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竜と聖魔とバツ2亭主  作者: 鳥井雫
12/48

忙しくなる前に、宴会



「うわ~~っ、城壁が大きいなって思ったら、中も凄く広いんだねぇ。凄いねぇ……お城はどこに建ってるの、央ちゃん?」

「お城は上層で、ちゃんと王様もいるよ。ミッションで何度か会った事あるな、確か」

「私達は何度も来た事あるよね、パパにくっ付いて。それで今からどうするの、パパ?」


 もちろん、するべき事はたくさんある。あり過ぎる程だ、ちょっと混乱する程度には。メイの質問に答えようと、央佳はしばし宙に目を遣り思考する。

 しかし、出て来た台詞は彼にも理解不能な言葉だった。


「…………宴会かな、酒が飲みたい」

「それじゃ買って来るね、パパ!」

「メイちゃん、お待ちなさい!」


 しゅたっと手を上げて、街並みに特攻掛けようとする次女を、素早く捕獲する祥果さん。央佳は実は、そんなに酒が好きでは無い。嗜む程度だ、しかも家飲みが圧倒的に多い。

 その上、ほとんど独りでは飲んだことが無い。友達とお金を掛けずに、騒ぎたい時の1アイテムに過ぎない訳だ。つまり翻訳すると、そう言う事なのだ。

 祥果さんは順を追って、子供達にそう説明する。


「えっと、つまりは……みんなで騒いで楽しみたいって事ですか、祥果さん?」

「そうだね、ルカちゃん……さっきギルドの人を呼んだって言ってたから、家族の私達は料理を作ったりおもてなしをしたり、精一杯宴会の準備をしないといけません!」


 イケナイって事は無いが、祥果さんはその手の家パーティはとことん凝るタイプ。おつまみはピザとかポテチでいいよと言う、圧倒的な男共の言葉には耳すら貸さず。

 ものの数十分で、何品もつまむモノを作ってしまう手際の良さ。しかもお金をほとんど掛けずにだ、本当に良く出来た嫁さんだと央佳は心から思う。ただし子供達まで巻き込むとなると、どうなるかちょっと心配。

 まぁいいか、目的が出来てみんな張り切ってるし。


 王都に着くちょっと前に、ギルマスに連絡を取ったのは本当で。新しいメンバーを皆に紹介する場を作るねと、ここまで祥果さんに喋ってしまった事もあって。

 つまりはそう言う理屈らしい、央佳の酒が飲みたいとの台詞も含めて。まぁ、確かにギルメンと会うのも久し振りではあるし。皆と打ち解けて話がしたいと願っていたのも本当。

 そんな願望が、恐らく言葉となって飛び出したのだろう。


 祥果さんの熱は、どうやら子供達にも簡単に飛び火した様子。色々買い物しなくちゃと、準備の軍資金を催促するしっかり者の奥さんに。

 雪の街でのクエストで、幸運にも得たお金を半分渡して思い出す。そうだ、あの時の冒険者にも渡りをつけて、クエスト報酬と落し物を返さなくては。

 郵送には手数料が掛かって、ちょっと勿体無いと躊躇っていたのだ。


 運良く通信が繋がったのは、つい先日の事だった。交通の便の良い王都に、到着したら伝言するとメールで伝えて。それを思い出し伝言を飛ばすが、来るのに少し時間が掛かるとの返事。

 ギルマスのマオウも、忙しいのは同じらしい。ギルド会話ではギルド領の館に集合との呼び声が、派手に掛かっているけれど。新しいメンバーが増えるにあたって、ギルド内でもテンションが上がっている模様。

 その仕切りに、少し時間が必要みたい。


 どっちが先に着くかなと、いつの間にか孤立してしまって暇を持て余す央佳。祥果さんは子供達を伴って、既に買い物へと出掛けてしまっていた。

 ネネちゃんだけはお願いねと、相変わらず四女は央佳の腕の中。立派な建物群にも人並みにも、全く物怖じしていない。この子が嫌なのは、孤独と知らない人だけっぽい。

 少なくとも、父親の腕の中では安穏としていられる様子だ。


 変な方向に思考が働いていたので、無意識にレンタル部屋へと足が向いてしまっていた。考え事をするのに、静かな環境を求めていたのかも。

 そうだ、アンリの装備の事も考えないといけないし、みんなの後付けジョブの事も始末してしまわないと。いやいやその前に、大事なワープ拠点通しがあったっけ。

本当にやる事が一杯だ、宴会など企画している場合だろうか?


