騎士の定められた恋心
後半関西弁が出てきます。関西に住んでいる作者が使う物を少し濃くしたものなので。違和感を抱かれた場合は申し訳ありません。
世界最大の面積を誇るアルバーテ王国の王宮の一角では争いが起きていた
ーーーーッキン!ーカンッキンッ!
そこにいたのは武器と武器がぶつかり合う音と大量の敵を背に外に逃げようとする三人の男女
一人は可憐なドレスに身を包んだピンクの髪を持ち、悪など知らないような透き通った瞳を持つ美少女
一人は王家の者しか纏うことのできないローブを着た輝く金髪と、吸い込まれるような金の瞳をもった青年
一人は騎士団の証である制服を着こなした漆黒の髪に水色の切れ長な目をした青年
彼らがなぜ何者かに追われ逃げているのか説明するには少し過去に戻らなければならない。
ーー三年前ーー
いつもどおり騎士団の訓練を終えた後、自室での自主練も終わり眠りについた王族専属騎士団長のアルトが見たのはおかしな夢だった。
それはまるでひとつの物語を見ているようだったのだが、その物語には自分も出演しており全く知らない自分を眺めるのはなんとも奇妙な感覚だ。
目の前で繰り広げられるのは自分が関わることは一切無いだろうと思う甘い甘い色恋沙汰
そこにいるのは王族専属騎士である自分の守るべきアルバーテ王国の第一王子ハルバルト様と見たことのないピンクの髪をした美しい少女。
…そして後ろで見守るように控えている自分の姿。
しかし、そこで何か違和感を抱く。しばらく違和感について考えると案外答えはすぐに出た。
目の前にいるのはいつも見る姿よりもやや成長した自分とハルバルト様だったのだ。
目の前で繰り広げられる光景に触れようとするが通り抜けてしまう。そこで自分が半透明になっていることにやっと気がついた。
まるで幽霊のようになっている自分は目の前の光景に手出しできないようだ。
まあ、夢だし仕方ないか。と、映画を見る気分でその光景を眺めていた。
…しかしこんな夢を見るとは心のどこかで自分は恋愛をしたかったのか?いや、ハルバルト様に恋愛をして欲しかったのだろうか?
自分自身恋愛に、興味はないし実際に見ている夢も自分ではなくハルバルト様が恋愛をしている夢なのだからそうなのだろう。
等と考えるが、目の前ではどうも自分もピンクの髪の少女に恋をしてしまっているらしい。
ふとした時には目が少女を優しくおいかけているのだ。
ーゾクッ、と鳥肌が立つ。
自分自身で言うのもなんだかあんな表情の自分を見ていると吐きそうになる。
そして物語は進み二人は愛を誓い合い結婚する。周りの反対などもあったが無事乗り越えみんなに祝福される結婚式だった。
そこで物語は終わり自分は気づけば暗闇の中に一人立っていた。
すると暗闇の中から人の形をした光が出てきた。
これも夢なのだろうか?変な夢をみる。
『違いますよ。これは夢ではない』
脳に直接声が響いてくる普通なら警戒するのだろうが何故か今は、目の前の光が自分に話しかけているのだろうとわかった。そして敵意もないと。
「…あなたは?」
『私は何ににでもなり何にもなれない不確かな存在そうとしか言えませんね。
…ところでどうでした?』
「どう、とは?」
『あなたがさっきまで見ていた物語ですよ』
「…特に何も、あの話が現実になるのであれば幸せな話になるとは思いました。」
『現実の話ですか。』
目の前の光はどこか楽しそうにしゃべっている。
『あれは現実にもなりえます。だけれども未来の一つでしかない』
「つまりあれは、これからの未来だと?」
『そうですね。一番良い未来と言えるでしょう』
「ならば、悪い未来もあると?」
『ええ、一番悪い未来だとこの国は滅びます』
突拍子もない話だった。驚きのあまり声が出ない。この国は敵がいないとも言えるような壮大な国家なのだ。それが滅びるなどありえない。
『そして、王子も少女もあなたも死ぬでしょう。』
こちらの心境など関係なく光は話し続ける。
「どうすればその自体は避けられるのでしょうか?」
『簡単な話です。この物語のヒロインは少女でヒーローは王子、貴方はそれを支えるサポートキャラです。それを忘れなければ大丈夫』
この光は何をいっているのだろう。
まるで物語は決まっているような言い方だ。
『ええ決まっています。貴方は彼女に恋心を抱く。そして、その気持ちを抑えれば抑えるほど未来は良くなり、抑えられなければ悪くなる。』
「それでは、私一人だけ理不尽ではありませんか?」
『そう。だからこそ私は貴方にヒントを与えたのです。』
気がつけば周りは明るくなり始め光は薄くなっていった。
朝日が目に入り思わず目を細める。
ーーあれは、夢だったのだろう。変な夢を見た。
