第四幕「記憶と思い出」
そんなとんでもなく、ムチャクチャで突拍子もない夢を見た……気がした。
「夢……か…」
自分の姿を見てみた。何のことはない。寝巻き姿だ。
「そもそもムチャクチャだ。あんな……バラバラ死体があったり、殺人鬼がいたり……見ず知らずの女の子に助けられたり………女の子?」
そもそも女の子だったか、顔すら思い出せない。いや、夢なのだから覚えていないぐらいよくある事なのだが……。
ーズキンッ!ー
頭が痛い。どうやら、夢のせいで、よく眠れなかったらしい。
(ふぅ…夢のことなんてどうでもいいか。)
そう思い、ふっと時計を見ると、学校に行かないといけない時間だった。
「だあぁあぁああぁぁ!!なんでこんな時間なんだ!!まだ飯も食べてないのに!姉さん、何で起こしてくれ……」
言いかけて、思い出す。姉さんは最近、世間を騒がしている通り魔の捜査で昨夜は帰って来なかったのだ。
「はぁ…もういいや。急ごう。」
僕は急いで学校に行く準備をして、家を出た。
(怒ってるかな………??誰がだ?)
気がつくと、僕は学校とは全然違う方向に走っていた。
「はて?……なぜこんな所に…??」
夢のせいなのか、まだ、頭が寝ているのか、どうも今日はおかしい。
僕は慌てて引き返し、学校に向かった。ただ、自分が走っていた方向には大きなお屋敷が見えていた。あそこは誰のお屋敷だったか……?
学校に着いて教室に入ると、もうほとんどの生徒が来ていた。
「よう、遅いじゃないか?」
自席につくと、一人の男子生徒が話しかけてきた。
「ああ、おはよう、海翔。寝坊しちゃって…。」
「なんだぁ?お前でも、寝坊する事あるんだな?」
海翔はケラケラと笑っている。
「うっさいな~。いいだろう、たまには……」
茶化されて、僕は顔を背けた。その視線の先に、誰も座っていない一つの机。そこには……
(誰が座ってたっけ?)
はて?思い出せない。いつも見ているはずの教室のはずが、なぜか思い出せない。
「なぁ、海翔?あそこの席、誰のだっけ?」
「あん?さぁな。オレは人の顔と名前を覚えるのが苦手だからな。一週間ぐらいじゃおぼえてねぇよ。」
そう言って、海翔はまたケラケラと笑う。
「ま、そうだろうな……」
僕は呆れるしかなかった。
しかし、どうも気になる。知っている人の席のはずだが、思い出せない。
ーズキンッー
「つっ!」
頭が痛い。どうやら、本格的に寝不足らしい。
放課後。
僕は部室に来ていた。しかし、どうしたことか、部室には誰もいない。早く来すぎたようだ。
「確か、昨日もだったよな……?」
僕はぼうっと部室内を眺める。どこか寂しさを感じる。それは誰もいないからなのか、それとも、好きだった先輩が卒業してしまったからなのか。
「……ソツ…ギョ…ウ??誰ガだ?…セン…パイ??ダ…レ?」
ーズキンッ!!ー
頭が痛い。何故だろう?ここはとても嫌な場所だ。頭も痛む。それだけではなく、胸も締め付けられそうになる。
ーズキンッ!!ー
「グッ!」
イケナイ。ココはキケンなバショだ。真藤一輝はココにいてはイケナイ。
そう思った瞬間、僕の眼には、ある女性徒の姿が映っていた。
「ダレ…ダ?」
知っている。僕はこの女性徒の事を知っている。でも、思い出せない。けれど、知っているんだ。僕の眼や僕の手、僕の体が。
この人とは、ずっと前にここで会ったことがある。ここで会話したことがある。ここで過ごしたことがある。
ーズキンッ!!ー
「っ!」
そうだ、僕はこの人の事が好きだった。この人の顔が、この人の声が、この人の何気ない仕草が、すべてが愛おしかった。
あれはいつのことだったか___。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「真藤君!ねえ、真藤君ってばぁ!!」
