FILE2:夕焼け
ログインした俺を待っていたのは何も無い真っ白な空間と一人の女性。
こんな事を言うのもあれだが,素晴らしく美人で更に可愛い。
この世界にこんなに可愛い人がいるものなのかと思うくらいに。
「いらっしゃいませ,敦さん。早速これからジョブを選択してもらいます。またハンドルネームも設定できますのでご利用ください。また,ハンドルネームは今後変更できませんのでご注意ください。」
そう言うとその超可愛い美人女性はにっこり微笑んで姿を消してしまった。
と同時に俺の目の前に液晶画面のような感じでメニューが映し出された。
これどういう原理なんだろ?
しかもカーソルが自分の思ったところに勝手に移動して,選択も何もかもが思うだけで出来るのだ。
楽しいなこれ。
目の前に映し出されたジョブ一覧には戦闘系,魔法系,回復・補助系,その他というフォルダが開いていてそこから自分のなりたいジョブを選択するようだ。
確か永谷は魔術系とか言ってたよな。
何となく人と同じのは嫌だという反射から戦闘系のフォルダを選択するとそこには数多くの役職が表示されていた。
戦士,剣士,アーチャー,格闘家……等等。
こんなんじゃどれを選んだら良いものか分からないよなぁ。
そう思っていると自動的にカーソルが一つの項目を指していた。
二刀剣士?
何? これがお勧めってことなん?
そう考えているだけで自動的にその役職についての説明が表示された。
二刀剣士,盾などを装備できない代わりに剣を二本装備できる攻撃型ジョブ。動きも素早く連続攻撃も繋げ易い。特殊能力:他のジョブより連続攻撃回数が二回多い。
俺は条件反射的にそのジョブを選んでいた。
別にどのジョブにするか決めてなかったんだし。
すると俺の周りに青い光の輪が現れて一瞬光ったと思うと俺の服装は制服からいかにもゲームの中の剣士みたいな姿に変わっていた。
防御には不安がありそうですが。
自分の服装を確認していると再び目の前のメニューが開き,今度はハンドルネームを入力してくださいという画面が出ている。
かと言って俺は今までハンドルネームなんて物は一切使った事はないし,すぐに閃く様な発想力も無かったために本名をカタカナに直すだけ,アツシで決定した。
「お待たせいたしました。それでは最初の拠点となる町,エルポアへと転送致します」
そんなアナウンスが響くと俺は一瞬で洋風の町へ移動した。看板には『エルポア 夕焼けに呑まれる町』なんて説明書きがある。
ここの風景は本当に素晴らしく,今まで見たどんな景色,ましてやCGよりも美しかった。
あたり一面が夕日でオレンジ色に輝くように染められ,建物がより美しく見えた。
そんな風にこの風景に感動していると早速メッセージが届いた。
お知らせ
アツシ様は無事本登録完了しました。
ここからはあなた自身の物語です。
どうぞブレイバーの世界をご堪能ください。
分からない事があればコマンド→メニューで!
ちなみにこのメッセージも俺の脳内で勝手に開いて読んでいる。
何とも不思議な感覚だ。
「とぉりやぁつ! 」
後ろから突然飛びついてきたのは黒いマントをつけて赤いマフラーなんかしている永谷だった。
それ,何だよ。
「これ二色魔術師ってジョブらしいぜ! 回復も攻撃も可能な万能型ジョブ。で,お前のは剣士? 」
二刀剣士だとさ。なんだかいろんなジョブがありすぎてなんだか良く分からないな。
とりあえず他の人たちも続々とジョブを選択してエルポアにログインしているようだが同じ服装の人は見ていない。
「あ,そうだそうだ,早速俺たちでパーティ作ろうぜ! ……って,パーティってどうやって作るんだよ? 」
困ったときはコマンド,ヘルプだろ?
というわけで早速使ってみる事にした。
するとまたもや目の前に画面が広がって,しかも勝手にパーティの作り方の欄が出ている。
『パーティを作成するにはお互いがパーティを組む事を了承していなければなりません。了承している場合お互い右手で握手することでパーティを組む事が出来ます。解散するときは左手で握手してください。また特殊ジョブで右手,もしくは左手で握手が不可能な場合は各ジョブのヘルプをご覧ください。パーティ間では意識しない限り味方へ攻撃は当たりません。またパーティを組んで一緒に冒険できるのは一度に3人までです。』
握手だけでパーティが組めるってのも凄いな。この世界はどこまで文明が発達してるんだ?
