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Burst・Error ~鬼~  作者: みどー
開幕
7/16

第四幕「記憶と思い出」

 そんなとんでもなく、ムチャクチャで突拍子もない夢を見た……気がした。


「夢……か…」


 自分の姿を見てみた。何のことはない。寝巻き姿だ。


「そもそもムチャクチャだ。あんな……バラバラ死体があったり、殺人鬼がいたり……見ず知らずの女の子に助けられたり………女の子?」


 そもそも女の子だったか、顔すら思い出せない。いや、夢なのだから覚えていないぐらいよくある事なのだが……。


 ーズキンッ!ー


 頭が痛い。どうやら、夢のせいで、よく眠れなかったらしい。


(ふぅ…夢のことなんてどうでもいいか。)


 そう思い、ふっと時計を見ると、学校に行かないといけない時間だった。


「だあぁあぁああぁぁ!!なんでこんな時間なんだ!!まだ飯も食べてないのに!姉さん、何で起こしてくれ……」


 言いかけて、思い出す。姉さんは最近、世間を騒がしている通り魔の捜査で昨夜は帰って来なかったのだ。


「はぁ…もういいや。急ごう。」


 僕は急いで学校に行く準備をして、家を出た。



(怒ってるかな………??誰がだ?)


 気がつくと、僕は学校とは全然違う方向に走っていた。


「はて?……なぜこんな所に…??」


 夢のせいなのか、まだ、頭が寝ているのか、どうも今日はおかしい。

 僕は慌てて引き返し、学校に向かった。ただ、自分が走っていた方向には大きなお屋敷が見えていた。あそこは誰のお屋敷だったか……?



 学校に着いて教室に入ると、もうほとんどの生徒が来ていた。


「よう、遅いじゃないか?」


 自席につくと、一人の男子生徒が話しかけてきた。


「ああ、おはよう、海翔。寝坊しちゃって…。」

「なんだぁ?お前でも、寝坊する事あるんだな?」


 海翔はケラケラと笑っている。


「うっさいな~。いいだろう、たまには……」


 茶化されて、僕は顔を背けた。その視線の先に、誰も座っていない一つの机。そこには……


(誰が座ってたっけ?)


 はて?思い出せない。いつも見ているはずの教室のはずが、なぜか思い出せない。


「なぁ、海翔?あそこの席、誰のだっけ?」

「あん?さぁな。オレは人の顔と名前を覚えるのが苦手だからな。一週間ぐらいじゃおぼえてねぇよ。」


 そう言って、海翔はまたケラケラと笑う。


「ま、そうだろうな……」


 僕は呆れるしかなかった。

 しかし、どうも気になる。知っている人の席のはずだが、思い出せない。


 ーズキンッー


「つっ!」


 頭が痛い。どうやら、本格的に寝不足らしい。




 放課後。

 僕は部室に来ていた。しかし、どうしたことか、部室には誰もいない。早く来すぎたようだ。


「確か、昨日もだったよな……?」


 僕はぼうっと部室内を眺める。どこか寂しさを感じる。それは誰もいないからなのか、それとも、好きだった先輩が卒業してしまったからなのか。


「……ソツ…ギョ…ウ??誰ガだ?…セン…パイ??ダ…レ?」


 ーズキンッ!!ー


 頭が痛い。何故だろう?ここはとても嫌な場所だ。頭も痛む。それだけではなく、胸も締め付けられそうになる。


 ーズキンッ!!ー


「グッ!」


 イケナイ。ココはキケンなバショだ。真藤一輝はココにいてはイケナイ。

 そう思った瞬間、僕の眼には、ある女性徒の姿が映っていた。


「ダレ…ダ?」


 知っている。僕はこの女性徒の事を知っている。でも、思い出せない。けれど、知っているんだ。僕の眼や僕の手、僕の体が。

 この人とは、ずっと前にここで会ったことがある。ここで会話したことがある。ここで過ごしたことがある。


 ーズキンッ!!ー


「っ!」


 そうだ、僕はこの人の事が好きだった。この人の顔が、この人の声が、この人の何気ない仕草が、すべてが愛おしかった。

 あれはいつのことだったか___。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「真藤君!ねえ、真藤君ってばぁ!!」

