは、アルカの相方のエストだった。落ち着いた口調でそう示唆する彼女は、高価そうな完全後衛装備でビシッと身を固めている。

 祥果さんとは大違いだなと、央佳は一瞬思ってしまう。もはや所帯染みた香りの漂う央佳の奥さんは、自分の身なりより子供達に関心が偏り過ぎてしまっている気が。

 今度綺麗な服でも、プレゼントした方が良いかも。


 そんな内心の思いはともかく、央佳はエストに礼を言って今度覗いてみると口にする。央佳の感想では、猪突猛進のアルカよりエストの方が、聡明で信頼が置けそうだ。

 何気なく聞いてみた所、新種族のミッションの手掛かりを得たのは、意に反してアルカだったらしい。てっきり逆だと思っていたが、人は見掛けに寄らないモノだ。

 素直にそう口にすると、自分もそう思うと意外と辛口のエスト。


「んんっ、何か遠回しに貶されている様な気がするぞ?」

「いえいえ、逆ですよ? こんなに考え無しに動き回っている癖に良縁に恵まれるのは、貴方の素晴らしい長所です。だから私も、無条件でこの桜花さんを信頼します♪」

「なるほど、物は言いようだな……」


 エストの素晴らしい話術で、あっさりと煙に巻かれてしまうアルカ。何だかんだで良いコンビだ、まぁ自分と祥果さん、加えて子供達もそれに負けないパーティだけど。

 今後も仲良くやって行けそうだと、何となくな直感でそう感じる央佳。ギルドの面々も相当に期待をしているみたいだし、自分も援助を惜しむつもりは無い。

 まだ誰も到達していない境地へ、力を合わせて突き進むのみ。



 MPが尽きてヒーリング中の祥果さんに、ルカとアンリのコンビが合流して来た。ポタポタと飛んでついて来るメタボ蝙蝠は、ネネに熱烈に歓迎される。

 アンリのスキルチェック作業は、だいたい一区切りついた様子だ。飽きっぽい性格も手伝って、祥果さんの方が気になったようで。そっちはどんなと、甘えながらの合流作業。

 もう1つくらい攻撃魔法が欲しいよねと、メイ教官の言葉は甘くは無かったけど。


「昨日からレベル上がってる筈だから、スキルPも増えてるでしょ、祥ちゃん? 攻撃魔法の取得を願って、幻にポイント振り込んでみたら?」

「そうねぇ、じゃあ央ちゃんに相談して来るね? あっ、ルカちゃん……さっきの央ちゃんは、本当に怒ろうとして大声を上げたんじゃないからね?」

「はい、それは分かってますけど……私もちゃんと、お父さんに相談すれば良かったですね」

「そうだねぇ……私の友達が子供の時に、子犬を飼う事にした時の事なんだけどね? 子犬には幾らでも餌を上げて良いって誰かの言葉を信じて、どんどん上げてたらしいんだけど。そうしたら子犬は、食べ過ぎた分を吐き出しちゃって。後悔したって言ってたよ、ちゃんと誰かに相談すれば良かったって」


 実際は、餌の上げ過ぎに央佳は大声を上げた訳では無かったのだけど。それを聞いて大いに納得した表情の姉妹達、なるほど確かに相談は大事だとお互いに顔を見つめ合う。

 ネネが事件を起こした時も、私達は酷かったよねとメイとアンリは神妙に告白する。あの時は末の妹を、部屋に完全に独りにしてしまったのだ。つまり今の金銭的な苦境と自由の制限は、そこに起因しているとも言える。

 改めて姉妹は、ここに決意表明する。これから先、ペットとネネのお世話はちゃんと責任を持ってすると。ついでに祥果さんの戦闘指南も、完璧に一人前になるまで見捨てないと。

 珍しく一致団結した子供達と祥果さん、頑張るぞーと気勢を上げるのだった――



 これからお世話になる奥さんにも挨拶して来ると、アルカとエストは何やら盛り上がっている祥果さん達の元へと歩いて行った。面白そうと思ったのか、それに夜多架も続き。

 束の間荒野に一人残された、央佳の胸に去来するのは。やっぱり昨日新たに知った事実、リアル世界で自分は勝手に動き回っているらしい。

 だとしたら、ここにいる自分は一体何なのだ??


 職場の先輩にもそれとなく聞いてみた所、やはり向こうの世界の央佳は、普通に出勤して日常生活を送っているらしい。にわかには信じられない事実、祥果さんにはとても話せない。

 向こうの世界で何日経ったかは定かでは無いが、果たして無事に戻れる日は来るのだろうか? 不安になる事だらけだ、自分の基盤が崩れて行く感覚。

 まるで大掛かりな詐欺に遭遇して、自分の肉体から追い出された気分。


 それでも仮のこちらの肉体は、悪くないどころか随分とスペックが良い気もする。しかも可愛い子供付き、まぁ4人の世話は正直大変だけれども。

 以前水と氷の神様に尋ねた、その発言の内容も央佳はしっかり覚えていた。自分達の境遇を知っていると言うニュアンス、多少不憫に思われていたが、決して絶望する程の境遇では無いと言う感触の遣り取りを。

 ――今はその感触を手掛かりを、信じて前へと進むだけだ。

















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