つい飛び起きちゃう夢
それは唐突に起こった事だった。
眠くなりそうな授業を必死に聞いている生徒達の中、舟虎太郎はグッスリと安息の地で眠っていた。
誰もその事を気にも留めていない。あいつ馬鹿だからどーでもいい。だが、舟の言い分としては”数学ってなんの役に立つの?”であった。
「ううっ」
堂々と眠ってるくせに苦しみの表情を浮かべ
「うわああぁぁぁ」
「な、何事だ!?舟!」
「はぁっ……はぁっ……」
叫びと共に起き上がる舟。完全な授業の妨害は睡眠よりも性質が悪い。しかし、舟の不様な姿にはクラス中のみんなが笑い、舟は顔を赤くしながらもう一回寝ようとしていた。無論、寝れるわけもなく黒板こそ見ないが教師の声を聴いて勉強していた。
長い数学の授業の後、舟の面白い行動をからかいに来た彼の友達、相場竜彦と坂倉充蛇の2人が舟の席にやってきた。
「おー、舟。相変わらず馬鹿な事をしてたな」
「うるさい、相場」
「跳び起きる夢だもんね、どんな悪夢だったの?」
「…………笑うんじゃねぇよ」
まさか、忘れたって言うじゃないだろうな。
悪夢のオチは大体そうだと感じていた相場等であったが、意外にも舟は悪夢を平坦と語った。
「目覚まし時計が鳴る夢だった。危うく学校に遅刻するかと思い、飛び起きれば目が覚めた」
「………………」
「………………」
2人共、なんとも平凡な悪夢の回答に固まった後、確認する。
「え?それだけ?お前、真面目だったっけ?」
「なんか舟らしくないね」
「熟睡こそするが、無遅刻無欠席なんだぞ!」
「だが、なんとなく分かる悪夢……じゃなくて、つい飛び起きちゃう夢だな」
「おお、分かってくれるか相場。さすが俺の友!」
「確かに、ついに飛び起きちゃう夢ってあるよね」
つい飛び起きちゃう夢について、浅はかに体験している3人は少し語り合い始めた。
「ベットから落っこちる夢を見て、飛び起きるとかさ。一回あったな」
「あー、確かにベッド派の俺も分かる。つい抵抗して目が覚める。無様に手を天上に挙げてるんだよな」
「……ちょっと待て、坂倉。お前の家にベッドってあったか?小学生みたく、ベッドに拘る派か」
相場の疑問には無視する坂倉であったが、それは聞かないお約束。夢には人の願望を映し出すとも言われているのだ。
「俺は母ちゃんと父ちゃんが急に亡くなった夢だ。マジで焦ったぜ」
「それヤバイな」
「ちょっとテーマが重くなってるんじゃないかな?」
つい飛び起きる夢だというのに普通に飛び起きる夢を口にする相場に、坂倉はチョップをかまして黙らせる。
「夢の中でくしゃみすると、なんか起きないか?」
「あー!確かに夢の中でふとした出来事があると起きるな」
「でも、実際にはくしゃみなんてしないんだけどねー」
「そうなんだよなー!ションベンしてる夢見ると少し身構えるよな」
「分かる分かる。やっていいのは小学生低学年まで、俺は現実ではしていないと思いながら夢の中でするわー」
「勇気あるなー。僕は起きて普通に現実のトイレに向かうよ」
話が盛り上がっていき、舟の机に駆けつける女子生徒の姿があった。
「さっきから盛り上がってるわね、なんの話よ」
「つい飛び起きちゃう夢の話」
「写真部の島村にも何かあるか?そーゆうの」
自分で話しかけて逆に質問された島村はちょっと考えてから
「黒歴史を晒されて起きた事があるわ」
「大胆な告白だな」
「あとは身近なことだと。ブログを書いている夢を見ててさ、夢の中でもうとうとしてるの。自分の打った文字を確認したら、”私は眠っている”じゃなくて”私はmっている”って書いていた時、消そうと飛び起きたことがあるわ」
「それ、お前の性癖なんじゃないか?」
「さっきから大胆な告白が多いよ、島村さん」
なかなか面白い談義に他の生徒達も絡み始める。島村の次に来たのは御子柴、迎、川中の女子三人組。
「あらあら、つい飛び起きちゃう夢?」
「なんか難しそうですね」
「私はあるよー。白馬に乗った王子様に助けを求めて目が覚めるもん……はっ!私としたことがなんて馬鹿な発言!」
川中さん、可愛い夢だな。同時に可哀想な夢だ。いつか、川中さんの王子様になりたいと願う舟達三人。
「私は100億円を拾う夢を見て、億万長者になって目が覚めたわ。ちくしょー、神様め」
「御子柴らしい夢だな。でも、つい飛び起きる夢と違うんじゃないか?」
「私は背が大きくなって、胸も大きくなって、理想の女性に成れた夢の時かな。凄い儚かった……」
「だ、だ、大丈夫だよ迎ちゃん!まだまだ成長できる!諦めちゃダメだ!」
みんなそれぞれ、つい飛び起きちゃう夢を持っている。そこで舟がこの7人に提案をする。
「じゃあ、次の時間。誰が一番面白い、つい飛び起きちゃう夢を見るか勝負しようぜ」
「良いわね」
「みんなでやろうぜ」
次の授業で7人は居眠りをすることとなった。一体どんな夢で飛び起きるのやら。
「えー、さっそくだが抜き打ち小テストを行う!しっかりやれよー」
7人の目が同時に覚めたのは唐突かつ非情な現実。英語の抜き打ちテストであった……。