「え?」


 僕は突然名前を呼ばれて、驚いて振り向く。振り向いた先には女生徒が立っていた。女生徒は頬を膨らまし、怒った表情をしている。


 一瞬見ただけで、目が奪われた。手足がすらっと長く、腰の位置も高く、顔も僕の姉さんなんかよりずっと美人で綺麗な人だ。けれど、その美人な顔にも、その仕草せいか、どことなく幼さが残る。それが逆に僕の胸を掴んで離さない。


「もう!どうしたのよ、ぼーっとして!!さっきからずっと呼んでるのに!」

「え?そうでしたか?すいません、先輩。」


 そうだ、この人は僕の先輩だ。新聞部で唯一の三年生で、部長でもある女子部員だ。そして、何よりも僕が恋い焦がれている人。名前は___。


「もしかして、体調でも悪いの?」


 先輩は僕の顔をのぞき込むようにして、顔を近づけて僕の顔色を伺う。

 近い、近すぎる。その綺麗な顔を目の前まで近づけられると、目のやり場に困る。

 僕は慌てて、元の向きに戻る。


「だ、大丈夫です!ね、寝不足でぼーっとしてただけです!」

「ふーん、そうなんだ~」


 先輩は意地悪っぽくクスリと微笑む。

 わざとだ。僕が慌てるのを分かってて、わざとやっているのだ。


「そ、それよりも、何ですか?」


 僕は話題を変えようと、先輩から距離をとってから、もう一度振り向き、僕を呼んだ訳を聞いた。

 すると、先輩はちょっと残念そうな顔した。けれど、それも一瞬ですぐにいつもの笑顔に戻った。


「ああ、だからね、文化祭の出し物だけど…」


 そうだった。僕は昼休みに部室で先輩と一緒に昼食を取った後、文化祭の出し物について話し合っていたのだ。


「やっぱり新聞部だから記事を書いて、それを配ったり、展示したりするしかないと思うのね?」

「はい、そうですね。」

「で、その内容なんだけど、どんなのが良いと思う?」

「う~ん、やっぱりお祭り騒ぎが似合うのがいいと思いますよ?面白いネタとか、びっくり系のネタとか?」

「やっぱりそうかなー?」


 先輩は僕の提案を聞くと、「うーん」と唸り、少し難しい顔をしている。


「何かまずいですか?」

「いや、悪くないと思うよ。でも、何か足りないのよね~。」

「足りない?」

「そ、もっとこう、人を奮い立たせるような何かが!」


 先輩は言いながら、握り拳を前に突きだす。


「奮い立たせる…ですか?」


 僕は口に出しながらも、先輩が言っているところの意味が理解できないでいた。

 それが、表情で出ていたのだろう。先輩は説明を付け加えくれた。


「だからね、いくらお祭り騒ぎだって言っても、おもしろ系やびっくり系だけじゃ、人の心に残らないと思うのよ。もっとこう、人の心に焼き付くような、心を熱くしてくれる、感動できるものを書いた方が良いと思うのよ!」