「え?」
僕は突然名前を呼ばれて、驚いて振り向く。振り向いた先には女生徒が立っていた。女生徒は頬を膨らまし、怒った表情をしている。
一瞬見ただけで、目が奪われた。手足がすらっと長く、腰の位置も高く、顔も僕の姉さんなんかよりずっと美人で綺麗な人だ。けれど、その美人な顔にも、その仕草せいか、どことなく幼さが残る。それが逆に僕の胸を掴んで離さない。
「もう!どうしたのよ、ぼーっとして!!さっきからずっと呼んでるのに!」
「え?そうでしたか?すいません、先輩。」
そうだ、この人は僕の先輩だ。新聞部で唯一の三年生で、部長でもある女子部員だ。そして、何よりも僕が恋い焦がれている人。名前は___。
「もしかして、体調でも悪いの?」
先輩は僕の顔をのぞき込むようにして、顔を近づけて僕の顔色を伺う。
近い、近すぎる。その綺麗な顔を目の前まで近づけられると、目のやり場に困る。
僕は慌てて、元の向きに戻る。
「だ、大丈夫です!ね、寝不足でぼーっとしてただけです!」
「ふーん、そうなんだ~」
先輩は意地悪っぽくクスリと微笑む。
わざとだ。僕が慌てるのを分かってて、わざとやっているのだ。
「そ、それよりも、何ですか?」
僕は話題を変えようと、先輩から距離をとってから、もう一度振り向き、僕を呼んだ訳を聞いた。
すると、先輩はちょっと残念そうな顔した。けれど、それも一瞬ですぐにいつもの笑顔に戻った。
「ああ、だからね、文化祭の出し物だけど…」
そうだった。僕は昼休みに部室で先輩と一緒に昼食を取った後、文化祭の出し物について話し合っていたのだ。
「やっぱり新聞部だから記事を書いて、それを配ったり、展示したりするしかないと思うのね?」
「はい、そうですね。」
「で、その内容なんだけど、どんなのが良いと思う?」
「う~ん、やっぱりお祭り騒ぎが似合うのがいいと思いますよ?面白いネタとか、びっくり系のネタとか?」
「やっぱりそうかなー?」
先輩は僕の提案を聞くと、「うーん」と唸り、少し難しい顔をしている。
「何かまずいですか?」
「いや、悪くないと思うよ。でも、何か足りないのよね~。」
「足りない?」
「そ、もっとこう、人を奮い立たせるような何かが!」
先輩は言いながら、握り拳を前に突きだす。
「奮い立たせる…ですか?」
僕は口に出しながらも、先輩が言っているところの意味が理解できないでいた。
それが、表情で出ていたのだろう。先輩は説明を付け加えくれた。
「だからね、いくらお祭り騒ぎだって言っても、おもしろ系やびっくり系だけじゃ、人の心に残らないと思うのよ。もっとこう、人の心に焼き付くような、心を熱くしてくれる、感動できるものを書いた方が良いと思うのよ!」
先輩はいつにない程、熱く語っている。それほど、高校生活最後の文化祭に賭ける想いがあるのだろう。
ならばと思い、僕も先輩がいう人の心を熱くできるような事を考えて見た。
そこで、ふっと自分の脳裏に過ぎったフレーズがあった。僕はそれを特に気にすることなく、声に出してみた。
「あなたにとって命に代えても守りたい大切な人はいますか?」
声に出した瞬間、先輩はキョトンとした目で僕の方を見てくる。
「え?なにそれ?」
「え?あ、いや、なんとなく思いついて…」
「……」
先輩はジーッと僕の顔を見つめてくる。
そんなに見つめられると、さすがに居心地が悪い。何かまずいことをいってしまっただろうか?いや、まあ、クサい台詞だとは思うが。
「あ、あの先輩?」
「うん、いい!それいいかも!」
「え!?」
突然、先輩は声を張り上げ、眼を輝かせはじめる。僕はそれにびっくりして、先輩から一歩後ろに退く。
「良い発想よ、真藤君!」
「な、なにがですか?」