そう思っていられるのは一週間だけだった。
夢を見てから一週間たったあこの王宮にあの少女がやってきたのだ。
夢とは違い怯えた様子の彼女は異世界から来たというのだ。明らかにおかしい話なのにみな疑おうとしない。
来客として扱われた少女は高頻度で王宮のイケメン達と仲良くなっていった。その中にはハルバルト様とそして、私も入っていた。
夢の内容が思い出される。あの光は私が恋に落ちると言っていた馬鹿なことだ。そう思っていたが、気がつけば夢の中と同じような状態になっていた。それだけならまだいい、私はしてはいけないと言われていることをしてしまったのだ。
少女相手に愛の言葉を吐いてしまった。
そして、その結果がこれだ。
背後で聞こえる剣の音と追いかけてくる足音、国が滅びるなんてありえないと思っていたが、まさか、外側でなく内側からの攻撃だとは思っていなかった。
後ろから追いかけてくるのは昔国外追放された本当の第一王子だった。
彼は独特の考えを持っていた。吐き出す言葉は正しいのだが多くの貴族の反感をかい国外追放されてしまったのだ。
このことは貴族の間では暗黙の了解となっており、話題に出すことはなかった。
彼自身も追放されたとはいえ、裕福な生活を送っており、ハルバルト様が優秀だという話を聞いて国を任せられると安心していたらしいが、ある一人の少女にうつつを抜かしているときき詳しく調べると、将来大きな役職につくであろう若者たちが全員少女を、愛していると知りこの国の未来を予想し、反逆の旗を上げたということらしい。
国民に手を出すつもりはないらしく、市内にハルバルト様たちを送り出せば何とかなるだろう。
そう思い逃げてきたがそろそろ無理そうだった。二人の体力は限界に近づき走るのも辛そうだ。ならば、する事は一つしかない。自分が足止めになるしかないのだ。
「ハルバルト様、お二人で外へお逃げください。ここは私が足どめになります!」
「何をいって!?」
「いいから早く!国王も亡くなった今あなたが生き残らないでどうするのですか!!それに、あなたがいなくなったら彼女はどうなります!」
少女に視線をやってハルバルト様を促す。
「私がここで足どめする間、彼女を守れるのはあなただけでしょう!!仮にも愛しているというのなら必ず何に変えても守りなさい!!!」
そういうと、ハルバルト様は私の目を見つめ覚悟したように、二人で逃げ出した。
大ホールの入り口へと逃げる二人の背を見つめると、通路を塞ぐように私は立った。
目の前には30人程度の敵がいる。そして、第一王子も…
敵の動きが止まる。いや、止められた。
私を襲わないようにと第一王子が命令したのだ。
「お久しぶりでございます。王子。」
「…あぁ、久しぶりだなアルト。」
「まさか、こんな形での再開になるとは思っていませんでした。」
「私もだ。」
懐かしい短いやりとりが始まる。彼が私の守るべき王子だった頃が懐かしい。
「まさか、兵を挙げられるとはおもいもしませんでしたよ。」
「…私も上げるつもりなどなかったよ。だけれども、王子だけならともかくそれを止めるべき君さえもが恋などにうつつを抜かしていると聞いてね。」
「つまり、私が恋心を抱かなければこのようなことはなかったと?」
「まあ、そんなところだ。」
言葉こそ柔らかいが私を射抜く目はとても冷えきっていた。昔のように笑い合っていたことが嘘みたいだ。
あの光が言っていたことがようやくわかった気がする。私が恋心を隠せれていればこんなことはなかったのだろう。
「ーアルト。」
「なんでしょう?」
「君には今2つの選択肢があるこちらにつくか、死ぬか。」
「また、急に話が飛びましたね。以前から言っていたでしょう。その癖は直したほうが良いと。」
昔と変わらない王子にフッと笑ってしまう。
「しかたない。お前が治しきる前に追放されてしまったからな。」
王子もまた笑う
「…で、どっちの、選択肢を取るのだ?」
「そうですね。その2つしかないなら死を選びますね。」
「だって、私はもう必要ないのですよ。彼女にはハルバルト様がいるし、私はただのサポートキャラ。二人の愛を深めるだけの存在に過ぎなかったのですから。彼女のヒーローはハルバルト様でカレのヒロインは彼女だ。
…わかっていた。全てわかっていたはずだった。実際ヒントをくれたのに、それを聞かなかったのは私だ。彼女のそばに私は立っていられない。なら、せめて彼女達を守るくらいさせれもらいます。」
思いのうちをさらけ出す。馬鹿な自分が、笑えてきた。彼女はさっき一度でも私を見たか?仮にでも命を捨てて助けようとする私を…。そう彼女にとって必要なのはハルバルト様だけなのだ、それなのに私は…私は…!!!
