FILE5:遭遇
「散撃炎斬武!」
俺にもやっと必殺技らしいのが使えるようになった。
剣の先端が燃えながら斬りかかるといういかにも初歩的な技だったが,これでも進歩はしたものだ。
当たり前といえば当たり前なのだが。
何故ならおれとながやんはトーナメントに向けてレベルを上げる作業に没頭して5時間はフィールドを歩き回っているのだから。
「さっすがアツシ! 技も使えてトーナメント優勝への道がまた一歩近づいたな! 」
既に俺たちはレベルが20を超えている。
こんなに長い時間ゲームを,しかもレベル上げだけを没頭してやったのは初めてだ。
正直,いい所までは行けるんじゃないかと,俺も思ってしまっている。これで一回戦負けなんかしたらながやんはもちろん,俺も多少落ち込みはするだろう。
……いや,その前に俺たちはトーナメントに向けて重要な問題を抱えていたのでそれが解決してからそんな希望は持つべきだろうか。
パーティが二人しかいないのだ。
他の連中はトーナメントの為にレベル上げよりも先にメンバー集めをしていたのだ。
つまり,俺たちは余り者。
「なぁ,俺たちもそろそろメンバー決めたほうが良いんじゃないか? 少なくとも回復は欲しいんじゃないか? 連戦になるんだし,俺たち二人じゃ決勝まではおろか,3回戦前にはHPなんか空に等しくなっちまいそうだぜ」
不運なことに回復役は人気が高く,更に個人で戦えないため人数が他のジョブより少ない。
つまり競争率が高いのである。
「まぁそうなんだろうけどよ,人生どうにかなるときはどうにかなるんだし今回だってどうにかなるさ。俺の人生は俺の思うままに! 」
この調子である。
昔から変わらないこのながやんは回復役を懸賞のように考えてないだろうか?
「まぁ,そろそろメンバー確保でもするか。コンビネーションアタックみたいなのもやってみたいしな」
そんなものあるのか?
とりあえず俺たちは町へ戻るためにこのエリアのボスを倒しに行くことにした。
まぁ,レベルを上げる作業に没頭していたので既にこのエリアの適正レベルはとうに超えていたために俺たちは油断していた。
これが仇となるのだが。
大きな大きな蛇が出てきた。
緑色の皮膚は妖しい光沢を放っていて硬そうだ。
赤い目が俺たちを凝視している。まるで蛇睨みの様な効果が現れたのはその直後だ。
体が痺れてしまって思うように動かない。
「な,なんだよこれ? これじゃあ動けないまま袋叩きじゃねぇかっ」
ながやんも動けない。俺も動けない。
このままじゃ二人そろってやられてレベル1に逆戻りだ。
今更再スタートなんかしてたまるか。
とはいえこの状況ではどうすることも出来ずにただ硬直したままの俺たちにその大蛇は迫ってくる。
まるで獲物を見つけたかのようなその鋭い眼光が向けられ,さすがに身の危険を感じた。
「デザートハング!! 」
俺たちの後ろから響いたその声。
そして大蛇の足場が崩れ突如大蛇は地面へと引きずり込まれていった。
何が起こったかは知らないが,大蛇は消え,同時に俺たちの体の痺れも無くなった。
「うはぁぁぁ……怖かったなぁ,おい」
ながやんはその場に崩れ落ちてしまったが,俺はすぐに後ろを振り返ってその声の主を確かめた。
そこには細身の男性が魔道書を持って微笑んでいた。
「その大蛇は麻痺攻撃を得意技としています。町の防具屋で状態異常対策の指輪が売っていますので購入をお勧めしますよ。このゲームは理不尽な箇所がいくつかありますので一般の方々は今のように麻痺や毒でやられてしまう場合もあるので」
にこやかにこっちを見ているその男の人は魔道書を閉じ,ゆっくり歩み寄ってきた。
「それとも横入りをしてしまったでしょうか? 横取りをする気は無かったのですが」
とんでもない。あなたのおかげで助かりましたよ。それにしても状態異常なんてまったく考えてなかった。
「特に麻痺は一定時間完全に行動不能に陥りますから。注意する必要がありますね。それより……あなた方はこのエリアで黒い鳥を見ませんでしたか? 」
黒い鳥……? ながやんにも目線を配ったが同じようなことを考えているような顔だ。
まったく覚えが無い。今まで倒した雑魚もキノコとか魚とか鳥もいたが黒いのはいなかった。レアとかか?
「それならいいのですが。それでは失礼しますね」
そういうとその男性はゆっくりと歩いていった。
なんとなく優雅に見える歩き方だ。
何だったんだろう? とりあえず俺たちはお礼を言って町へ帰ることにした。
再び帰ってきたエルポアの町,南門。
「一時はどうなるかと思ったなぁ。それにしてもあの人の魔法,あれそうとうレベル高いんじゃないか? 」
魔法の一覧とか攻略サイトは知らないので詳しくは分からないが確かに威力が桁違いだった。
レベルの低いエリアボスだったとはいえダメージを示す数値が9がたくさん並んでいた。たぶん9999くらいだったと思う。
「あんな人がたくさんいるとしたらトーナメントも大変なこったな」
とりあえず警告どおり状態異常対策の指輪とやらを買いに防具屋へ行くことにした。
雑魚を大量に倒したおかげでマネーはたくさんある。
指輪を買った俺たちは早速装備してみた。
小さな緑色の玉が入ったごく普通の指輪。
しかし俺がその指輪を見ているときに視界に入った人物が一人。
猫耳で,尻尾が生えているキャラ。
何とも見覚えがあるその容姿顔立ち。
お互いに目が合った。
「おい」
「ぇ……」
「…………」
二人分の沈黙が流れた道具屋の前には俺とながやん,俺の妹と妹の友達と思われる4人が立ち尽くしていた。