 先輩はいつにない程、熱く語っている。それほど、高校生活最後の文化祭に賭ける想いがあるのだろう。

 ならばと思い、僕も先輩がいう人の心を熱くできるような事を考えて見た。

 そこで、ふっと自分の脳裏に過ぎったフレーズがあった。僕はそれを特に気にすることなく、声に出してみた。


「あなたにとって命に代えても守りたい大切な人はいますか?」


 声に出した瞬間、先輩はキョトンとした目で僕の方を見てくる。


「え?なにそれ?」

「え?あ、いや、なんとなく思いついて…」

「……」


 先輩はジーッと僕の顔を見つめてくる。

 そんなに見つめられると、さすがに居心地が悪い。何かまずいことをいってしまっただろうか?いや、まあ、クサい台詞だとは思うが。


「あ、あの先輩?」

「うん、いい!それいいかも!」

「え!?」


 突然、先輩は声を張り上げ、眼を輝かせはじめる。僕はそれにびっくりして、先輩から一歩後ろに退く。


「良い発想よ、真藤君!」

「な、なにがですか?」


 だが、先輩は僕が距離をとった以上に僕の方へ近づいてきた。

 そんなに近づかれると、やっぱり恥ずかしい。

 先輩は何やら興奮しているようで、そんなことを気にする様子もない。


「だからね、人にはそれぞれ自身とって大切な人がきっといると思うの。いえ、人だけじゃない。何に代えても守りたい、自分の信念や物だってあるはずよ。

 そういう大切な何かをとりあげてみるってのはどう?」

「良いとは思いますが、とりあげるって…具体的には何をですか?」

「う~ん、そうね。それを大切だと思うようになったエピソードとかを取材して載せてみるってのはどうかな?何に代えても守りたいって思うほど大切な人や物なら、きっと感動的なエピソードが出てくるんじゃないかな?」

「なるほど…それ良いかもしれませんね!」


 僕も先輩の勢いに乗せられて、先輩の提案に乗り気になってしまって、先輩との距離も忘れ、自分から先輩との距離をさらに詰めてしまった。もちろん、そんなことをすれば、体の一部が触れ合ったりしてしまうわけで___。


「「あ」」


 互いの距離を認識した瞬間、気まずい空気が流れた。


「ご、ごめんなさい!」


 先に謝ったのは僕の方だった。


「こっちこそ、ごめん!」


 先輩も、オウム返しのように謝ってきた。

 その後、また気まずい空気が流れる。


「えっと、なんだっけ?えーっと、そう!大切に思うようになったエピソードよ。それを取材したらってことだったよね?」


 先輩は気まずい空気を打開しようと、無理矢理元の話題に戻そうとする。もちろん、それを遮る理由はないので、僕もそれに乗っかった。


「え、ええ、そうですね。」

「でも、ちょっと意外だったな~。

 真藤君が日頃そんなクサい事考えているなんて。」

「い、いや、いつもじゃないですよ!今回はたまたま思いついたというか、ふっと湧いて出たというか…自分でも不思議なんですよ。何でそんな事思いついたのか…」

「ふ~ん」


 そうなんだ、と言いたそうな顔をして、先輩は僕の方を見た後、何か閃いたのか、胸の前でポンッと手を打ち鳴らした。


「そうだ、それなら先ずは真藤君から、取材しちゃおっかな?」

「え!?僕ですか?」

「そ、真藤君には大切な人とかいる?」


 そう聞かれて、考えてみるが、今までそんなこと意識したことがなかったため、すぐに出てこなかった。


「う~ん、難しいですね…考えたことなかったし…」

「そっか。私はいるよ、大切な人。」

「え?だ、誰ですか?」


 僕は先輩の『大切な人』というのが気になった。先輩にとって何に代えても大切な人はいったい誰なのか?もし、自分だったらと馬鹿な妄想をしてしまう。


「両親」


 けれど、先輩の答えは僕の予想を大きく裏切り、至って普通だった。


「両親?」

「そ、私にとって大切な人は、私をここまで育ててくれた両親かな。

 きっと、色々と迷惑かけてきたんだろうけど、それでも優しく、時には厳しく、私を見守ってくれた両親には感謝してもしきれないもの。

 そんな人達のこと、大切じゃないわけないでしょう?そう思わない?」

「___」


 先輩の言葉が胸に突き刺さる。

 僕はどうだったろう?そこまで親の事を大切だと思えていただろうか?実の両親のことも覚えていない、養父母の葬儀の時ですら涙もでなかった自分は、親を大切だと思う感情すらないのでないかと考えさえする。