『さてさて、お返事をお伺いしに参りましたよ、名のある冒険者さん。いやしかし、これだけの金額になると利子だけで大変なのは自明の理。分かりました、そこまで仰るなら次善の策をお伝えしましょう……。

あなたには3つの街を廻って、3つの秘宝を探し出して頂きたい。それはどれも、何物にも代え難い逸品ではありますが。残念ながら、3つ全て揃わないとガラクタ同然なのです。

さて、それではその秘宝がある3つの街ですが――』

「おわっ、マジか……!?」

「父っちゃ、やっつける……?」


 これはクエを告げに来た人だから、やっつけちゃ駄目だ。もっとも、ネネから見たら不審人物以外の何物でもないのだろうが。滔々としゃべり続ける、この紳士の名前は何だったか。

 おおっと、タゲれば分かるんだった、グランドル伯爵と言うらしい。どこかの領主だと言う設定だった筈だ、完全には覚えていないけれど。

 どうやら借金返済クエが、こんな形で始まってしまったらしい。


 何もこんな忙しい時でなくてもと、央佳は恨みがましい目を伯爵に向けるけれど。そもそも自分がレンタル部屋の敷地に足を踏み入れたせいだと、今更ながら気付いてしまい。

 クエの内容と、行くべき街の名前くらいは覚えておくべきかと思ったのだが。3つ目に語られたその街の名に、今季最大の驚愕の声を発して、ネネを驚かせてしまった。

 バツの悪い思いをしつつ、しかし心情はマジかこの能天気伯爵めのリフレイン。


 人の弱みに付け込みやがってと、内心でNPCに盛大に毒づいて。しかし難易度の高いクエを見受けしてしまった、個人の力でどうにかなるのだろうか?