だが、先輩は僕が距離をとった以上に僕の方へ近づいてきた。
そんなに近づかれると、やっぱり恥ずかしい。
先輩は何やら興奮しているようで、そんなことを気にする様子もない。
「だからね、人にはそれぞれ自身とって大切な人がきっといると思うの。いえ、人だけじゃない。何に代えても守りたい、自分の信念や物だってあるはずよ。
そういう大切な何かをとりあげてみるってのはどう?」
「良いとは思いますが、とりあげるって…具体的には何をですか?」
「う~ん、そうね。それを大切だと思うようになったエピソードとかを取材して載せてみるってのはどうかな?何に代えても守りたいって思うほど大切な人や物なら、きっと感動的なエピソードが出てくるんじゃないかな?」
「なるほど…それ良いかもしれませんね!」
僕も先輩の勢いに乗せられて、先輩の提案に乗り気になってしまって、先輩との距離も忘れ、自分から先輩との距離をさらに詰めてしまった。もちろん、そんなことをすれば、体の一部が触れ合ったりしてしまうわけで___。
「「あ」」
互いの距離を認識した瞬間、気まずい空気が流れた。
「ご、ごめんなさい!」
先に謝ったのは僕の方だった。
「こっちこそ、ごめん!」
先輩も、オウム返しのように謝ってきた。
その後、また気まずい空気が流れる。
「えっと、なんだっけ?えーっと、そう!大切に思うようになったエピソードよ。それを取材したらってことだったよね?」
先輩は気まずい空気を打開しようと、無理矢理元の話題に戻そうとする。もちろん、それを遮る理由はないので、僕もそれに乗っかった。
「え、ええ、そうですね。」
「でも、ちょっと意外だったな~。
真藤君が日頃そんなクサい事考えているなんて。」
「い、いや、いつもじゃないですよ!今回はたまたま思いついたというか、ふっと湧いて出たというか…自分でも不思議なんですよ。何でそんな事思いついたのか…」
「ふ~ん」
そうなんだ、と言いたそうな顔をして、先輩は僕の方を見た後、何か閃いたのか、胸の前でポンッと手を打ち鳴らした。
「そうだ、それなら先ずは真藤君から、取材しちゃおっかな?」
「え!?僕ですか?」
「そ、真藤君には大切な人とかいる?」
そう聞かれて、考えてみるが、今までそんなこと意識したことがなかったため、すぐに出てこなかった。
「う~ん、難しいですね…考えたことなかったし…」
「そっか。私はいるよ、大切な人。」
「え?だ、誰ですか?」
僕は先輩の『大切な人』というのが気になった。先輩にとって何に代えても大切な人はいったい誰なのか?もし、自分だったらと馬鹿な妄想をしてしまう。
「両親」
けれど、先輩の答えは僕の予想を大きく裏切り、至って普通だった。
「両親?」
「そ、私にとって大切な人は、私をここまで育ててくれた両親かな。
きっと、色々と迷惑かけてきたんだろうけど、それでも優しく、時には厳しく、私を見守ってくれた両親には感謝してもしきれないもの。
そんな人達のこと、大切じゃないわけないでしょう?そう思わない?」
「___」
先輩の言葉が胸に突き刺さる。
僕はどうだったろう?そこまで親の事を大切だと思えていただろうか?実の両親のことも覚えていない、養父母の葬儀の時ですら涙もでなかった自分は、親を大切だと思う感情すらないのでないかと考えさえする。
「あ__ご、ごめん。真藤君、ご両親を…」
そんな僕の表情を読みとったのか、先輩は申し訳なさそうな顔して謝ってきた。
「あ、ああ、気にしないでください。もう随分前のことですから。僕も、もう気にしてないですし。」
先輩が言っている僕の『両親』とは養父母のことだ。先輩は僕が真藤家の養子だとは知らない。両親を二度失っている事も知らない。