ククっ!アハハハ!!まるで道化ではないか、舞台の上で空回りする道化!
笑いが収まらない。
ーーーあぁ、そんな顔で見ないでくれ。まるでキチガイを見るような目で。
もう全てが遅い何もできない。なら、死ぬ気でここを食い止めなければ。
最後にした約束なのだから。
髪を崩して腰にかけてあった剣を抜く。30対1まあ、まず勝つことはできないだろう。
だけれども逃げることはできない。ならば切るしかない。
剣を見つめる今まで自分を助けてくれた剣だ。側面に自分の顔が映る狂気にあふれた笑っている顔が…。
目の前の敵を見て一言。
「クズ共が俺にかなうとおもとんかぁ?ここからは殺し合いやぁ。中途半端な気持ちのものは出ていきぃ!!!!」
王都に来てから直したはずの方言が出てくる。
だがそんなことどうでもいい。とりあえず、目の前にいた敵を一太刀できる。
次から次へ襲ってくる敵になぜが、心が踊る。
右肩から斜め下へ。腹部から左上へ。様々な斬り方をする。今まで試したことのないような適当なものまで。
ここまで来て気づく自分が、楽しんでいることに。こんな狂っているのならそりゃあ彼女も振り向いてくれないわけだ。
円を描くように回りながら斬り刻む
彼女が好きと言ったくれた剣舞を舞うように。
気がつけば周りには殆ど立っているものはいなかった。周りは血の海だ。
また、笑いが溢れる。
「クッ、ハハハハハ!!!これが火事場の馬鹿力ちゅうやつかいな?まったく、ここまで手応えがないとはあんたのこと過大評価しすぎてもうたかいのう?」
蔑んだ目で睨みつけてくる王子に話しかける。
「なぁ、王子ぃ。俺は何がアカンかったんやろなぁ?騎士に憧れて上京してきたはええもんの。才能の壁にぶつかってもうて、それでも諦めれんで努力した。その結果王族専属騎士になれたのに今じゃこん狂った殺人鬼さぁ。」
「…君のがんばりは知っている。君はこの魔宮で唯一心を許せるやつだった。君なら私がいなくなってもこの国を裏で支えてくれると思っていた。
だからこそ君が壊れてしまってこの国は壊れかれているんだ。」
「……なぁ、さっき選択肢は2つのゆうたやん?あれにくわえて、王子が死ぬか。王子が仲間になるか。入れてもええよな?」
「たとえつけくわえたとしても私が仲間になることなんてないよ。」
「そうか、そりゃざんねんだ。」
王子の近くに立っている二人の兵士を切り刻むと王子を壁にある押しやった。
「あんたなら、ええ国が作れるとおもたんやけどなぁ。」
「私はもう王子じゃないからね。」
自分を攻めるように笑う。王子に苛ついた。
「あんたならもうわかっとんやろ?俺は今まで一度もハルバルトの小僧のことを王子なんてよんでない。王子ってよんどるんはあんただけや。あんな小僧王子なんて認めるかいな。」
「気づいてたよ。そのことは。けどね、嬉しいけど期待には答えれそうにないな。」
「そっか、ほなしゃあないな。」
ーーー俺は王子の首を斬り落とした
流石に疲れた30人も相手したせいかフラフラする。
部屋の隅に体を休めると疲れのあまり眠ってしまった。
ーー一年後ーー
元アルバーテ王国があった場所は大きな市として活動していた。そして、そこにはある英雄の墓があるらしい。
その名もアルト
誇り高い騎士だったそうだ。