 その代わりと言ってはアレだが、クエを受理した事でようやくレンタル部屋の差し押さえが解禁されたよう。久し振りに中に入って、自分の個室を堪能して廻る。

 久し振りに感じる、自分だけの空間にウットリ。


 実際には、ネネがそこら中を引っ掻き回して遊んでいるが。しかも戻って来たのは、この部屋だけである。つまり荷物もお金も、未だに引き出し不可と言う訳だ。

 それでもポストが使えるようになっただけマシ、取り敢えずそれで満足しよう。


 考えてみたら、こんな解放感は久し振りな気も。結婚して以来、個室でのんびりする機会など、ほとんど無かった訳だから。最高の贅沢だ、まぁネネが同伴してるけど。

 そんな気分に浸っていると、邪魔をするように伝言が入って来た。“落し物”のアルカが、やっと王都に辿り着いたらしい。今丁度、レンタル部屋の前にいるそうだ。

 追加でもう一人、会わせたい人がいるとも。


「やあっ、あの時は済まなかったな……クエの依頼主の私が、1人で先に死んでしまって。あの後あんたが、奴らを全滅させたって本当なのか?」

「まぁね、こっちには信頼出来る娘達がついてるから……。それよりホラ、君の落とした籠手とクエスト報酬……娘と自分と3等分にして、10万でいいかな?」

「いやいや、私は実質働いてないから! 籠手だけ有り難く返して貰うよ、本当に済まなかったな……それより、さっき話した紹介したい人なんだけど」

「初めまして、エストって言います……子供、可愛いですね?」


 アルカの後ろに控えていた女性は、光属性で装備からして術者のようだった。どんな仲なのか、話の内容が何なのか、詳しい事は一切聞いていない央佳。

 またまた頼み事らしいのだが、下手な事態にはこれ以上巻き込まれたくなどない。はっきり断るのを前提に、手早く済ませようと話を促すのだが。

 他人には聞かれたくないと、喫茶店の個室を指定する“炎斬”のアルカ。


 こっちも暇じゃないと断りを入れるのだが、向こうも絶対お得な内容だからと引かない構え。仕方なく一緒に同行、ネネがいて良かったと、こんな奇妙な状況ゆえに安堵する。

 女性とサシで同伴などして、祥果さんの耳に入ったら折檻モノだ。


 街の喫茶店は、会話の漏れない個室が漏れなく付いている。おいそれと部屋に同伴は、信頼度の関係で出来ない事が多いからだ。だから密談用に、皆が使用すると言う訳だ。

 向かう道中で、央佳は2人の関係を聞き及んだのだが。どうやらギルド仲間では無くフレ同士らしい、しかも信頼度500以上と言うかなりの新密度。

 そんな2人が、何を企んでいると言うのだろう?


「ぶっちゃけ、信頼出来てある程度戦力になる相棒を探してる。……いや、相棒になってくれそうな人をかな? 謎解きが得意なら尚良し、つまりは一緒に内密に、ミッションに挑んでくれる仲間を。ちなみに、定員は1パーティを考えてる」

「私達が今2人だから、あと4人程ですね……集まり次第、進めたいですねぇ」

「残念だが、こっちも難関なクエストを現在抱えていてね……3つの街を廻らないといけないから、正直終わる時期を限定出来ない。余程、食指が動く話で無いと……」


 央佳はこんな時、正攻法で行く事にしている。だから正直にこちらの内情を話して、申し訳なさを前面に押し出して断りを入れる。こっちはこっちの仕事を抱えているのだ、食い下がられてもどうしようもない。

 ネネはしかし、別な感情を抱いた様子。パフェが美味しくないと、父親に不満顔。


「確かに、尤もな答えですね……アルカが貴方を、信頼出来ると推薦するモノで。私達の信念と言うか、皆がやってる事ですが。重大な秘密情報を仕入れた時には、余り拡散しない様に少人数で事を進めるのも尤もな事です」

「ギルメンを誘う事も、もちろん考えたんだけどね……ノリの軽い連中ばかりで、雑談相手には良いんだけど。少しくらい待つから、是非参加してくれないかい?」

「いや、待たせるのも悪いし、こっちはコブ付き奥さん同伴が条件だから……つまり、間違っても秘密の内容は語らないでくれ。……ネネ、もう食べないのかい?」

「おいしくない……祥ちゃのご飯がたべたい!」


 ネネが良い具合にぐずり出したので、これを機にと央佳は退散を告げる。秘密情報の内容は、まぁ気にならないと言ったら嘘になるけど。生憎、そんな事態に関わってる暇など無い。

 アルカは多少慌てた素振りを見せるものの、その友達は落ち着いた表情を崩さない。最後に質問させてくれと、央佳のギルドの新種族ミッションの進行具合を尋ねて来る。

 ……おっと、つまりはそう言う事なのか?


