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Burst・Error ~鬼~  作者: みどー
エピローグ
14/16

~償い~


 人は生きている間に大なり小なり罪を犯す。それが、社会の法よって裁かれる者から、裁きから逃れる者と、人によってその罪に対してどう向き合うかはそれぞれ違う。

 法によって裁かれる者は、法に基づき罪を償う。法の裁きから、自身の罪から逃げたものは、法から逃れ続けることを運命づけられ、二度と安息の地など与えられない。


 では、自身の罪からも逃げることなく、向き合い続けながらも、法の裁きを受けることができない存在はどうすれば、良いだろうか?




 間島新一の罪は、本人が知るところではないにしろ、一ノ宮博士の狂気に満ちた実験に、間接的ではあるが関与していたことだ。そして、その一ノ宮博士を自らの手で殺害したこと。


 一ノ宮怜奈の罪は、鬼に堕ちた存在を殺してきたこと。それは、自身と同じ境遇である子供たちを救うため、博士の実験に協力したことが事の発端であった。


 どちらも、一ノ宮博士が元凶であることは明白だ。だが、その博士も死に、彼らは罪を侵し続けること自体からは解放された。

 だが、罪から解放されたわけではない。

 一ノ宮博士は、社会的には十数年前に死んでいた。子供たちを施設から逃がすために、施設が襲撃された際、博士は命を落としたことになっていた。故に博士は誰にも気づかれることもなく、今まで実験を押し進めれたのだろう。

 そのため、博士は社会的な法に裁かれることもない。そして、それに関わった間島新一、一ノ宮怜奈も同様だ。


 間島新一と一ノ宮怜奈は、罪には問われない。だが、彼らは自信の罪と真摯に向き合った。自分が犯した罪は取り返しのつかないことだと、知っていたから。



 間島新一は、個人探偵事務所を活用し、安値でどんな小さな依頼でも受け入れ、社会的奉仕を行い続けた。それと、同時に鬼に堕ちた子供たちの親族への資金援助を行うようになった。自身の父と自分自身が犯した罪への償いとして。


 一ノ宮怜奈は、それまでの行いを悔い改め、人への、社会への接し方を改めるようになった。彼女は、一ノ宮博士が残した豊富な実験資金を使い、恵まれない子供たちへの援助を行う活動を始めた。

 まずは、施設を作り、事情により身よりのない子供に安心して生活できる場所を提供することから始め、その後は、その子供たちが社会で自立し、生きてけるようになるまでの援助をするようになっていった。

 今では、あの頃の無口で無表情の彼女が嘘のように、子供たちに優しく微笑む母親のような存在になっていた。


 だが、彼らがそこまでに辿り着くまで、決して平坦な道のりではなかった。自身が犯した罪の重さに苦悩し、押しつぶされそうになることなど、度々あった。それでも、彼らはそこから逃げ出すことをせず、向き合い、必死になって、自身が犯した罪を償う方法を探し続け、たどり着いたのだ。


 彼らの罪は決して許されることのないものだが、それでも、彼らを責めることは、もう誰にも出来ないし、誰も責めようともしなかった。




 だが――――――真藤一輝の場合は、それに当てはめることができない。

 彼は、守られる側の存在であるはずだった。真藤香里に、間島新一に、紅坂命に、そして、一ノ宮怜奈に。

 それが、彼の中に眠っていた記憶が逆転させた。彼は守られる側ではなく、守る側の人間であるべきだと、自ら彼は覚悟を決めた。

 しかし―――それは、彼自身が罪を犯し、そして、他者の罪を背負うということだった。殺人鬼・御堂志岐を消すのは一ノ宮怜奈の役目のはずだった。彼は、それを自身の大切な存在を守るため、自身の役目とした。

 さらに、一ノ宮博士の狂気に満ちた実験を自身の手で止め、博士を自分の手で殺す決意までしていた。

 だが、それは彼の勝手な覚悟と決意である。彼は、守られる側の存在であったのだから、そのまま何もせず、傍観していれば、彼もまた罪を負うことはなく、偽りの世界ではあるが、彼は平穏の日々を送ることも可能だった。それを拒んだ以上、彼には間島新一や一ノ宮怜奈以上の罪と罰が与えられる。