僕は、両親を二度失った。実の両親と養父母。だからだろうか、僕には、先輩の両親が大切だという想いが、少しだけ理解できた。僕は失った後に気づいたけれど。
「そうですね、きっと両親が生きていたら、僕も同じように大切だと思ってたかもしれないですね。」
「そっか…」
「でも、今はいないから、大切な人は唯一の家族の姉さんってことになるかな?でも、まあ、守るっていうよりは、逆に守られてる方かもしれないですけど。」
「アハハ、そうだね。真藤君のお姉さん、刑事さんだもんね?」
そう言って、二人して笑った。それで、少し暗い雰囲気も吹き飛んでいった。
これで、『大切な人』の話は終わったのかと思っていたのだけれども、最後に先輩が付け加えるように気になること言った。
「でもね、私、両親の他にも大切な人がいるのよ?」
「え?誰ですか?」
唐突なことだったが、僕は努めて冷静に聞き返した。
先輩は「知りたい?」と言いたそうな表情していた。
「いいよ。教えてあげる。それはね___」
ゴクリ、と喉をならす。緊張の一瞬。もしかすると、自分の妄想が現実になる瞬間ではないかと思いさえしてくる。
「……キミ___」
「え!」
僕は心臓が飛び上がりそうになった。歓喜の瞬間。妄想がついに現実に___。
「キミたち後輩部員全員よ!部長として、大切じゃないわけないでしょ?」
先輩はクスリと悪戯っぽく笑顔を見せる。
「___」
また、やられた。まんまと嵌められてしまったのだ。
「うん?どうしたのかな?顔を真っ赤にして?」
「~~~」
僕はその場にうずくまった。もう、恥ずかしくて死にそうだ。
「アハハ!やっぱり、真藤君は面白いな~」
先輩は陽気に笑っている。その笑顔が眩しい。
そうこうしていると、予鈴がなった。昼休みが終わる。
「いっけない!次に授業、体育だった!急いで着替えないと!
それじゃあね、真藤君!」
先輩は慌てて、部室から出ていこうとする。
僕はそれを引き止めようと、先輩の名前を呼ぼうした。
「ま、待ってくださいよ!まだ、話は終わってないですよ!『 』先輩!!」
『先輩』の前に名前をつけて呼ぼうとした。けれど、名前が出てこない。
いや、名前は声に出している。だが、自分の耳には聞こえないのだ。
何故___?
「はいはい。続きは放課後ね。」
先輩は部室を出て行く。僕は慌てて、もう一度、先輩の名前を呼んだ。
「待って!『 』先輩!」
何故だ?何故に先輩の名前が分からない?どうして?
ーズキン!!ー
突然、酷い頭痛に襲われた。視界が歪んでいく。
僕はその場にうずくまった。
ーズキン!!ー
何故、自分の声が聞き取れない?
ーズキン!!ー
どうして、大好きな先輩の名前が出てこない?
ーズキン!!ー
「どうしてだよ!!」
『それはお前が記憶を失っているからだ。』
不意に声が聞こえた。
「ダ…レ…ダ?」
『こんなモノローグに浸っていては困る。いい加減に目覚めろ。』
「ナ…ニ…ヲ」
ードクンー
『オレが思い出せてやる』
ードクンー
途端に自分の思考がクリアになるのを感じる。
「そうだ___」
思い出した。今なら言える。今なら聞き取れる。僕の大好きだった先輩の名前を。先輩の名前は___。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「……せんぱい?……命先輩!」
ーズキン!!ズキン!!ー
それは幻。僕の記憶が見せた幻だ。彼女がいるはずがない。だって彼女は___。
ードクン!(シンダノダカラ)ー
「うわあぁぁああぁぁ!!」
僕は叫び声を上げる。それは恐怖からか、それとも記憶の逆流のせいか。何にしても、僕は思い出してしまった。
「どうしたんですか!真藤先輩!!」
今まで、命先輩に見えていたそれが、僕に声をかけてきた。