「エストも言ったけど、6人揃うまでは待つつもりだよ。それまでもう少し、考えておいてくれないかな?」





 喫茶店を出た途端、騒がしいテルが央佳の脳を揺らした。どうやらさっきから、ずっと呼び続けていたらしい。喫茶店の個室は防音だから、それが届かなかったようで。

 相手はギルマスのマオウで、既に祥果さんと遭遇して回収したとの話。そこまで話が進んでいたとは、さすがの央佳も驚きだ。急いで街外れの、飛空艇乗り場に向かう。

 祥果さんからもテルが入って、今どこにいるのと詰問口調。


 いや、そう聞こえたのは自分の心にやましさがあったせいなのかも知れない。ナニもしてませんよと言い訳じみた返事に、祥果さんは不審さを感じ取った模様。

 すぐに来なさいと、いつものほんわかした雰囲気はどこへやら。本気で怒っている訳では無いのだろうが、放っておかれた事態も加味されているのかも。

 央佳はいつしか、ネネを小脇に抱えて小走りモードへ。


 こんな焦った感情は、PK軍団に包囲された時にも起きなかったと言うのに。ネネは即席のお馬さんダッシュに、心底楽しそう。人形を掲げて、空を飛んでるぞのポーズ。

 王都からギルド領の館に出向くには、街外れの広場から飛空艇で飛ばないといけない。それによって約5分、空の旅を堪能して辿り着く訳だ。

 そこに領地を含む、ギルド所有の館は存在する。


 領主の館は、全てのギルドが所有している訳では無い。これを取得するには、結構な条件クリアが必須である。つまりはミッションPの大量交換で、ようやく所有が許される。

 もちろんここまでの大物は、個人の力ではまず無理なので。央佳ももちろん、所有に至るまでに幾らかの貢献はさせて貰った。それだけに愛着もあるし、使用頻度も高い。

 今も軽い昂揚感、館の中を飾るのにも結構苦労したなと思い出しつつ。


 ネネと一緒に高い場所からの景色を楽しみながら、親子で空の旅を満喫する。あっという間に飛空艇は、館の裏手のエアポートに華麗に着陸を決めて。

 迎えに出て来てくれたのは、同じギルメンの闇種族のアタッカーだった。名前を鳳鳴(ほうめい)と言って、主にこの館の管理人みたいな仕事を請け負っている。

 央佳はその姿を確認して、軽く挨拶を飛ばす。


「ようっ、桜花……久し振りだね。ギルマスもお前さんの嫁さんも、もう大広間にいて何か準備的な事してるよ?」

「マジかよっ、何で俺だけ出遅れた……!? 他のみんなは、もう集まってるのか?」

「大体は、もう集合済みかな……こう言う集まりって久し振りなんで、みんな凄いテンション高いから。そう言う意味では、覚悟しておいた方がいいよ、桜花?」


 マジかと再び央佳の独り言、彼の所属するギルドはお調子者率が結構高い。その癖、難しいクエやミッションになると、一丸となって取り組む職人気質な面もあるのだが。

 今回はどうやら、お調子者の面が溢れ出そうな雰囲気がプンプン。先に放り込む形になってしまった、祥果さんが心配だ。ネネを抱きかかえ、急ぎ足で鳳鳴に言われた大広間に向かう。

 館の使用頻度は割と高いし、迷う事は無い。だが、大広間は滅多に使わない事も事実で。確かコッチだったかなと、足を踏み入れたその部屋は。

 何と言うか、もう既に人で溢れて大変な惨状だった。


 ようやく準主役のお出ましかと、皆の手荒い出迎えの言葉を受け。どうやら主役は祥果さんらしいが、肝心のその姿が見当たらない。人が多過ぎだ、こんなにいたっけと央佳は自分の所属するギルドの大きさに改めて戸惑いを覚える。

 ようやく見付けたのは、メイとアンリの娘二人の姿だった。見た事の無い揃いの衣装を着て、変な振り付けで踊っている様子。何をしてるんだと、央佳は思わず問い詰めたくなる。

 それほどその舞いは、央佳の意表を突いていた。


「……二人とも、何してるんだ? 祥果さんとギルマス、どこにいるか知ってるかい?」

「あっ、パパ! お披露目パーティだから、私達はお披露目ってるの! ネネも混じりなさい、ここに衣装あるから……祥ちゃんなら、料理の準備してるよ?」


 メイの指差す方向を見ると、なるほどテーブルの準備をしている妻の姿が。それを律儀に、ギルマスと数人が手伝っている。ルカも同じく、出来た料理をテーブルに並べている。

 話し掛けたい央佳だが、知り合いが次々に寄って来てそれも儘ならず。近況やらリアルの事情やらを尋ねられ、適当に返事をしながら家族の様子を窺い見る。

 ネネも参加しての踊りは、もう既にカオス状態。


 このギルド『発気揚々』の男女比率は、7対3位で♂の方が多いのだが。少ない比率の女性たちが、踊る子供の周りに集まってワーキャーと物凄い騒ぎよう。

 一緒に踊り始めているのは、完全後衛仕様の牡丹と言う雷種族キャラ。その娘と仲の良い炎種族の斧持ちアタッカー、翡翠もその輪に加わり始めて、場はさらにパニックに。

 同じ衣装で可愛く踊る、我が娘達は確かに目立つ存在だけど。


「おーーーい、そろそろ歓迎パーティ始めるぞーー!! テーブルの準備出来たし、桜花もいつの間にか来たみたいだしw ええっと、紹介してくから役職持ってる人は、テーブルのこっちに来てくれるかな……? あっ、桜花親子は上座にどうぞw」