「あ__ご、ごめん。真藤君、ご両親を…」


 そんな僕の表情を読みとったのか、先輩は申し訳なさそうな顔して謝ってきた。


「あ、ああ、気にしないでください。もう随分前のことですから。僕も、もう気にしてないですし。」


 先輩が言っている僕の『両親』とは養父母のことだ。先輩は僕が真藤家の養子だとは知らない。両親を二度失っている事も知らない。

 僕は、両親を二度失った。実の両親と養父母。だからだろうか、僕には、先輩の両親が大切だという想いが、少しだけ理解できた。僕は失った後に気づいたけれど。


「そうですね、きっと両親が生きていたら、僕も同じように大切だと思ってたかもしれないですね。」

「そっか…」

「でも、今はいないから、大切な人は唯一の家族の姉さんってことになるかな?でも、まあ、守るっていうよりは、逆に守られてる方かもしれないですけど。」

「アハハ、そうだね。真藤君のお姉さん、刑事さんだもんね?」


 そう言って、二人して笑った。それで、少し暗い雰囲気も吹き飛んでいった。

 これで、『大切な人』の話は終わったのかと思っていたのだけれども、最後に先輩が付け加えるように気になること言った。


「でもね、私、両親の他にも大切な人がいるのよ?」

「え?誰ですか?」


 唐突なことだったが、僕は努めて冷静に聞き返した。

 先輩は「知りたい?」と言いたそうな表情していた。


「いいよ。教えてあげる。それはね___」


 ゴクリ、と喉をならす。緊張の一瞬。もしかすると、自分の妄想が現実になる瞬間ではないかと思いさえしてくる。


「……キミ___」

「え!」


 僕は心臓が飛び上がりそうになった。歓喜の瞬間。妄想がついに現実に___。


「キミたち後輩部員全員よ!部長として、大切じゃないわけないでしょ?」


 先輩はクスリと悪戯っぽく笑顔を見せる。


「___」


 また、やられた。まんまと嵌められてしまったのだ。


「うん?どうしたのかな?顔を真っ赤にして?」

「~~~」

 僕はその場にうずくまった。もう、恥ずかしくて死にそうだ。


「アハハ!やっぱり、真藤君は面白いな~」


 先輩は陽気に笑っている。その笑顔が眩しい。

 そうこうしていると、予鈴がなった。昼休みが終わる。


「いっけない!次に授業、体育だった!急いで着替えないと!

 それじゃあね、真藤君!」


 先輩は慌てて、部室から出ていこうとする。

 僕はそれを引き止めようと、先輩の名前を呼ぼうした。


「ま、待ってくださいよ!まだ、話は終わってないですよ!『 』先輩!!」


 『先輩』の前に名前をつけて呼ぼうとした。けれど、名前が出てこない。

 いや、名前は声に出している。だが、自分の耳には聞こえないのだ。

 何故___?


「はいはい。続きは放課後ね。」


 先輩は部室を出て行く。僕は慌てて、もう一度、先輩の名前を呼んだ。


「待って!『 』先輩!」


 何故だ?何故に先輩の名前が分からない?どうして?



 ーズキン!!ー


 突然、酷い頭痛に襲われた。視界が歪んでいく。

 僕はその場にうずくまった。


 ーズキン!!ー


 何故、自分の声が聞き取れない?


 ーズキン!!ー


 どうして、大好きな先輩の名前が出てこない?


 ーズキン!!ー


「どうしてだよ!!」

『それはお前が記憶を失っているからだ。』


 不意に声が聞こえた。


「ダ…レ…ダ?」

『こんなモノローグに浸っていては困る。いい加減に目覚めろ。』

「ナ…ニ…ヲ」


 ードクンー


『オレが思い出せてやる』


 ードクンー


 途端に自分の思考がクリアになるのを感じる。


「そうだ___」


 思い出した。今なら言える。今なら聞き取れる。僕の大好きだった先輩の名前を。先輩の名前は___。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「……せんぱい?……命先輩!」


