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Burst・Error ~鬼~  作者: みどー
開幕
10/16

第七幕「偽鬼と真鬼」


 学校の中は静まりかえっていた。既に校内には誰も残っていないのだろう。雨音のみが聞こえてくる。


 僕は学校の中に入ると、真っ直ぐ旧校舎にある新聞部の部室へと向かっていく。迷いはない。そこに奴がいる。奴と初めて会ったのもそこだった。

 部室の前までくる。


「すー……はー。」


 深呼吸を一つ。それで心は決まった。

 部室のドアを開けた。部室の中には一つの影。フードを被り、黒のロングコートを着た影。口元のみが見て取れる。間違いなく、あの殺人鬼。

 殺人鬼は僕の顔を見ると、ニヤリと口元を歪ませる。


「やっと来たか。待ちくたびれたよ。」

「……よく、校内の人間に手を出さなかったな。」

「クク。興味がない人間を殺す気はないよ。」

「ああ、そうかよ。」


 僕は奴を睨みつける。

 嘘だ。こいつはそんな趣向はない。実際、学園内には死の臭いが充満している。探せばごろごろと死体が出てくることであろう。


「で、何時までそんな物を着ているつもりだ?御堂…」

「―――いつ、気づきました?」


 言いながら、殺人鬼は着ていたフード付き黒のロングコートに手を掛け、脱ぎ捨てた。


「たぶん―――初めて会った時から。

 核心したのは、公園でだ。お前もそうだろ?僕が何者であるか知っていたから、僕の前に姿を現した。」


 ロングコートの下から現れたのは、新聞部の新入部員、御堂志岐、その人物だった。


「そう―――ですね…やっぱり真藤先輩は頭が良い。」


 コートを脱いでからは、殺人鬼の雰囲気は御堂志岐そのものとなっている。しかし、それこそが偽りの姿。


「敬語は止めろよ。いつも通りに話せ。僕はお前を殺しにきたんだ!」

「ク――――――クク。フフ、フハハハ!!」


 一変。僕の言葉で、奴は御堂から殺人鬼へと戻る。


「僕をコロスね―――は!キサマに何ができる?

 確かに、君の『眼』は僕の動きを先読みできるようだけどね。それだけで、僕をコロスって?ナメルナヨ!オマエ如きガ僕をコロセるはずないダロ!!ボクは鬼ナンダ!」


 発狂と怒り。既に人間としての言葉ではない。自らを鬼と言い、人間を止めた存在。


「……言いたいことはそれだけか?御堂…いや、殺人鬼!」


 僕は身構え、そして脇差を鞘から引き抜く。


「ソンナ物で僕をコロスつもりか?」


 ードクン(サア、ハジマルゾ。)ー


「ああ!」


 両目が紅く燈るのを感じる。


「フザケルナ!!」


 殺し合いが始まる。





 放たれた三つの風の刃。真藤一輝には、その数、その軌道が放たれる前に分かっている。

 一つ、二つと読んだ軌道通りにかわす。しかし、三つ目は避けきれない。本来ならば、それで真藤一輝の体は、真っ二つとなる。

 しかし、今彼には武器と呼べるものがある。脇差を三つ目の刃に交差するように沿わせ、これを粉砕。

 三つの刃をやり過ごした彼には、まだ反撃の機会は回ってこない。この狭い部室の中では、刃をいなすのも難しいからだ。まず彼がしなければならないことは、この部室から出て、廊下で迎え撃つこと。

 三つの刃をいなした瞬間から彼は後ろに、廊下の方に飛んでいた。


 ードクン(アマイ)ー


 しかし、それと同時に、凄まじい勢いの風が彼の体を吹き飛ばす。

 ドンッと廊下の壁に勢いよく体を叩きつけられる。


「ぐっ!!」


 苦痛の声が漏れる。だが、この程度で倒れるわけにいかない。すぐに起き上がり、風の軌道から外れる。それで、第二波の攻撃をよける。


「ドウシタ!避ける事しかデキナイのカ!?口ほどにもナイ!」


 ードクン(マッタクダ)ー


 殺人鬼は明らかにイラついている。攻撃かわされたからではない。真藤一輝の存在そのものに。

 もし、真藤一輝が神の遺伝子を生まれながらに持っているとしたら、それは彼が神である証明。

 しかし、そもそも、それは神と呼べるものなのか?

 確かに、その因子は人に特別の力を与えた。だが、それこそ間違い。与えたのではない。人を支配したのだ。神ではなく、鬼の因子。その因子により、御堂志岐は鬼となり、鬼に支配された。

 いや、鬼の因子を支配したのだと、だから自分は鬼なのだと自負している。例え、自分が自我を失っているとしても、鬼であることが今の自分の証明。自我を持つ、一ノ宮怜奈を出来損ないとまで思っていた。

 だが、真藤一輝はどうだ。因子を生まれながら持ち、それでも普通に生きてきた。それが今、御堂の前に立ち塞がっている。

 それは御堂志岐という鬼の存在の否定ではないか。なぜなら、生まれながら因子を持ち、受け継いできたものがある真藤一輝こそ、真なる鬼と言えるからだ。


「何故、キサマは人間であろうとスル?キサマもボクと同じ鬼ナノニ…」


 今、偽鬼はその疑問を真鬼に投げかける。


「同じなんかじゃない。僕には守りたいものがある。お前とは違う!!」


 拒否。否定。同じはずなのに違うと言う。


「フザケルナアァァアアァァァア!!」


 一気に凄まじい風が押し寄せる。それは既に衝撃波とも言える威力。真藤一輝の紅い眼は相手の行動が読めるが、それに対処できるかは別である。廊下全体を覆う、この風に対処方法などありえない。


「カハッ!」


 真藤一輝は廊下の端の壁まで、吹き飛ばされ、体は壁にめり込む。

 それで決着がついた。





「ぐ……」


 消えかかる意識を必死に保とうとする。

 甘かった。勝てる可能性が低いことは分かっていた。鬼と呼ばれる者たちが持ちえる神の遺伝子。それは人工的に埋め込まれたもの。

 だが、僕の中にあるのは、自然的に持ちえた遺伝子。彼らよりも、優れていると心の何処かで思っていたのかもしれない。だが、実際は違う。自我を失い、理性を持ち合わせていない彼らに、理性だけで勝つことはできない。


「マッタク!ドイツもコイツも守りたいものあるとか、お前とはチガウとか言いやがって!!あのオンナと同じことイイヤガッテ!!」


 ードクンー


 あの女?あの女とは誰の事だ?


「コウサカ―――ミコトとイッタカ?あの女、僕と同じの癖に逆らいヤガッタ!シカタナイから、あのオンナの両親を人質にとってヤッタ。そしたら、あの女、アッサリ僕の言うことを聞きやがった。人間をコロセってな!

 オモシロカッタよ。人間を手にかけていく度に、壊れて、狂ってイキヤガッタ。それでも、『お前とは違う』とか『守りたいものがある』とかイッテタガ、僕が両親をコロシテやったら、カンタンに壊れヤガッタヨ!!ヒャハ!ヒャハッハハハ!!」


 ードクン(覚悟はできたか?)ー


 ナニをイッテヤガル。コイツハ。


「結局、イチノミヤのオンナに始末サレチマッタガナ!所詮、出来損ないって事だダ!!」


 ードクン(覚悟はデキタカ?)ー


 コウサカミコト……イチノミヤレイナ……あの二人がどんな思いをしたと思っている。


 許さない。


 ゆるさない。



 ユルサナイ。

 ユルサナイ。



 ユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイ!!




 ードクン!!ー








 コロシテヤル。

 


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