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ブレイバー  作者: 零光
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FILE1:開かれた世界

俺の楽しい休みが終わってしまった。

昨日まで春休み。

今日,新学期。



2221年4月

俺は高校生活三年目の大事な時期に突入してしまった。

なんせこの時期,俺や俺の友達の脳裏に嫌でも浮かんでしまう言葉は『受験』という憎い憎い単語だ。

そもそも俺よりも早くその『受験』に向けて戦準備をしている友達もいたが,俺は今日この日まで勉強なんて学校での義務範囲しかやってない。

昨日も友達と休みを満喫していたのだ。

おかげで今は布団の中。暖かい羽毛布団が俺を包んで……


「ねぇ〜……むぅ,起きろっ! 」


俺の羽毛布団は一瞬にして奪われ,視界に人影と俺の部屋が見えた。

見慣れた顔で仁王立ちしている俺の妹。

毎日俺を眠りから覚ます小さい魔物。最近は『おにいちゃん』なんて可愛く呼んでくれないし。


あつしは一年365日私が起こしてあげないと一日中寝てそうだなぁ,全く。今日から学校なんだし,……二度寝するなっ! 」


俺のことを名前で呼んでくる妹。今日から中学生。

俺も中学のときあったよなぁ……。


「今日くらい自分から起きるかと思ったら……私だって今日はいつもより早く起きたのに」


早く中学に行きたいのか?

今日何かあったっけか?

いいからさっさとあっちに行け。


俺は妹にはがれた羽毛布団を恋しく思いつつ,渋々制服に着替え少し懐かしい通学路へ。

妹が小学生のときは同じ方向だったので仕方なく一緒に行っていたが,中学は反対方向。

今日からお荷物の減った通学を堪能してやるさ。


「とぉりやぁっ! 」


俺は突然何者かに飛びつかれた。

誰かは分かっているのでそこまで身の危険は感じないけど。

後ろから飛びついてきていきなり首を絞めてくる馬鹿。

毎日何故か通学路では一緒になってしまうクラスメート。


「敦っていつも無防備だなぁ。って……今日は一人? 可愛い妹さんがいないじゃん? どうしたどうした? 」


毎日このハイテンションが続いている永谷ながやはかれこれ6年間の付き合いになる。

中学からずっとのいわゆる腐れ縁。


「あいつは今日から中学。反対方向」


こいつには用件だけで十分。


「そかそか。それより敦。一応聞いておくが忘れてないよな? 今日がどれだけ大事で,素晴らしい日か」


新学期到来。か?


「馬鹿か! いぃやお前はメガ馬鹿だ。宇宙銀河系ナンバー1馬鹿だ」


いつに無くハイテンションな永谷は人差し指を頭にぽんぽんっと何かを示すような動作をするといきなり俺にその人差し指を向けてにやりと微笑んだ。


「今日は誰もが望んだブレイバーの公開日だぁっ!! 」


ブレイバー。

今世紀最大の発明とも言われているこのゲームは,プレイヤー自身が武器を持ちストーリーを進めていくRPGゲーム。

何が今世紀最大の発明なのかというと,コントローラーやマイク,OS等は必要とせず,専用のショップが全国各地にオープンしてそこにあるカプセルに入ると脳内なんたらかんたらとか言う俺たちの脳にアクセスしてあたかも俺たちが本当にその世界にいるような感覚でゲームが出来るというものだ。

詳しくは今日の午後5時一斉公開らしいのだが,噂によるとその世界では時間の進みが現実世界の20分の1,つまりそのゲームを20分しても現実世界では1分しか経っていないということ。またその世界では何もかもが本物のように感じられるらしい。さらにカプセル数も全人口の99%くらい用意されているそうなので混雑する心配もないらしい。

このゲームについては脳波に異常をきたさないかとか,様々な質問が各マスコミや専門家から飛んでいたが安全が証明されたらしく,マスコミも専門家も認めているようだ。

我ながらそんなゲームの公開日を忘れていたとは不覚だ。妹が言ってたのもこれか。


「敦はいつもこうだからなぁ……。あぁ,そういえばジョブ何にするか決めたか? 俺は魔術系統がいいかなと思ってるんだけど」


ジョブというのはいわゆる役職みたいなもので,本当に数えたくなくなるくらいの種類がある。

戦士に剣士,魔術師に盗賊,召喚士や猫耳なんてジョブまである。戦えそうに無いジョブも多々あるが,その辺は遊び心なんだろうか。


「俺はまだ何とも……浪人生は嫌だけどな」


そんな話が尽きぬまま俺たちは学校に着いてしまった。

今日は学校中がブレイバーの話題で持ち切りだろう。

先生たちだって今日は残業する気もないだろう。


俺は目の前のモニターに映し出されている校長の見事な禿頭とくだらない内容の話を眼中にいれずにただブレイバーのことを考えていた。

クラス中同じようなことを考えている奴らが多いはずだ。


いつもより騒がしかったり静かだったりした学校が終わると俺は永谷と一緒にブレイバーのショップへ行った。公開約2時間前だが,ショップの前に着いたときには人だかりが出来ていた。