 ギルマスのマオウのその一言で、騒がしかったその場は幾分冷静さを取り戻し。ぞろぞろとメンバーは移動を始め、央佳も言われた通りに上座らしき方向へ。

 祥果さんの、どこ行ってたのとの小言を反省顔で受け流し、ルカのひっつき攻撃にも笑顔で対応。どうやら褒めて貰いたいらしい、一生懸命テーブルの支度を手伝ったらしく。

 良く頑張ったねと、頭を撫でながら父親の役職を果たす。


 子供達もいらっしゃいと、祥果さんの呼び掛けに。転がるように集まって来た妹達、こちらには祥果さんの褒め言葉が。確かに即席の踊りは可愛かった、それからお揃いの衣装も。

 そんな小言での遣り取りの合間にも、ギルマスの紹介は始まっていた。まずは自身の紹介をマオウが、それからサブマスの位置にいる♂氷種族の飛香(あすか)が続く。

 飛香は癒し系マイペースのギルマスと違い、しっかり者で頼れる気質の持ち主だ。


 それからさっき央佳を迎え出てくれた、館の管理人を担っている鳳鳴。央佳と仲の良い朱連は、特に役職は無いが大物NMの討伐時などには指揮を執る事が多い。

 朱連は自他共に認める、ギルドでトップクラスの実力者である。まぁイン率も高くて廃人気味ではあるのも確かなのだけれど。央佳を含めて、この辺りまでが古株である。

 最初は10人に満たない、ありふれたギルドから始まった訳だ。


 追加で紹介されたのは、ミッション推進委員の牡丹と言う♀雷キャラ。先ほど、子供達の踊りに加わって騒いでいた娘なのだが、実は管理能力はとても高い。

 ミッションと言うのは、もちろん現在『発気揚々』が全力で解明に取り組んでいる、新種族の関連ミッションの事である。今の所ほとんど手掛かりは無いが、それは他のギルドも同じ事。

 何とか先んじて、新種族との渡りをつけたい思いは皆同じ。


 その次に、今度は桜花家族の自己紹介へと場は移行して。央佳は別として、新しくギルドに加わった祥果さんには熱烈な反応が。だだし、祥果さんの挨拶は極めて簡潔に終了。

 自身がこの世界へ至った経緯は、話さない様にと前もって夫婦で取り決めていたものの。幻種族にも深い疑念を抱かれず、スルーされたのは何か不透明なフィルターのせいか。

 とにかく、ギルドの面々には受け入れられた様子で何より。


「そう言えば、子供達に変化があったってこの前言ってた気がしたけど……ちゃんと言う事聞くようになったのか、桜花?」

「ああ、ルカとアンリは装備のカスタムも出来るようになったぞ。なんか信頼度が一定数まで上がるのが条件で、それ以前は神様からの加護で敵や人攫いから身を護っていたらしい」

「へえっ、そんな設定になってたんだ……それじゃあ、その加護とやらが無くなってしまって弱体化したんか?」

「弱くはなったけど、元が新種族だからねぇ……種族スキから種族魔法から、聞いた事の無いモノばっかりで、カンスト冒険者とあんまり変わらないかも知れないw」


 それは相変わらずチートだなと、仲間の反応はからかう者が多数。今後の活動方針を心配するマオウに、央佳は今まで通りのソロでの活動を提示する。

 とは言っても、祥果さんの育成がメインの活動で、その護衛のヘルプを匂わせての報告だが。最近、闇ギルドのPK襲撃が頻繁にあるとの事実を告げると。

 案の定、親切なギルメン複数から護衛の提案が。


 サブマスの飛香が、それなら対闇ギルドの委員を立ち上げようかと提案して来た。央佳がそれを受けて、実はあの“因業”のルマジュに目を付けられていると告白する。

 それに色めき立ったのは、他ならぬ朱連だった。彼も1度倒された相手、しかもその時に結構レアな装備を剥ぎ取られていたらしい。積年の恨みと、リベンジに燃え立っている様子。