 ーズキン!!ズキン!!ー


 それは幻。僕の記憶が見せた幻だ。彼女がいるはずがない。だって彼女は___。


 ードクン!(シンダノダカラ)ー


「うわあぁぁああぁぁ!!」


 僕は叫び声を上げる。それは恐怖からか、それとも記憶の逆流のせいか。何にしても、僕は思い出してしまった。


「どうしたんですか!真藤先輩!!」


 今まで、命先輩に見えていたそれが、僕に声をかけてきた。

 よく見ると、それは昨日出会った御堂志岐だった。


「君は……御堂…」

「大丈夫ですか?真藤先輩?」


 心配そうに声をかけてくる彼。彼からすれば、自分の姿を見た瞬間に大声を出されたように思えただろう。


 ードクン!ー


 気分が悪い。記憶の逆流のせいか。この場所のせいか。

 そんなことはどうでもいい、とにかく、急がないと。急いで行かないと。


「あ、ああ。大丈夫だよ。ごめんね。」

「そう…ですか…」


 それでも、彼はまだ心配そうに僕を見る。僕は彼にお礼を言って、その場を離れた。




 僕は急いでいた。記憶が戻り、昨日の事を全て思い出してしまった。だから、確かめなくていけない。あの時の女の子が一ノ宮怜奈、その人物であったのかを。


「真藤様ですね?」


 校門から出ると、突然、数人の黒尽くめの男に声をかけられた。


「なんだ?あんた達……」


 何かやばい。そう思わせるほど、その男たちからは危険な感じがした。


「一ノ宮怜奈……」


 男の一人がそう呟く。


「!!__あんた達、一ノ宮の事、知っているのか!?」


 僕が咄嗟にそう叫ぶと、男たちの顔色が変わる。


「やはり、記憶が戻ったか。お連れしろ。」


 男の一人がそう言うと、他の男たちは僕の腕を掴み、その場から連れ去ろうとする。


「つっ!!なにするんだ!!放せ!」

「大人しくしろ!悪いようにはしない。」


 どうもがいても、男たちの手を振りほどく事できない。


「く、くっそーーー!!」

「グェ!」


 突然、鈍い音がしたかと思うと、男の一人が呻き声をあげて、バタリとその場に倒れる。


「え……なんで?」


 倒れた男の側には、よく見知った男子生徒がいた。


「やれやれ…いい大人がよってたかって……なさけねぇ!!」

「か…海翔…」

「よう、一輝!今すぐ助けてやっからな。」


 言うやいなや、海翔は身を低くして、男たち向かっていく。


「なんだお前……ぐはぁ!」


 僕の右腕を掴んでいた男に一発。

 続いて、左腕を掴んでいる男に一発。それで僕を男たちから引き離す。僕は自由になると、すぐに海翔の後ろに回り、背中合わせになる。既に周りは男たちに囲まれている。


「で、どうするよ?」


 僕は海翔に指示を仰ごうとする。こういう事は海翔の方が慣れている。


「どうもこうも、急いでんだろ?オレが道を開けてやんよ。」

「え……大丈夫かよ?」

「オレを誰だと思ってるんだ?」

「は!そうでした。喧嘩王!」

「行くぜ!」

「ああ!」


 海翔の合図とともに飛び出す。

 まず、海翔が男に飛び掛る。そこに道ができる。僕がそこから飛び出す。が、ことはそう上手くはいかない。飛び出した僕を他の男が追いかけてくる。しかし、さすが喧嘩王。早々に僕を捕まえさせない。僕を追うとする男を後ろから掴み、自分の領域に引き込む。

 僕は後ろを見ることなく、その場を走り去る。




 チラリと後ろを見る。親友は自分の事を気にする事もなく、全速力で走っていく。


「やれやれ、厄介ごと引き受けちまったなぁ。ま、いつもは逆だから、たまにはいいか。」


 オレにとって、ただ一人の親友。ならば、その親友が本当に困っている時は助けてやらなければなるまい。

 オレは男たちから一輝を遠ざけると、一輝を追わせまいと、道を塞ぐ。


「通さねぇぜ。通りたけりゃあ、オレを倒していきな!」


 向かってくる男たち。それにオレは立ち向かった。




 僕は走っていた。殺人鬼と一ノ宮怜奈を求めて。

 日は落ち。既に夜も更けていた。殺人鬼がよく現れるという隣町、皐月町に僕は来ていた。しかし、殺人鬼はおろか、一ノ宮の姿も見つからない。

 走り疲れた僕は、近くの公園で休む事にした。


 ードクン(クルゾ)ー


 公園のベンチで休んでいると、突然、公園の電灯が消える。


「な、なんだ…?」


 ードクン(ヤツガクル)ー


 薄暗い道の向こう側から、一つの黒い影が、浮かんだ。


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