「人多いなぁ……まぁ人数分以上のカプセルは用意されてるんだし,のんびり行こうぜ。」


永谷はのびをしながらそう言い,まだかとか言い続けていた。

人だかりはまさに老若男女問わずといった感じで見ているだけでも少し楽しめた。

エプロン姿の主婦や張り切ってるコスプレ男,明らかに根暗の人や杖もちお婆ちゃん。そして俺たちのような学生。


そしていよいよ公開一分前。

ショップの前は信じられないくらいの人だかりが出来た。俺たちの後ろにも人しか見えない。

恐ろしい影響力だね,ブレイバー。

そういや,俺の妹もいるのかね?


そうこうしているうちにありがちなカウントダウンが始まり,そしてー


「ブレイバー……オープン! 」


どこからともなく声が聞こえてショップのドアが開いた。

が,その後の記憶は無い。

一瞬で俺はカプセルの前にいたのだから。

俺の横にはさっきみたコスプレ男。

そして反対側には永谷がいた。


「俺たちどうした? 」


永谷の問いかけに誰も答えられないだろうが,俺たちは瞬間移動でもしたようだ。


俺たちがいる場所は野球場の客席のような配置になっている。

そして野球場で言うマウンドには司会者のような若い男が一人立っている。


「Welcome toウェルカムトゥ ブレイバー! ようこそ皆さんブレイバーへ! 皆さんは入り口からここまで混雑が予想されたために自動で転送させていただきました。それでは早速ゲームの説明をさせていただきます」


驚いたものだ。文明の発達というのは凄いね。全く。

そしてさっきまでざわめいていた人たちが静かになった。

このゲームの説明を聞き逃すまいとしているようである。

なんせこのゲームは体感型RPGというだけで詳しい内容やクリア目標など全てが公開されていない。

つまり謎だらけのRPG。

情報漏れも無く今まで誰もこのゲームについての詳細は知らないのだ。


「まず操作方法ですが,恐らく細かい説明は要りません。自分の体で動くんですから。魔法などの詠唱や必殺技についてもレベルアップや新しい魔道書を手にいれた時に脳裏に浮かびますので。分からない事があればご自分でコマンド,ヘルプと言ってください。自動でメニューが開きますので。帰りたいときはログアウトと言ってください」


声に出すだけでメニューが開く?

んなアホな。


「続いてこのゲームの目的ですが,自由です。何をしてもかまいません。コロシアムで優勝するのもあり,フィールドのボスを倒すのもあり,コンテストで優勝するのもあり,商売,交流,お好きにどうぞ。但し,犯罪行為はいけませんよ。しようとしてもすぐに強制ログオフされてIDが消滅してしまい二度とブレイバーにログイン出来なくなりますのでね。またこのゲームではパーティを組む事が出来ます。1パーティ三人までで一緒に行動できます」


少しずつ周りが騒がしくなってきた。早くしろだとか様々な声が聞こえる。


「もう少しお待ちくださいね。ゲーム中にお知らせなどが合った場合はショートメッセージが送られます。メッセージはメニューから閲覧可能です。メニューを開くときはメニューと言っていただけば自動で開きますので。もちろんお友達間でメッセージのやり取りが可能です。その辺の項目は全てメニューのヘルプに入っているのでご確認ください。またゲーム進行状況のセーブは自動で脳に記録されますのでご安心ください。またログインすると最初にジョブエディットが開きますのでご自身のジョブを登録してください。最後に,フィンブルの森は立ち入り禁止地区です。そこは中枢サーバがあってプレイヤーは立ち入り禁止です。門番のモンスターはプレイヤーには倒せません。……あ,HPが0になる,つまりパーティ全員が全滅,ゲームオーバーになるとパーティ全員レベルが1に戻ります。過酷なルールですので頑張ってくださいね! お待たせしました! それでは,レッツログオン! 」


いよいよだ。

俺は期待に胸躍らせログオンした。


ーここから全てが始まる。

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