第八幕「神と鬼」
『覚悟ができたな。ならば目覚めよ。真なる力に。お前は我となる。』
気づいた時、父と母は動かなくなっていた。一緒に車に乗っていた子は……それを見て笑っていた。
怒り、憎しみ、悲しみ。全ての感情が僕の中で渦巻き、弾けた。
ユルサナイ
僕はその子を思いっきり睨みつけた。
たったそれだけで、その子の頭は弾け飛んだ。おびただしい血。残った小さな体。
僕は―――人を殺してしまった。
うわぁあああああああああああ!!
「オワリダ。シネ。」
御堂は右手に風を圧縮させ、刃と化す。そして、真藤一輝の体を貫く。
が―――。
「ナ、ナンダト!」
御堂が一輝の体に右手を突き入れる、そのタイミングに合わせ、一輝は脇差を彼の右手に突き刺していた。
「うぎゃああああああ!僕の右腕があああ!」
一輝は御堂の突きを防いだだけではなかった。そのまま圧縮された風を切り裂き、彼の手に脇差を突き差し、そのまま、腕ごと切り裂く。
「これで、その腕は使いものにならないな。」
真藤一輝の一言。しかし、それは今までの彼の言葉とは明らかに違う。
「キ、キサマぁアアあ!」
怒りに駆られた御堂は刃を放とうとする。が、しかし―――。
「ぐあ!!」
なんとしたことか。殺人鬼・御堂は廊下の端まで吹き飛ばされてしまったのだ。
「ガハ……なんだ…今の衝撃波は……それに何故、あんな刃物如きにボクのウデが…」
大きな疑問。ありえない事。彼の腕に切れないものはない。それが逆に切り裂かれたのだ。
「この刀は元々、使用者によって形状も強度も変わる。そういう妖刀だ。」
「な、ナニを……!!キ、キサマ、その眼は―――」
驚くのも無理もない。一輝の目は、先ほどまでの赤い眼から変わっていた。
右眼は金色に光り、左眼は紅く燈っている。
「ナ、ナンダ!?ソノ眼ハ!!」
「知ってどうする?キサマはここで死ぬ。
偽者風情が、調子に乗るな!真の鬼であるオレに勝てるとでも思ったのか?」
ゆっくりと一輝は御堂に近づく。
「よ、寄るな!!ソノ眼でミルナぁアア!」
恐怖。初めての恐怖。
殺人鬼とって恐怖など、これまで微塵も感じたことはなかった。
紅い眼は未来を予知する眼。
黄金の眼は破壊の眼。
それが、真藤一輝、神の―――否、真なる鬼、鬼神の力。
紅い眼は未来を予知し、相手の動きを先読みするためにある。
そして、黄金の眼は、視界に入る対象物に衝撃波を与え破壊する。その威力は自由自在。その気になれば、岩など簡単に砕ける。
だが、鬼神の力の本領はそんなところではない。
「キサマは―――何者ダ…」
恐怖に怯えた殺人鬼の疑問の投げかけ。
「鬼神―――前鬼。貴様らなどでは遠く及ばない存在、神だ。」
それは真藤一輝の言葉ではない。紛れもなく鬼神としての言葉。真藤一輝の中に眠っていたもう一つの人格。それこそが、鬼神・前鬼だ。
「終わりだ。」
紅い眼は未来を予知する。だが、逆に言えば、それは幾多の不確定な未来から一つ未来を選び取り、決定するということ。
例えば、ここにいる殺人鬼をバラバラにするという未来だけを選び取り、確定させ、それを現実にする。それがこの紅い左眼には可能だ。だが、根拠なく未来を確定させることはできない。未来には、そうなる原因が必要なのだ。
しかし、ここにその原因がある。黄金の眼は破壊のみに特化したもの。もし、黄金の眼で見たものを粉々に粉砕するという、未来を紅い眼で確定させることができれば、それは実現する。
つまり、紅い眼と黄金の眼が同時に使われた時にこそ、鬼神としての本領が発揮される。そこに破壊できないものはない。
「やめろ!ヤメロ!!ヤメロヤメロヤメロ!!ソノ眼デミルナアアアアアアア!!」
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―パリーン―
世界は崩壊した。
鬼神の視界に入ったすべてが、崩壊した。無論、殺人鬼・御堂志岐も例外ではない。
だが、彼もまた、鬼と化してしまったもの。例え、四肢を失っても、中核となす脳さえ無事であれば生き続ける。彼は不運にも、生き残ってしまった。
「イタイ!イタイ!イタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイ!!イヤダ!し、しししシシシシシ死に、シニ、シニ、タクナ、イ」
恐怖。嘆き。絶叫。死を前にした叫び。
「それが最後の言葉か。哀れだな。」
鬼神は、黄金の眼で殺人鬼だったものを睨みつける。
殺人鬼・御堂志岐は消え去った。鬼により支配され、その鬼により、消される。鬼に囚われた、哀れな少年の最期だった。
僕は、御堂志岐を殺した。鬼として目覚め、鬼神となった。けれど、その行動は全て僕の意思。御堂志岐を殺した、その行為は全て僕の意思だった。ただ、それを鬼神が代行しただけ。
僕は御堂を殺すことを望み、殺した事実は変わらない。
僕は人を殺したのだ。
だが、これですべて終わった―――。
「いや―――まだだ―――」
まだ、終わっていない。なにもかも。
僕は御堂の亡骸をそのままに歩き出した。