 ところが飛香とマオウが指名したのは、♂闇種族の夜多架(よたか)と言うキャラだった。


「夜多架なら、闇ギルドの情勢にも詳しいし、初心冒険者の世話も良くやってくれてたし、適任じゃないかな? ウチでも中堅だし、戦闘力も並以上にあるからね」

「そうだね、朱連もサポートしてくれそうだし、いいんじゃないかな? 夜多架もそれで構わないかな、特に規制とか報酬とかも無いんだけど……」

「構わないですよ、面白そうだし……むしろ桜花さんにはお世話になってるし、恩返し出来るのは光栄ですから。ってか桜花さん、さっきチラッと闇ギルド関連の悩み事が増えたってこぼしてませんでしたっけ……?」

「あぁ、いや実は……夜多架っちは、そっち関係詳しいって話だったから、後で訊こうと思ってたんだけど……。例の借金返済クエでさぁ、何か“不夜城”に潜入しろって話が……」


 えええええっ!!! と、その場の全員が仰天リアクションを見せる。テーブルの料理を摘み食いしていた子供達はビックリ、何事かと周囲を窺っている。

 祥果さんも慌てて、何の騒ぎかと旦那に問うも。クエで犯罪者以外、誰も行った事の無い街へ行く事になったんだよねと簡潔に説明する。そんな危ない事しちゃダメでしょと、当然の祥果さんの反応に。

 ギルドの面々も、概ね同意の意見ばかり。それは無茶を通り越して無謀だとか、お金は別の手段で返した方が早いとか。当の央佳も同意見なのだが、何しろそんな選択肢がクエに出て来ない無理難題な仕様なので。

 何だか結局は、挑む事になりそうな雰囲気。



 この議題は、後で相談しようとギルマスの采配。続いて、残りのメンバーの自己紹介と、新しいメンバーの祥果さんへの質問が繰り広げられ。

 旦那さんとの出会いだとか、子供達の萌えポイントだとか。特に央佳にお酌しているルカと、お人形を持って父親の膝の上を占領しているネネの人気が異様に高い。

 特に女性陣のツボに、相変わらず嵌まっている様子。


「一番小っちゃい子の竜化は見た事あるけど、普段はこんな甘えん坊なんだねぇ? 人形抱えちゃって、本当に可愛いなぁ!」

「ぷはぁっ、何か今日は酒が旨いな! この人形とかこの子達のリボンとか、全部祥ちゃんの手作りだよ。奥さんの趣味と実益で、何かどんどん増えて行ってる」

「うへえっ、それは凄いなぁ……今着てるお揃いの服も? そう言えば、ルカちゃんとアンリちゃんだっけ。装備弄れるようになったんでしょ?」


 央佳はそこで、ルカの新装備を皆に披露する。酔った勢いで、どうだと言わんばかりの勢いだったが、着替えた長女の装備を鑑賞していたメンバーからは批難轟々。

 手抜きだろうとか金をケチったなとか、愛情を感じないとか何で片手で両手剣持ってんだとか。ルカの要望が、父ちゃんと一緒が良いって言うからさーと、央佳は上機嫌。

 お酒が良い感じにまわっている様子、元々強くは無い体質なのだけど。


 場は完全に、この子の装備をもっとマシな物に変えてあげようとの雰囲気に。善意の集団は、そのまま館の宝物庫に。ここには各人が、自分の使わない良装備を寄付した武器庫があるのだ。

 もちろん売れば金になるが、レア装備やユニーク装備は滅多に出会えるモノではない。それならギルメンに使って貰おうと、そんな試みから出来た設備だ。

 その品揃えは、実はなかなかのモノ。


 女性の意見では、今の無骨な大剣は問題外らしい。これはルカの熟練度の低さから、央佳が耐久度のみを考慮に入れて選んだもの。せいぜいCクラス級で、確かに装飾の類いは皆無。