 そして、彼もまたそれを望んでいた。


 彼は―――真藤一輝は自身の存在こそが、すべて元凶であったと考えている。自分さえいなければ、間島新一も、一ノ宮怜奈も罪を犯すことなどなかった。紅坂命も死ぬことなどなかった。御堂志岐も鬼などにならず、平凡な高校生だった。今、彼の目の前で眠り続けている子供たちも、自分と同じぐらいの歳で、普通の生活を送っているはずだったのだ―――と。

 自分の存在があったからこそ、人間は夢を見て、狂気へと走ったのではないか―――と。


 人間は愚かだ。儚い夢をいつまでも見続け、理想のみを追い続け、自分の過ちにも気づかず、引き返す勇気もなく、過ちを繰り返す。

 けれど、だからこそ、人間は素晴らしいのだ。美しいのだ。醜いのだ。儚いのだ。綺麗なのだ。信じることができるのだ。


 真藤一輝は鬼であり、神であり、人間でもあった。そして、聖人であり、罪人でもあった。だからこそ、人間の素晴らしさと愚かさを理解し、そして人間を愛していた。


 それが、この数年間のうちに真藤一輝が辿り着いた答えだった。


 真藤一輝の償い、それは、人間が犯した罪を自身がすべて請け負い、それを浄化させること。それが彼が決意した償い方だ。






「ふ~ん。でもそれってさ、君を信頼してくれてる人を裏切ってない?」

「――――――」


 旧一ノ宮邸、地下室の実験施設に、オレと少年はいた。

 オレはその少年にオレが犯した罪、そして、オレに関わった人間の罪について語っていた。そして、オレがその人間たちの罪を請け負い、浄化するつもりでいることも、少年に語った。

 だが、少年はそれを聞き、オレに対して、裏切っていると言う。


「君は、人間たちとって神であるかもしれないけど、罪人でもあるんだ。それが、すべての罪を請け負うなんて、正直、身の程を知れって感じだけど?」

「ハ―――――君はハッキリ言うな。」


 オレは少年の言葉に苦笑するしかなかった。彼が言うことは真実であり、正しかったからだ。





 オレは、あの事件以降、大学を出て、この研究室で、鬼に堕ちた子供たちを元の人間に戻すための研究をしていた。既にあの事件から十年近くが経っていた。

 この少年、オレが研究に明け暮れていたある日、突如として、オレの前に現れた。背格好からすれば、14、5歳ぐらいだ。

 初めてオレの前に現れた時には驚いたものだ。この研究室自体、誰にも見つからないように偽装していたにも関わらず、少年はここがそう言う場所だと初めから知っていた。そして何よりも驚いていたのが、少年はオレの前に『現れた』のだ。忽然と。

 そして、何事もないようにオレに話しかけてきた。

 当初、オレはこの少年も鬼ではないかと勘ぐったが、そうではなかった。鬼にしては、言動は理にかなうものだった。

 そして、初めて現れたその日、オレに鬼の力について聞いてきた。オレは彼が何者なのか分からなかったが、それでも、信用に足りる存在だと思えた。だから、鬼のことについて、自分の研究について話した。

 それがもう一年も前のことだ。あれから、彼は一月に一度、ここに訪れ、研究の進み具合や鬼に関することを聞きたがり、オレはそれを話した。


 

 今日は、現れたと思うと、オレが何故こんな研究をしているのかを聞きたいと言い出したため、それを語っていた。



「でもさ―――それは君が人間であればの話だ。君が本当に神様なら、人の罪も業も、全部引き受けることがでるかもしれないね?」

「――――――」


 少年は笑顔でオレに同意を求めてきた。

 その笑顔はとても子供らしい笑顔であるように見えるが、その実、一切の感情を排したもののように、オレには見えた。


「お前は一体―――」

「あ、そろそろ行かなきゃ!」

「お、おい!」

「そうそう、次会うときまでに、まだ君がその信念を持ち続けていたなら、君が望む答えを与えてあげるよ。」

「―――どういうこと―――!!」


 疑問を投げかけようとした瞬間、少年の背中が輝きだした。

 そして、その輝きの中から、純白の翼が現れた。


「―――天使―――なのか?」


 オレの問いかけに、少年は微笑み、そのまま姿を消した。



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