「ま,とりあえずさ。やってみようぜ」
クラスメートとわざわざ握手するって言うのもなんだか変な気持ちだが,何となく騙された気持ちで握手っと……。
すると握手している俺たちの手首に赤いリングがついた。
何やら文字が刻んである。
無題。
何の事だかさっぱり分からなかったがタイミングを計ったかのようにメッセージが届いた。
『パーティが組まれました。まずはリーダーを決めてください。その後チーム名を決めてください。あなたが所属した事のあるチーム名は10個まで腕輪に記憶されます。詳しくはヘルプをご覧ください。』
「だとさ,じゃあとりあえずお前リーダーでいいよな。で,チーム名かぁ……何にする? 」
俺リーダーかよ!?
とりあえずチーム名……っと
「そういやお前はどんなHNでログインしたんだ? 俺は普通にアツシだけど」
「お前そのまんまだなぁ。俺はながやんだ! カッコいいだろう! 」
お前の方こそそのまんまでかつダサいと思うのは気のせいだろうか。
永谷だからながやんって。
酷いだろ。
全世界の長谷さんに謝れ。
「ってことはこの世界ではHNで呼び合ったほうが良いんだろうな。まぁお前は変わらないけど」
そうですね,ながやん。
なんか笑えてくるなこれ。
さて,本題に戻ってチーム名っと。
「あ! アツシアツシ! こんなのどう? アツシとながやんだからアツやん! 」
「超ダサい。却下」
俺はたった今こいつのネーミングセンスに頼ってはいけない事を思い出した。
こいつの家では犬を三匹飼っているのだが,名前がそれぞれポチ1世,アンドリアーナ2世,バウバウン3世。
可愛そうだろ? 犬たちが。
せめてポチ1世,2世、3世と統一感を出せ。それでも十分酷いがな。
もちろん名付け親はこいつだ。
さて,二人のパーティで一人が駄目だとするとチーム名を考えるのは俺しかいないわけで。
何か無いかと辺りを見回しても綺麗な風景と夕焼けくらいしか見当たらず……夕焼けか。
「あのさ」
「あのさ」
二人が同時に同じセリフを発してしまったせいで俺たちは硬直してしまった。
こんな所で意気投合する必要もないのに。
「先どうぞ」
こいつの考えなんて大した事ないだろうけど一応聞いてやろう。
「あのな,今そこをすんごく可愛い子が通ったんだけどさ,それで思いついたんだチーム名! 名づけてっ! 俺たち彼女募集中!! 」
「大却下! 」
もういい。こいつのネーミングセンスというよりも発想に疲れさせられる。
「で,お前は何?? 」
まぁお前の 俺たち彼女募集中 よりはマシだろうから少し堂々と発表できそうだ。
「まぁ,何となくだけど夕焼けが綺麗で印象深いんで英語にしてサンセットとかはどう? 」
すると永谷ことながやんはぽかんとした顔をしている。
なんとなくサンショウウオが思い浮かぶような顔だ。
「おっ……お前」
「ん? 駄目か? サンセット」
何故かよろよろと俺のほうへ歩み寄ってくるながやんからは何故だか恐怖さえ感じてしまった。まぁ,勘違いだったんだが。
「お前! よく夕焼けの英語訳がサンセットだって分かったな! 凄ぇよ! うんうん。ながやんは感動したぞ」
……こいつ,どこまで俺が馬鹿だと思ってやがる。
あくまでもリアルでは俺高3だぞ?
英語だって偏差値45くらいは……。
「いいじゃんいいじゃんサンセット! 確かに俺たち彼女募集中だと女の子をメンバーに入れにくいもんな。うんうん」
そこかよ。
ながやんがにこにこ頷いているのを見ていると腕輪が光って無題だった文字が徐々にサンセットに変わっていった。
本当に良く出来てやがる。
「というわけでサンセット設立完了っと! よぉし行こうぜアツシよ! 」
結局俺がリーダーになって出来上がった即席チーム,サンセット。
……この先大丈夫なんだろうか。




