FILE10:外部サーバ
そろそろ驚かなくもなったが,目の前にいるその魔道士さんは中枢サーバの入り口で待ち構えていた。
「入り口の犬のような獣を倒したのもあなたですよね? 」
「ええ。あれぐらいで侵入を防げると思ってるんですかね? 」
にこやかに微笑んでいるが,門番は一般プレイヤーには倒せないようになっているはず。
「あなたは何者なんですか? どうして黒い鳥を追っているんですか? 」
「もうここまで来たら隠してもしょうがないでしょうね。私は簡単に言うと違法なキャラでゲームをしている人。まぁチートとでも呼ばれるんでしょうかね? 能力も所持金も魔法でも。好きなだけいじれます。方法は公には出来ませんけどね。そして黒い鳥についてですが……」
そこで言葉を切ったその人は少し困ったような悲しんだような顔をして
「私の兄で違法者です。このサーバ全体を乗っ取ろうとしていると思います」
チート,要するに裏技みたいなもんだろう。
どうりで強かったわけだ。
一斉公開なのにそこまでレベル差が開くのも変だしな。
「私は兄がサーバを乗っ取ろうとしていることに気がつき,止めようとしました。しかし兄は自らを鳥へと改造し,鳥人となり一度は捕まえた物の手からするりと抜けていくように逃げられてしまいました。それで行方を追っていたところ初めてあなた方に出会った,というわけです」
セキュリティが甘かったのか。
しっかりチェックしとこうぜ。
「でもよぉ,このゲームが公開されたのって今日だぜ? まだそんなに時間もたってないのにそこまで話が進むかぁ? 」
ながやんは首を傾げて尋ねている。
確かに公開されてからまだそこまでの時間はたってない。
それなのにそこまで物事を進められるか?
「兄はブレイバーの開発スタッフの一人で皆さんよりも早くブレイバーの内容を知っていましたから。プログラミングも分かっていたんでしょうね。私にも少しだけ見せてくれました」
開発スタッフ?
それがなんでこんな反乱状態になっているんだ?
「兄はプログラミングには強く会社でも戦力になる人材でした。ところがブレイバーの作成途中に意見の食い違いがあったんでしょう。よくある話です。これは推測ですが,開発側はモンスターとの戦闘を主な内容と考えていたのに対して,兄はプレイヤー同士の対戦を主な内容と考えていたのではないかと。それで今回の件から外され,納得のいかなかった兄はゲーム内での復讐を企てた」
なんか俺からしたら難しい話題だがとりあえずはその兄を止めればいいんだろ?
「簡単に言えばそうですね。ですが相手はチートキャラ。一般キャラじゃまず歯が立たないでしょうし,私でもプログラムを書き換えられてしまえば役立たずです」
そりゃ鳥人なんかジョブに無いし,勝てないんだろうね。
でもそれじゃどうしようもないんじゃ?
「普通に戦うのでは歯が立ちません。兄がこの中枢から奪ったもの,それはアンクと呼ばれるアイテムです。それがこのサーバのコントローラーで自分の好きなようにサーバ全体をコントロール出来ます」
そういうと手を頭上へとゆっくり上げ,呟き出した。
「時を操りし時空の神よ,汝の恩恵を器に,忠誠を我に記したまえ。セリュビュート」
言い終えると同時に地面が銀色に輝き俺たちは周りが真っ黒な空間に移動した。足場も見えないので浮いているような感覚だ。
「うおぉ? こりゃすげぇ! 」
ながやんははしゃいでいるがそれどころじゃないだろうが。
少しは落ち着きなさい。
「……」
妹とメロンちゃんはすっかり沈黙。
メロンちゃんも先程までの威勢はどこへやら。
で,ここはどこだ?
「ここはテスト用の空間で時間の進みが更に遅い空間です。このようにこのゲームには公にされていないサーバがいくつもあって,イベント用の地区もあれば全く異質なデータの集まりである地区まで様々です」
難しいもんだ。
ところで,これからどうすれば?
「簡単に言いますと,兄からアンクを取り返し,そのアンクを使い兄を強制ログアウトさせます。後は兄の保存情報を破壊してしまえばログインできなくなります」
アンクを取り返すって……どうやって。
「ここと同じような隠れサーバに兄は潜んでいます。兄の能力はメモリに収納されていますのでそのメモリへのアクセスを遮断して能力が一般キャラと同じ程度まで下がったところを狙います。ところで,あなた方が来るのは防犯モニタに写っていたので分かりましたが,今回の事は私に任せて下さい。大丈夫ですよ。対処法はしっかり確認済みですので」
と,言われても黙ってない人がこちらには一人,もしくは二人いるんですよ。
「冗談じゃない! さっきから聞いてれば日本語とは思えないような会話ばっかりで私のこと置いてきぼりにして,ここまで来たのに今更引き下がれるもんですかっ! もちろん私たちサンセットだってその兄を改心させて土下座するまで謝らせてやろうぜ作戦に参加するわ! 」
ながやんのネーミングセンスが移ったかのごとく酷い作戦名を勝手に付け加え,威勢が回復したメロンちゃんが叫んだ。
俺の妹は未だに静まっているが,ながやんもメロンちゃん同様張り切っている様子。
「しかしですね……」
「いいからいいから! 私たちサンセットは世界の平和を何よりも愛してますってね」
なんか俺までも自分が保てなくなりそうだ。
とりあえず何か出来ることがあったら手伝いますよ。
そんな風にとらえてください。
「そうですか……じゃあせっかくですからお願いしましょうかね。作業は少ないので終わるのは早いと思いますが。そういえばまだ名乗ってませんでしたね。私の名前はレダです」
そういえば名前は聞いてなかったな。
で,その作業というのは?
「兄の能力はメモリに収納されているといいましたね?そのメモリが5つあって,4つは破壊したのですが残る一つがまだなのでそれを破壊してほしいのです。それが破壊され次第私が能力の戻った兄を倒し,作戦を実行します」
なるほど。内容が分かりやすくて助かった。
「メモリがある場所へは私が転送します。そこも隠れサーバなのでね。それじゃあ早速お願いします」
楽そうな仕事だが気は抜いてられないな。
「よっし,いくぞ! 」
「サンセット初仕事ね! 」
「もう,やる事さっさと終わらせちゃおっ」
ながやん,メロンちゃん,妹,それぞれの意気込みも聞いていざ隠れサーバへ。
「天に舞い降りる白衣の憑人よ,異空への錠を開きたまえ。ポートリア」
地面に現れた緑の円に囲われ俺たちはメモリのある隠れサーバへと向かった。
そこで全てが片付く。
そう信じて。