よく見ると、それは昨日出会った御堂志岐だった。
「君は……御堂…」
「大丈夫ですか?真藤先輩?」
心配そうに声をかけてくる彼。彼からすれば、自分の姿を見た瞬間に大声を出されたように思えただろう。
ードクン!ー
気分が悪い。記憶の逆流のせいか。この場所のせいか。
そんなことはどうでもいい、とにかく、急がないと。急いで行かないと。
「あ、ああ。大丈夫だよ。ごめんね。」
「そう…ですか…」
それでも、彼はまだ心配そうに僕を見る。僕は彼にお礼を言って、その場を離れた。
僕は急いでいた。記憶が戻り、昨日の事を全て思い出してしまった。だから、確かめなくていけない。あの時の女の子が一ノ宮怜奈、その人物であったのかを。
「真藤様ですね?」
校門から出ると、突然、数人の黒尽くめの男に声をかけられた。
「なんだ?あんた達……」
何かやばい。そう思わせるほど、その男たちからは危険な感じがした。
「一ノ宮怜奈……」
男の一人がそう呟く。
「!!__あんた達、一ノ宮の事、知っているのか!?」
僕が咄嗟にそう叫ぶと、男たちの顔色が変わる。
「やはり、記憶が戻ったか。お連れしろ。」
男の一人がそう言うと、他の男たちは僕の腕を掴み、その場から連れ去ろうとする。
「つっ!!なにするんだ!!放せ!」
「大人しくしろ!悪いようにはしない。」
どうもがいても、男たちの手を振りほどく事できない。
「く、くっそーーー!!」
「グェ!」
突然、鈍い音がしたかと思うと、男の一人が呻き声をあげて、バタリとその場に倒れる。
「え……なんで?」
倒れた男の側には、よく見知った男子生徒がいた。
「やれやれ…いい大人がよってたかって……なさけねぇ!!」
「か…海翔…」
「よう、一輝!今すぐ助けてやっからな。」
言うやいなや、海翔は身を低くして、男たち向かっていく。
「なんだお前……ぐはぁ!」
僕の右腕を掴んでいた男に一発。
続いて、左腕を掴んでいる男に一発。それで僕を男たちから引き離す。僕は自由になると、すぐに海翔の後ろに回り、背中合わせになる。既に周りは男たちに囲まれている。
「で、どうするよ?」
僕は海翔に指示を仰ごうとする。こういう事は海翔の方が慣れている。
「どうもこうも、急いでんだろ?オレが道を開けてやんよ。」
「え……大丈夫かよ?」
「オレを誰だと思ってるんだ?」
「は!そうでした。喧嘩王!」
「行くぜ!」
「ああ!」
海翔の合図とともに飛び出す。
まず、海翔が男に飛び掛る。そこに道ができる。僕がそこから飛び出す。が、ことはそう上手くはいかない。飛び出した僕を他の男が追いかけてくる。しかし、さすが喧嘩王。早々に僕を捕まえさせない。僕を追うとする男を後ろから掴み、自分の領域に引き込む。
僕は後ろを見ることなく、その場を走り去る。
チラリと後ろを見る。親友は自分の事を気にする事もなく、全速力で走っていく。
「やれやれ、厄介ごと引き受けちまったなぁ。ま、いつもは逆だから、たまにはいいか。」
オレにとって、ただ一人の親友。ならば、その親友が本当に困っている時は助けてやらなければなるまい。
オレは男たちから一輝を遠ざけると、一輝を追わせまいと、道を塞ぐ。
「通さねぇぜ。通りたけりゃあ、オレを倒していきな!」
向かってくる男たち。それにオレは立ち向かった。
僕は走っていた。殺人鬼と一ノ宮怜奈を求めて。
日は落ち。既に夜も更けていた。殺人鬼がよく現れるという隣町、皐月町に僕は来ていた。しかし、殺人鬼はおろか、一ノ宮の姿も見つからない。
走り疲れた僕は、近くの公園で休む事にした。
ードクン(クルゾ)ー
公園のベンチで休んでいると、突然、公園の電灯が消える。
「な、なんだ…?」
ードクン(ヤツガクル)ー
薄暗い道の向こう側から、一つの黒い影が、浮かんだ。