 ギルメン♀集団が選んだのは、装飾過多の大振りの大剣だった。確かに綺麗だし、女性が喜びそうではある。しかも以前の剣よりダメージは大きい、その分耐久度は低いけど。

 戸惑いっ放しのルカだったが、酔った父親の鷹揚な頷きに少しだけ安心する。


 続いて盾の選出となったが、これも意見が紛糾。強さを求める声と、華美さを追求する意見が空中衝突して。騒がしい議論の遣り取りの後、結局はユニークな一品が選出され。

 それは『深知の盾』と名が付いていたが、装飾は獅子の勇ましい顔と言う至ってノーマルな感じのモノで。その獅子顔が立体的に過ぎる点が、まぁ変わっているとも言えるけど。

 肝心の能力は、知力とスキル技にボーナスが付くらしい。


「この盾、本当はかなり良い性能なんだけどさ……知力ボーナスは別として、結構お喋りなんだよねぇ。戦闘中に吹き出しで視界を遮られると、本気でイラッと来るんだよw」

「へえっ、この獅子の顔が喋るの? スキル技にボーナスは、確かに欲しい性能だよねぇ?」

「喋ってるの見てみたいw ルカちゃん、話し掛けてみてw」


 初対面のギルメンに次々と話し掛けられて、人見知りの長女はプチパニック状態に。慌てて父親の影に逃げ込んで、庇護を求める構え。

 そんな姿も可愛く映るのは人の性、酔っ払った央佳はルカの持つ盾に話し掛ける始末。楽しそうな風景に、釣られてネネも盾の獅子の口の中に手を入れようとする。

 子供特有の好奇心に、しかし応えるのは超渋い声音。


『幼子よ、私の牙は鋭いから怪我をしない様に気を付けて……。貴方が私の、新しい主人(マスター)かな? 以後宜しく、出来るなら末永いお付き合いを望むよ』

「おおっ、本当に喋るのな! 凄い凄い……コレって、冒険の為になる事も話すの?w」

「さあ……わかんないww」


 そんな感じでの騒ぎながらの問答、新しい玩具を貰った姉妹は、端っこで盾と人形を交えて遊び始める。他にも使える装備を探す者、ユニーク装備の話に興じる者。

 その場はどんどんと、カオス状態へ突入。


 それを引き締めたのは、やはりサブマスの飛香だった。元の大部屋へ皆を誘って、話を無理やり軌道修正する。つまりは本日の主役は、祥果さんと子供達だと。

 ところが貰い物をしたお返しで頭が一杯の祥果さん、子供達を呼び寄せて何やら耳打ち。央佳は既に端っこで出来上がっていて、傍観者以下の扱いへ。

 そんな観客たちを前に、子供達は日中練習していた歌を披露。


 歌い終わっての拍手喝采は、想像したよりもずっと大きなものだった。ちょっとビックリ顔の子供達、はにかんだネネなどは速攻で父親の膝の上に避難している。

 宴会の出し物として、割と完成されたレベルだと絶賛の嵐。確かに可愛らしくて歌も上手だったと、央佳は膝の上の娘を掻い繰り回して褒めている。

 完全に酔っ払い状態、ネネは楽しそうだから良いのだろうが。


 修正された宴会は、サブマスの飛香の舵取りで祥果さんの質問タイムに。素朴な疑問だと前置きして、祥果さんはこのギルドの名前の由来を質問する。

 『発気揚々』との名前は、相撲のハッケヨイの語源なんだとギルマスのマオウの解説に。お相撲が好きなんですかと、呑気な祥果さんの相槌。

 この人はリアルでお相撲さん体型なんだよと、ギルメンの容赦無い突っ込み。


「ギルマスの情けない体型は置いといて、他にも面白い名前のギルドは結構あるよね?w」

「あるあるw 有名な面白いギルド名だと『ファイナルファンシー』とか『銅鑼婚クエスチョン』とか、いかにも受けを狙った奴とかねww」

「あざといやり方だけど、実はメンバー数は多いんだよね、2つとも。ウチも老舗で、人数も多い方だけど」

「確かにねー、人数多いと出来る事も途端に増えるし、あちこちで合併とかの噂は聞くよね?」

「聞くよね~♪ 『エターナル』も老舗だったけど、どっかと合併するらしいよ?」

「えっ、マジ……? 俺、あそこに知り合いいたんだけどなぁ……」


 ギルドの話は勝手に盛り上がって行き、メンバーはあれこれ噂を口にする。愛想良く耳を傾けていた祥果さんの、隣の子供達は既に好き勝手し放題の有り様。

 央佳も既にへべれけ状態、奥さんの指示でさり気無くルカが、酒の入ったグラスを遠ざけていて。ご機嫌な父親に、ネネが人形遊びをせがんでいる。

 見事な姉妹のチームワーク、それを周囲で和んで見ているギルメンの面々。


 央佳の隣に座る朱連が、このまま王都を拠点に活動するのか尋ねて来た。央佳は少し考えて、諸々の用事が済んだらエルフの里へと向かうと思うと答える。

 借金返済クエストを、少しでも進めておきたい心情は一応あるのだが。最後の難関の“不夜城”の存在が余りに大き過ぎて、二の足を踏んでいる状況だったり。

 それでもコツコツと、進めて行くしかないのも事実。


「おいおい、頼むぜ桜花……! 新種族のミッションも、お前が抜けた後も芳しい功績が上がってない状態なんだから。早く変テコなクエ終わらせて、こっちに戻って来てくれよ!」

「あぁ、そりゃあみょう……あれ、話してなかったっへ? この前仲良くなっは女戦士が、一緒にミッション進めないかっへ言われて……それがどうみょ、新種族かんへーらしいにょ?」


 それはマジかと、ギルマスのマオウも興奮気味に話に乗っかって来る。余りにミッションの進行が停滞気味なお蔭で、この所煮詰まっているのは本当らしい。

 向こうの条件を央佳が思い起こしながら告げると、それじゃあ引き続きソロ活動でミッションの手掛かりを集めてくれとギルマスの任命。向こうが欲しいのは、一番乗りの栄光だ。

 こちらは二番手で充分、その情報だけ貰えれは万々歳である。


 停滞していたミッション進行に明かりが射し込んだ事で、その場の雰囲気は一気に明るくなる。確かに一番手の栄光は欲しいが、新種族のスキルと面会する機会も早く得たい。

 大掛かりに動きを見せているギルドは、他にも幾つか存在するので。新種族のミッションに関わっているギルドメンバー達としても、気が気では無い状態なのだ。

 新種族の数は5つ、せめてその内の1つでも自分達が一番乗りしたいモノ。


「他に尽藻エリアで活発に新種族ミッションに取り組んでるギルド、どこがあるっけ?」

「はっきりと動いてるのは『Dsell猿人』と『梟野鼠』と『アミーゴゴブリンズ』かなぁ? 闇ギルドでは『十三階段』を、良く見掛けるよ。あそこは人数多いから、フィールドで会うと緊張が走るねぇ……」

「確かに、こっちも一応は人数揃えて動かないとね。ってか、一番人数が多いのは『アミーゴゴブリンズ』なのかな?」

「あそこはバーチャ化以前のファンスカから、続いているギルドだからねw 聞いた話だと、100人以上いるって噂だよw」


 ウチの約2倍じゃんと、その大規模さにあちこちから驚嘆の声があがる。その頃には央佳は完全にダウン、机の下で寝息をたてている有り様。それにネネが寄りかかって、一緒に寝てしまおうかと企んでいたりして。

 この集会の集まり的には、30人以上が参加しているので出席率は7割程度と高い方だ。しかもその7割以上が、既にカンスト済みで戦力も割と高い方。

 数あるギルドの中でも、老舗で統率のとれている集団は珍しい部類に入るかも。


 他にも熾烈な競争の果てに脱落したギルドも多数存在する、激ムズな新種族ミッションである。今はその絞り込みが一段落して、広大な尽藻エリアを探索するギルドは限られている感じ。

 その中から一番手が出るとは限らないが、少なくとも近い存在には違いない。





「尽藻エリアの探索も、頑張って行かないとね~。ウチも老舗ギルドなんだから、そこら辺の面子に掛けて!w」

「うぃ、ガンバロー♪ ……ところで桜花たん、どうしたの?w」

「んー、なんか……『炎の神酒』で酔っ払ったみたいwww」










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